生麦生米生卵

「生ってあるじゃん?」

「は?何?セクハラ?ちょちょちょやめてよ。」

学食でカレーにトッピングする納豆をかき混ぜながらずれたことを言ってくる。

僕はラーメンを啜りながら様子をうかがう。


紅桃林ことばやしは僕と同じ大学1年生の情報学部に所属している女の子だ。

艶やか黒髪ショートカットに加え帽子を何時もかぶっているのが特徴で

小学生からの付き合いだが外で帽子を脱いだ姿を見たことがない。

麦わら帽子だったり、バイクのヘルメットだったり特にこだわりがあるようではないようだ。

因みに今日は毛筆で【魂】と書かれたベースボールキャップをかぶって短い髪の毛を後ろで無理やり縛っていた。

どこで買ったんだ。

「ちげぇよ。生チョコとか生パスタってあるじゃんか。」

「うん。」

「なんか生がついてるだけで無性においしそうに聞こえるよな。」

「だから?」

「世の中の料理にさ、生ってつければ大体おいしそうに聞こえるという説を僕は提唱しようと思う。」

「例えば?」

「生ラーメン!生カレー!生たくあん!」

「・・・・微妙じゃね?」

紅桃林ことばやしは納豆をかけたカレーを掬って大きなスプーンで口に運んでいく。

「大体『生』って『生焼け』とか『生煮え』とか中途半端であんまり良いイメージの方が少ないんだけど。私はね。」

「む。確かに。」

昨日思いついた定説が覆されてしまった。

そこで紅桃林≪ことばやし≫のもりもり食べ進められているカレーの横に置かれているデザートに眼を向ける。

「じゃ、この生プリンは僕が食べておくよ。」

と手をかけた時点で顔面にグーが刺さっていた。

見事な縦拳。

目からチカチカと星を走らせている僕を横目にプリンも3口ほどでガツガツと食べきってしまう。

「じゃ。私午後講義無いから帰るね。」

食器トレーを返却すると颯爽と食堂を出ていこうとしてしまう。

「まってくれ!伝えたいことがあるんだ!」

僕は真剣なまなざしで両肩を掴む。

「な・・なに?」

「明日の講義のレポート手伝って。」

セリフをすべていう前にお腹にグーが飛んできた。

見事な縦拳。やっぱり内蔵にダメージを与えるなら横拳より縦拳だね。

でも今は生ラーメンが出ちゃうからだめだめ☆彡


------------------------------------------------------------------------------------------

3限目が終わってアパートに帰ると、玄関が開いていることに気づく。

合鍵を渡しているので特段驚くことではないが、鍵が使われるのはまだ3回目だ。

お土産の生チョコを渡して機嫌を取ることにする。

「なんだかんだと、最後には手伝ってくれるから優しいよな。」

「ばか。生意気。」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る