第285話 殺したいほど愛してる
地下室から出て直ぐは、自分の身体だというのに思うように歩けず、何度もその場で倒れてしまった。
身体がうまく扱えないのは、ボクの中に取り込んだ
ただ、麻痺したように感覚のないこの身体に馴染むのは時間の問題だった。
「……ん?」
壁に寄りそいながら階段を上り続け、時間をかけてようやく地上階に上ったところで、ふと見覚えのある人と偶然鉢合わせした。
「……れ、レーネ様!? どうなされたんですか!?」
最初に声を掛けてきたのはその見覚えのある人物じゃなく、ティアに仕えるメイドの1人だった。
彼女はすぐさま駆け寄り、案じるように肩に手をかけてきたが、ボクは彼女に一切目をくれることなくその見覚えのある人物を見つめていた。
金髪の天人族の女だ。
その女は最初、階段を登ってきたボクを見て、不審そうに赤い眼を細めて見つめてきたが、直ぐにはっと顔を強張らせておもむろに口を開いた。
「レーネ? …………まさか、貴様が……っ……!」
そして、女……ウリウリアさんは動揺を見せながら言葉を濁した。
後退るように足を後ろに引いたが、直ぐにきっと表情を硬くしてボクを睨みつけてくる。
今のボクは直ぐにでもティアに会いたくてたまらなかった。
でも、過去の“僕”を何かしら知っているウリウリアさんとは、足を止めて話がしたいくらいには興味が湧いた。
何より彼女の発したその一言がボクをこの場に留める理由にもなった。
「へえ……ボクのこと、覚えているの?」
「…………いいや。私は覚えていない。けれど、その様子からやはり貴様が……シズクなのだな」
ボクの問いに少し間を開けてからウリウリアさんは答えてくれた。
「……ふーん」
では、誰かからボクのことを聞いたのかな。
事情を知らないメイドが「……シズク?」とボクの本当の名前を口にして首を傾げたように、このラヴィナイで……いや、この世界において、ボクをシズクと呼ぶのは2人っきりの時のティアだけだ。
ティアが言うには、
もしかしたら、ティアがルフィスあたりにうっかりボクのことをシズクと言って紹介した可能性もあるが、そんな風には思えない空気や態度をウリウリアさんから感じ取る。
それも、あの鉄仮面の仏頂面のウリウリさんが、初対面のボクですらわかるほどに、恐々として表情を崩しているのだから。
「……ねえ、聞かせてもらえるかな? ウリウリアさん」
「……貴様、馴れ馴れしく私の名を口にするなっ! 私は、親族以外の者に名を呼ぶことは許していない!」
「えー、悲しいなぁ? ウリウリアさんが本名で呼んでいいって言ったのに?」
「何を言って……そんなはず、ないだろうがっ! 私の名は、家族であるものにしか呼ぶことを許していない!」
「……ふ、ははっ……ごめん。冗談。名前を呼ぶことを許したのはボクじゃなくて“僕”の方だったね」
「なにを言って……」
ウリウリアさんとのささやかな談話だ。
この間に身体の調子を徐々に良くなったらしく、こうしてお腹を抱えて笑えるくらいには感覚を掴めた。
(ただまあ……それを含めたとしても時間の無駄だったかな)
別にウリウリアさんがボクを知っていようがいまいが関係ない。
「……じゃあ、聞かなくていいや。リウリアさん。ボクはそろそろ行くよ。ティアが待ってるんだ」
「……ま、待て! 貴様が無くとも私には聞きたいことが沢山ある!」
すると、ウリウリアさんもとい、リウリアさんはボクの前に立ちふさがってくる。続いてボクの肩をがっしりと掴んで、力任せに引っ張ってその場に留めようとする。
酷いなぁ……初対面の相手だって言うのに、こんな乱暴なやり方は許せないよ。
「ねえ、リウリアさん……邪魔するならただじゃおかないよ。その手を離してくれない?」
「駄目だ! 貴様が話に聞くあのシズクなら、このウリウリア・リウリア。あの方のために、貴様をここに惹き留めなければならない!」
「あの方……?」
何、リウリアさんはあの2人とは別の人の下に付いたのかな?
