ある夏の思い出

さくらのことが頭から離れなくなっていた。


林間学校が終わり、いつもの日常が始まった。

私はいつも通り、登下校をさくらとしていた。



ただ確実に違うのは、さくらと会うたびに最初ドキドキしてしまうことだ。

さくらはどう思っているのかわからないけど、

林間学校のことがなかったかのように、学校での出来事や楽しかったことを話していた。

手紙ももちろん行っていたが、私は初めて自分から手紙でさくらに質問をした。


夏休みが近づいている7月中旬のことだった。

その日は本当に暑くて、裸でもいいぐらい気温が高かったのを覚えている。

帰り際にさくらから手紙をもらった。

さくら「じゃあまた明日ね!」

私「おぉ〜!また明日な!」


暑かったのだろう。

さくらは長い髪の後ろをピンで止めて、巻いていた。

背中がだらんとなるほど暑いにも関わらず、さくらは爽やかに僕に笑顔で手を振っていた。


その姿を見て可愛いと思ってしまう、自分が恥ずかしくなり、

ちょっと下を向いて手を振った。


家に帰り、自分の机で、手紙を開いた。

相変わらず母親のことを書いていて、悩みを書いていた。

どうやら最近母親の体調が悪くてすごく気になっているらしい。

道具のように扱う母親を心配する人の気持ちがわからなかったけど、

林間学校でのさくらが家族と楽しく過ごす幻影を見ていたら、

なんとなく理解ができてきた。

きっと離婚する前のように家族思いで、優しく、気丈な母親に戻るのではないかという、

かすかな希望を持って、さくらは一生懸命生きているのだろうと思った。


そんなさくらに対して、私は恋をしたことに気づくことができた。



夏休みに入るとさくらと会う機会が減ってします。



今まで登下校の時にさくらと会う話をしていたが、夏休みや冬休みのような長期の休みの時も会っていた。

毎日、監獄のように、奴隷のように扱われる毎日にさくらは耐えれるわけがなかった。

だから毎週2回会う日と時間を決めて、必ず会っていた。

もちろん手紙を受け取ったり、休みの期間に友達と遊んだ時の話をしてくれた。

電話で約束すれば済む話だけど、当時は携帯なんてない時代、家の固定電話を使って、直接相手の家に電話することが普通だった。

もちろんさくらの家と私の家で、電話すれば済むのだが、さくらの家はもちろん家庭の事情があり、電話はできない。

さくらから電話してもらうのもありだと思ったが、マンションも隣だし、さくらの家のベランダから、市営住宅の裏にある公園が見えたので、

待ち合わせの日と時間が決まっていれば、特に問題がなかった。

スケジュールも変わることもあるが、事前に把握していたので、それに合わせて待ち合わせの日取りを変えれば済むことだった。



私はさくらの手紙の返答を考えながら、自分の質問内容をどのように書くのか悩んでいた。

さくらの気持ちを知りたいというのもあったけど、自分の気持ちも本当か知りたかった。


私「よし!これでいいか!」


私は勇気を出して、手紙に書き、次の日にさくらに渡した。









7月末、夏休みが始まって1週間ちょっと経つころ。

私は自転車に乗り、さくらの家の下まで行った。


さくら「おはよう!今日はどこ行くの?」

私「オスカードリームでも行こうか?」


さくらは水玉模様の柑橘カラーのワンピースを来て、

カチューシャをつけて、子供なりにオシャレな格好で現れた。

真夏の眩しい太陽の光が、黒の綺麗な長髪に反射して、とても綺麗だった。

笑顔になると、目が三日月のように円を描き、頬がくしゃっと上がり、とても可愛いと思った。



さくらもさくらなりに考えて生活している。

買い物はいつもさくらがする。元々お金持ちの父親と暮らしていたから、お金の管理が乱雑な母親は、

日々いくらお金を使っているのかあまり理解していないらしく、父親からの慰謝料もあるから、今も貧乏というほどのお金の苦労はしていない。

だからさくらがほとんどお金の管理をしているようなもので、買い物ついでにこそこそお金をくすねていたようで、

自分の好きな服や欲しいものは母親にバレないように買っていたのだ。


今回もこの日のために服を新調したようだ。


私はさくらを自転車の後ろに座らせて、いわゆるニケツで、オスカードリームまで向かった。

