11話 いざ与えん!『新たな目覚め』を


 少女の言葉にならない声が聞こえた。


 人形が稼働した喜びと、危険かもしれないから隠れなきゃいけないかも――という気持ちがぶつかり合って、身動きが取れなかった。ココは大きな瞳をさらに大きくして、その動き出した人形をじっと凝視している。


 その人形はよろめきながらも倒れることはなかった。薄い実験衣を着ている人形――15歳前後の少年だろうか――はのどに手を当てていた。その人形はペルンと違って、剥き出しの機械然とした姿ではなく人間を模して作られている。整えられた顔に切れ長の紺青こんじょうの瞳、その白銀色の髪が頬を隠すように揺れた。


「げほん、げほんっ――だべ?」

「ちょっ!ペルン、驚かさないでよ。びっくりするでしょ!」

「だってよ、緊張で喉が乾いたんだべよ。何て言うべか~ほれ?武者震いってやつだんよ?」


 ココが苦笑交じりにペルンを見上げている。あえて緊張感を解すという彼の気遣いは分かるのだけど、今は大事な実験の途中だ。どんな事が起こるかきっちりと確認していかなきゃならないの!と目じりに力を込めてココは、彼に目線で釘をさした。


 そんな二人のやり取りを人形の少年は見つめていた。


 その少年は部屋を見渡しながら、この部屋の資材や鉱石、薬品と分厚い本が乱雑に散らばっているのを興味深そうに、その形や色などを確認しているように見える。


「―――ぁ、っと、声は出るみたいだ」


 それから少年は自分の両手を開いたり握ったりを繰り返し、そして突然に何かに貫かれたようにココを凝視した。


「貴方が僕を?……僕に、この新たな命を与えてくれたのですか?」

「うん!そう、そうだよ。君は目覚めたんだ、私たちの世界に」


 その答えに感激したように少年は何度も頷き、再びココたちに目を向けた。


「改めて貴方たちが僕をこの場所に運んできてくれたことに感謝を」ノインはさらに歩を前に進ませ少女の眼前に迫っていく。目の前にいる少女が僕に体を与えてくれたその人であるにことに間違いはない。彼女からはエーテルを操作した残滓が見えているのだから。

「本当に感謝を!この世界に、新たな目覚めを与えてくれたことを」


 と少年は笑顔を彼らに向けた。そして、その隣に仁王立ちしている機械然とした人形がいた。その姿はどことなく失くした記憶の何かに似ていた。じっと、ペルンと呼ばれていた人形の姿を見つめて、ふいに言葉をつく。


「あれ?ロボットですか。ロボットを見ることが出来るなんて……とても懐かしい気持ちでいっばいになります」

「ん?ロボット?おめえの言うロボットって、何だべ?もすかして、俺のことを指して言ってんだべか?つーか、俺は泣く子も黙る魔動人形なんだべ!!それに、おめえも魔動器人形だべよ」

「貴方と僕は魔動器人形……そうなのですか。確かに、先程僕が言ったロボットって言葉を改めて考えてみると、本当に何のことなんでしょうね?僕自身もその単語は知らないし、説明もできない。けど、何となく頭に浮かんだのです」


 部屋の柱にかかったランプが少年を照らしている。外の朝焼けの光も合わさって、部屋の隅々が明るく照らされていた。少年は、自分とペルンを交互に比べてみる。ペルンは機械然とした作りで剥き出しの金属肌が印象的だ。それに対して自分は、その場にいる少女と同じように生物の肉体を持った姿だった。


「あなたの名前はノイン!ノイン・ニーベルって言うんだよ」

 緊張を含んだココの声がやけに大きく部屋に響いた。

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