お見舞い

さくらと手紙を初めて早2年が経とうとしていた。

手紙といっても毎日しているわけではない。

私から手紙を書くわけではない。

さくらから直接話すことができないことや思ったことを手紙にしたためる。


私とさくらは学校ではほとんど話すことがない。

クラスが違うというのもあるが、私は基本、女の子と遊ばない。

やっぱり男の子だし、女の子と趣味が根本的に違う。

学年が上がっていっても、相変わらずノリも含めて、友達とよく遊んでいた。


友達も含めて、ゲーム好きが多い。

世代なのだろう。

この時代は任天堂からポケットモンスター赤・青が大ブレークした時代であり、

ポケモンのアニメも始まり、ポケモンの名前を使ったエンディングソングが流行り、

みんなで一生懸命覚えたのを覚えている。

肝心のゲームはセンスがなかったのか、幻のポケモン・ミュウを手に入れることができなかった。

ちなみにポケモンをプレイするには、ゲームボーイが必要だった。

これがやっかい!

単三電池が4本も必要だし、消費が激しい。

昔の単三電池が今のダイソーのような100円ショップで安く買えるわけではなく、

電池の消費の激しいゲームボーイで、安くない単三電池を何本も使えるわけがない。

なので、やり込むたくても、そういったお金の事情で、ミュウをゲットするまでやり込めなかった。


ポケモンだけでなく、ニンテンドー64が発売し、アニメでも人気があったデジモンもすごく人気があった。

まさにゲーム全盛期の時代に私は生きてきた。


ゲームの話ばかりしているが、スポーツもしていた。

当時、友達のノリがソフトボールをしていたこともあり、小学3年生の頃から私もやることにした。

もともと運動神経がよくなかったのか、全然うまくならなかった。

試合ではベンチ入りでベンチを温める役だ!

試合にも出たかったから、練習は真面目に参加していた。


ある日、一生懸命練習していたおかげで、功を奏したのか、試合に出ることができた。

ポジションはセンターで、8番バッターだったのを覚えている。

小学生レベルだと、センターまでボールが飛んでくることはあまりない。

花形はショートで、内野手の選手の方がうまい人が多く、人気が高い。


私はみんなの前に立ったり、人の中心に立って、話すのが得意な人ではなかったから、

センターのような静かな場所で守備するのは、心地よかった。


試合も終盤戦、一点差で負けている時だった。

滅多に届かないセンターの頭を超えるヒットを相手側のバッターが打ってきたのだ。

私も驚いて、『まじか!』と心の中で思いながら、懸命に走り、頭の上のボールを取りに行った。

あともう少しで、グローブにボールが収まると思い、私は思いきって飛びかかった!


