第284話 今から、あいにいく

「――わたくし共はこれにて失礼したします。他に入用がありましたら、このベルを鳴らして呼びつけてくださいませ」


 客間へと案内してくれた給仕の女はそう言うと、ハンドベルをウリウリへと手渡し、一礼と共に部屋を後にした。

 この場にいる全員が息を潜め、扉を挟んだ廊下から遠ざかる足音に耳を傾ける。

 その後、扉に背を預けたウリウリの「もう大丈夫です」という合図と同時に、わたしとリコちゃんは揃って被っていたシーツを剥がして息をついた。


「……ぷはぁっ」

「はぁ……」

「お加減はいかがですか?」


 ウリウリが尋ねてきたので、わたしはベッドの中で首を振って答える。リコちゃんも続いた。


「最悪よ……みんなよくで平然といられるのか不思議でしかないわ……」

「リコもつらい。息苦しい。身体だるい」


 隣同士に寝転び合ったリコちゃんはわたしと同じく辛そうに顔を歪めている。いつもはピンっと立ったケモ耳も今はヘタり気味だ。


「……そう、ですか。私はなんともありませんが、今はその…………メレ……レ、レレ、レティ様、なのですよね?」


 と、わたしの愛称に未だに慣れない様子のウリウリに「様もいらないったら」と先に口にしてから頷いた。


「ええ。今はわたしがルイの身体の主導権を握ってる。……ルイの馬鹿は奥で反省してもらってるわ」

「反省? ……ああ」


 ルイはわたしの忠告も忘れて、ティアへと敵意むき出しにしていたのだ。

 顔を隠してるからってあんな露骨な態度を晒してひやひや……無愛想な態度が原因か、終始楽し気だったティアの笑みが消えた時はかなり焦った。


「メレティミ……ごめん。リコもあいつの前では不機嫌だった……」

「……まあ、やっちゃったもんは仕方ないわ。今回はなんとか見逃してもらえたみたいだけど、次からは気をつけて行こう」

「うん……」


 ケモ耳をへたりと倒して落ち込むリコちゃんの肩を抱き寄せて、優しく頭を撫でて慰める。

 内側から《不平等だ!》とか《リコだけ甘いよ!》なんて先走りそうになったどっかの誰かさんから不平不満を投げられたけど、わたしはスルーを決め込んだ。


「それにしても、きついわね……」

「うん。リコもやな感じ……」


 わたしはリコちゃんの頭を撫でながらぼそりと口にすると、リコちゃんも同じく眉間にしわを寄せて続いた。

 元々わたしたちはティアから離れる為に体調不良だなんだと偽るつもりだった。

 けれど、飛空艇でコルテオス大陸に渡った頃から、ラヴィナイへと近づくにつれて少しずつ身体の調子を本当に崩し始めていた。

 理由は、きっとティアが空気中に流しているという魔力のせいだろう。


 ――ティアは自分へ好感を持たせる洗脳魔法を無差別に星全体へと流し込んでいる。


 まるで無味無臭の粘液に身体をどっぷりと浸しているような感じだ。

 同伴したベレクトもわたしたちと同じ様子で、船の中ではすこぶる調子が悪そうに見えた。

 ま、ベレクトも、シズクの言うような男の意地みたいなのがあったのかもしれない。弱音みたいなところは見せなかったけど、いつもより口数が減って大人しかった。

 魔法を使う分には問題はないけど、この体調じゃ出力は何割か減るだろう。


「しかし、本当にあのレティア様がメレ……レティ、を殺めた人物なのでしょうか?」


 またも慣れないわたしの愛称にまごつかせながらウリウリは尋ねてきた。

 今度こそ様はつけないで呼んでくれたけど、わたしは喜べなかった。

 悲しく思いながらもベッドから半身を起こしてウリウリへと聞き返した。


「やっぱり信じられない? わたしの胸を貫いたことも、ルイの片目を潰したことも?」

「そんなことは……――いえ、そうですね。正直に話します。頭ではおふたりの話に間違いはないと思っているはずなのに、何か理由があっておふたりを傷つけてしまったのでは? と、彼女を擁護する考えが浮かびました」

