炎に包まれて…

家族について話すのは、初めてだった。


私の両親は身体障害者だ。


父親は生まれた後、右手にウイルスが入り、右手が動けなくなり、成長もしなくなった。

現代医療であれば治る病気なのだが、当時はそのような治療方法もなく、右手を使えないまま左手だけで生きてきた。

私が生まれる前のことだ。

父親は特に昔の話をしたりしないが、私でもわかっていた。

まだまだ差別が横行していた時代、右手が使えないということはどれほど多くの人に冷たい目で見られていたのかと思うと、

私では生きていけないと思う。

それでも九州男児である父親は、負けてたまるかという気概で、水泳にも挑戦し、勉強に対しても、人一倍頑張って勉強して、片手一つで九州大学という国立大学入学することができた。

それでも右手が使えないということは、そう簡単に就職できるわけではない。

もちろん肉体労働ができないから、事務業しかできない。

事務業に限りがあり、何度も何度も仕事の面接にチャレンジして、やっと大阪の町工場の職場に就職できた。

当時はパソコンがほとんど使われていない時代で、手作業での事務業をしていたが、パソコンがで初めて、当時事務業の中心者であった父親は、誰より負けじと率先して、パソコンを学び、片手一つでキーボードとマウスを操り、係長まで上り詰めた努力の人だった。

大人になり、一匹オオカミである父親は、しみじみと過去の人生をふり返っていた姿に尊敬の念を持つことができた。


いっぽう、母親が生まれた時から骨盤の軟骨がない病気に掛かっていた。

こちらも現代医療で症状を緩和させる治療法があるが、当時はなかった。

唯一できることは、骨盤に鉄を入れて、軟骨の代わりの装着することだった。

まだシリコンなどが存在しない時代である。

しかし、持って生まれた天真爛漫の性格のおかげで、いろんな人に恵まれていた。

そんな母親も九州大学に入学し、父親と出会った。

母親と違い、父親は一匹オオカミの孤高な性格で、性格が真逆ではあったが、

同じ障害者同士で通づる部分があったのだろうか。

母親が父親を心配して、5年にも及ぶ文通と手紙のやりとりで、父親を支えていた。

そんな一途で、まっすぐな母親が気丈で強い女性であると私は思う。


さくらとの手紙のやりとりを続けていられるのは、この母親の血が混ざっているからかもしれない。


もちろんこの話は大人になってから知ることの多い話である。


暗闇の中で煌々と光るキャンプファイヤーの中、

私は先に家族の話をした。

前述の通り、両親が障害者であること、障害者でありながら、健常者と同じように順風満帆に生きていることを話した。

特に父親の黙々と夜中まで働いて、遊びもせず、夜23時に帰ってくる姿は男そのものだとみんなに話した。


ノリ「お前の家族すごいな!あのお母ちゃんからそんな風に見えないくらい元気やもんな」

しーちゃん「私もそんな風に見えなかった!私もじゅんちゃんの家族尊敬するかも」


ノリとしーちゃんも私の話に感動していたようだ。


さくら「じゅんくんのお母さんってすごいね!うらやましいね!」


グサッ!


さくらの家庭の秘密を知っている私からしたら、その【うらやましい】が心を突き刺してくるほどつらい言葉だった……


次はノリが話した。

ノリの家族は両親と姉ちゃんと、もちろん犬のハッピーの4人と1匹の家族だ。

父親は自営業で車の修理工場を営んでいる。つまり自営業の子供だった。

母親は主婦だったので特に仕事はしていない。

この両親がやんちゃな性格で、地元の住之江区にずっと住んでいる。つまり同級生婚ってやつだ。

私も父親にあったことがあるが、少し金が入った茶髪のパーマの掛かった髪型でいかにもヤンキーだったことが想像できる。

父親が自営業しているからだろうか、一人で仕事をしていることに尊敬しているそうだ。

両親がともに間違ったことや、人を虐めることは絶対ダメだと言う正義感溢れる方々だった。


俺が幼稚園のころ、ノリによくいじめられていた。

そのことをノリの両親が知ったのだろう。

わざわざ謝罪しに私の家に来たのだ。その時は高級なマスクメロンを持ってきたことを覚えている。

ノリは俺に対して、『ごめん!』と頭を下げていたのを覚えている。

この時からか、ノリは私がいじめられているところを見るたびに助けに来てくれた。


私「ノリの両親は、見た目通りイカツイなぁ!」

しーちゃん「ノリのご両親にも会ってみたいね!じゅんちゃんとノリが仲がいいのがよくわかったわ!」

ノリ「恥ずかしいからあまり話すなよ!」


ノリは珍しく恥ずかしそうに顔を真っ赤にしていた。

滅多に見れない姿に私はすごく新鮮さを感じた。


さくら「ノリくんの家もご両親が仲よさそうだね!」


グサッ


後ろから包丁で刺されたような感覚を味わった。

さくらの言葉に寂しさを感じた。


次はしーちゃんの番だ。


しーちゃんとは幼稚園の頃から家族ぐるみで仲が良かった。

今でもたまにお互いの家でご飯を食べたり、遊びに行くことがある。

しーちゃんの家族は、ご両親と妹と弟の5人家族だ。

やはり姉御気質なのか、クラスのまとめ役になるのも納得がいく。

父親は普通のサラリーマンで、電機メーカーの卸業者で働いていて、母親は今も私の母親と一緒のパート先で働いている。

妹は小学三年生で、弟は小学一年生と同じ小学校に通っている。

幼稚園の頃から一緒に遊ぶことがあったから、今まで感じなかったけど、5年生になり、妹と弟の手を握りながら、【母親の弁当を残したらダメよ】とか【忘れ物はないか?】とか姉弟で話している姿を見ると、本当にお姉ちゃんなんだなと思う。

しーちゃんは母親のことを尊敬していた。

父親は亭主関白で、父親の話すことが絶対なんだけど、母親が父親に対していつも敬語で話して、父親をいつも尊敬していた。

母親としても、朝早く起きて、家族全員分のご飯を作って、パートに行き、家に帰れば、夜ご飯の準備や掃除・洗濯をしている姿をみて、【私も母親のように強くて、人を尊敬できる人になりたい】と思っているようだ。


ノリ「しーちゃんの母ちゃんもすげぇな!俺の母ちゃん仕事してないから全く分かんねぇや!」

私「しーちゃんのお母さんの料理は本当にうまいからな!僕のおかんにも教えてあげてほしい!」

しーちゃん「私もお母さんみたいにしっかり者になりたいのよ」

私「十分しっかり者だよ」


しーちゃんは顔を真っ赤にして、下を向いていた。

珍しく照れているな。照れるようなこと言ったかな?

この時のしーちゃんの気持ちを私は知らない。


さくら「お母さんを尊敬できるってすごいね」


ドッカンッ!


暗い空の向こうからミサイルが突き刺さり、心臓を爆発させたような衝撃だった。

さくらの言葉から、悲しみとともに妬みや嫉妬のようなものを感じた



そしてさくらの出番が来てしまった……

私はどうしたらいいのか。助けてあげたらいいのかな。

さくらがどうしたいのか。

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