第2話

 秋元さんを逮捕したので、私は上司にめっちゃ褒められた。後、取り調べでは怒らなくてもいい事にまで怒って日頃のストレスの発散をした。


 秋元さんはめっちゃ泣いてた。

 別に何もしてないから、翌朝には釈放された。


「じゃあとっとと死ねよ。世の中のためにな」

「いやです」


 強情な彼は、あろう事か警察様の私には向かってきたので、氷を背中に入れてやった。


「ひゃっ!」


 慌てて踊る彼を見て、私は大笑い。上司も大笑い。秋元さんも大笑い。


「じゃあ、私は用事があるので」

「私も非番だから帰ろ」

「俺も」


 と、私たち三人は帰った。


 帰り道、歩いていたら例の公園に辿り着いた。そして我が眼を疑った。


「秋元さん」


 なんと秋元さんはもうベンチに座っていたのだ。朝の公園だ。まだ誰も遊具なんかで遊んでいないのに。


「秋元さん」


 私が声をかけると彼は、会釈一つで返してきた。


「私はベンチですから、誰よりも早く来て、みなさんが遊ぶのを待つんです」


 そういう彼の言葉に私は涙を流した。なんて愚直なんだ。


 彼は補欠だが、きっといいレギュラーになるだろう。


 私も学生時代にスポーツをしていたから分かるのだ。結局は向き合う姿勢なのだ。最初は補欠でも、まっすぐにその道と向き合った人はいい結果を出せるようになっていく。

 秋元さんのように毎日、かかさず練習をしている人はいつかベンチを卒業し、この公園の遊具を所狭しと遊んで大活躍するだろう。


 その日は非番で眠かったので、私はそこで帰ることにした。


「お疲れ様です」


 彼はそう言って、私に頭を下げた。私は国家権力で偉いから当然の行動だが、彼の礼儀正しさには好感を持った。


 今は我慢だぞ!


 遠くからベンチに座る彼を見て、私は念じるように彼にテレパシーで言った。

 私はいつの間にか彼を応援する側の人になっていた。彼のまっすぐで汚れのない性格がそうさせるのだ。

 

 遠くの彼が「はい」と返事をした。テレパシーが届いてた。


 その日の私は家に帰って、シャワーを浴びて、「公園に変な男がベンチに座っている」と警察に通報してから眠った。


 応援はするけど、手柄は欲しい。


 すまん。



 それから一ヶ月くらいが過ぎた。

 彼のおかげで私は今月、いっぱい逮捕ができた。


 が、彼はそんな事にもめげずに今日もベンチに座っている。


「でも、どうやったらレギュラーになれるんですか?」


 私は取り調べの際に聞いてみた。調書書くのも飽きてきた。この前隅に落書きしたら上司に怒られた。パンチ。


「監督にアピールできたら……」

「監督?」


 私はハッとした。また落書きしてた!


「管理人です」

「公園のですか?」

「はい」


 そうだったのか。

 公園のなんかプレハブにいつもいるジジィ。アイツは管理人であり監督でもあったのだ。

 アイツのお眼鏡にかなったら、秋元さんはレギュラーになれるのか。


 しかし、それからどれだけアピールしても、秋元さんがベンチから昇格することはなかった。


 それでも彼はめげずに毎晩、公園で練習を続けた。


「秋元さんをレギュラーで使ってください」


 私は見るに見かねて、プレハブの窓から公園を見ている管理人、いや監督に進言をした。


「お願いします!」


 お願いはしたけど、頭は下げなかった。


「ダメだ」


 しかし、管理人は厳しかった。


「どうしてですか!」


 私は管理人の胸ぐらを掴んで、こめかみに鉄砲を当てた。俺が言ってんだぞ!


「奴はまだ実力じゃない」

「でも、彼は毎晩、必死で練習をしているんですよ! その努力も認めてあげたらどうなんですか!」


 私は気づいたら泣きながら訴えていた。そして、撃鉄を引いた。


「……努力しているから、だよ!」

「え?」


 私は拳銃を下ろした。


「彼が努力をしているから、そんな「努力しているから」とか中途半端な気持ちで選びたくないんだ」

「監督……」

「彼の努力に応えるなら、彼の実力がしっかりついた時に選ぶのが、彼への敬意だと思うんだ」

「カントクゥ!」


 私は泣いた。

 秋元さんは幸せだ、こんな、こんな自分のことを思ってくれている監督がいるのだから。

 それに比べて私の上司はどうだろう?

 やれ、手柄、手柄と私に言ってくる。クソ野郎だ。


「まぁ、金貰ってるからいいけどな」


 と、私はプレハブを出て、ベンチで座っている秋元さんを見ながら「頑張れ」と思った。


 その晩からの特訓に、私も付き合った。

 昼間の監督の言葉を思い出すと、どうしても彼への指導が強くなら。


「クソ野郎! クソ野郎!」


 気づいたら、仮想上司と思って秋元さんをスパルタしてしまっていた。


「もっと! もっとください!」

「クソ野郎!」

「もっと!」

「クソ野郎!」


 そんな私の個人的な恨みにも彼は耐えた。


「クソが!」

「もっと!」


 その晩、「公園でSMをしているホモがいる」と通報があり、私は逃げた。












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