第281話 ワタシらしく生き続ける

 三者三葉、ワタシに向けた好意は良いも悪いもって具合だけど、概ねオッケーかな。


(やっぱりいいなぁ……みんなとっても魅力的~!)


 観賞用にライズくんと従者の金髪女、それにレクくんを手元に置いておきたいって欲が生まれてくる。けど、それはきっと……今の彼らの魅力や良さを殺してしまうことになるだろう。

 容姿以上に彼らが魅力的に見えるのは、あふれ出る活力をその身から発しているからだ。

 年中日陰者みたいな生活をしているからか、うちの国民は消極的で大人しいのだ。


 この滞在中に強めに魔法をかけて操ることもできると思うけど、無理に精神に介入して壊れる可能性もあるから厳しい。

 そうして彼らを手に入れたとしても、今この場で得ている感動はもう2度と得ることはないだろう。


(今回は皆と仲良くなって終わりにするのが丁度いいかな……)


 ぐっと欲しい欲しいという気持ちを飲み込んでワタシは笑って頷く。

 今のワタシが自制出来ているのはきっと、彼ら以上に魅力的な存在を手元に置いているからだ。

 シズクくんを所持している今のワタシだからこそ、彼らを無理やり国に迎え入れようなんて行動を起こさずに済んだ。


「さぁ、挨拶はこのへんで場所を変えませんか~? 続きは温かいお茶とお菓子を囲みながらなんてどうですか?」


 とゆうか、ワタシがこの場所から移動したかった。

 後の近衛2人に部屋の中を暖め続けるよう命令をしていたたはずなのに、挨拶をしている間にすっかり冷え始めている。

 シズクくんなら室内を常に一定の温度に保ってくれたっていうのにねー。はあ、つかえない。

 ワタシの提案はもちろん満場一致。

 畏まる長たちを前にワタシはすたっと勢いよく玉座から立ち上がり、逸る気持ちに押されて颯爽と出口へ足を向けた。


「「レティア様、どうぞ」」


 と、今までカカシでしかなかったその近衛2人も早々に動き出し、出口である二枚扉を率先して開けてくれる。

 感謝の言葉は一言たりとも与えない。これくらいはやって当然なの。

 近衛によって開けられた扉を通り抜け、歓迎の準備が整った応接間の方へ――と、移動しようと謁見の間から出て行こうとしたところで、


「……っ!」

「ん? キミたちもユッグジールのお客さんたち?」


 と、ワタシは部屋の外で見慣れない男女と遭遇した。

 褐色の銀髪男に、赤目の金髪女……それから、裾のある頭巾とフェイスベールで覆面のように顔を隠している女の子たち2人だ。

 4人の男女はワタシたちの登場に激しく驚いた様子を見せた。

 中でも覆面女子2人は慌てて銀髪の男の背に隠れようとする素振りすら見せる。


 最初はワタシもなんだこいつら? 長たちの付き人かなぁ? くらいにしか思わなかったけど、ワタシのイケメンセンサーは直ぐに銀髪男子を捉え「あれ?」って首を傾げ、直ぐに彼のことを思い出せた。


「もしかして……いえ、もしかしなくても、イルノートさんですよね!? ひっさしぶりですねぇ!」

「……はい。ご無沙汰しております。レティア様」


 やった、大正解!

 以前は頬のこけたワイルドな感じだったけど、今はすっかりと肌艶もある健康的な美男子へと変貌している。きっとこれが本来の彼なんだろう。

 いやはや見違えた見違えた。

 シズクくんとタメを張るくらいに整った容姿はきっと多くを知らないワタシだけど、天人族の中でも1、2を争うほどの美形なんじゃないかな。いや、断言してもいいね。


(むぅ……イルノートに限っては食指が動くかも……)


 彼なら無理に引き留めたいって思っちゃう。

 更に1度味見もしてみたいなぁ……なんて、今の彼なら結構本気で考えちゃう。


(ああ、いいなぁ……シズクくんが駄目だった場合は彼を次の候補にしちゃおうかなぁ~)


 けど、その場合彼の隣にいる女たちが障害になるかもしれないかな。


(……あー、どうしよう。今回ばかりは本気で狙いに行っちゃおうかな!)


 そこの女3人が彼とどういう関係かでティアちゃんはもっと燃え上がっちゃうぞ。


「ねえ、イルノート。そこにいる人たちは誰ですか?」

「…………あ、ああ。ひとりは私の妹……ですが、こちら2人は……あー……今まで生き別れになっていた娘たちでございます」


 ワタシの問いにイルノートは言葉を詰まらせながら答えてくれた……えぇ、ネタバレ早ぁい。

 なんだ、残念。

 恋人だったらこの場で軽くちょっかいを出しておちょくってやろうって思ったんだけど……って、娘!?


「えっ、イルノートって子供がいたのっ!?」

「……え、ええ。……私も、2人の娘がいたことは前の帰省の時に初めて知りました。それで、えー……色々あって共に暮らすことになって、その……ごほんっ」


 イルノートは誤魔化すように1つ咳払いをすると、ワタシに向けていた困り顔を女たちへと移し、金髪の女がそれを合図とばかりに紹介を始めてくれた。


「私はウリウリア・リウリアと申します……レティア様。ラヴィナイの王である貴女様とお会いできて喜ばしく思っています」


 と、ウリウリアと名乗る金髪女は深々と頭を下げた。

 妹と言ってもあまり似てるようには見えない。


(ま、似てなくても彼女もイルノートに負けず劣らずといった美人さんだなぁ……って、あれ? この人、どこかで一度会った覚えがあるような気がするかな?)


