泣いた鬼

「モテない男の主人公がさ」

「は?」

僕のセリフに友人が訝しげに返事をするが、さして興味もないのか目線は握られたスマートフォンから目を離さない。僕は僕で明日の『アナログ電子回路』の講義のレポートをする必要があったのでパソコンに打ち込みつつ構わず続けることにした。

「学園ものにおいてモテない男の主人公がさ、不良から美少女を助けて惚れられる、もしくは知り合いになるみたいな展開があるだろ。」

「うん。」

「あれって、もし主人公がその場に立ち会わなかったらどうなってるのかな?」

「フィクションに『もしも』とかキモイね。」

「ちょっとは付き合ってよ・・・」

いや、実際その通りなのだが、それを言っては世の中の小説に対する感想や考察が全て『キモイ』で完結してしまう気がする。

この友人には討論を楽しむという事をしてくれないのだろうか・・・

少ししょげた様子で見ているとこちらの視線に気づいたようで、スマートフォンから目を離し、面倒くさそうに返事を返してくれる。

「普通にクラスのイケメンと付き合ってるんじゃない?もしくは案外その不良と上手くいったり。」

「それだよ!」

「叫ぶなよ。キモイな。」

こいつの今日の口癖は『キモイ』らしい。

「それって僕のような人間にはそのような一発逆転劇がないと美少女と付き合うことや知り合いになることさえ難しいということかい。」

「そうだよ」

「・・・」

断言された。

「お金払って、不良に美少女襲わせたら?それでそこに君が登場するわけさ。」

「なんか下種なうえにチープな作戦だな・・・」

「なんだっけ?『泣いた赤鬼』?」

有名な童話を馬鹿にするんじゃない。

「と、いうか。もはやその美少女にとってはいい迷惑だよね。」

「なんでさ。」

「だって本当だったらクラスのイケメンと付き合っていたのを、そのキモイ男子と付き合う羽目になったんだから。」

「キモイとまでは言ってないだろ。」

「そう考えるとドラえもんって怖いよね。本当は出木杉と付き合うはずだったのを無理やりのび太とくっつけさせられて。」

「のび太くんは人の幸せを願い、人の不幸を悲しむことのできる人なんだぞ!」

「で、結局何が言いたいの?」

あれ?結局?何が言いたかったのだろうか。のび太君の魅力じゃなくて。

「えー、つまり僕みたいな人間は普通にアタックするより一発逆転を待ったほうが効率的であるということさ」

「クズなうえにただの根性なしじゃん。」


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「やめて下さい!誰か助けて!」

「・・・・」

「へへ・・・いいじゃねえか。俺と遊びに行こうぜ。」

珍しく可愛らしい恰好をした友人が不良に絡まれている。金髪に手首や首にシルバーアクセサリーそして、サングラスと一目で不良とわかる格好をしていらっしゃる。

ちらりちらりと二人でこちらを窺がっている。

いやこんなの助ける人いないよね。あと電験棟に用があるのでどいてください。

「ちっ」

友人はこちらに一瞥をくれ、舌打ちをする。

The・不良に一万円を押し付けて両頬をひっぱたいた後どこかへ行ってしまった。


やっぱりこの作戦はダメじゃんか・・・そもそも村人が鬼を泣かせてどうするんだよ

泣いているのは青鬼のほうだが。




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