008 魔力の扱い
まだまだ寒い日が続いているが、身を切るような寒さではなくなってきた。冬も峠は越えたのだろうか。魔力を抑えることを目標にした私の特訓は今日で三日目を迎えた。初日と昨日はナディームが付き合ってくれたが、成果なし。今日はナディームと、父さんが練習に付き合ってくれることになった。父さんが来るのは初めてだ。
昨日までで、橋から近い川縁の花は全て清浄化してしまったので、今日は橋から少しだけ川上に練習場所を移す。
二日練習してきて、全く変化がなかったわけではない。魔力が働くときに体内で何かが動いているような感覚がわかるようにはなったのだ。ゾクッと寒気がするような感覚に似ている。何が動いているわけでもないのに、感覚として感じるのだ。
「さて。はじめようか、カティア。」
ナディームがそう声をかけて、川縁の花を指差す。私はゆっくり花に手を伸ばす。……あ、くる。体内でしゅるしゅると魔力が動いているのを感じた。このままでは魔力が働いて花を清浄化してしまう。私のゴールは、清浄化前に魔力の放出を止めることだ。ちょっと力んでみたが、いつも通り花は桃色に変わってしまった。
……力んでも止まらないんだよね……。
息を止めたり、体に力を入れてみたり、意識を手に集中させたり、色々と試してきたが、魔力は放出されてしまった。正直、手詰まり感が否めない。ナディームはじっと私を見て、励ましてくれる。父さんは日がよく当たるベンチでうたた寝中だ。こんな寒いのに、よく寝れるものだ。そもそも私の練習に付き合ってくれるんじゃなかったのか、と軽く文句を言ってやりたい。私一人でしか練習できないのだから、仕方がないとは思うけど、ナディームのように応援してくれてもいいと思う。成果もなく、ゴールも見えない私は正直苛立ちを隠せない。
「カティア。魔力は意識しないで放出されてしまうんだよね?」
「うん……。何も考えなくても、何もしなくても浄化しちゃうの。」
魔力は体内に籠って、バチッとくる静電気に似ている。バチッと刺激はこないけど、対象物に触ったら魔力が放出される。逆に対象物がなければ、魔力が溢れることはない。
「カティア。絶対に出来るはずなんだ。この町に住む魔力持ちはみんな普通にしていることなんだから。」
この町に住む魔力持ちに教えてもらうことはできないのだろうか。ナディームに聞くと、子供の間は、とにかく魔力持ちということをひた隠したいらしい。どんな悪質な形で危険が迫るのか、ナディームにも想像ができないらしい。そんな話をしていると、私はふとあのアクセサリー売りのことを思い出した。
……あの人……私が魔力持ちだってわかってるよね?
誰にも知られてはいけないことを、知られてしまっていることに初めて気がついた。
……これってヤバくない?……あの時もそうなのかな。私の魔力で、あの石を浄化したってことのかな……。
数日前に市で起こったことを思い出す。
……てか、なんであの人は最初から私が魔力持ちだってわかったんだろう?あの人も魔力持ち?
私が魔力を持っていることは、他言無用だと言われている。一応、あのアクセサリー売りのことをナディームと父さんに話しておいた方がいいのだろうか。頭の中で思考がくるくる回る。
「カティア。力む必要はないよ。焦らなくて大丈夫だ。」
私の考え事のことなんて知らず、ナディームは優しく励ましてくれる。その声に目を覚ました父さんは「集中力が足りない」だの「根性が足りない」だの、ダメ出しを次々に投げ掛けてくる。正直、邪魔だ。うたた寝されるのも腹立たしかったけど、今は五月蝿く感じる。少し黙っていて欲しい。
どれぐらい花を清浄化した頃だろうか。私は魔力を抑えるコツを少しずつ掴み始めていた。十回したら二、三回は魔力の放出を止めることができるようになった。大きな進歩だ。魔力の扱いは予想以上に難しい。けど意識を体内の「流れ」に集中させると成功率が高くなる。私の頭で想像している魔力は、体内を流れている血液みたいな存在だ。手にはその魔力を出す出口があり、弁もある。そして意識しながら弁を調節する。開けたり閉めたり。弁を閉めておくと魔力は外に出ず、また体内で循環されるのだ。かなり集中しなければ、成功しない。
「ナディーム、父さん!!二回連続で成功したよ!!」
「よし、カティア。いいぞ。」
私達は三人で抱き合いながら喜んだ。慣れたらもっと簡単にできるようになる、とナディームは言ってるけど、こんな集中力が必要なことが本当に簡単にできるようになるものだろうか。私には信じがたい。
「カティア、気分はどうだい?」
ナディームにそう聞かれて、自分の体調に意識を向ける。ちょっと疲れてる感じはあるけど、バテてる感じもないし、頭痛も吐き気も目眩もない。
「そういえば、今日は結構平気かも。なんでだろうね?」
体調は悪くないのだが、ナディームは「今日はこのぐらいにしておこう」と言った。やり方は掴めたので、あとは慣れるだけだ。明日からは慣れるまで数をこなしていくらしい。
家に帰って夕食を取ると、頭がボーッとしていることに気付いた。どうやら熱が出ているらしい。魔力を使ったからだろう。頭痛や吐き気の他に、こんな形で負担が現れるとは予想外だった。母さんに早く寝るようにと促されて、自室へ向かう。ベッドに入ると、魔力の扱いに進歩があったせいか、大きな達成感でいっぱいだった。
……あ!!父さんとナディームにジオヴァーニのこと話すの忘れてる!!
明日に忘れないように話しておかなければ。そう思いながら私は眠りについた。
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