一話 第一章 ⑴
僕は四月から高校二年生になった。当たり前の日常を、当たり前の様に生き毎日同じ生活を送っていた。
僕は玄関のチャイムで起こされた。今日は日曜日なので学校はない。部活に入っていない僕は、日曜日は昼間で寝るのが日課だったのだが起こされてしまった。
玄関についているドアアイから除くと配達の人が立っていた。最近は宗教の勧誘やNNKがよく来ていたので、起こされたときは嫌な気持ちになっていたが今は消えていた。チェーンを外して玄関を開けた。
「荷物をお届けしました」
若い男の人が元気良く話してきた。
宅配なんてここに住み始めてきたことがない。僕はネットショッピングというものを使ったことがない。偽物や欠陥品を受け取ったという話を良く聞いていたので、使いたくなくなってしまったのだ。そのため、僕に荷物なんて届くわけがない。
「引っ越しの荷物なのですが手違いですかね。人が住んでいるとは聞いていなかったので、何か聞いていたりしますか?前に来た時、アパートに空いている部屋はなかったと思うんですよね」
手違いで起こされてしまったのか。僕の休日はいつも誰かに起こされている気がするな。
寝かせろ。起こすな。僕は寝ていたいんだ!
タクシーから降りてきた彼女がこちらに手を振っているような気がするのは、気のせいではないようだ。多分、この荷物は彼女のものだろう。早めに解決してよかった。後のことは全て彼女に任せて僕は昼まで寝ることにしよう。
僕の家はここら辺では珍しい少し横に広い作りになっていて、二階建てのアパートに住んでいる。色々あって無料で高校を卒業するまで貸してもらえることになっている。
彼女が二階に上がってきた。どこの制服なのか分からないセーラ服を着た黒髪ロングが堂々とした態度を取っている。しかし、背が低いので可愛く見えた。
「間に合ってよかった。今日からここで住むことになった世十 星(せと あかり)です。久保さんからは、同じ年だと聞いているから敬語は使わなくていいよ。私も使うつもりないからね。
それと、私のこと可愛いと思っていたら怒るから」
可愛く見えていたことが分かったのかな。そんなことはないと思いたい。可愛く見られるのが嫌なんだと思おう。背が低いというのもコンプレックスみたいだし触れないように気を付けておこう。
そんなことを考えている場合ではないよな。目の前にいる彼女と同居生活をするということを、今知らされたというこになるんだよな。大家さんからそんな話聞いていない。あの大家さんだから言い忘れているということはないだろうか。ありえなくもない。今から聞きに行こう。
「ちょっと待って、僕は何も聞いていないんだけど大家さんに部屋がないからここなら何とかなるとか言われてないよな」
「家は空いてないっていうのは聞いていたけど、一か月ぐらい前に久保さんに相談したらこの部屋なら一つ空いているって言われたのだけど違うのかな」
星の話は合っているよな。僕の部屋は一人暮らしには勿体ない作りになっている。リビングの他に二つ部屋があるのだ。一つは僕の部屋にしているのだが、もう一つの部屋は使わないように大家さんから言われていたのでいつも不思議に思っていた。他の家が空いていないときのための最終手段として開けておこうということだったのだろうか。
「少し待っててもらえるかな大家さんと少しお話してくる」
大家さんは昔住んでいた近所のおばさんなのだ。色々あった僕を一時的に引き取ってくれた恩人である。
大家さんが住んでいる一階まで降りチャイムを鳴らした。
「広くん、どうしたの!」
玄関が勢いよく開いた。そして、いつものように抱き着いてくるのを抱きつかれるままに抱き着かれた。何故避けようとしないかというと避けても避けても抱き着いてきて余計に面倒なことになるので今では抱き着かれるのが当たり前なのだ。
「僕の家に引っ越ししに来た人が来ているんだけど、どういうことが説明してくれないかな」
「それって、今日だったっけ……忘れてた」