まあ、あれから10年も経ってるからね。
(2人を失った心の隙間を埋めるために、そのあの方って人に仕えているのかな……それとも、まさかっ……――あっ!?)
ふと、この世にいるはずもない2人のことが頭に過ぎり――思わず、はっとする。
愛しい愛しい2人のことを考えたことで、中にいる“僕”が動き出すことを危惧したからだ。
「……ん、何もないか?」
「何の話だ? 貴様、いいからその場から動くな」
けれど……“僕”はまったくと反応を見せなかった。
不審には思うが、こんな最高に気分が良いところで“僕”に水を差されたくはない。
そして、今は大丈夫でもいつ“僕”が反応を起こすかもわからない。
これ以上リウリアさんを視界に入れてることもボクにとって毒だろう。
「……ううん、そろそろ行くよ。リウリアさん、最後に会えてよかったよ」
「だから、行かせないと言っ――ぐっ!」
いい加減にしてほしい、とつい小さく苛立ったボクは、つい手に入れたばかりの力を漏らしてしまう。
自分の目でもはっきりと見える紫色をした半透明の魔力が身体の内側から溢れだし、そこから出た可視化した魔力の腕で、前に立ちはだかったリウリアさんを薙ぎ払うように弾く。
リウリアさんはまるで虫を叩きはらったかのように簡単に飛んで、廊下の壁へとその身を激突させた。
「がはっ!」
壁にぶつかったリウリアさんは悲鳴を上げながらその場で横に倒れた。
「……あーあ。加減したんだけど、やっぱりまだ難しいや」
力の入れ方は頭では理解していても実際にやるのとは全然違う。
リウリアの身体は今の一撃でかなりの重傷を受けてしまったらしい。
内臓でも傷めたのか、口からは血が漏れて、腕や足なんか普通とは違う方へひしゃげている。
身動ぎ1つなく、気絶したんだと思うけど、死んだとしてもまあいいか。
「……れ、れ、レーネ、様……今のは……レティア様の……」
驚き戸惑っているメイドに顔を向け、ボクは口を開いた。
「ねえ、キミ。聞いていい?」
「は……は、はい……」
「ユッグジールの里の人たちが来る日って今日だっけ?」
「は、はい。そう、です……今はもう――」
「で、いつも通り、応接間でお茶やお菓子を囲って楽しく談話中かな?」
「――あ……はい」
「へえ、そうなんだ。じゃあ、今はボクのことなんて放ってティアは皆と仲良くおしゃべりしてるんだ。ふーん、ヒトがこんなに大変な思いをしたっていうのに、ティアはいつもずるいんだから……」
じゃあ、ボクもそのお茶会にお邪魔させてもらおうかな。
リウリアさんとのやり取りの最中に、すっかり身体の感覚は元通り。良くも悪くもいい休憩時間だった。
怯えるメイドの肩を労うように軽く叩いて、ボクはティアの待つ応接間へと、しっかりとした足取りで向かった。
◎
会合と銘打ったお茶会はルフィスとまた違って楽しかった。
この国の人とは違う、まさに別世界の人たちが、ワタシを楽しませようと次から次へと言葉を投げかけてくる。
隣には今回お気に入りの1人に決めたベレクトくんを座らせて、背後にはむすっとしたお気に入り2人目のイルノートを従えて、ワタシはこの楽しいひとときに、いつまでも笑みが絶えない。
さらに嬉しいのは、ゆっくりゆっくりとワタシに繋がれた枷が緩みだしていることを感じているからだ。
じっくりじっくりと楔が弱まっていく感触は、最初に感じたそよ風とはけた違い。
まるで肌にべったりと塗られた泥が、徐々に流れ落ちていくような気持ちよさを感じた。
そして、待ちに待ったその時は、もう目の前に――。
「――レティア様? どうかされました?」
ついにその時が来たのだと、ワタシはライズくんの話し途中であっても、その場で立ち上がった。
背後に控えていたイルノートからの呼びかけにも答えず、部屋の外で待機させていた近衛3人の喧騒を耳にしながら、閉められた扉の先へと胸をときめかせながら近づいていく。
皆の注目を浴びながら、ワタシは自分から開けたい衝動を抑えながら扉が開くのを待ち――直ぐにワタシの気持ちを理解してくれたみたいに、念願のシズクくんが外で待機していた近衛たち3人を吹き飛ばす形で扉を開けた。
ああ、シズクくんだ。
本当に、戻ってきてくれた……!
