第5話
***
『ぐっ、うう』
母の悲痛な呻き声が脳内に響きわたる。
「かあさん!?」
俺は飛び起きると、素早く青いアスターに手を添えた。
その瞬間、弱々しい花びらが一枚ひらひらと机に落ちた。
『あいたたた、死んだってのにまーたこの痛みを味わうとわねえ』
「この痛みってどういうことだよ」
『死ぬ直前の痛み、だよ』
「なんだよ、それ」
『…あたしの命はそんなに長くないみたいだね。せっかちだね、まったく』
母が嫌に気丈に笑い出す。
俺は母を、青いアスターをじっと見つめる。
一瞬、病室で横たわる母の姿が脳裏をよぎる。
俺はとっさに首を振り、その雑念を振り払った。
そして、再び母に向き直った。
俺の思いは固まっていた。
「ぷ、ばーか。母さんは死なねーよ。
世迷い事は死んでからいいな、あ、もう死んでるか」
『ああ?あんたねえ、経験者は語るんだよ。
死ぬったら死ぬよ』
「死なねえよ」
俺は力強く言い放った
驚いたようにアスターの花弁が微かに上向いたように感じた。
そして俺はすぐさま、あるものの開発に取り組む事を決意する。
それは…「水」だ。
切り花で最も重要な要素が何を隠そう、「水」なのだ。
今までも、切り花延命剤を配合した水を使用していた。
しかし、それは『完璧』ではない。あくまで一般的な『よい』水だった。
目の前のこの『アスター用』ではない。
だから、そこに俺は可能性を見出した。
「待ってろよ、母さん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます