暗天の下に写るもう一人の幻影

さくらはずっと下を向いていた。


しーちゃん「さくらちゃんどうしたの?次はさくらちゃんの番よ」


さくらは勇気を振り絞ったかのように

頭を上げて、話始めた…






さくらは

嘘をついた。


さくらは両親が離婚するまでは、両親とさくらと、そして兄の4人暮らしだった。

もちろん兄はいない。いないというのは、存在しないではなく、父親側が預かったのだ。

兄とは5歳も離れている。今頃は高校一年生ぐらいだろうか。

さくらは離婚する前の両親の話をし始めたのだ。

父親は銀行マンで皆が知っているメガバンクの係長をしていた。

母親はパートもせず主婦をしている。

兄はとても賢くてスポーツ万能。私立で有名な関西学院大学の小等部に通っていて、ヴィッセル神戸のユースに所属する秀才である。

父親は仕事に熱心であり、いつも夜遅くまで働いて、家族の為に頑張っていた。兄は学校でも表彰されるほど勉強ができる。

そんな家族の姿をみて誇らしく思えたそうだ。

母親はそんな頑張る父親や兄の為にいつもご飯に気を使いながら、兄の試合には率先して応援しに言っていた。

母親には【立派な家族がいるから、さくらもなにかやりたいことを見つけて、一生懸命頑張るんだよ】って言ってくれたことが心に残っているそうだ。


さくらはとても嬉しそうに、家族の話をしている。

まるで幸せな自分の幻影を想像しているかのように、見たことないさくらだった。


しーちゃん「さくらちゃんのお兄ちゃんすごいね!一回見てたいな!」

ノリ「さくらいいところの出やったんか?住之江なんか住んでていいんか?びっくりやわ!」


もう一度言う。

さくらは嘘をついた。

だが私は黙っていることしかできなかった。


ふとさくらと目が合った。

その目は顔の表情とは裏腹にとても泣きそうな、そして悲しい、いや冷たい、なんとも言えない目で私を見つめていた。



私はさくらの本当の秘密を伝えるには絶好のチャンスだったと思う。

けどさくらは本当のことを言えなかった。

私は手紙でなんどもチャンスを与えていた。

嘘でも偽りでもない。

手紙だからこそ書ける、さくらしか見れない手紙にちゃんとチャンスを与えた!!


だけどさくらは今きたチャンスに本当のことを話さなかった。


私はニコニコしながら嘘を話すさくらに煮え返るほどの怒りと哀しみを抱いた。

その反面、私はさくらのために何も言えなかった。

このことに、自分の非情さと空しさを感じ、自分にもムカついていた。


このとき、私は複雑な感情を持って、明るく輝く炎を見つめながら、流れていく時間を過ごしていた。

過去に戻れたらもう一度チャンスを与えてあげたい。

そう、おもったんだ。

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