3話 漂流物、2等級素材を掴め!


 辺りは岩と砂だけ。ペルンが期待する新種の種なるものが落ちている気配は微塵も見当たらない。どこを見渡しても草も木も生えてはいないのだから。足元の砂を掘ってみても指の間からさらさらと零れ落ちるだけ。手の中に残るものはエーテル結晶石の欠片以外、何もなかった。


「やってらんねえべよー」と言いながらも、ペルンはエーテル結晶石を無造作に彼の携える頭陀袋の中に放り込む。その袋の半分までは積め込めたことを確認すると、「昼寝でも、するっぺか」とペルンは砂浜に腰を下ろして、結晶石の入った頭陀袋を枕代わりにしようと形をととのえていた。

 ココは、そんな彼の様子を気に留めることなくブツブツと呟き続けている。


「こういう物じゃあ、ないんだよねー。なんで5等級のものしか落ちてないのかな?もっと、こう……特別な素材がいっぱい落ちているはずなんだけどなー」


 などと言っては、海岸にあがった漂流物―――エーテル結晶石を頭陀袋に収めていた。その少女の身の丈よりも大きな頭陀袋は彼女の心意気の表れなのだろう。その背に垂れ下がっている袋はまだいくらでも結晶石を抱えられそうだった。


 それにしても、と思う。この白亜の海岸に来たのは良質の素材を手に入れるためだ。しかし、現在のところ未だに求める素晴らしい素材との出会いがない。「困っちゃうよねー」と、天を仰いだ。



 空に輝く色とりどりの星のきらめき。いや、あれは星ではない。天異界の者達の力の現れが星のように光って見えているだけだ。最も大きく強く輝く星は、天異界の中央に座する者たちと言われている。直接に出会ったことはないけど、いや、出会いたくないものだ。出会ったところで、ココにとって得になる事象が起こることなど考えられないのだから。


 ココは空に手をかざして、その星のきらめきの一つを握る。


 天異界の中央部に行くためには、この天異界の階層を昇らなくてはならない。それには多くの強い従者とより多くのエーテルを必要とする。ココにはそのどれもが足りない。強い従者もいなければ、自らのエーテル含有量も乏しい。だけど、天異界に存在する者であれば誰もが間違いなく中央を目指すだろう。そこには、この世界の秘密――叡智の法――が存在しているというのだから。そして、少女は閃く。強い従者がいなければ作ればよい。その考えに至ったときココは自らを自画自賛をした。この希代の大魔術師として誉れ高い自分であれば「さいきょーの従者」を創作できるに違いないからだ。だからこそ、ココはこの白亜の海岸で素材を集める。少女の考えた「さいきょーの従者」を作り上げるために。


と―――


 海岸に漂流物がうち揚げられた。その漂流物はひときわ大きく輝く結晶だった。少女は慌てて駆け寄り、その結晶の鑑定を行う。


「もしかして!もしかして――?ふふっ。2等級素材だあ。そう、そう、こういう2等級素材が欲しかったんだよねー。ようやく見つけたぞー!」


 ようやくココの顔に笑みがこぼれた。それまでは少しうつむき加減だった少女の顔も明るさを取り戻し彼女の深紅の瞳が輝いている。彼女の手にした真核は、少女の両手で包むほどの大きさで琥珀の色をたたえていた。そして、その内包するエーテルは今まで拾い集めた結晶とは比較にならないほど大きなものだ。


「えへへっ。本当に澄んだ深い色。本当に綺麗だよねえ」

 

少女は嬉しそうに、そのエーテル結晶をじっと見つめた。


 鎮めの日には多くの星が降る。天異界と現世界が互いを蝕み、世界が鳴動を起こしているからだ。天異界の空を流れる星は、天異界が現世界を蝕んだ結果に生じた現象―――「蝕」だ。もちろん天異界もまた現世界に蝕まれている。だから、今日は誰も外を出歩いたりはしない。外を出歩くと、自らも蝕によって自らのエーテルが奪われてしまうからだ。まして、こんな日に、天異界と現世界の狭間―――互いの世界を蝕み合う最前線―――に位置する白亜の海岸に来ようとする者は誰一人としていないはずだった。


 少女はその琥珀色に輝く結晶をペルンに得意気に見せつけ、ぴょんぴょんと砂浜を跳ねて喜んでいる。


「ペルン!見てっ、2等級素材だよ!!ついに、ついにすっごいのを手に入れたぞお!」

「お~、大したもんだべー」

「むっ、ペルンもいっぱい拾うのだ!拾って拾いまくって行くのだぞー!」

「俺も拾ってはいるけどもなあ……。つーか、エーテル結晶もいいんだけどもよ、この白亜の浜辺には植物が見当たらねえんだべ。どこまで行っても砂と岩だらけだ」


 あっそうか、とココはペルンの指摘を受けて辺りの岩場に目を向ける。「そうだよね、ペルンは畑に植える新種の種を探さなきゃだもんね」うーんと腕組みしながらココは周囲のエーテルを注意深く探ってみる。

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