手紙に込められた想い

次の日もいつも通りさくらと登下校をした。

挨拶だけして、何も話さなかった。

さくらは帰り際、私に手紙を渡して、さくらの家の前で、別れた。



この日は、ノリの家族が、私とのお別れパーティーをしてくれるそうで、

家に帰ってから、すぐにノリの家に向かった。



ノリの家に行くとやはり嫌な音がした。


ワンワン


ノリの愛犬、ハッピーはいつになったら、私のことを覚えてくれるのだろうか。

それとも私の足音を聞いて、喜びの咆哮だったのだろうか。


人間の言葉じゃない限り、犬の気持ちなど到底わからない。



夜ご飯ができるまで、ノリの部屋で、ゲームをしていた。

二人で、ニンテンドー64のゲームをいくつかして、楽しく過ごした。


私は、引越しをしてしまうまで、ノリにはじめて頼みごとをしようと考えていた。


「ノリさぁ。頼みごとがあるんやけどさ。」

「・・・・・さくらのことか。」

「なんでわかったんや。」

「その反応やったら、間違いなしか。実際どうなん?付き合ってるの?」

「付き合ってるというか、なんというか。まぁ〜友達以上では、あると思う。」

「なんだよ、その微妙は言い方はよ。」

「わりぃ。付き合ってると思うなら、それでいいよ。お互いの気持ちわかったの最近やしな。」

「まじかよ。なんで俺に教えてくれなかったん?寂しいやつやな。」

「ちょっと恥ずかしいのもあったけど。」

「まぁ〜ええけど。じゅんらしいし、悪気がないのわかってるからさぁ。それでどんな頼みごと?」

「さくらさぁ。学校では楽しそうにしゃべってるけど、けっこうナイーブなんだ。ぼくにも直接話せないぐらいなんか色々悩んでるからさ。なにかノリなりにさくらが変だと思ったら、ぼくに電話してきてほしい。」

「まじで。おれさくらとそんなに直接話したことねぇから、さくらの変なことなんて気付けるかな?」

「まぁ〜ノリなりでいいよ。そんな絡むことないと思うけど、周りの女の子から聞いた話とかでもいいし、何かあれば連絡ちょうだいや。」

「わかった。とりあえず何かあったら連絡するわ。」

「ノリ、ありがとう。」

「気にすんな。友達やし。そんなことよりさくらのどこが好きなんや。教えてや。おれ好きな人おらんからそんなことわからんねん。」

「そんなん話したくなし。。。。。。。。」



ノリに結局いじらせる羽目になったが、おれとの頼みごとを潔く受けてもらった。

特に深く追求されることもなかった。

いつもであれば、泣いてることとか、困ったことがあったら、率先して色々質問してくるのだが、この件に関しては問い正されなかった。

私からのはじめての頼みごとだったからか。普段そんなに積極的に話をしない私が熱く頼みごとをしたからなのか。

ノリは私に対して、信用してくれているのだと思う。



その日のノリ家の晩御飯は、カレーライスだった。

私は甘口が好きだったが、中辛だったので少し辛かった。

ただ私の家は、お肉や野菜が細く刻まれているのと違い、大きくブロック状に切られ、カレーの味だけでなく、お肉と野菜の味がしっかり出ていて、美味しかったのを覚えている。

ノリと両親やお姉さんからは、いつでも遊びに来ていいよと言ってもらえ、

私の幼稚園の頃の話をして、盛り上がっていた。



私はノリの家をあとにし、家に帰った。

部屋の机の電気を付け、今日さくらからもらった手紙を読んだ。




そこには、さくらが私への気持ちを書き記していた。




「じゅんくんへ。


ひっこしの話を聞いたとき、信じられないと思いました。

わたしは、じゅんくんと、はなればなれになるのがイヤです。

どうしたらいいのかなって夜空をみながら、ずっと考えていました。

そしたら、わたしのお父さんとお母さんがはなればなれになった時のことを思い出しました。

お父さんやお兄ちゃんに会いたくても会いたくても会えなくて、毎日泣きました。

そんな時に、じゅんくんと出会えました。

じゅんくんは出会ってからずっとわたしのこと守ってくれて、助けてくれ、さみしさも忘れさせてくれました。

そんなじゅんくんがどんどん好きになりました。

じゅんくんは、イヤなことやイヤな顔をひとつも出さなくて、

りんかん学校のとき、わたしが本当のことを話さなかったのに、

じゅんくんはやさしく話してくれて、わたしはじゅんくんのやさしさが大好きになりました。

いっぱい助けてくれたから、わたしはじゅんくんのおかげでどんどん強くなれたと思いました。

じゅんくんは、ひっこしちゃうと、わたしのようにさみしい思いをするのかなと思った時、

今度はわたしがじゅんくんのために助けてあげたいって思ったの。

だから、わたしはじゅんくんがくれたキーホルダーを見ながら、毎日じゅんくんのことを思うことにしました。

じゅんくんも寂しくなったら、同じキーホルダーを見てください。

はなればなれでも、わたしはじゅんくんのことを想っています。

これからは、じゅんくんに手紙を郵便で送ります。

ほんとうの手紙のやりとりをじゅんくんとやりたいです。


さくらより」



私は本当にバカな男だと思った。

勝手にさくらの気持ちを考えて、自分で引っ越すことに罪悪感を感じ、一人で落ち込んでいた。



さくらがとても強い女性へと成長していた。

さくらは自分のことよりも、私のことを心配して手紙をくれたのだ。

今までは、さくら自身の悩みに答えるだけの手紙が、

私に勇気と元気を手紙を書き示してくれたんだ。



私は、その手紙を見ながら、さくらの優しさに触れて、泣いていた。

横の財布に目をやった。

机の光に反射する虹色のキーホルダーが輝いていた。

さくらは今、この瞬間もキーホルダーを見つめているのだろうか。


私は、手紙の返答を書いた。

さくらと出会えたことへの感謝とさくらが好きであることを書き、今まで通り手紙のやりとりをしようと書いた。

そして最後にこう記した。



「・・・・さくら、ありがとう。 じゅんより。」

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