「レーネ!」
「……ティア」
無様に這いつくばる近衛3人なんか一切目もくれず、ワタシは嬉々として腕を広げてくれたシズクくんの胸へと駆け寄った。
2人で決めた秘密ごと。
絶対に2人以外の人がいるところでは、お互いの名前を呼ばない約束を破ったことなんて気にせずに。
今はただ、1秒でも早くシズクくんに触れたくて……だから、ワタシはシズクくんに触れたい一心で彼の腕の中へと甘んじて納まった――。
「……っ!」
――その瞬間。
「……い、やっ!」
どんっ……と、彼の胸を強く突き飛ばす。
彼は後退るようにしてよろけて見せるが、怒ることもなく直ぐにワタシへと微笑みかけてくる。だが、ワタシはその怪しい笑みを呆然と視界に捉えながらも、彼とは逆に顔を強張らせた。
今この身に起きた出来事が理解できず、瞬きを何度と繰り返した。
「な、何……今の、今のは……」
シズクくんとの抱擁に胸を高鳴らせたのは一瞬だった。
そして、その高鳴りを止めたのも一瞬だった。
全ては今交わした再会の抱擁のせい――彼と身体を触れ合わせた瞬間、ワタシの身体の中には言葉にし難いどす黒い汚水が流れ込んできたのだ。
流し込まれた汚水は頭の先から足のつま先と、身体全体へとあっという間に染み渡り、夢心地と浮かれていたワタシの昂りを容易く沈めるように熱を奪う。身体は嫌でも震えを起こした。
まるで極寒の中に裸で放り出されたような感覚だ。
あまりの寒さに吐き気を催しそうになる。
「……え? え? え?」
口が上手く回らない。今この身体を駆け巡ったものが何か信じられない。
「嘘、だよね?」
自分で突き飛ばしたシズクくんを見つめるけど、彼はいつも通りの笑みをこちらに向けたまま。そう、2日前に見せてくれたものと同じ笑顔を……だから、信じられない。
「……へえ、嬉しいな。ティアがボクのことをそこまで想ってくれたなんてね」
「え? どう、いう……なんで……?」
未だ混乱したまま、ワタシは言葉を詰まらせながら声を発した。
わからない。シズクくんが何を考えているのか……いや、元々シズクくんが何を考えているのかなんてわからなかった。
ただ、目の前に立っている今のシズクくんが何をどう思っているのかは、今のワタシにははっきりと伝わっている。
だからこそ、どうしてそんな風に思っていたのかが、ワタシにはわからない。
「不思議だね。今の接触でティアの気持ちが全部伝わってきた。これってボクの気持ちもティアに伝わったって思ってもいいのかな?」
「……っ!」
ああ……そうだ。
彼の言うように、ワタシはシズクくんと抱擁を交わしたその瞬間、彼の持つ2つの大きな感情が自分の身体の流れ込んできたのがわかった。
そのうちの1つはどろどろと纏わりつくような愛情だった。
愛情といっても甘ったるいものとは無縁の、一途に想う狂気で生み出された劇薬のようなもので、今の一瞬に流し込まれたワタシの内側をどろどろに穢し融かしてくれた。
「……嘘、だよね?」
「嘘じゃない。ボクはこのためだけに、今日まで生きてきたんだから」
「嘘……シズクくんはそんなこと、思わない」
「だから嘘じゃないって」
そして、もう1つは――。
「……ボクはティアを殺したくてたまらないんだ」
――長く時間をかけて研ぎ澄まされた殺意だった。
その純粋でおぞましい憎悪によって取り繕った刃は、こちらが理解するよりも先に、一刺し一刺し、丹精にワタシの外側を何度と突き刺してくれた。
「シズクくんが、ワタシを殺したい? 何それ?」
彼の言っていることがよくわからない。
震える身体でワタシは小さく笑って、直ぐに怒鳴りつけてやった。
「嘘……嘘っ! 嘘よっ!」
「本当だよ。今、ティアにはボクの気持ちしっかりと伝わったでしょ?」
「あんなの、あんなの、シズクくんじゃない! だって、シズクくんはワタシを、愛、愛して……!」
「うん。だから、ボクのティアに対して懐いていた思いも伝わったはずだよね? ボクはキミのことを世界中の誰よりも愛している。そして、世界中の誰よりもキミを殺したくてたまらないんだ」
「なに、言って……あり、ありえ……」
ありえない。そう口にするのは簡単だった。
けれど、口にしたところで先ほどの抱擁でワタシは内と外にと、深くその事実を刻まれている。
今のシズクくんはワタシを誰よりも愛してくれてるけど、誰よりもワタシを殺したくてたまらない――なんで? どうして?
