第4話
俺は再び2階に上がる。
そこには先ほどと変わらず枯れかけた青いアスターが飾られている。
『遅かったじゃない』
「まあ、な」
『それじゃあ、準備なさい』
「なにを?」
『が・っ・こ・う!』
俺は顔をしかめそっぽを向いた。
そしてベッドに身を投げ出すと、 頭の下に腕を滑らせ瞳を閉じた。
『あんた、起きなさい!学校!学校行くわよ』
耳元で母の説教が止めどなく聞こえてくる。
しかし、不思議だった。
生きていた頃はあんなにも鬱陶しく感じられたのに今はそれがとても…嬉しい。
俺はふと思う。
このまま、こんな風にいられたら…。
また、3人で生きられたのなら。
どんなに幸せだろうか。
あの日のことも清算して、元に戻れたのなら。
俺はつい想像してしまう。
俺と父の馬鹿を、傍らであきれつつも優しく見守ってくれる母との生活を。
その時、俺の中で名案が閃く。
いや、何言ってるんだ。生きられるはずだ。
俺は机の上の青いアスターを見つめる。
死の直前。母がどこかからか見つけてきた青いアスター。
その花を母は愛おしそうに飾っていた。
だから俺は母が亡くなった後、そのアスターを守り抜くことを誓った。
切り花の知識など何もなかった。インターネットや本で調べ上げ、時には近所の花屋さんにまで行き、切り花の生け方を身に着けた。
ある本の中で夏の切り花はもって1週間と書かれていた。
しかし、俺はこのアスターを今日まで生かすことに成功した。
1か月だ。その期間は1か月だ。
それを知った父は必死にアスターを手入れする俺の頭を優しくなでながら言った。
『すごいな、優斗は。まるで奇跡だよ。』
そうだ、これは奇跡なのだ。
だから、俺が描いた夢物語みたいな想像だって叶わないとは言わせない。
奇跡を起こし続ければいいのだ。
今まで通り、いや、今まで以上に丹念に手入れすればいい。
そうすれば、いつまでも母といることができるのだ。
俺の中で燻っていた思いが徐々に晴れ始めたのを感じた。
そして、俺は母の方を振り向く。
しかし、いつだってそれは突然なのだった。
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