公園での失態

キーンコーンカーンコーン


やっと1日の授業が終わった。

このころはまだ小学生だったから真面目に授業を聞いていた気がする。


私の得意分野は算数だった。

幼稚園の頃、朝から算数の勉強をする時間があって、ひたすら算数を解いていた記憶がある。

幼稚園で、すでに二桁の足し算と引き算、あとは九九ができていた。

話題になることはないが、後々の人生で算数が役立つことが多いことに気づき、幼稚園の段階で、算数ができていて本当によかったと思う。

数学は全くできなかったが、、、


下校はいつもノリと帰っていた。


この時はノリの他にも何人かと一緒に遊んでいたが、登場人物が多いと、物語に支障をきたすため、省略する。


私の家は学校から一番離れた市営住宅で、ノリの家の方が近い。

この日は、母親とお買い物をする約束があったから、友達と遊ぶ約束をせずにそのまま帰るはずだった。


いつもノリと帰り道にある駄菓子屋に寄って、新しいお菓子が増えたか確認してから帰るのが日課だ。


ノリ「おばちゃーん!新しいお菓子入ったぁ?」

おばちゃん「新しいお菓子入ってるよ」

ノリ「まじで!どれどれ!?」


おばちゃんは、店の手前にあるカメレオンというお菓子を見せてくれた。

カメレオンとは黒っぽい飴玉が複数入ったお菓子で、舌の上で転がすと、溶けて色が変わるという遊び心のある飴のお菓子だ。

どうやらカメレオンの新作が入ったらしい。


ノリ「カメレオンかよー!飴の色変わるだけやん!」

子供ながら冷めた態度を取る。

その通りなんだが、、、


おばちゃん「いつも同じ色ばかりやったらおもしろくないやろ!たまに違う色で楽しんだらいいやん!」


ノリ「味が変わったわけちゃうやん!もっとおもろいの入ったら教えてやぁ!」


おばちゃん「わかったわかった!おもろいの出た時だけ教えるわ!てかちゃんと、勉強してきたんかい?」


ノリ「勉強してきたよ!タガメについて勉強したわ!」


おばちゃん「ほんまかいなぁ!じゃあ、教えてみぃ!」


ノリ「えーで!おばちゃんみたいにカマキリみたいな手の形した気持ち悪い生き物やったわ!」


おばちゃん「あんたええかげんにせいよ!年寄りバカにしたらバチ当たるで!新作入っても、おしえんからなぁ!」


ノリ「おばちゃんこわいてぇ!そんなこといわんといてぇなぁ!」


これが日常である。


ノリはおばちゃんをいじるのが好きで、駄菓子屋にいつも寄っているだけ、帰り道にお菓子を買っているところを見たことがない。

今思えば、やっかいな子供だと思う。

おばちゃんも毎回対応するから、おばちゃんなりに楽しんでいるのだと思う。

昔はこんなことが多くて楽しかったなぁ。


駄菓子屋劇場も終わり、お好み焼屋さんを通り越したところに、十字路がある。

左に曲がると駅があり、そこにはりくろーおじさんがある。

りくろーおじさんを知らない人もいるかもしれないが、今じゃ大阪名物のチーズケーキだ。

今は結構値段が上がったが、昔は500円のワンコインで買えた有名スイーツだ。

ふわふわの生地の中にレーズンが入っていて、口の中に入れるとシュワって音がなり、舌の上で溶けていく。

本格的なチーズケーキでなく、ほんのりと少しチーズの風味とパン生地の風味がミックスして、いくらでも食べられる格安の贅沢品だ。


話を戻すが、十字路の右に曲がるとノリの家があり、真っ直ぐいくと俺の家に向かう。


十字路でノリと別れた。

ノリ「ほなまたあした!バイバイ!」

私「またあしたなぁ!バイバイ!」


真っ直ぐいくと、左側にパチンコ屋があり、もう少しいくと、右側に2階建ての中華屋がある。


ここの中華屋はこのあたりで唯一の出前ができる店で、周りの友達は1度は頼んだことがある。

ただここのラーメンが屋台と同じぐらいの味なので、まずくないけど、、、ぐらいのレベルだ。

ラーメンよりも、もも饅頭がおいしかったのを覚えている。


中華屋を越えると信号があり、渡れば大きめの公園と神社がある。

私の家までもうすぐというとき、公園の方に目をやるとさくらがいた。


さくらはブランコに乗って、一人でゆらゆら揺れている。

顔は下を向いていて、黄色い帽子を被っているので、顔の表情は見えない。


母親でも待っているのかと思ったけど、さくらは学校の初日で、ノリとしーちゃんばかり話していて、私はほとんど話していなかったから、さくらは今何しているのか気になって声をかけることにした。


私「さくら、なにしてるの?」

さくら「………」

私「おかあさん待ってるの?」

さくら「………」


さくらは無言のままだった。

帽子をかぶっていて、顔が見えなかったけど、すごく悲しそうな顔で下を向いていた。泣きそうな顔ではなく、なにかを我慢しているような顔だった。


私「ブランコやろう!ブランコ得意?」

ブランコで揺れながら、さくらに話した。

さくら「………」

さくらは無言ではあったが、こちらを見てくれた。


私「おれブランコできるで!」

私は調子にのって、おもいっきり揺らした。

実をいうと、どんくさくて、なにかやらかしてしまう人種が私である。

いわゆる天然と呼ばれる人種だ。

天然とは、自分が意図しないことを自然としてしまう人種のことだ。

もちろんさくらの目の前でやらかしてしまう。


揺らしすぎて、高さが45°に近づく頃に、足が震えてきた。

高すぎてビビり始めたのだ。

どうしようと思い始めた頃に、足が滑り、地面にお尻から落ちてしまった。


さくらはそれを見て【あっ!!!】っと言いそうな驚きの表情を見せて、私のところに駆け寄ってきた。


もちろん私は痛かったので、その場で号泣してしまった。


私「えぇーーん!いだいよぉー!!」

あまりの痛さにうずくまり、涙が止まらなかった。


そのとき、さくらはぼくのお尻をなでなでしてくれた。

さくら「だいじょうぶ?だいじょうぶ?」

すごく心配そうに私に優しく話しかけてきた。

さくら「いたいのいたいのとんでけー!いたいのいたいのとんでけー!」

何回も何回も言ってくれた。


数分後、痛みが少しずつ治まってきて、涙も止まってきた。


私「ありがとう。ごめんさない。」

さくら「いたいのとれた?もうだいじょうぶ?」

さくらはとても優しく、私に話しかけてくる。


私「まだいたいけどだいじょうぶ。さくらが元気なさそうだったから、元気出してもらうために調子に乗っちゃった。」

まだいたかったけど、さくらの優しさに心が和んできて、痛みを押さえながら、少し笑顔で話した。

さくら「ありがとう。」

さくらも笑顔で話してくれた。

さくらの中で、辛いことを忘れさせることができたのかもしれない。

そんな笑顔ができるんだと、その笑顔を見て、かわいく見えたのを覚えている。


痛みも引いてきたころ、さくらがなんで悲しそうな顔をしていたのか聞いてみた。


私「なんで悲しそうな顔してたの?」

さくら「家に帰りたくないの。」


さくらは静かに語りはじめた。

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