『よっしゃ!ボールが収まった!』と思った瞬間、

私は受け身などしたことがなかった。

無意識に右足の踵から直立するような形で、地面に叩き落ちた。

ビギッっと鈍い音がした。音がした瞬間、今まで感じたことがない痛みが右足の指の先から腰あたりまで激痛が走った。

ピカチュウの100万ボルトはこんな痛みなのかなっと一瞬思ったが、それより痛すぎて、号泣してしまった。


私「いたいよー!いだいよー!!」

監督「いたいか!いたいか!今から救急車呼ぶからな!」

監督、、、いたいに決まってる。



試合はもちろん中断、監督と友達たちが私の所に駆け寄り、冷たい氷の入った袋を直接お相撲さんのように真っ赤に腫れ上がった足の踵に当て、救急車がくるのも待っていた。


私は天然である。

予期せぬことが起きるのが私だ。


今思えば情けない話だが、初めての試合で、まさか複雑骨折をするとは思わなかった。

私はこのまま2週間ほど入院することになった。


入院した翌日の3時のおやつの時間帯だったと思う。

それまでは午前中に叔母が見舞いに来て、リンゴを向いたりして、看病してくれた。

午後になって、叔母がご飯の買い出しに行くみたいで、【看護師の言うこと聞くように】と言って、部屋から出て行った。

そこからは今まで学校があって、夏休みなどの長期間の休みしか見れなかったタモリの出ている番組やライオンマークのサイコロを回す番組と

見たかった番組が見れた。

徹子の部屋は、知らない俳優が出てて、面白くなかったのを覚えている。

2時すぎぐらいになると、みのもんたの情報番組を見ていて、皇太子の奥さんである雅子様の近況報告みたいなのを流していたが、ほとんど流し見していて、頭に入らなかった。

退窟していたんだ。

母親は仕事の関係で、6時以降じゃないと来ないし、暇していた。


3時のおやつを看護師からもらい食べていると、

「じゅんくん」と声がした。


さくらが見舞いにきてくれたんだ。

さくらは泣きそうな顔で私のところに寄り添ってきた。

なんで泣きそうな顔しているのだろうと思った。

だって死んだ訳じゃないし、泣くことないだろうと単純に思った。

このころの私が女性心が全くわからなかった。今もそうかもしれないが、、、鈍いのだ。


さくら「朝いつもの待ち合わせ場所に来なかったから心配したよ」

私「ごめん!連絡しようがなかったから・・・」

さくら「心配したからじゅんくんの家まで行ったよ!」

私「まじか!ごめんごめん。」

右手を頭の裏に置き、少し半笑いの状態で返事をした。


さくらが初めて私の家まで来たことに内心驚いた。

さくらは最初泣きそうな顔していたけど、だんだん怒ったような表情に変わってきた。


さくら「なに笑ってるのよ!心配したんだから!」

私「ごめん!そんなつもりじゃなかったけど、ちょっと驚いてさぁ!そんなに怒らんといて!きてくれてありがとなぁ!」


さくらは、怒った表情を少し緩めた。私はほっとした。

正直見舞いにきてくれて嬉しいと思った。

登下校を毎日している友達だし、私しか知らないさくらの家庭の秘密を知っていることもあるから当然見舞いにくるのは想定しているだろうけど、

私は鈍感なので、そのようなことを微塵も思っていなかった。


さくら「元気そうで良かったわ!足の痛みは大丈夫?」

私「大丈夫と言いたいけど、ちょっとでも動かすと痛い。」

足は天井の金具に紐を引っ掛け、踵から足を垂らしている状態だ。骨を正常に再生させるためにこの体制を維持し続けなければならない。

正直しんどい。


さくら「そうなんだ・・・これ買ってきてあげたよ!」

さくらは、私の好きなローソンのからあげクンとリプトンのレモンティーを買ってきてくれて、渡しながら近くの椅子に座った。

私は自分の好物をさくらに教えたことがなかった。


私「ぼくの好きなものやん!なんで知ってるの?」

私はまた驚いた。どこでそのことを知ったのか全くわからなかったからだ。


さくら「それくらい知ってるよ!だって学校帰りにその二つを持って歩いているとこをよく見かけていたから、たぶん好きなのかなと思って」

さくらは普段、お互いに学校の話や出来事しか話さなかったし、手紙ではナイーブな家庭の話や悩みを答えていたから、お互いの趣味趣向について話したことがほとんどなかった。


私「よく見てるね!驚いたぁ!ありがとな、さくら」

さくらは、顔を下に向けた。表情をベッドの位置と椅子の位置によってわからなかったが、口角が少し上がったような気がした。


この日から2週間、さくらは平日の3時から30分ほどいつも見舞いに来てくれた。

奇しくもノリや他の友達とダブることはなかった。ほとんどの友達は一度は見舞いに来てくれたけど、この時間はかぶることが一度もなかった。

入院して1週間がたったころ、いつもくるさくらに質問してみた。


私「毎日来なくていいよ。家も大変やろ?」

さくら「そんなことないよ。好きで見舞いに来ているから。」


ふと私はドキッとした。今話した好きはどういう意味の好きなのかと・・・

さくらも不意に言ってしまったのか、下を向いてしまった。

相変わらずベットの位置と椅子の位置が悪くて顔の表情がわからない。


私もこのころは11歳の年になる子供になってきた。

男の子は一般的に遅いと言われている思春期という時期になりかかってきた。

だから恋愛や恋というものを少なからず友達どうしてそのような話になってくるころだった。


もちろん思春期が早いのは女の子だ。

私以上にさくらの方が恥ずかしかったのかもしれない。


数秒ほどだんまりしてしまった。

さくらは、ちょっと早口になってしまったのか

さくら「友達の遊ぶ前とか、スーパーに買い物行ったりとか、ついでに見舞いにきてるだけよ!」

と噛みそうなほど早い口調で話し始めた。


私「そうか。そういえば手紙書いて来ないね!気を使わなくて書いてくれていいよ!」

話をすり替えた。私なりに緊張したので、あまり踏み込まないようにしようと思った。

さくら「手紙いいの?いいなら書いてきていい?」

私「いいよ!ぼくよりさくらの方が大変なんやから、手紙ちょうだい!」

さくら「わかった!そう言ってくれると思って、もう書いてるの?」

私「書いてきとんかい!入院してるぼくでも答えれる内容よね?」

さくら「わからない。読んでみたらわかるかも!」

私「まじかよ!今身動き取れないからわからないこと調べれないやん!」

さくら「だいじょうぶ!じゅんくんなりに答えてくれたらいいよ!」

私「わかった!また読むから明日ここまで取りに来てな!」

さくら「わかった!じゃあ買い物あるから行くね!じゅんくん、バイバイ!」


さくらはまた人に言えないようなつらい内容が書かれていた。

もうかれこれ2年以上、もう少しで3年になる。

手紙の枚数は、200通近くになってきた。

さくらの次にさくらの母親のことを理解しているかもしれない。

正直さらにひどくなってきている気がする。

さくらを道具のようにさくらの母親に私は怒りを覚え始めていた。

子供はつらいことや悲しいことについて、素直に心に響いてくるけど、

怒りは自分のわがまま、自己中な感情から引き起こされることが多い、

なのに、私はさくらの母親が、さくらにする行為に対して、怒りを覚えている。

他人のために怒るということを時間とともに積み重なって、私の心臓に響いてきている。

ただこれはさくらを虐める母親への怒りなのか、さくらのことを独り占めしたい嫉妬だったのか。

子供の私には理解するまでにはまだまだ先のことである。

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