第一条 第四項

 甘かった。

 オセロは俺の快勝だった。そうすると、彼女はキッと俺を睨み、今度はその辺から将棋盤を引っ張り出した。負けを挽回したいらしい。射殺さんばかりに睨んでくる。

「構わねーけど、ちょっと待てよ、今ルール覚えるから。」

 といった感じで、すぐに将棋でも快勝した。ほぼ瞬殺である。同じ要領で、チェス、囲碁(五目並べ)、トランプでポーカー、神経衰弱、ババ抜きに至るまで、俺の全戦全勝である。もちろん俺はこれらのゲーム、ルールを知らないので『遊び方』を片手にやっている。俺が特別に強いか、彼女がとんでもなく弱いかのどちらかだが、おそらく後者であろう。少なくとも、俺には上手い負け方が分からないのだから。

 問題は負かす度にとんでもなく不機嫌になる事だ。相変わらず目が合うごとに睨み付けてくるし、今にも殴りかかってきそうな程、握り拳に力が入っている。負けが決まると、舌打ちさえする。これだけ悔しがるのだから、手を抜いているわけではないだろう。かといって、俺が負けてやらなかったのは、こんなに真剣ならば、わざと負けたりするとかえって傷つくだろう、という俺なりの思いやりである。『上手い』負け方とはそういう意味だ。

 こいつは友達にしたくないタイプだな、と思いながら、バックギャモンで俺がダブルを提案した所で、いきなり部屋の照明がプツンと消えた。いきなり真っ暗闇になって、何も見えない。俺は多少面食らったが、彼女は慣れっこの様でゴソゴソと物音をたてながらベッドの方向に戻っていった。どうやらもう眠るらしい。勝負の途中だったが、俺もどうこうしようもないので、その辺に横になる。目を閉じて、ここで起きた事をまた少し整理しようと考える。

 部屋に監禁される。部屋の中に女の子がいる。彼女と色々なゲームをする。弱い。態度が悪い。そもそも、最初に出会った時も感じが悪かった。あとあまり喋らない。ゲームに必要な発声はするので、喋れないわけではなさそうだ。彼女についてもう少し言えば、顔の左半分が包帯で覆われているのだけれど、ゲームの途中、よくよく見てみれば、指先やら足首やらにも所々にテーピングがしてある。怪我にしては位置がまちまち過ぎて、不自然な気がするし、第一彼女自身それを全く気に留めている様子がない。となると、一つ思い当たることがある。彼女が例の能力を持つ『娘』だという事だ。少なくとも、彼女が何か特別な力、カルマだったか、を持っている事は確信している。失っている事が当然のような態度だからだ、俺と同じように。

 となると、色々な疑問が浮かび上がってくるのだけれど、ともかく今は寝ることに決めた。こういう時こそ、傍若無人に堂々と眠ってみせなければならないからだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る