第五条 第二項

 気が付いた。体は、動く。ミュウが俺の顔を覗き込んでいる。

「何してんだよ。」

「死んじゃったのかと。」

「生きてるよ。見れば分かるだろ。」

「それは、嫌でも分かるんだけど。」

起き上がろうとする。

「寝てた方がいいんじゃない。セイギが、最後に投げ飛ばしたの、多分本気だったし。よく骨が折れなかったよね。意外と頑丈。」

「さあ、どこか折れてんじゃねーか?」

「どこも折れてなかったけど。」

「…お前、俺になにかしたのか?」

「名前をつけた。不本意だけど。」

「そこは覚えてるんだが、それを言ったら俺だって不本意だ。勝手に人の名前を決めてんじゃねーぞ。」

「そう言うと思ったから、名無し、にしてあげたんでしょうが。私だっていらないって思ってるけど、その、…ハチを、守ってくれたでしょう?」

「あいつの言ったことが気に食わなかっただけだよ。」

「それで返り討ちにあっちゃうのは、さすがに可哀想かなって。」

それに関しては、情けなくて返す言葉がなかった。

「ハチは、どうした?」

「もう帰った。」

結構長い間、気を失っていたらしい。

「ハチはすごく心配してたけど、さすがにあんなに取り乱すのは初めて見たような。ねえ、ハチってあんたの事好きなの?」

「またお前は斜め上を行くなぁ。とりあえず、どうしてそう思った?」

「なんとなく。」

「じゃあ、気のせいだ。」

「…はぐらかすって事は、やっぱり、」

「知らねーよ。俺に聞くなよ。おかしいだろ。」

「ハチにも聞いたけど、『そんなことない』って。」

「じゃあ、そんなことないんだろ。」

「そんなことなかったら、あんなことにならないと思うんだけど、こんなやつに。」

「…お前、俺が気を失ってる間に、俺になにかしたのか?」

「別に。でも、ここで死なれても気分が悪いから、診察くらいはしたっけ。どこも異常がなかったから、放っておいたけど。」

「異常があっても、放っておくだろうが。」

「そうだったら、せめて私がとどめを刺すべきなのかもしれないって思ってた。」

「…切り替え、早いな。」

ミュウは無機物を見る目をする。自分が今、五体満足である事に感謝する。

「ねえ、チェスしない?」

「また今度にしてくれ。」

俺は狸寝入りしようとする。色々考えたかったが、思いの外、早く眠りに落ちてしまった。

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