お互いの事情

咲良と出会えるとは思わなかった。


今まで何をしていたのだろうか。

どのように生きてきたのか。

なぜ同じ高校にいるのだろうか。


いろんなことを思い浮かべながら、

私は途方にくれていた。



私は、咲良との過去の思い出を振り返っていると、

携帯電話から震え出す。



側面のディスプレイには、『莉奈』と表示されていた。

私は、電話に手をかけたが、開くことができなかった。


今、莉奈の電話に出たところで、なんと話せば良いのかわからなかった。

莉奈には咲良のことを話していない。

完全に動揺している。

頭がまっ白になっていく。

震え続ける携帯が止まるまで、見続けていた。

結局、電話に出ることはできなかった。



机に並べた手紙を見つめて、どれくらい経っただろうか。

ふたたび携帯電話が震えだした。



今度は『真司』と表示された。

咲良のことを話した真司には話せる。

今の状況を誰よりも理解してくれるのは、真司だと思い、携帯電話に出ることにした。



「もしもし。」

「もしもし?なんで莉奈の電話に出えへんねん!紗江から電話があって、莉奈が心配してるから、代わりにカミジュンに聞いてって電話かかってきたで。」

「わりー。ちょっと色々あってさ。」

「何があったんや。」

「今日、小学校の頃に、連絡取れなくなった咲良と出会った。真司、覚えている?」

「えっ!もしかして莉奈と付き合う前に、話していた子か。」

「そう。」


今日起きた咲良との再開やショウゴの彼女であること、私が動揺してしまったことを真司に話した。



「まぁ〜そりゃ動揺するわな。カミジュンが、ずっと気にしていた子やもんな。」

「だから今、どうしてたらええかわからん。」

「そやなぁ。ただカミジュンもやけど、もしかしたら咲良って子も戸惑ってるんちゃうかな。トイレで泣いてたんやろ?」

「せやな。」

「もし話せるんやったら、咲良って子と話した方が良いんちゃうか?友達になったばかりのショウゴの彼女っても厄介やな。」

「咲良がショウゴにどこまで話しているかわからんから、明日学校で確認しなあかん。」

「とりあえず紗江には、カミジュンは体調壊してるみたいで、莉奈に心配させたくなかったから連絡出来んかったってことで、伝えておくわ。」

「すまんな真司。」

「また進展があったら教えてくれ。」



真司が電話をしてくれたおかげで、少し気持ちが楽になり、整理できてきた。

とにかく咲良に今までのことを聞かないといけない。

その話を聞いてからでないと、前に進まない。

そして今、莉奈のことが好きな気持ちは変わらない。

次の日、莉奈に心配かけさせたことに謝りのメールをすることを決め、

日も変わった頃、ベッドに入った。

咲良と莉奈ができた夢。

正夢とはこのことか。

また同じ夢を見るのはつらいなと思いながら、眠りについた。




次の日、学校の朝、教室に入ると、ショウゴが私に声をかけてきた。



「ジュン。ちょっときてくれないか?」

「おぉ〜わかった。」



教室を出て、学生が通りそうにない学校の奥にある多目的室近くに階段まで連れて行かれた。

なんの話なのかが想像ついていたが、到着するまで、胸の鼓動が止まらない。



「ジュン。昨日のことを教えてくれないか。昨日は咲良から連絡取れなく、なんで泣いていたのか、さっぱりわからない。」

「昨日はすまん。俺も動揺していた。咲良とは、小学校の友達で、俺は小学校5年生の時に引っ越して以来、会っていなかったから驚いたんやと思う。」

「ほんまにそれだけか?それやったら喜ぶんちゃうん?普通泣くか?」

「確かに泣くことはないかな?けど全く連絡を取っていなかった小学校の時からずっと一緒にいた友達に3人に突然会えば、泣くかもしれんな。」

「俺の彼女なら泣くかもしれん。またあとで話を聞いてみる。」



咲良のことを思うと、どこまでショウゴに過去の経緯を話しているかわからなかった。

ショウゴも咲良の性格を知っているのだろう。

私の話を聞いて、納得できる部分があったようで、特に質問されることがなかった。

『俺の彼女』という言葉を聞いて、咲良との距離を感じ、寂しさを感じた。



私とショウゴは二人で、教室に戻っている時、

咲良と廊下ですれ違った。

ショウゴは咲良のところに駆け寄り、声を掛けていた。

咲良が昨日のことを謝っているようで、ショウゴと話し始めた。



咲良と話をしに行こうと思ったが、咲良は時折笑顔を見せていた。

私は、そのまま話に行かず、立ち止まった。

私は、寂しさを感じながらも、咲良が小学校の頃と同じように悲しい顔を見せず、逞しく生きているのだろうと思い、

内心安心していた。

私は、そんな咲良を見て、微笑んでいる自分に気づいた。



二人の会話が終わり、ショウゴと教室に入ろうとした時、ふと咲良と目があった。

咲良は私に優しい目で見つめて、笑みを浮かべている。



私はその表情をどれほど見たいと思ったか。

その表情を見せてくれるだけで、私は嬉しかった。

ショウゴという彼氏もいて、もう大丈夫だろうと思った。

咲良が幸せでいればそれでよかった。





昼休みは、咲良とショウゴが一緒にご飯を食べるそうだったので、

私は、ノリとしーちゃんとご飯を食べることにした。

二人は昨日のことを心配していたが、ショウゴとは朝話たことを伝え、咲良が元気でいたことを喜んだ。

また私には彼女がいることを話した。

ノリは羨ましがっていたが、しーちゃんは少し悲しい顔をしていた。

なんで悲しい顔するんだと思ったけど、彼氏がいないから羨ましがったのかもしれないと思い、

特に気にしなかった。



小学校の時の話をしながら、またみんなで学校生活を過ごせることが嬉しかった。



咲良と二人で話をしようかと悩んだが、彼氏もいるし、邪魔してはいけないと思って、

話をしないことにした。

咲良と連絡が途絶えたこの4年半の出来事は

気になるが、元気でいるには変わりがなかったし、

私には今莉奈がいるから、自ら咲良のところに行くことがなかった。




その日の放課後、

地元の駅で、莉奈と会うことにした。

昨日のことで、莉奈はとても心配してくれた。

自宅までの帰り道、自転車を押しながら、莉奈は私の手を離さなかった。

そんな莉奈の優しさに中学時代は私の心を癒してくれた。



私が、第一志望の偏差値まで学力が届いていなかった時、

机の前で、ひたすら勉強しながらも焦りを覚えていた。

当時は携帯電話をまだ持っていなかったので、パソコンでメッセンジャーというメッセージのやりとりを瞬時にやりとりができるwebサイトで、

莉奈は、毎日のように励ましてくれていた。


寒さで冷え込む12月の冬。

塾での自習で夜遅くまで勉強していた時、

別の塾に通っていた莉奈が帰り道で、いつも待ってくれた。

長岡公園に寄って、二人でお互いに勉強の話をしながら、お互いで合格祈願をして、励まし合った。



莉奈はいつも私に寄り添ってくれる彼女だった。

彼女を大切にしないわけにはいかないと思っていた。



私は、莉奈に咲良のことを話さないまま、家の近くで別れた。

過去の出来事を話すべきか迷ったが、いずれ話す機会があるだろうと思いながら、

莉奈に手を振り、別れた。




このまま何事もなく、楽しい高校生活を過ごせると思っていた。

けど、青春って楽しいことだけじゃないんだ。

辛いことや悲しいこと、乗り越えないといけないことがあるんだと私は3年間で思い知らされる。

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