(――ワタシ、今のシズクくんに何か悪いことした? そりゃ癇癪起こして色々酷いこともしたけど、殺されなきゃいけないほど恨まれることした?)
この10年、シズクくんのことはさっぱりわからなかった。
けれど、知りたかったシズクくんのことが今、この時になって全て理解できた。
(――シズクくんはいつだってワタシを大事にしてくれたよね。10年もずっと一緒にいてくれて、いつもワタシに笑いかけてくれて……この10年いつも裏側ではワタシを殺したくてたまらなかったの?)
ワタシの頭の中でいくつもの疑問を自分自身に投げかけ、出てこない答えの代わりに激しい感情が溢れだす。
胸の奥に流し込まれた汚水は今も身体に留まっていて、外から開けられた穴を伝って皮膚を食い破るように外に漏れだして行く。身体の震えは止まらない。
(いやだ。イヤダ。つらいツライ。いたい。イタイ。こんな、コンナの。こんな苦痛。イタミ。知らない。今も昔も、受けたコトなんて、ナイ……!)
目の前が真っ白になる。
気の遠くなった視界の先にいるシズクくんのいつも通りの笑顔も同時に遠のいていく。
素直に彼の笑顔を見ていられず、目を閉じて両手で顔を覆った。
(……ワタシは、シズクくんならありのままのワタシを受け入れてくれると思って、同類になってくれると思って……だからあの力を……ワタシと同じ力を……そのせい、なの?)
地下のノイターンの力を得て、同類どころかワタシと同等にでもなれたと思ったの?
今ならワタシのこと殺せるって思ったの?
今までもずっと殺したくて仕方なかったの?
これがシズクくんがしたかった面白いことなの?
ずっと企んできたことなの?
「あ、ああ……ああっ……!」
嗚咽みたいな声が勝手に口から漏れていく。
(だって、だって……シズクくん。ワタシのこと、あんなに愛して……言葉にしなくたって、纏ってる魔力からいつだって……)
わかってないつもりでも、ワタシはシズクくんのことはわかっているつもりだった。
彼は言葉にせずともワタシを愛してくれた。
ワタシも他の男たちに目を向けながら無意識に彼を想っていた。
お互い、正しい形ではなかったけど、そこには確かなもので結ばれていた――だからこそ、彼がワタシを殺したいなんて思うはずない。
ワタシたちの関係は普通じゃない。
それもわかってる。
だけど、普通じゃないにしろワタシたちに待っている結末は……こんな展開は間違ってるはずだ!
(おかしい。オカシイ。おかシイ、オカしイオカしいおカシしいおかシイおかしイオカしイおかしイオかシイおカシいオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイいぃぃぃぃ――……っ!)
