莉奈との関係
太陽が真上を向く頃、
地元の駅につくと、莉奈が改札口の前で待っていた。
私は聞いていた音楽を止めて、イヤホンをカバンの中に直した。
莉奈は、身長が150cmほどの小柄な体型で、金髪で両耳にピアスをつけている。
目をパッチリと見せるため、まつ毛が長く感じるほどマスカラをつけ、化粧にこだわるような今時の女の子だ。
莉奈は笑顔で、私に手を降っている。
有名な犬のキャラクターのフィギュアやよくわからないストラップたちを学校のカバンにつけ、
リュックのように肩にかけていた。
新しい高校のスカートを膝が見えるほど腰まで巻き上げて、
シャツとカーディガンを腕まで捲っていた。
「カミジュン!学校はどうだった?友達できた。」
「もう友達できたよ。小学校の友達がいて、びっくりした。」
「ほんとに!そんなことあるんや。じゃあ〜学校生活楽しみやね。」
「そうやな。とりあえずモスでもいくか。」
「モスいいね。早くハンバーガー食べに行こう!」
地元のハンバーガーショップには、中学の頃からよく学校帰りや、塾帰りに友達と喋りによく行った。
店につくと、真司と紗江が二人で集まっていた。
この二人は幼馴染で、付き合っている。
中学の3年生の夏頃に部活動を卒業した頃に、付き合い始めた。
真司とは、小学校の転校した頃、真司から声を掛けてくれて、
その日から遊ぼうと誘ってくれて、それ以来ずっと仲の良い友達だ。
「ようカミジュン、莉奈!今日も莉奈と一緒か?」
「真司と紗江か!」
「おっつー。真司くん学校はどうやった?」
「まじでおもろいやつおったで!お笑い好きで、ずっとお笑い芸人のモノマネしてたわ!」
「まじで!めっちゃええな!俺の学校は、見た感じ真面目な人多そうやったけど、小学校の友達とイケメンの男と仲良くなれたわ。」
「それはよかったな。」
空が赤く染まり出した頃まで、たわいもない会話をしながら、四人で楽しんでいた。
真司と紗江とは、店の外で別れた後、私は紗江と長岡公園の方に自転車に乗りながら、帰っていた。
「学校には可愛い子とかいなかった?目映しとかしていないよね?」
「そんな子いなかったで。莉奈しか見ていないからだいじょうぶや。」
「ほんとうに?前いた小学校の頃の友達の話をした時、なんか誤魔化してた感じがしたからもしかして女の子かなと思って。」
「小学校の頃からの幼馴染はいたよ。ゲームオタクの変わった人やから、ただの友達やで。」
「ふぅ〜ん。カミジュンモテるから心配やわ。」
「心配性やな。俺は莉奈といると、楽しいし、好きやしな。」
「ホンマに!?カミジュンが言うなら信じるよ。私も好きやし。」
莉奈と付き合ったのは、ちょうど一年前くらいだろうか。
莉奈とは小学校から一緒で、俺のことを見ていたそうだ。
私は、小学校に転校した頃、ちょっとしたことで女子にいじめられることになった。
転校して1週間がすぎた頃だった。
給食の時間の時に、手が滑って、牛乳を女の子にかけてしまった。
その子は、クラスでも女子グループの中心者で、クラスの女子はその子の言うことは絶対に守らないといけないほど、牛耳っていた。
「あんたなにすんねん。服の匂い取れへんやんか!どうしはるつもり!」
「ごめん。。。」
この日をきっかけに、私は学校に行く度に、
その子の横を通ると、小声で、『気持ち悪いから近寄んなよ』『今日も学校来たん!休めよ!顔見たくないねん!』など罵詈雑言が毎日のように私に飛び交った。
その子の周りの友達からも冷たい目線を飛ばし、私は学校に行くだびに、孤立してきた。
いじめはエスカレートしてくるものだ。
ある日は、学校から帰ろうとして、教室の後ろに置いているランドセルを取りに行くと、『死ね!』『消えちまえ!』とチョークで書かれる。
ある日は、その給食が乗っているトレーにわざと手を引っ掛けて、床にこぼして、『ごめんなさーい』と言うだけで、拾いもせずに放置した。
ある日は、廊下を歩いている時に足をかけられ、転んだ後、軽く私のお尻や足にチョップキックして、周りの人がわからないような暴力を振るってきた。
このいじめが約半年間ほど続く。
本当に陰湿ないじめだった。
私も前の小学校の頃にみんなが私に寄り添い、友達と接してくれる対応とは、真逆の冷たいく、残酷な接し方を体験し、
当時は女子恐怖症になり、物静かな性格からさらに人に思いを話せない塞ぎ込み状態に陥ってしまった。
とにかく怖いのだ。女子が。
私はこのことを表に出すことができず、黙り込んでいた。
そんな時にいつも助けてくれたのが真司と莉奈だった。
真司は、俺がいじめられていることに気づいていなかったが、いつも俺に声を掛けてくれて、
いろんな男の友達を誘い、学校終わりは、真司の家に遊びに行ったり、外でサッカーをして遊んでくれた。
莉奈は、女子グループの中にいたが、いじめはよくないと心の中で感じていた。
放課後、私がいじめに耐えられなくて、屋上近くに階段の誰もいないところで人で泣いていた。
もう学校に行きたくない。
もう学校をやめたい。
前の小学校に戻りたい。
様々な感情が、私の脳裏をよぎった。
誰も掃除していないだろう汚れた階段に座りながら、
一人の女性が私の方に歩み寄ってきた。
莉奈だった。
莉奈は、私にハンカチを渡してくれて、
