第一章 出逢い

転校生

咲良………


思いもよらない人からの手紙に驚きを隠せなかった。


ふと我に帰り、すぐにでも手紙を開けたかったが、じっくり読みたいから、マンションの玄関ではなく、自分の部屋まで帰ってから読むことにした。


私は8階に住んでいる。

エレベーターのボタンを押して、エレベーターが来るまで昔のことを思い出していた。


私が小学校2年生のころだった。


当時はジャニーズJrのKinKi Kidsがファーストシングルを発売したころ、友達のノリとよくKinKi Kidsの躍りをみんなで披露したのを覚えている。


ノリと幼稚園の頃から一緒だったけど、小学校に入ってからノリの家によく遊びに行った。

ノリの家には、飼い犬がいて、名前はハッピー。

ハッピーは私が玄関の扉を開ける前から【ワンワン】と吠えてくる。


私は幼稚園の頃、市営住宅に住んでいた。

隣の家で、犬と猫を飼っていて、よく家の扉が少し空いていることが多かった。

隣の家の前を通らないとエレベーターには乗れないマンションの構造になっていた。

私は外に出掛けようと、家からでると、まず隣の家の扉の黒い隙間から黄色く光る2つの点が見えた。


猫だ。


子供の私でもわかった。

猫が私を見張っているのを。

そして、私が少しでもエレベーターに乗るため、移動しようとすると、猫が部屋に入り、奥から『ワンワン』と吠える音がしてくる。


犬だ。


犬が扉の黒い隙間から吠えてくる。

猫と犬は連携するのか。

このことがきっかけで、吠える犬が恐い。

今でも吠える犬を見るとビックリする。


ある日、同じように扉の隙間から吠える音がした。

いつもは吠えるだけで、ビビりながらもなんとかエレベーターに向かって、走っていけた。

しかし、この日は違っていた。

なんと犬が俺を追いかけまわしてきた。


『やめてくれー!』

心のなかで叫びながら逃げた。

このときから完全に犬恐怖症になっていた。


ノリの家の前にいくといつもビビってしまう。

しかし、ハッピーは最初吠えるだけであとは優しく私に寄り添ってくれた。

吠える犬がいれば、優しい犬もいることを知り、犬の抵抗が少しだけ減ったのを覚えている。


ノリの家には刀があった。

本物の刀だと思ったが偽物で、よく真剣白羽取りをやったのを覚えている。

これがなかなか難しい。

ノリはふざけて、私に真剣白羽取りをするように要求してくる。

幼稚園の頃に比べて、友達の前だとわりと積極的にチャレンジできるようになったが、偽物とはいえ、完全なる鉄の刀もどき。

しかもまだ運動神経のままならない子供がするからには、もちろんできるわけがない。


ノリの挑戦に乗り、真剣白羽取りをやってみたものの、失敗。

当たった瞬間、じわじわと頭のおでこに痛みが滲み出てきて、我慢できず泣き叫ぶ。

ノリは爆笑してたが、ノリの母親が現れ、こっぴどくノリが怒られていたのを覚えている。


生まれて初めてタンコブと呼ばれる腫れ物ができたときだった。


この時は、学校生活が楽しかった。


そんな楽しい小学校2年生の秋の終わりごろ、朝の朝礼の時に、学校の先生から【転校生が来ました】と報告があった。


転校生って初めて経験することで、聞いた瞬間、どんな子が来るのだろうと、ドキドキした。


先生「今日から新しい友達が増えます。」

先生「挨拶してね。」


「はじめまして、喜多村咲良です。」


私と咲良が出逢ったはじめての瞬間だった。

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