「そっか……」


 その言葉にわたしはちょっとだけ気を落とす。こうなることは里を出る前から予測出来ていた。

 ウリウリだけじゃなくて、同伴してくれた皆が……それ以上にわたしたち自身がティアへと服従してしまう可能性は考えてたいのだ。

 だから、わかってた。だから、いちいち悲しむ必要はない――けれど、「ですが」とウリウリは首を振って続けた。


「今もレティア様……いえ、ティアという少女への好意は依然として高まっています。だからこそおかしい、ありえないと私は自分自身を疑える。疑えるからこそ私は貴女たちの話こそが正しいのだと改めて信じられます」

「そう……ありがとう」


 その言葉は、わたしを気遣ってのものだとしても、素直に嬉しく思える。

 けれど、ウリウリの話はそれで終わらず「しかし、もしも私が正気を保てなくなり、ティア側につくようなことがあれば……その時は、私を見捨てて――」なんて余計なことまで足して言うもんだから、わたしは直ぐに強がってテイっとウリウリの頭にチョップを落とした。


「まったく、じゃああんたはまたわたしたちの前に立ち塞がるっていうの? そんなの冗談じゃないわ!」

「メっ、レティ……」

「わたしはもうウリウリと敵対したくない。その言葉が本気だとしても、もう2度と言わないで!」

「……失礼しました」

「わかればよろしい…………えっと、じゃ、そろそろ動きましょうか」

「……はい。そうですね」


 いつまでも悪い悪かったと言い合っている時間はない。

 今回の旅路において、飛空艇を操舵してくれたレドヘイル兄さんの生徒だった地人族の乗組員たちを始め、ドナくん夫婦とキッカちゃんは里にいた時以上にはっきりとティアへの好意を示し始め出していた。

 この場を敵地と考えているのはわたしたち家族を含め、アニスとレクくらいだけど……その2人もティアの近くにいることで影響を受け始めているかもしれない。

 時間はない。

 疑いたくはないが、ドナくんなんかその場の勢いやノリで、わたしたちのことをバラしてしまう可能性もある。

 半分演技で、もう半分は本当に調子が悪いとしても、このままうだうだと休んでいる訳にもいかないわ。


「リコちゃんも辛いだろうけど、今だけは我慢してね」

「うん! もう平気! へっちゃらだよ! リコも直ぐに“白”と連絡とるね!」


 わたしとリコちゃんは空元気みたいに冷たいベッドから勢いよく抜け出して、今まで着こんでいた防寒具やらを一通り脱ぐ。

 続いて腰回りにぶら下げていた鍵束を掴み、その中の1つを握って収納ボックスを部屋の中心に出現させ、リコちゃんとわたしたちが着ていた衣服を仕舞おうとして……。


「……う、我ながらすごい変化をしてるわね」


 ――ふと、収納ボックスに無造作に入れてあった手鏡と顔を合わせてしまい(こんなことをしている暇なんてないのに……)ついつい、わたしは今の自分と向き合った。


 鏡にはお父様とそっくりな褐色の肌と、さらさらの銀髪を持ったもう1人のわたしが写っていた。

 これらの変化はルイがあのベレクトから教わった――わたしたち魔石生まれだからこそ出来た変装だった。


(肌と髪の色を変えただけだけなのに、自分でも別人に思えるくらいには変わってるわね……)


 お母様の血筋寄りだと思っていた容姿も、色を変えただけでお父様の面影もあることに気が付く……いけないいけない。

 とりあえず、黒子みたいな覆面はそのままに、脱いだ防寒具を手鏡の上から押し込むようにして仕舞い込み、代わりにシズクが旅の間はずっとはめていた腕輪を自分の腕に通して「出ろ」と呟いて拳銃を出現させた。