今は自転車の二人乗りは交通違反扱いになっており、やっている人は減っているだろうが、

当時は交通違反ではなかったので、そこら中で二人乗りをしていた。

ほとんどの人が二人乗りを経験したことがあるはずだ。


ちなみにオスカードリームと聞いてわかる人は少ないだろう。

住之江競艇の迎えにあるホテル兼商業施設だ。

当時はできたばかりで、いろんな店や食べる場所があって、人気のあった場所だった。

自転車2、30分ほどで着く場所だ。



さくらは普段見せたことがないほど、はしゃいでいた。

自転車で坂道を降りる場面になれば『キャー』と何度も叫んでいた。



さくらがこんな意外な姿を見れて、私は心を踊らせていた。

一緒にいるだけで楽しかった。



私たちはオスカードリームについて、

オムライスのお店に入って、昼ごはんを食べた。

さくらがオムライスが好きなのを知っていたので、選んだ。

さくらは本当に嬉しそうだった。


さくらはここのオムライスのお店に行ってみたかったそうだ。

そのお店はポムの樹というところだ。

たまごの使用量が多く、プレーンのオムライスからグラタンのオムライスなど、

バリエーションが多い、オムライスファンなら知っているチェーン店だった。


私はチーズインチキンオムライスと、さくらはエビとほうれん草のクリームオムライスを頼んだ。

私の頼んだオムライスは、とろとろで柔らかい生地に強めのケチャップととろけたチーズの相性がいいので、

いくらでも食べれるほど美味しいオムライスだ。

ただどうしてもさくらの頼んだクリームオムライスが気になって、少しもらった。


さくら「じゅんくんって、食いしん坊なんだね。」

私「俺もオムライス好きやからな!一つの味だけじゃもったいないやん!」

さくら「じゅんくんもオムライス好きなんだね!一緒だ!」


さくらはとても嬉しそうに微笑んでくれた。

さくらが髪を左耳に書き上げて、美味しそうにオムライスを食べていた。

その姿を見て、まだ11歳なのに、大人っぽいと感じた


私たちはご飯を食べながら、今後の夏休みの予定や、毎年やっていることなど、今まで話したことのない話題で盛り上がった。



食事の後、近くの雑貨屋や服屋で楽しい時間を過ごした。

さくらはどの服を来ていても似合っていた。

ワンピースを来ているからだろうか、

それとも長髪だからだろうか、

それとも黒髪だからだろうか、

小顔で、目もそこそこ大きく、顔立ちがしっかりしてきていた。

子役モデルにいてもおかしくないと思えるぐらい、綺麗で可愛かった。


さくら「どう?この服にあう?」

私「女の子の服はわからない!似合うんじゃないか?」

さくら「もうちょっとちゃんと反応してよ!」

さくらは私の反応を見て、少し怒ったかのように目を細めた。

すごく可愛いと思った。

けどそんな恥ずかしいことを直接話せるわけではなく、

遠回しで似合ってると伝えてしまった。


自分でいうのもおかしいが、多分もう思春期に入った頃なんだと思う。


さくらとオスカードリームを楽しんだ後、海を見に行こうと誘った。

さくら「海いいね!見たい!そんな場所あったっけ?」

私「南港に海が見える場所あるよ!夏やし海みたいやん!」


住之江区には、南港という埋め立て地域がある。

そこに釣りができる海岸があり、そこからは関西空港や空気が澄んでいると明石海峡大橋も見える場所だった。

実は関西空港は設立してまだ3年、明石海峡大橋に関しては、この年に出来たばかりの観光スポットだった。

ちなみに明石海峡大橋とは、兵庫県明石市と淡路島を結ぶ大橋でできるまでに10年の歳月もかかった念願の橋だった。

この大橋のおかげで四国と関西を車でいけるという交通革命を起こした歴史的に重要な大橋である。



さくらとニケツで南港の海岸まで向かった。

自転車で行くと30分前後で着くので、そこまで遠くない場所だ。


私はどうしても聞きたいことがあった。

人の少ない開けた場所で聞きたかった。

聞いていいのかわからなかった。

もしかしたら私たちの関係性を崩すことになるんじゃないかと不安だった。





私は胸の鼓動をさくらにバレないように

平常心を保つように、抑えながら、海岸に向かった。

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