愛と飢えとあと何か

「叶都ぉ…今日、親居なくて寂しいの…だからうちに来てくれない?」

「今日"も"だろ。」

叶都が美裂の家に行くようになって数日。

美裂は毎日何かと理由を付けて叶都を家に誘おうとする。

「お前…もう少し節操持てよ」

「あわよくば夜の営みの方も…!」

「欲望に忠実すぎるだろお前」

他の人には分からないような小さな表情の変化も叶都にはわかる。

「ふにゃぁ…頭なでられるのきもちぃ…」

とろけた顔の美裂を見ながら、神都は気になっている事を口にする。

「なあ…お前ん家っていっつも親いないけど、共働きか何かか?」

「…!」

叶都の言葉に美裂が身を固くする。

「そ…れは…」

「なあ」

神都は美裂を起こし、正面から見つめる。

急なことに真っ赤になり、しどろもどろする美裂に更に言う。

「前にお前の事が好きだって言ったよな。」

「う…うん…」

「それはただ単に好きなだけじゃなくて、美裂が良いなら人生のパートナーとして見るつもりだ。」

「ぱぁっ!?」

「だから…何でも相談して欲しい。力になれることがあるかもしれないからな。」

「…わ、わかった…わかったから少し離れてくれると…ありがたい…です…」

「あっ悪い」

近付きすぎたと叶都がちょっと離れる。

まだ頬が赤い美裂がモゴモゴと話す。

「私…親が居ないの。」

「…居ない?」

美裂が頷いた。

「物心ついた時から、あの家にいてね、人の代わりに音声ガイドがあって…それに従って今まで生きてきたの。」

「音声…?」

「ずっと一人だったから人とのつきあい方も何も分からなくて…ずっと寂しかった。」

半分独り言のように美裂は語った。


中学2年生の春に、強盗事件が起きた。

被害者は刃物で6ヶ所も刺されており、金目の物も漁られ、持っていかれていた。

そして現場からは、美裂の指紋が見つかった。

美裂の仕業ではないのは自分が一番しっているし、運良くアリバイの証拠もあったので美裂が逮捕されることがなかったが、大々的にテレビなどで報道されたせいでその後の美裂の生活は、常に後ろ指を刺されることになった。


そして叶都の方を向いた美裂は、キラキラした目で言った。

「その時、叶都に会ったの。」

「あの時か…」

もとから人付き合いが苦手な美裂を学校に通えるレベルにまで引き上げたのはひとえに毎日の叶都との会話だったのだろう。

「あの時から、私は叶都の事が好きだった

の。学校に休まずに行けたのも、叶都が居たからなの。…って、話それちゃったね。」

「何か…ごめんな、辛いこと話させちまって…」

「ううん、いいの。叶都のおかげで今は幸せだから。」

そういって微笑んだ美裂は、本当に幸せそうだった。

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