 シリンダーを開いて、事前に装填した弾丸の確認――大丈夫。6発全弾魔力は籠ってある。

 以前はとても頼もしかった武器であるが、この場所では豆鉄砲みたいなものだろう。

 ティアに向かって撃ったところで意味はあるか……普通の魔法ですら効くかは怪しい。

 ただ、無いに越したことはない。豆鉄砲でも無いよりはましだ。


「ねえ、メレティミ……シズクは無事かな?」

「……大丈夫よ。ええ、大丈夫。きっと、ね」


 拳銃を腕輪の中に仕舞おうとしたところで、不安そうに聞いてきたリコちゃんにわたしは笑ってみせた。自分に言い聞かせたところもある。

 今のシズクはギルドカードに再登録した時の名前(あっちのトーキョーで出会ったド派手なねえちゃんから与えられたという苗字)を名乗っている――この話は白い青年から事前に聞かされている。

 あと……ティアはシズクをかなり気に入って、いつも横にはべらせている――って話もルイが激怒する中で聞かされ知っている。

 まあ、その時はわたしも、ルイの中で同じくらい苛立ちを募らせてた。


 しかし、先ほどティアと対面した時、彼女の隣にシズクの姿はなかった。

 もしかしたら、集団の最後尾にいてドナくんたちの影に隠れて見逃していたって可能性も無くはないが、2度ほどしか会っていないとしてもあのティアの性格を考えると、1番のお気に入りであるシズクをその場だけ手放していることの方が変だ。


 ではシズクはどこへ? ――その答えを悠長に考えている暇はない。考えたくもない。

 考えてしまえば、わたしもルイも、自分から受け持った役割を投げ捨ててシズクを探してしまいそうになる。


 白い青年との連絡は、彼が“子”であることから回数が限られていた為、ひと月前の交信から今日に合わせて絶っていた。

 だから、このひと月の間でのシズクの近況はわからず仕舞い。


 ――でも、リコちゃんに預けているシズクのペンダントに、がまだそこに残っていることから、彼はこの世界にいるとは信じている。


 それはウリウリにあげた耳飾りの青い石――わたしの石が消えたことによる安易な発想だ。

 わたしの身体が消滅したことと、ウリウリにあげたピアスの石の消滅が偶然とは思えない。

 だからこそ、彼のペンダントの黒い石がある限り、シズクはまだ生きているってわたしたちは信じている。


「わたしもリコちゃんと同じで1秒でも早くシズクに会いに行きたい。けど、それは駄目……今のわたしたちにはやることがあるの」

「うん……わかってる。リコだって、わかってるよ……」


 そう、今のわたしたちは、もう手を伸ばせば届くシズクよりも、重要な任務を果たさなければならない。


 ――それがだ。


 これが白い青年から提示された、今回里のみんなを巻き込んで敵地へと赴いたわたしたちが出来るティアへの唯一の対抗策である。

 彼女を駒として所有する親プレイヤーを解放することで、プレイヤーの手から離れて好き勝手しているあの馬鹿女を止めることが出来るかもしれない――という白い青年の提案だが、今のわたしたちにはそれ以外に良い方法が思い浮かばなかったのである。


 悔しいけど今のわたしたちじゃティアには太刀打ちできない。

 味方を増やしたところで、魔法の影響でティア側についてしまう可能性もある。

 もしかしたら、わたしたちもいずれティアへと屈服してしまうことだって……体調不良だって自分の内面が無理やり変わっていることに対する拒絶反応かもしれない。


 だから、時間はない。

 わたしたちがわたしでいられる間の時間は、この間も刻一刻と消えているかもしれない。


「あ……聞こえるよ! ……うん。わかった。メレティミ、“白”と繋がった。リコの準備はできた! 直ぐにプレイヤーが封印されているの場所まで案内できるって!」

「そう? わかった。わたしも準備は整ったと伝え……て、わたしたちには見えない癖して、そっちはこっちのことは見えてるだよね。じゃ、ウリウリは大丈夫?」

「はい。いつでも」


 よし、じゃあ今度こそ本当に行きましょうか!