ここの大家さんは、久保 小夜(くぼ こや)さんといういつでもどこでも化粧をしていつも起きているのだが、何をしているのか見当もつかない変わった人である。十年の付き合いにはなると思うので、三十代ぐらいだとは思っているのだが年を取っている気配がない。いつも、白いロングスカートなのはどうかと思う。
大家さんの目にクマが出来ていたので、いつものように徹夜でもしていたのだろう。
「今日も徹夜していたんでしょ」
「今日はしていないよ。広くんの気配を感じて起きてきた」
「熱いから離れてくれ」
「まだ、充電が足りない」
「分かったから、引っ越しの件を説明してよ」
「なんで、知らないのよ。玄関についているポストの中に手紙入れておいたでしょ」
「そんなところにポストがあるか?」
大家さんは、自分の玄関に指をさして教えてくれる。
「電気代の領収書ってここに入っていることも知らなかった?」
「そんな話初めて聞いたよ」
大家さんを振り払い自分の家に戻る。
玄関にポストがあったなんて初めて知ったな。アパート入るところにもポストがあるのでそこしか見たことがなかった。
大家さんが言っていた通り電気代の請求書が一年分入っていた。この中に電気代の請求書があったのか!来ないものと思っていたから見つかって良かった。
そんなことで感動している場合ではない。
手紙は本当に入っていた。僕は急いで読んだ――
広くんヘ
五月あたりに世十 星ちゃんという人と同居してもらうことになりました。
何かあれば頼ってね。
いつでも会いたい大家より
なんだこの短い文章は……、手紙にする必要があったのだろうか。
僕は、大家さんのところに戻ることにした。
「久保さんとの話は終わったの?」
「また、話してくる」
大家さんは、僕の家の前まで来ていた。
「入っていたでしょう」
「入っていたけど、この内容だったら会いに来て説明してくれても良かったんじゃない。後、携帯という便利なものがあるんだから手紙ではなく携帯で連絡してくれよ」
「手紙の方が広くんから来てくれると思ったんだ」
この手紙を、一か月前に読んでいたら文句を言いに行っていたから、あながち間違いではない。大家さん慣れなれしいから苦手なんだよな。でも、慣れてきている自分がいるのが嫌になってくる。まだ、落ち込んでいる頃だと思っているんだろうか。立ち直ったと思うがまだ不安なとことはあるので、大家さんにはまだ振り回されていた方が安心してしまう。
「来なかったから了解してくれたものだと思ってたよ」
僕は、大家さんにだけ聞こえるように話した。
「もしかしてだけど、同じ立場ってことはありえないよな」
「ほぼ同じかな。最近、親が事故で亡くなったらしいから引き取ってしまった」
いい人なのは知っているので、大家さんを責めるつもりはない。でも、家が空いていないなら引き取らないでほしいものだ。僕が男子のことを分かっては引き取っていないよな。女子と二人暮らしとかやっていける気がしない。
「大家さんの家に住んでもらうのは――」
「一人用だからね。そんなに、女の子と住むのが嫌なのかい」
「そういうわけでは、ないんだけどね。
知らない男と住ませるやつには、言われたくないんだけどな」
大家さんは何のこと?みたいな顔でこちらを見てくる。
「住むところないよな。俺の名前は、千 広(せん ひろ)っていうんだけど聞いているよな。今日からよろしく」
「住んでも大丈夫なんですか?」
「部屋が空いているからな断る理由はないだろ」
「久保さんが迷惑をかけたみたいでごめんなさい。短い間だと思うのだけどよろしくお願いします!」
星の不安そうにしていた顔が、笑顔になったのでそれだけで文句は言えないなと思ってしまった。似たような笑顔を昔にも見たような気がした。嫌ではないのだが家族というのは、昔のことを少し思い出してしまうので他人と住むなんて考えてもいなかった。親友でも家に入れたのは一回だけだったような気がするな。僕も少しは変わっているということなのだろうか。
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