幼き魔女と迷える子羊

テレビの向こう側で、一人の魔女見習いがいた。

この幼い魔女は、ホウキに跨ると、空を自由に飛ぶことができる。

独り立ちの為、都会に旅立ち、何もないところから、

いろんなと人と出会い、自分の居場所を見つけ、切磋琢磨していた。



幼い魔女は、しゃべる黒猫がいた。

生まれてから、幼い魔女の手助けをしてくれる友達だった。

黒猫とは、魔法の力で、しゃべることができる。

いつもそばにいて、幼い魔女の心の支えになっていた。


自分ができることはなにか。

不安を抱えながら、生きていたが、

ある日、黒猫をしゃべれなくなってしまった。


魔法の力が弱くなり、より自分に自信が持てなくなり、家で引きこもってしまう。

私には何もできないのか、悩み苦しんでいた。


落ち込んでいる時、テレビをつけたら、飛行船から人が落ちそうになっている臨時ニュースを目にした。

そこには、初めて幼い魔女に手を差し伸べた大事な友達だった。

幼い魔女は、今できることがあると、全身の力を集中し、弱い魔力を振り絞り、

目の前にあったデッキブラシに跨りながら、不安定な飛行で、友達のところに向かう。


友達はあと少しで落ちそうだった。


かろうじて捕まっていたロープから手が離れた。



「言うこと聞いて!!」



祈るようにデッキブラシを叫んだ。



幼い魔女の手は、飛行船から落ちた友達の手に届き、命を助けることができた。


幼い少女は、まだまだ未熟であると理解しながらも、私にしかできないことがあると、

自信をつけて、大事な人たちの元で、楽しく生きていくと決心していた。



映画の最後のエンディングソングは、聴き心地がよく、今でもテレビで流れると最後まで聞いてします。

子供の頃は、思わなかったが、大人になって、深い歌詞だなと感慨深いものだった。



夏休みの終わり、金曜日の21時から放映される金曜ロードショーを見ながら、

さくらもこの幼い魔女のようにもがき苦しみながら、自分自身を見つけることができるのかな。

もしかしたら、もう見つけてるのかな。




映画のエンディングが終わる頃に、私は母親に【早く寝なさい】と言われ、

洗面所に向かった。

歯を磨き、口を濯ぎながら、鏡を見ていた。


『こんなところにニキビがあったかな』


おでこにニキビができていた。

鏡で自分の顔をじっくり見ることがなかったから気づかなかった。

思春期になると、ニキビが増えてしまって困る。

私の顔は、髪の毛は少し赤毛で、目がクリッとして、鼻が少し高い。

キュービーマヨネーズのキャラクターのように目の大きさが特徴的だ。

自分の顔はどんな顔って子供の頃は何も思わなかったが、

大人になるにつれて、掘りが深くなり、外人と間違われることがあった。

九州の両親の血を受け継いでいるからだろうか。

顔が濃いのだろう。



私は自分の顔を見つめながら、すごく寂しい気持ちになってきた。

この日、家庭の事情により、引っ越すことが決まってしまった。



9月頭の始業式の日に、私が引っ越すことを先生がみんなに報告した。



「まじかよ!じゅんが!ほんまかよ!」


私は友達から悲しい声が届いてきた。


始業式のホームルームが終わり、

ノリとしーちゃんが私に声をかけて来た。


「いつ引っ越すの?」

「今週の土曜日だってさ!」


私はノリとしーちゃんに話しながら、

帰る準備をしているさくらの方を見つめていた。

さくらは、私の目を見つめながら、目を赤くしていた。

その後、すぐにカバンを持ち、走り去るように教室から出て行った。



「じゅんは、どこに引っ越すん?」

「京都に長岡京ってところがあるんやけど、そこに引っ越す。」

「京都か。滅多に会えなくなるね。」

「そうやな。」

「なんで引っ越すの?」

「父さんが仕事の転勤先が京都になってしまって、電車で通えない距離やから、引っ越すしかないみたい」


ノリとしーちゃんは悲しそうな顔していた。


自分がまさか引越しをするなんて夢にも思わなかった。

生まれてから住み慣れたこの住之江区を離れるなんて実感がない。


友達はみんな僕のところに寄り添ってきて、

残り少ない時間を一緒に過ごそうと、平日は毎日友達との約束でいっぱいになった。



その日の下校の時、いつもの公園でさくらと会った。

さくらは、笑顔で私の方を見て、「帰ろっか」と寂しそうに声をかけてくれた。

私もオウム返しのようにように「帰ろっか」と元気のない声で返答した。


帰りながら、私たちはお互い何も話さなかった。

一緒に登下校するのは、あと1週間もなかった。

さくらと会えなくなる。

私は、寂しい気持ちで、心臓が張り裂けそうになっているのに、

さくらに声をかけられないままでいた。


左手に柔らかな感触と温かくて心地がいい。


さくらは私の左手にそっと右手を重ねてきた。

そして、私の指と指の間に、もう離さないと言わんばかりに手を握りしめてきた。


寂しいのは私だけでなく、さくらも寂しがっているのだろうとわかった。



さくらの家についた時、「手紙書くから明日受け取ってね!」と話してきた。

私は、「わかったよ!じゃあまた明日な!」と行って、手を振り、さくらの家をあとにした。



私はこのままほとんど話さないで、引っ越してしまうのかなと思いながら、

引っ越したあと、さくらは元気に生きていけるのか。

ノリやしーちゃんや他の友達と仲良くやっていけるのか

とても不安だった。


私もすごく寂しいが、さくらも寂しいに違いない。

けどなぜだかさくらと話せなかった。

引っ越すことが悪い気がして、罪悪感に駆られてしまう。

私はどうしたらいいのか。



遠くの地平線に真っ赤な太陽が沈み、反対側から真っ暗な闇が覆い尽くそうとした空を見ながら、

私は自分の家へと帰った。

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