 わたしたちはリコちゃんを先頭に、籠っていた客間から抜け出した。





「……こっち」


 リコちゃん以外には聞こえない白い青年の指示を受けながら、わたしたちは廊下を進んでいった。

 城内はユッグジール御一行のお相手に総出しているのかのように、人の気配は感じられない。

 これなら楽に勧めそうかな? なんて、ふと気持ちが緩みかけたところを直ぐにルイに叱られた。

 ごめん、そうだね。今はわたしたちはティアの懐にいるんだ。


「……上、上の階……ティアの私室にそれが、あるみたい……だから階段を上って……――待って。人がいる……うん、いいよ。行こう」


 そうしてわたしがルイの叱咤で気を引き締め直しことを見計らったかのように、ティアの従者を発見。前にいるリコちゃんの指示に従って物陰へと隠れ、気付かれることなくやり過ごした。

 その後、息をつく間もなく見た目以上に長く感じる廊下を無事に渡り切った先、わたしとリコちゃんが上階へと繋がる階段へと登り始めた――その時だった。


「――あら? そこに誰かいらっしゃるんですか?」

「……っ!」


 気が付かれた? リコちゃんが驚きながら振り返って心配そうに首をふりふりと振る。

 もういっそここは逃げるように階段を上って……駄目だ。これで不審がられる方が嫌だ。


(どうする? ここは魔法を使って昏睡させるか? けど、他人が使用した魔法を感知するような能力をティアが持っていたら? ここは言わばティアの身体の中みたいなもの……考えすぎ?)


 でも、思ってしまったら簡単に魔法なんて使えない。 

 もういっそ力業で――そんな風に声を掛けてきたメイドの対処をわたしが考えていると、


「……あ、ああ。すまない!」

「お客様? どうなされましたか?」

(ウリウリ!?)


 わたしたちの最後尾にいたウリウリが、身振り手振りを使って大袈裟にその声を掛けてきた従者の前へと出て行ってしまった。

 階段に足をかけたわたしたちの位置からでは2人の姿は見えない。


「そ、その……お花を摘みに、ですね! それで、その、探しているんですが……」

「……そう、ですか。わかりました。ではこちらへ」

「あっ、っと、そうだ。待ってくれ。何か飲み物も欲しいんだが、その……いいだろうか?」

「はい? そう、ですね。かしこまりました。お茶もお部屋の方に運ばせてもらいます。それでは、まずはお手洗いの方へご案内を――」

「ああ、っと。その、なんだ。お茶と言うのは選べるのか? 例えば、色とか味とか……ええっと、個人的には渋みの強いお茶は苦手なのですが……」

「……はぁ。……では、そうですね。ここ最近レティア様が好まれているヘミーン茶はどうでしょうか? あっさりとした口触りで渋みは少ないかと思われます。城の皆からの評判も良く、レティア様に倣ってヘミーン茶をよく飲まれています。他にも若干のエグ味はありますが――」

