10話 生命の炎。賛美を紡げ!


 うーん、とココは小首をかしげながらエーテルの自己回復について考える。ぽんぽんと人差し指で顎を叩きながら、唯一解析ができたエーテルの回復速度の数値を確認する。そもそもエーテル回復というのはエーテル結晶石にはあり得ない性質。しかし、この虹色結晶石は失われたエーテル量だけ自己回復し、しかも回復速度が生物のそれを遥かに凌駕していた。この虹色結晶体を人形に組み込めば想定した設計を大きく上回る強さを持つ人形従者が完成することは間違いない。蝕甚にも対抗でき、エーテルの自己回復も極速で行える人形が出来上がるだろう。まさに、さいきょーの従者だ。けど、未知のものを組み込むことは明らかに危険性を伴う。


「さいきょー従者の生誕に何を臆することがあろーか!いや、ないのだよ」


 ココは自らを奮い立たせる。彼女が制作する人形は部屋の中央にあって、四本の支柱によって立たせられている。ココはその人形を中心にして床に起動制御式を描くポイントを描いていた。このような目印が有れば制御式を迅速に描くことが出来る。彼女は入念に制御式の組立て図を床に描き表し、三重起動の最終準備を調えた。


「よし!制御式については完璧だ」


 両手を合わせるように叩いて気合を入れるココの肩越しに声が掛けられる。


「ココ。領域魔法の三重詠唱をすんのか?それは、進められねえなあ」

「あ!ペルン、起きたんだー?」


 いつの間にかペルンがココの隣に来ていた。ペルンが部屋の小窓から差し込む明かりの質が変わって来ているのに気付いた。日の出が近いのだ。ココもペルンにつられて小窓を見やる。


「朝かあ。でも徹夜だからって、ここで中断にはできないよ?ペルン、魔動器人形の起動はするから!」

「やっぱそう言うと思ったけども、俺はココの体の負担が心配なんだべよ。領域魔法の三重起動はエーテル消費が常軌を超えるべした」

「ふふん!そこは大丈夫ってやつでしょ。そのためのエーテル結晶石があるのだからね。このエーテル結晶石のエーテルを吸い上げて私の魔力とすれば、三重起動なんて何てことはないのです!」


「ま~、確かに魔力炉と自分の体ば直結させて、そっからエーテルを引っ張り出すわけじゃねえからな。あのときは肝が冷えたべ」ペルンは体をわななかせて、それからココをじっと見下ろす。「ふぅ。こうなったココは頑固だからなあ。……分かったべ。だげども、無理はすんなよ?」


 ココの気合の入りようを見てペルンは彼女の頑固さに観念したように低くため息をついた。一度やる!と決めたことはいくら反対しても、必ずやっちまうわけだしなあとペルンは過去の思い出を遠い目をしながら、振り返る。それがココなのだから。出来るだけ体の負担が軽減するように協力するしかないべ、とペルンは彼なりに覚悟を決めるのだった。


 ココは虹色結晶体を分析魔動器から取り出す。


 彼女はその結晶体を両手で包み込むように持つと、制御式の下描きポイントの既定位置に立った。そこで両手を人形に向けて精神を集中させていく。それぞれの手の甲に相異なる制御式を編みこんでいき、2つの異なる魔法が徐々に形作られていく。その左右に展開された相異なる魔法はやがて一つの球体として組み合わされていき、ココの手を包み込むように領域制御式は滑らかに発動していった。それと同時に人形の足元の魔術陣も連動して展開されてる。このように異なる3つの領域制御式を同時に操ることは、ココの常人ならざる魔法の技能を表わすには十分すぎるものだった。


「六律が系譜の祖、原典のさだめにココが要請す。聖霊魔法・領域制御式『心所チェータシカ』」


 魔術陣が赤く発光し制御術式の連鎖が空間を満たし始めた。幾重にも重なった制御式が立体状に組み合わさり球状術式が完成し発動する。そして、人形の足元の台座に置かれた虹色結晶石が光の粒子となって人形の身体を包み込んでいった。ココはその一連の動作を完璧に制御していく。


 そして、人形の体を包み込んだ光が人形の心臓に収束していき、魔術は完遂されたのだった。


 ココとペルンが見守る中で魔動人形がわずかに体を動かす。その動きにその人形を支えていた支柱が人形から離れ、その人形が一歩前に足を踏み出した。


「———ッ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る