思いもしない、一方的に流し込まれた苦悩にワタシの心は苛まれ、次第に限界を迎えそうになる。このまま精神に異常をきたしてもおかしくない。
それほどまで張り詰めようとしていた――その時。
「……っ!?」
ピンっ……とワタシの中で何かが外れる音が聞こえた。
そして、その音を耳にした途端、ワタシを蝕んでいたものは、絡まった糸が解けるように信じられないほど簡単に消えていった。
《――ふ、ふふっ。あはっ、あはははははっ!》
ワタシは両手で顔を覆ったまま、自分でも驚いてしまいそうなほどの哄笑を上げた。
胸の奥から感情が溢れていく。シズクくんによって流し込まれた汚水をそそぐみたいに、暖かなそれはズタズタにされた心の傷を無理やり塞いでくれる。
今この時を持って、胸の中で押し潰されそうになっていた負担は一斉に吹き飛ばされた。
清涼が吹き込んできたかのように晴れ晴れとしているまである。
さらに心にゆとりが出来た分、この状況が面白くてお腹を抱えてこの場でみっともなく笑い転がりたいほどだ。
身体は歓喜に震え続け、笑い過ぎて涙がこぼれた。
流れたのは一滴だけで、それ以上はもう出ない。
《――最っ高! 流石、シズクくん! やっぱりシズクくんはワタシを楽しませてくれる!》
今までの醜態を晒していた自分を投げ捨てるみたいに、ワタシは心から笑ってそう叫んでやった。
やっぱり見込んだ通りだ。シズクくんはいつだってワタシを楽しませてくれる。
《そっか。そっかそっか。ワタシを殺したくてたまらないんだ!》
とびっきりお気に入りのシズクくんが、愚かにもこの世界で1番祝福されているティアちゃんに反旗を翻す。
これほど胸を弾ませる出来事なんて他にない。
(……そっか! うんっ、もういい! シズクくんは壊そう!)
それなら、それでいいわ――と、一通り笑い終わった後のワタシは自分でも信じられないくらい冷静だ。いや、冷静というよりは、爆笑した時よりも高揚はしている。
動揺し怯えていたワタシはもういない。
そして、今目の前にいる男への執着は自分でも驚くくらい無くなっている。
じゃあ、執着のなくなった男とは――ワタシにとっての有象無象、それ以下。
(ただのゴミ……ううん。そんなことを思ってもティアちゃんはキミのこと認めるよ)
今のシズクくんはゴミじゃない。
彼は未だ、ワタシの中と外で綺麗な輝きを保ち続けている。
ゴミだなんてとんでもない。
(……だからこそ、壊す。綺麗なシズクくんを、ティアちゃんがボロボロになるまで壊すんだ!)
壊すと決めたら未練の方もすっかり消えた。
むしろ、この先中々出会えないであろう器として完成されたシズクくんという存在を、直接この手で壊せることに胸を弾ませてしまう。
こんな心ときめく機会なんて早々巡り合えない。堪らなくて、うずうず待ちきれないほどだ。
(世界で1番綺麗なシズクくんをこの手で壊す――よしっ!)
もうワタシに恐怖も後悔も悲哀もない。
残ったのは破壊による愉悦と裏切られたことによる憎悪だ。
それ以外の感情は全て、あの音が鳴った時には消えている。
――だって、ワタシの身体……ワタシの感情は、自分に都合のいいように作り直されるようになっているのだから!
《あはははっ、シズクくん! イイヨっ! やり合おうか! ティアちゃんは負けないからっ――……って、あれ?》
ふと、シズクくんへと開戦の宣言と共に笑いかけようとしたその時、ワタシの視線は未だ自分の手の平に覆われていることに気が付き――
「――そんなの……そんなのイヤよ! いやっ、イヤイヤイヤっ! シズクくんと殺し合うなんてイヤっ!」
――同時に自分の口から、ヒステリックに叫ぶ女の声を聞いた。
《……は?》
一体、どういうこと? と、ワタシは間抜けな声を上げてしまう。
《え、ちょっとっ!? やめ――》
「イヤァァァァァァっ!」
そして、周囲にいた大切なお客さんたちのことなんてまったく気にかけることもなく、“ワタシ”が感情のまま発生させた大きな魔力の腕で、シズクくんを力任せに薙ぎ払う一部始終を見届けるハメにもなった。
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