一話 第二章 ⑴

 僕は置時計に設定してあるアラームより先に起こされてしまった。


「今何時だと思っているの!

 私が起きてから三回も起こしに来たのに、部屋に入らないと起きてくれないなんておかしいよ」


 意識が朦朧としているが、星が怒っているのは伝わってくる。時間を見てみると早く起きたとしても、一時間早い時間に起こされていた。この時間に起きたのは、親が生きていたころだっただろうか。お父さんが良く起こしに来てくれていたのを少し思い出す。

 そういえば、昨日から二人暮らしになったのだな。女子と二人暮らしはやっていけるのだろうか。友だちには知られてはいけないような気がする。絶対ややこしいことになるよな。何故か昨日決めたことに違和感を感じた。星が朝ご飯を作るということは、朝ご飯を食べるために早く起きなくてはいけないことになるような気がしないか?やってしまった。これから、寝ることは出来なさそうだな。少しは寝ることに関して改めてみるのもありなのかもしれないな。


「おはよう。もしかして、すでに朝ご飯作り終わっているとか言わないでよね」

「作り終わっているわよ。お昼用のお弁当も作り終わるまでは起きてくるとは思ったけど寝すぎじゃない?

 昨日、私より先に寝ていたよね」

「成長期なんだよ」

「意味が分からない。ご飯冷めてしまうから早く起きてきてよね」


 星が僕の部屋から出て行った。寝すぎでここまで言い争いになるなんて、先が思いやられるな。いや、僕が悪いのか……。

 僕は、制服に着替えてリビングに行った。そこには、豪華な食卓が並んでいた。僕にとっては豪華であった。毎日食パン一つと牛乳で終わらせていた朝ご飯だったので、白飯と味噌汁があるだけで驚きというものだ。それに、鮭のホイル焼きってまた手間がかかるものが用意されていた。


「朝ご飯だけに豪華過ぎないか?」

「普通だと思うけど、もしかして作り過ぎてしまったかな」

「そんなことないよ。有難くいただきます」

「今日は学校で転入手続きがあるから先にご飯食べてしまってごめん。でも、広くんが早く起きてくれないから先に食べたんだからね」

「申し訳ない。もう行くの?」

「そうだね」

「いってらっしゃい」

「――行ってきます」


 どちらも、親を亡くしているのでこのやり取りにはやや抵抗があったと思う。でも、僕が先にいってらっしゃいを言うとは思わなかった。

 愛を送り出した数分後、いつも通りの時間に電話がかかってきた。僕には大久 友樹(おおく ともき)という親友がいる。こっちに来て慣れない生活を送っていた時に、不登校になりかけた時があった。毎日、家に押しかけては学校まで連行するので迷惑だったのだが、あれがなければここまで立ち直れてはいなかったと思う。


「おはよう」

『電話に出るのが早くないか?!』

「既に玄関にいるからな」


 僕が起きるのが遅いので毎日丁寧に電話を掛けてくれているのだ。いつもなら、今から起きて三十分は支度をするので迷惑なものである。


「もう、学校に行こうと思っているのだけどまだ来れていないよな」

『そんなわけないだろ』


 外に出ると、大家さんの玄関横に置かれてあるベンチに座っていた。僕が毎日待たせていたので、大家さんが友樹のために置いたらしい。この時間に家を出たことがないので友樹が待っているとは知らなかった。


「毎日三十分ぐらいは支度しているから三十分後についていると思っていたよ」

「そんなことするわけがないだろ。この日のためだよ」


 友樹の家はここから五分も掛からないところにあるので、僕が遅かろうが早かろうが『もうすぐ出れるよ』という連絡で友樹も家を出ていると思っていた。毎日申し訳ないことをしていたのだな。


「明日からは、この時間に出ると思うからよろしくな」

「何か変なものでも食べたのか?」

「そうかもしれないな」

「絶対嘘に決まってる」


 信じてくれないよな。一年間友樹と一緒に登校しているが、この時間に出てきたの初めてだものな。信じるほうが難しいというものだ。

 この時間に登校したことがないので出会わない人に出会った。


「何故この時間に登校しているんですか?」

「俺もびっくりしているんだよ。いつものように電話に掛けたら起きていて更には準備までできている怖ささ」

「僕が早起きしたらそんなにおかしいのかよ」

「「はい、うん」」


 僕の早起きに驚いている彼女は、早田 まゆみ(はやだ まゆみ)という銀髪ショートで背が高いのが特徴のあるスポーツ万能少女である。僕と伸長が同じということが未だに信じることができない。でも、僕の身長が低いということが問題なので成長期の今身長が伸びることを祈っている。友樹と早田は幼馴染という仲のいい二人なのでいつ付き合うのだろうと心待ちにしているのだが、付き合う気配がないので二人とも幼馴染のままでいたいのだろうか。僕には理解ができないことである。


「早田はいつもこの時間に学校に行っていたの?」

「部活があるから朝練しないとね」


 早田は陸上部に入っている。あまり陸上のことは早田からは聞かないのだが、五十メートル走は県一、二を争うほど速いらしい。体育が女子と男子で別れて行われているので走っているところを余り見たことがない。


「そうそう、俺が掴んだ情報では今日が転校生が来るっていう話らしいよ」

「そうなんですね!女子だといいな。かわいい子だったら仲良くなりたいです!」

「転校生が来るって言っていたな。どこでそんな情報掴んで来るのか知りたいよ」

「それは、秘密。俺よりも学校情報に詳しい奴がいるっていうのは教えているよな。その人から得た情報だから確かな情報だと思うよ」


 どうしてだろう。少し嫌な予感がするのは僕の気のせいだろうか。まさか同じ学校ってことはないよな。

 そんなこんなで学校に到着した。魔史高等学校(まし)というのが僕の通っている高校である。僕は昔は頭が良かったのだが、親が亡くなって自暴自棄になってしまった時期の勉強が追い付かないまま高校を受験してしまったため偏差値が平均より下の高校を受けることしかできなかった。大家さんが次の年に受ければいいと言ってくれたのだが、それだと大家さんに一年多くお世話にならなくてはいけないと思いこの高校でも高卒で就職しようと考えている。


「朝練に向かうわ。また教室でね」

「広よ。これだけ早く来たのはいいんだけど、俺たち教室でなにして暇をつぶしたらいいと思う」

「いつもの時間に出るってことにしない?」

「明日起きているか心配だからしない」

「ですよね」


 HR(ホームルーム)始まる十分前に到着していた二人だったので早くに教室に入ってなにをしていいのかわからなくなってしまう二人であった。

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僕は彼女を守りたいと思った。私は彼を救いたいと思った。 以考 彼方 @kanata1205006

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