「ああ、物は試しだ。色々なお茶を貰えるかな? 私も同行しよう。荷物運びくらいはさせてくれ」

「いえ、お客様にそんな真似はできません。それよりもお手洗いの――」


 ウリウリ……ごめん。

 わたしは心の中でそう身代わりになって足止めをしてくるウリウリに謝りながら、心配そうにこちらを見つめるリコちゃんへと強く頷いて先へと促した。


「……。なるべく音を立てないよう……でも、なるべく急いで行こう」

「え、ええ。わかったわ」


 わたしも何かを擦るような音を耳にしていた。

 は地下から階段を上がってきているようで、従者の誰かだと思うが……リコちゃんの言う通り忍び足でなるべく早く、階段を上がっていった。


 その後、どうにか人目を避けながら目的地らしき階層へとリコちゃんの後ろを着いて行き、さらにそこから廊下をひそひそと2人で音を殺して進んでいく。

 こうして無事に誰にも見つからずに到着した部屋を前に、わたしたちは顔を見和わせて、ほっと胸を撫で下ろした。

 ここが間違いなくティアの部屋だろう。

 部屋に入る前から他とは違う豪勢な2枚扉の造りからしてわかった。


「……人の気配はない。うん。大丈夫そうだ」


 そう言ってリコちゃんは先に部屋の中に入り、わたしたちも続く。

 中は予想通りというか、予想外というか……わたしたちが案内された客間よりも数倍に広く、ベランダに続く大きな窓がついた立派な部屋だった。

 予想外と思ったのは、大人が3人、優に眠れるような大きなベッド以外にはこれといって目立ったものがなかったからだ。

 だから入って直ぐは、王様の私室にしてはなんだかシンプルだなーなんて思っていたが、


「メレティミ、球があるのはこっちの部屋……わっ、すごい……!」

「ん? どしたの、リコちゃ……げっ……!」


 最初に懐いた感想は、隣の部屋に繋がった扉の先を見たことで、度肝を抜かれるように考えが変わった。

 その部屋はまず姿見をそのまま取り付けたような大きなドレッサーが最初に目に映ったが、それ以上にまるで盗んでくれと言ってるように金銀財宝、煌びやかな装飾品が無造作に置かれていた。

 どうやらここは一部屋まるまるクローゼットのようだ。

 まるで服屋のように何着もの衣服がかけられたハンガーラックもいくつも部屋の中に並んでいる。

 なんだか女の子の夢を詰め込んだような部屋みたいにも思えて仕方ない。


「……すごいな。ピカピカしてる」

「……そうね」


 適当に散らばっている貴金属を手に取って見ると、これだけでもわたしたちが1年旅をして稼いできた給金がはした金みたいに思えてしまうくらい立派なものだ。

 アルバさん並みの腕前を持った彫金師の作品だろう。まだまだ半人前程度だったわたしが見ても、それら1つ1つの貴金属の造形は素晴らしいものばかりだ。


(一応あの馬鹿女は元王女であり、今は王というか女王様だったなぁ……)


 普通の王様や王妃様が、自分が身に付ける宝石類をどこに保管しているのかはさっぱりだけど、流石にこの置き方はそんなに大事にはしてないのかもしれない。


「……まったく、本当にいやなやつ……」


 昔のわたしがこの光景を見てどう思うかはわからないが、今のわたしはこれらを見たところですごいとは思っても、羨ましいという気持ちは一切浮かば……いや、ちょっとくらいはあるにはある。

 でも、それは綺麗な花を見て気紛れに摘み取りたくなったくらいのものだ。

 今のわたしは、これらの高級なアクセサリーなんか比べものにならない贈り物を、最愛の人から与えられている。


「ま、こんなものよりも……え……もしかして、あれ?」

「メレティミ、あれだ! あれっぽい!」


 一瞬、目が踊りかけたけど、直ぐに目的のものをきょろきょろと見渡して……それらの金銀財宝に埋もれがちに、それはあっさりと見つかった。

 球体のひとつがわたしたちに気が付くなり、激しい点滅し始めていた。


「……これが、あの白い少女だっていうの?」

「うん。“白”もそう言ってる。ティアの魔道器によって玉の中に封じ込められたんだって」

「……そう」


 わたしたちは無数の宝石類を雑に腕で払い、目的であったを目の前に立ち尽くした。

 大きさは野球のソフトボールくらいだろうか。

 宝石以上に無造作に置かれた白・黒2つの球体は、この部屋の中では地味すぎて、逆に目を惹く。そこに発光までしているのだ。

 これでこの球がわたしたちが探していた真っ白な少女じゃないって言うなら嘘になる。

 まるでわたしたちにさっさとしろと急かしているみたいに……まったく、どんな姿になっても高慢なところは変わらそうだ。

 一度リコちゃんと顔を見合わせた後、わたしは半透明に点滅する球体へと手を伸ばした――その時。


「……きゃっ!」

「メレティミ!」


 突如、下の階から激しい地響きが起こり、わたしは思わず伸ばした手を引っ込めて身体をふらつかせてしまう。そこをリコちゃんが後ろから抱き留めてくれた。


「な、なんだ? すごい揺れたな……」

「え、ええ。わからないけど……下からズンって?」


 地震はとても大きな音と共に起こった。

 今の地震を受けても、棚の上に置かれた球は変わらず発光を続けていた。

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