第三章 千思万考 

晩秋の夜に

睡魔に襲われ、湯槽の中で、私は眠っていた。

すごく長い夢を見ているようだったが、少しだけ過去の出来事を思い出していただけだった。


お風呂から出た後、髪の毛を乾かしていたら、鏡越しで髪の毛が一本光っていた。

30代前半で、そんなに歳をとっていないのに、もう白髪が生え出していた。

早くて20代から白髪が生えている人もいるが、

歳をとっていくのは嫌だなと思いながら、禿げることはないだろうと楽観的に考えていた。



上下グレーのスウェットに着替え、冷蔵庫にある発泡酒とベーコンのおつまみを取り出し、

ベットの前にあるテーブルに置き、テレビをつけた。



日が変わる前だったのか、各チャンネルはほとんどニュースばかり流れていた。

ある有名企業が脱税をしたとか、ある芸能人が不倫をしたのか謝罪会見の内容をコメンテーターが賛否両論の意見を出し合っていた。

私のようの一般のサラリーマンにとって、関わることのないどうでもいい話ばかりだ。

脱税自体は、法律上よくないことだが、私に直接関わることはない。

ただ有名企業の社長が、よくバラエティの取材で、いい話をしていたのに、裏でよくないことをしていたことがショックだった。

人は見かけによらぬものとはこのことか。

不倫の話は、私が結婚していないので、そこまで関心が湧かなかった。

正直、世間一般人の不倫の方が、酷いことが多いし、知らない他人の男女関係に口を出すつもりはない。

コメンテーターの人は、よくズケズケと他人の男女関係に意見を出せるなと私は思う。

これでお金をもらっているから仕方ないのだろうが、本当に関心があれば、私はノーコメントになると思う。

人生を左右させる問題をエンターテイメントにして、全国に放映するなど、何様なのだと思う時がある。




私は一通りニュースを見た後、ベランダに出て、タバコに火をつけ、煙を吹かした。

漂う煙は、気温の下がった大気に晒されて、普段よりもはっきりと白く広がっている。


ふと窓からテーブルに置いてある手紙に目をやった。

お風呂の後、お酒を飲んだせいか、酔いがまわり、部屋で安らいでいたせいか、

まだ手紙に封を開けていなかった。



過去を思い出していると、手紙を読むことに少し躊躇し出している。



SNSのように通知が来た時、読む気がなくても、すでに初めの一文が表示されるということはない。

つまり既読スルーなんてことは、手紙ではできない。封を開けるまで内容はわからない。

もちろん私が読んだかどうかは、相手にはわからない。

その点、SNSでは、既読表示があるから、相手が読んでくれたかどうかがわかる。

ただ暗黙の了解で、SNSでメッセージを送信した以上、既読するのが絶対だ。

なぜなら既読スルーと思われてしまい、相手から印象が悪くなる可能性があるからだ。


私は、会話でのコニュニケーションと、文字でのコミュニケーションを同等の扱いにしてはいけないと思う。

話し方と書き方は違うのだ。相手の表情を見ながら、言葉を選ぶのか。相手の文章の文脈で、言葉を選ぶのか。

今のSNSは、会話のコミュニケーションに近い。なのに相手の表情や、感情を見ることができない。

無表情のコミュケーション。


なんともさみしいものだ。


感情を豊かにするなら、友人に手紙を書くことをオススメする。

男性より女性の方が、感情豊かなのは、学生時代に手紙の交換をするからだろうか。



今日で何枚目の手紙になるのかな。

咲良と離れてから、手紙のやりとりをしたのは、ごくわずかだ。

しかし、どの手紙も私にとっては、かけがえのない財産である。



手紙を見ていると、高校時代のことを思い出してきた。

男って本当に鈍感で、いや、私が相手の気持ちを理解できない大馬鹿者だった。

相手が自分に対して考えていることって、理解することが難しい。

今も昔もこのことは変わらない。そもそも理解しようとすることが間違えてるのか。



けど、高校時代の思い出は忘れることがないだろう。

高校の入学式から小さな歯車が回り始めた。

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