生きててよかった。

私は夢を見ていた。


そこは懐かしいところだった。


空の左側には、真っ白く輝く太陽の光が海を漂うさざ波に反射し、

真っ青な海がどこまでも広がる地平線の先には大きな橋があり、飛行機が上空を雲の糸を引いて飛んでいた。

反対に右側では、真っ赤な太陽が燃えるように激しく光りながら、様々な色の花が、風に揺られながら踊っている。

左右の真ん中には、長髪で黒髪の女性が真ん中に立ち、私に笑顔で微笑んでいる。


ふと後ろを振り返ると、

梅の樹々が、芳ばしい香りを放ち、深緑の公園を彩っていた。

そこのベンチの近くで、小柄で、金髪の女性が笑顔で微笑んでいる。


お互いが手を出し、私の手を握ろうと近寄ってきた。


両方の手を握ろうとした時、突然暗転し、私は人ベッドの布団の中で、うずくまって泣いていた。







ジージージー


ジージージー



私は、目覚まし時計を叩き、音を止めた。



嫌な夢だった。

なんで二人も夢に出てきたのだろうと思いながら、

リビングに行き、母親がいつも作ってくれる目玉焼きとハムを乗せた食パンを口に放り込み、

紅茶で勢いよく流し込んだ後、急いで顔を洗い、髪の毛を整えて、学校の制服に着替えた。



電車が駅に着くまであと15分ってところか。

自転車に乗り、乗り遅れないように、急いで漕いで駅に向かった。



電車には、乗る前から人が押し競饅頭状態となっており、

カバンを胸の前まで抱え込み、窓に飛び込むように、電車に乗り込んだ。

小さい穴に手を突っ込むようにズボンのポケットに入れ、

携帯電話を無理やり取りだした。

朝の莉奈からくるメールに気づいたのは、その頃だった。



簡単に返信だけ終わらし、息苦しい電車の中を耐え抜いていた。



短くて長く感じた10分間を過ごしたあと、

海中から息をするため、受け出すように駅のホームに這い出た。

隣が女性だと気づいた時は痴漢と思われたくないと思い、両手をずっと天井に向けてあげていた。



朝の電車は疲れる。



改札口を出た時に、ノリがいたので、一緒に登校した。

ノリは私よりも家が遠かったので、私よも1時間ほど早く起きているので、

何回もあくびをしながら、昨日見たバラエティの話をしてきた。

お笑いが好きやなっと思いながら、退屈せずに学校の教室まで向かった。



今日から始業式ということで、朝から体育館に集合して、

校長先生の長い話を二日連続で聴きながら、周りの生徒を眺めていた。


すると、斜め前の離れたところに、昨日の帰り、向かえのホームで見かけた長髪で黒髪の綺麗な人がいた。

人目を引くのか、私以外の人も何人か見ていたような気がする。

明らかに他の女子とは違う雰囲気を保ち出していた。

髪の毛が綺麗すぎるのと、モデルみたいに足が細ければ、目を奪えわれるのも仕方ないと思った。



朝の始業式も終わり、クラスごとに教室に戻ることになったので、

その子の顔を見ることができなかった。


莉奈がいるのに、なに考えてんだ、俺は。


と思いながら、莉奈のメールを見て、返信をした。




昼休みになり、ショウゴとノリと一緒に食堂に向かい、

ご飯を食べることにした。


初めての食堂だったからわからなかったが、食券機には長蛇の列になっていた。

どうやら数量限定の定食があるそうで、売り切れる前に買いたい人で並んでいた。



「こんなに並んでるのかよ。教師までいるで。」

「この調子じゃ限定買うことできんな。今日が初めてやし、普通のA定食にしとくか」

「俺もそれで行こう。明日は限定買ってみたいな。」

「確かに。買って美味しくなかったら、どうしよ。」

「それはないで。美味しくなかったらこんなに並ばんて。」



三人で、食堂飯を楽しみにしながら、食券機の前を並んでいた。



三人で、食堂の空いている席に座りながら、

中学の時の話や、音楽や趣味の話で盛り上がっていた。



「そうそう。ショウゴの彼女紹介してや。」

「おれの彼女?今日一緒に帰ることになってるから、帰りに紹介するわ。」

「わかった。どんな子か楽しみやな?彼女さん可愛いいん?」

「可愛いと思うよ。髪がほんまに綺麗で、綺麗な顔しているよ、自分でいうのも気持ち悪いけど、見たらわかるわ。」

「自慢できる彼女とかめっちゃええやん。おれとか彼女おらんからただただ羨ましい。」



ノリが、ショウゴの彼女が気になりすぎている。

私は、莉奈とメールのやりとりをしながら、ショウゴの話を聞いていた。

髪が綺麗な子と聞いて、どんな綺麗な髪なのかと少し気にした。

私が綺麗だと思った人は一人しか想像できない。



ご飯でお腹を満たしたせいか、午後の授業から眠気が襲ってきて、

勉強に集中できなかった。

授業のレベルもはるかに上がっていて、途中から考えるのをやめて、

