昼休み

『咲と良でさくらっていうんやぁ』

心のなかでそう思った。


私はまだ小学2年生の時だ。

かわいいとか、きれいとか、そういった感情が全くない時で、同世代の女の子に恋なんて言葉が1度も出てこなかった時だ。

先生も女性だったが、正直40代近くの母親世代だったので、恋なんて感情は全くなかった。


咲良の第一印象は、おっとりしてて、物静かそうな女の子だった。


先生「これから喜多村咲良ちゃんと仲良くしていってね」

先生「じゃあ~席はあそこの神山純一くんの横ね」


今更ながら、私のことだ。

ちなみにこのころは友達からはじゅんと呼ばれている。

じゅんと呼ばれるようになったのは、幼稚園の頃だが、この呼び名が最初は嫌だった。

なぜか犬の名前を呼ぶ感じに思えて、『おれは動物か』と思っていた。

この呼び名がいいなと感じれるようになったのは、ジャニーズJrの嵐・松本潤が出てきてからで、のちに中学以降、新しくできた友達からはカミジュンと呼ばれるようになった。

嵐の松本潤と同じ呼び方だったから、おれも内心喜んだ。


『咲良って子は、おれの横に座るのか。』

私「はじめまして、よろしく。」

咲良「喜多村咲良です。よろしく。」


挨拶は大事だと両親から教わっていた。

両親はいつも【挨拶は人と人をつなぐ魔法の言葉だ】って言って、友達を作るなら挨拶からって教わっていた。

だから咲良と初めて会ったときにあいさつした。

あいさつしたとき、咲良は笑っていなかった。

口元を少しだけ上がった気がしたが、無表情に近い顔であいさつしてきた。


正直、このときはなんにも思わなかった。


昼休みに入り、みんなで机をくっつけて、昼ご飯を一緒に食べた。

初めて出会った日だったからか、転校生が来るという一大イベントだったからなのか、それと私の大嫌いな献立だったのか、この日のメニューがパイナップル入りの酢豚だったのは、今でも覚えている。


横にさくらがいて、私の後ろにノリ、そして咲良の後ろに、クラスのまとめ役みたいな女の子、しーちゃんがいた。

これからはこの3人と一緒に昼ご飯を食べることになった。

ちなみに咲良のことを【さくら】と伝えることにする。


そうそう、伝えるのを忘れていたが、私の友達のフルネームも教えておかないと。

前述でも話したノリこと、名前は名倉徳晴、そしてしーちゃんこと、名前は吉永志織だ。


しーちゃん「さくらちゃんはどこからきたの」

さくら「兵庫県須磨区ってところ」

ノリ「すまくってどんなとこ」

さくら「近くに海があって、ビーチも近くにあるよ」

しーちゃん「海が近くってうらやましい!」


兵庫県の須磨区には、関西方面では有名なビーチの1つだ。

夏は若者が大勢遊びに行き、家族連れも多い関西の人なら一度は行ったことのあるレジャースポットだ。

海での事故防止のため、ライフセーバーも多い。


ノリとしーちゃんが積極的に質問していった。

友達にはどんなあだ名で呼ばれてたのかとか、好きな食べ物とか、趣味とか誕生日とかいろいろ聞いていた。


さくらは、不思議な子だった。

質問にはすべて答えていた。

好きな食べ物はオムライス。

趣味は漫画。

あだ名は、名前のままでさくら。

誕生日は、8月18日。



だが、質問には答えるばかり。

シンプルな返答ばかりで、さくらからの質問はなかった。

ノリ「さくらからは質問ねーのかよ」

さくら「………」


さくらは答えなかった。

ノリもムカついたのか、むすっとして目も合わさなくなってきた。

しーちゃんはそんなノリの態度を見て、

しーちゃん「ノリ、そんな顔しないの!さくらちゃんは今日から初めての学校なんだから緊張してるのよ」


しーちゃんがさくらのフォローをしている。


私はしーちゃんとも幼稚園からの友達だった。

私の母親と、しーちゃんの母親が仲良く、いわゆるママ友だった。

働き先が一緒で、子供の幼稚園も学年も一緒だったため、仲良くなったらしい。

だからしーちゃんとは、母親同士が遊んでいるときに、一緒に遊んだ仲だ。


西暦も変わらない1990年代の時代にもかかわらず、女の子なのに、しーちゃんはゲーム好きだった。

私の家にはまだなかったスーパーファミコンを持っていて、一緒にミッキーのマジカルアドベンチャーをして遊んでいた。

私よりゲームがうまくて、私がラストまで行けずに負けてしまい、いつも通り泣いてしまうのだが、


しーちゃん「泣かないで、一緒にクリアしよ」


と言ってくれる優しくて、たくましい女の子だ。


しーちゃん「さくらちゃんも慣れてきたらいろいろ教えてね」

しーちゃんは優しく寄り添っている。

その時のさくらの目は、少し柔らかな目線に変わって、安心したような感じがしたのを、今でも覚えている。


ノリ「ジュンもなにかないのかよ」


私はこの3人のやりとりを見ていたので、今なにかを質問するのはやめていた方がいいと思い、


私「さくらは今は緊張してると思うから、僕たちのことを教えてあげようや」


とノリとしーちゃんに提案した。


さくらは安心したかのように、少し笑みを浮かべた。

心のなかで、少しかわいいと思った。

しーちゃんはものすごい笑顔で、


しーちゃん「そうしよ。私のことをもっと知ってもらいたいし」


一方、ノリは少し不機嫌さを残しながら渋々


ノリ「わかったよ。おれはノリ、名倉徳晴っていうねん。ノリでええよ。スポーツは野球が好きなんや……」


さくらは黙々と話を聞いていた。

本当に物静かな子だと思った。


こうして昼休みが終わり、3人との初めての出逢いは終わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る