濡れた腕に込められた想い

キャンプファイヤーの炎は命を失うかのように少しずつ光落としいく…


パチッ!!


パチッ!


パチっ


パチ


ぱち



炎の最後の音は、本当に悲しい音がした。



バーベキューの片付けを行いながら、私はさくらに近づくことができなかった。

なんて声をかければ良いかわからなかった。

さくらも目を合わせてくれなかった。


気まずい…


さくらが今、どのような気持ちなのかわからない。

少女漫画のように主人公である女性の心情を

テロップのように表現してほしいっと私なりに思った。



林間学校の行事としては、まさに宴もたけなわなのだろうが、

私には一度もテンションが上がる状態ではなかった。


片付けも終わり、先生から本日最後のイベントを紹介してくれた。


先生「最後の肝試しをしまーす!」

生徒「肝試しー!こわーい!やだー!おもしれーな!」


いろんな言葉がそこら中に飛び交った。

今は学校事情を知らないからわからないが、昔はよく肝試しを一日の終わりにやることが多かった。

肝試しと言っても、先生がおばけの振りをするわけではなく、光もない暗い一本道をただ歩くだけだったが、

虫の音や風の音が雰囲気を作り、より恐さを強調させていた。


私はこの手の類に関してはビビることがなく、遊園地にあるジェットコースターなどの絶叫マシンは今でも恐くて乗れない。

昔、ディズニーシーのタワー・オブ・テラーに勇気を出して乗ろうと思ったが、長蛇の列で、乗るまでに2時間ほどかかった。

徐々に乗り物に近づくに連れて、顔色がどんどん青白くなり、胃の中のモノが全て出るんじゃないかと言わんばかりに、吐き気を模様し、

結局乗れなかったほど、絶叫マシンが大っ嫌いなんだ。



先生「肝試しは男の子と女の子の二人でいくので、今から伝えます。」

先生「じゃあ〜まずは徳晴くんと志織ちゃんです。」

ノリ「なんでこのブサ女となんだよ!」

しーちゃん「ブサ女って何よ!あんたなんか肝試しでビビってるくせに!」

ノリ「うるせいよ!ブサ女!」


ノリとしーちゃんは昔からよく言いあいをしている。

私が思うに、この二人は延々と言いあえるから、たぶん気があうんだと思う。

ちなみにしーちゃんは子供なりに身長が高く、短髪で、普段はソフトテニスをしている可憐な女性で、決してブサ女ではない。

昔から仲の良い友達なので、このことはちゃんと補足しておこう。


男の子と女の子が次々と呼ばれていく中、私の名前は最後まで言われなかった。


先生「最後は純一くんと咲良ちゃんです」


『まじか!』

私は、まさかこんな時にさくらと一緒になるとは思わなかった。

私はまださくらが嘘をついたことにショックを受けていた。

それと同時にどのように話しかければいいのか全くわからなかった。


先生「では皆さんこの懐中電灯を持って、呼ばれた順番に並んでください。」


呼ばれた順番だったから、私とさくらは最後になった。

さくらは私と目を合わせない。

もちろん私も目を合わせようとしない。

話せないという別の緊張感を持って、さくらの横に立っている。


今思えば、二人っきりになった時、こんな話さなかったことは、初めて出会った時と、しーちゃんに本当のことを言うべきかさくらが悩んでいた時の2回だけだ。

けどその時は、さくらに何かしてあげようという気持ちがあったから、今のように気まずいことは一度もなかった。

さくらも同じような感情を持っているのだろうか。


先生「最後は純一くんと咲良ちゃん、いってらっしゃーい。道に迷わないでね。」


私は懐中電灯をつけ、暗闇の道をゆっくりと進んでいった。



きりきりきりっ


きりきりきりきりっ



虫の音が森の奥から何かを呼びかのように聞こえてきた。


肝試しだから本当は恐いと思うかもしれないけど、

私は綺麗な音だと思った。



ガサっ


近くの草むらから音がした。

私は動物か何かが通ったのかなと思い、特に驚くことはなかった。


キャッ!


さくらは予想以上に驚いていた。

さくらはこういう肝試しがダメみたいだった。



さくらは私の手を握りしめた。


私は、女の子に握手はしたことあるけど、ギュっと手を握りしめられたことがない。

なぜか胸の奥がものすごく熱くなってきたのがわかる。

私はなんで緊張しているのだろうと思った。



ササ〜〜



涼しい風が森の暗い道をとおる。




キャッ!



さくらは驚いている。

相当この手の類が苦手なのだろう。

さくらは両腕を私の左腕に絡めてきた。

少し震えているのを感じた。


心臓ってこんな音がするんだっと

心臓が外に出ているわけがないのに、

私の両耳の奥から


ドックン


ドックン


と音がする。




私はこの暗い道が恐いから、心臓が驚いているではない、

私はさくらに腕を組まれていることに心臓が踊っていることに気が付いた。




私「さくら、だいじょうぶか」

やっと私はさくらに声をかけることができた。


さくら「恐いけどだいじょうぶ」


どっちなんだよとツッコミたくなったが、

さくらなりに気丈を保とうとしたのだと思う。



その時、さくらは小さい声で私に囁いた。


さくら「さっきはごめんなさい。」

とても勇気がいったのだろう。

小さい声だったが、さくらの気持ちが私の心に入り込んでくる。



私「いいよ。さくらは話したいときに話せばいいから。」

もうさくらに対して、怒りや悲しみや空しさを感じることはなかった。



スゥ〜スゥ〜




また涼しいそよ風が私たちに向かい、緩やかに向かってきた。

風の音とともに、ススリ音が聞こえていた気がする。




最後まで肝試しコースを通り過ぎた後、

さくらはしーちゃんの元に向かい、笑顔で楽しそうに会話していた。


私は自分の腕が濡れているのに、気がついた。

雨なんか降ってたっけと、ふと思ったけど、

腕の温もりを感じて、なぜ濡れているのかに気づいた。



さくらは、本当は話したかったんだと思う。

ただみんなの家族の話を聞いてしまい、

あまりにも羨ましい家族愛と自分の悲惨な現状がぶつかりあい、

夢を見てしまったんだ。

もう一つの人生、もう一人の自分、幻影がさくらの脳裏をよぎり、

あたかも自分が幸せな暮らしをしているかのような錯覚に陥ってしまったのだと私は思う。


さくらが自分の家族の話を終わったとき、

さくらはなんとも言えない視線を私に向けた。


その想いは、この濡れた腕を見て、全てを悟った気がする。


そして、もう一つの真実にも私は気づいてしまった。


私は、、、




さくらが好きなんだと、、、

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