眠気と戦いながら、ただ黒板に書かれた文字をノートに記載するだけの単純作業と課していた。



やっと今日の授業も終わり、私は担任の先生の話を聞いているフリをしながら、

カバンに顔を埋め、半分寝ていた。



「今日の課題をしっかりやってくるように。ではまた明日。」



先生の話も終わり、大きなあくびをしながら、両手を万歳していた。

ノリが私のところに近寄り、早く帰ろうかと声をかけてきたころ、

ショウゴが声をかけてきた。



「紹介するよ。彼女の月島。これからよろしく!」




私はまだ机に横になって、眠たい目を無理やり起こしているところだった。

その時、ノリが驚いたような声でおれに呼びかけてきた。





「じゅん、ショウゴの彼女見ろよ!」







おれは、重たい目を開けながら、横顔で、月島を見た。



うっ?



頭がまだ回っていない。




うっ!




一気に私は目を開き、真顔になり、硬直した。

昨日と今日、無意識に見てしまっていた長髪の黒髪の女性がそこに立っていた。

しかし私は、それ以上に顔を見て、驚きを隠せないでいる。

胸の中に今まで忘れてたかのように心臓が脈打ち、

全身の血管に血が流れ込み出した。

あまりの速さに、心臓の鼓動が間に合っていないように感じた。




ショウゴの彼女は、私の顔を見て、

私と同じく硬直し、私の同じように目を見開いていた。

口は半開き状態で、驚きを隠せれないようだ。




私と彼女の間には静寂な時間が漂っていた。

周りには誰もいないような二人だけの空間。

お互い過去の出来事が脳の神経を歩んできた道のように

一歩一歩、歩み進んでいる。




「どうした?二人とも?」

ショウゴは不思議しそうに二人を見ていた。

ノリは黙るしかなかった。




「ノリー!一緒に帰ろう!ノート買いたいから、帰りに梅田寄ってよ!」

しーちゃんが教室まできて、私とノリに声をかけてきた。

しーちゃんも月島の顔を見た瞬間絶句した。

小学校の友達はみんな同じように月島を見つめることしかできなかった。




私は、とても美しく、綺麗な彼女を見ながら、

驚きの目から、優しい目に変わっていく彼女を見て

確信した。




なんて声を掛ければ良いのか。

全く言葉が出てこない。

何かを私は話したと思う。

今ではその言葉を思い出すことができない。

でも確実に私の心の中に、今まで感じたことのない情熱にかられている。



静寂と情熱の狭間に立ちながら、ひとこと彼女に伝えた。






「生きててよかった。。。」





「わたしも。」






私は、彼女の目が喜びに満ち、輝くものが目頭から流れていく。

そんな彼女を見ている私も目から大粒の涙が流れていた。




彼女は我に帰ったのか、目から流れた涙を拭き取り、

焦ったかのように、カバンを抱きかかえ、教室の外に出て行った。


そんな彼女を目で追いながら、呆然と椅子に座っていた。

そして、私はノリに一人で帰ると伝えて、教室から出て行った。




莉奈には、今日は会わないとメールで伝えて、

適当に嘘をついて、家に帰った。

嘘をつきたくはなかったが、それどころではなかった。

気持ちの整理が全くできない。

できるわけがないのだ。

私は机の前でただただ電球を見つめだながら椅子に座っていた。






ブー ブー ブー






ノリとしーちゃんから別々にメールが届いた。


「じゅん。大丈夫か?正直驚いた。まさかこんなところで会うとは思わなかった。」

「じゅんちゃん、大丈夫?私も正直驚いたよ。じゅんちゃんが帰った後、トイレに入ってずっと泣いてたから、帰れる状態になるまで一緒にいて、ちゃんと家まで帰れたと思う」




どうやら彼女はトイレでずっと泣いていたそうだ。

ショウゴに事情を話すことなく、黙り込んだまま、しーちゃんと梅田まで一緒に帰ったそうだ。

この日は、彼女が気が動転していて、しーちゃんもほとんど話していないそうだ。

しーちゃんもクラスが違うせいか、今日まで気づかなかったそうだ。




ノリは、ショウゴと一緒に帰ることになったそうだが、あまり話さなかったそうだ。

どこまで話そうか迷ったらしく、とりあえず同級生とだけ伝えたそうだ。





私は、ご飯を食べずに部屋の中に引きこもっていた。

そして、大きな引き出しに入れた、想い出の手紙を取り出し、

全ての手紙を眺めながら、虹色の星の形をしたキーボルダーを見つめていた。







信じられない。

まさかこんなところで彼女と出会えるとは思わなかった。

なにより彼女が元気で、昔の雰囲気を残しながら、私に優しく微笑んでくれた。

忘れるわけがない、忘れたくなかったあの表情を。








咲良だったのだ。

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