「泣かないで。助けてあげられなくてごめんなさい。」
「・・・。」
私の泣く声が、薄っすらと階段に響いていた。
莉奈は、泣いている私の横に座って寄り添い、
優しく私の手を握って、一緒に泣いてくれた。
この日から、学校では話すことはなかったが、莉奈に少しずつ心を開き始めていた。
いじめが始めってから半年後、
真司と莉奈が二人で、密かに話をしていたそうで、
学校の先生に相談をしてくれたそうで、
放課後にいじめをテーマにしたホームルームが行われた。
ホームルームでのいじめっ子の女子が嫌な顔をしながら、
私の方を睨みつけていた。
いじめの犯人は誰もが明確ではあったが、
いじめは本人だけでなく、みんなも共犯者であると問い正し、
自分が嫌なことされたら、みんなどう思うのか、
意見を出し合いながら、今後もクラスでいじめが起きないように
先生は取り組んでくれた。
この日からいじめがなくなった。
いじめが起きそうなことがあった時も、
みんなが声を上げて、いじめを阻止する傾向が出たからだ。
中学生ではなく、小学生がいじめについて真剣に考える機会があったことは、
人としの人格を大切にし、お互い支え合って行くことを学べた。
素晴らしい先生に出会えたと思う。
そして、素晴らしい友人、真司と莉奈に出会えた。
莉奈とは、この日から大切な存在へと変わった。
そんな莉奈と付き合うことになったのは、
中学3年生になった頃の4月頃だった。
中学に入ってからは、一緒のクラスになったことがなかったが、
初めて一緒のクラスになり、私と莉奈は学級委員となった。
日直当番や宿題やノートの回収、掃除当番を決めたり、意外とやることが多くて、めんどくさかった。
莉奈とは、必然と一緒に行動することが増えた。
1学期が始まって、2週間頃だろうか。
この日は、友達同士で喧嘩があって、事情聴取ということで、
始めに学級委員である私と莉奈が呼び出された。
喧嘩の理由は些細なことで、
昼休みに喧嘩っぱやい男同士が、プロレスのような取っ組み合いを行なわれた。
そのころは、総合格闘技が人気のあった時代で、年末の特番でよく放送されていた時代だ。
中学校ではよくある光景だったが、取っ組み合いをしだすと、だんだん感情的になって、喧嘩になってくる。
しかし、その日はそこにいたクラスの女子に身体が当たってしまい、大泣きする事件が起きた。
喧嘩の巻き添えを食らってしまった。
その女の子は莉奈の友達であったので、放課後に呼び出される始末。
先生に、明日のホームルームで注意を促すようにと言われた。
めんどくさいな。
先生が注意したら済むと思うけど。
心の中で、思いながら、律儀に返事をしながら、先生の話を聞いていた。
教室に戻り、カバンを取り行った時、教室にはもう誰もいなくなっていた。
そのまま家に帰らず、塾に向かおうと考えていた時、
莉奈に声をかけられた。
「カミジュン、ちょっといい?」
「どうしたん?」
特にいつもと変わらない返事をしたが、
莉奈は緊張しているような面持ちで、私を見ていた。
「カミジュン、私、、、カミジュンのことが好きです。」
不意に唐突に私に告白をしてきた。
私は唖然とした表情で、少しだけ口を開けて、黙ってしまった。
突然の告白に、私は急に身体が緊張し、胸の鼓動が高まっていく。
「ちょっと考えさせてくれ。」
私は急な告白にすぐに返答することができなかった。
莉奈は俺に恋をしていたなど思わなかった。
「ごめん、急に告白してしまって。」
莉奈は、恥ずかしそうに下を向いて、カバンを持ち、教室を立ち去っていった。
私は、莉奈のことが大事な友達だと思っている。
小柄な体系で、とても明るい子だ。
小学生の頃の私のいじめがきっかけで、
正しいことをはっきり言うことが大事だと気づき、
中学に入ってからは、物事をはっきり言い、正義感の強い女の子へと成長していた。
学年ごとの学級委員長になって、クラスのまとめ役のような存在へと変わっていた。
まとめ役の雰囲気は、しーちゃんに似ていたが、違いはインドアではなく、今の流行りに敏感で、
学校ではしていなかったが、ピアスを開けたり、流行りの音楽に敏感だった。
休日になると、京都の四条に遊びに行き、カラオケやファッションビルで遊ぶような女の子だった。
部活はしていなかったが、ピアノを習っていて、コンクールに出ると入賞するほどの腕前だった。
そんな莉奈に対して、私にはない明るさと元気に憧れを感じながら、
女性としてどんだん可愛くなっていく姿を見て、付き合ってもいいと思った。
ただどうしても私には忘れられない存在がいる。
その子のことは、今でも思い出すことがあった。
その記憶は小学生の頃で止まっている。
私は、莉奈が告白した後、塾や自宅でもずっと考え、迷っていた。
机の右下にある大きな引き出しを開け、学校の教科書や、使い終わったノートの裏に隠れる
何百通にも及ぶ手紙を見つめていた。
もう先に進んでもいいですか。
私は、机の電球だけが光る暗い部屋の中で、
手紙とともに虹色のキーホルダーに目をやりながら、
過去の浮き世に想いを馳せる。
その日は何も決められないまま、
布団の中で、疼くもり、朝を迎えた。
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