 ……うん。思い出せない。ただの既視感だとさっと切り捨てる。

 仏頂面で笑顔の1つも浮かべていないが、キッチリとした綺麗なお辞儀は何かの軍人さんみたいに思えた。

 頭を上げた時に、ちらりと長い耳の先で揺れる銀色のフレームだけ付いたピアスが目に付いた――。


(……なんだろ。石でも乗っていたのかな?)


 金髪女は一言二言、ワタシに向かってお世辞みたいな挨拶を終えた後、イルノートが続いて娘である2人の女たちの肩を叩いて口を開いた。


「そして、こちらがリコ。こちらはメ……ル……えー……レイ、と申します」


 そう、イルノートは自分の背中に隠れた女2人を紹介してくれた。

 リコと呼ばれた女はどうやら亜人族らしい。

 顔は隠しているが、細身で身体つきは厚着した服の上からでもわかった。

 裾から出た尻尾は白い体毛なのに、頭にすっぽり覆った頭巾からはみ出た長髪は赤い。


 リコという亜人族と同じ格好をした、もう1人のレイという女も銀色の髪を頭巾の先から漏らしている。

 服の切れ目から覗く褐色の肌は父親のそれと同じだが、更に目を惹くのが赤と青のオッドアイだ。

 こんなにも色鮮やかな色違いの両目なんて本当に羨ましい。ワタシの黒目と交換してほしい。

 しかし、2人とも頭巾やフェイスベールで顔を隠している理由は何だろ。

 まるで目だけ覗かせた黒子だ。


「……」

「……」


 彼女たちはイルノートの背後から顔を覗かせて、恐る恐る、頷くようにワタシにお辞儀をした。ワタシとしてはしっかりその下に隠れている綺麗なお顔をぜひとも確認したかったかな。

 きっと美人さんだという気配は鼻から下を覆い隠した布越しから、ひしひしと感じ取る。

 折角だから隠れたその顔も見てみたかったけど、一向に外してくれる気配ない。


 というか、あれぇ……?


「そっかぁ……ふーん。じゃあ、リコさんもレイさんもよろしくお願いしますね」


 にっこりと普段から使い慣れている愛想を浮かべ、先に挨拶をするけど、2人は一言も話すことなくまたも頭を下げるにとどまった。

 この反応には好感度急降下。ティアちゃんカチンと来る。

 むっとしそうになったけど、それよりも先にイルノートが2人をフォローするかのように言葉を走らせた。


「どうやら2人とも緊張して口を開けないようです。娘たちに代わってご無礼をお詫びします」

「……緊張ねえ」


 嫌味を込めてワタシはぼそりと呟いた。

 緊張というにははちょっと違うんじゃない?

 女の勘ってトコロもあるけど、空気中の魔力を通して否定的な気配がプンプンしてるんだよ。


「本来、案内役として私1人が長たちと同伴するつもりでしたが、うちの娘たちがどうしてもレティア様にお会いしたいと我儘を言いまして……こう見えてもレティア様を前にしてとても喜んでいます」

「そぉ? なら、仕方ないかー……」


 きっと嘘だな。でも、イルノートがそう言うなら、心の広いティアちゃんはそれに騙されてあげよう。

 でも、ちょっとくらい見てもいいよね――と、イルノートを壁にして隠れる2人へとそそくさと近寄って、


「ね? ちょっとだけ2人の顔見せてくれな――」

「「……っ!」」


 と、彼女のフェイスベールに手を伸ばした――その時。


「……ひゃっ!」


 ワタシは小さな悲鳴を上げてその場で飛び跳ねた。


「「「レティア様!!!」」」


 近衛3人が声を掛けてくるが、ワタシはドレスの胸元を握り締め、自分の身体の中に生まれた奇妙な感覚に戸惑ってしまう。


 かちり、と鍵が解かれるような……胸の中のつっかえが解き開かれるような感覚だ。

 この身体に生まれてから1度たりとも生えたことも、見たこともない産毛が逆立つような奇妙な感覚だ。

 それから、まるで、とシズクくんに強く注意をされたみたいな感覚だ。


「おいっテメェ! レティア様に何したんだよ!」

「貴様、私の主に危害を加えようもならただではおかないぞ」

「お姉ちゃんたちレティア様に何したのー? 僕にも教えてほしいなぁー」


 と、ワタシが身体に走った感覚に驚き戸惑っていると、近衛たちがその女たちを問い詰めようとし始め出す。

 このまま何もしてない2人が悪者にされる展開も悪くはない。


「3人ともちょっと黙って! 彼女たちは何もしてない! ワタシが勝手に驚いただけ!」


 でも、せっかくこんなにも素敵な日につまらないことで水を差されたなかったので、直ぐにやめさせ下がらせた。

 まったく、どうでもいい時にだけ過敏に反応するのはやめて欲しい。

 やっぱり消すしかないか――と思いながらも、自分の身に起こった感覚を思い返しては黙って考え込む。


(……いまの感覚は…………まさか……」


 試しに、今自分が経っている場所から数歩、に歩いてみる――ひくっと身体が反応する。


(……やっぱりだ)


 それは蝶の羽ばたきで肌をくすぐるような感覚だった。

 けれど、今のその肌に吹き付けてきたそよ風を前に実感する。


(まさか、ここまでシズクくんがやってくれるなんて……思ってもいなかった!)


 ワタシはついている。

 これはもう絶対シズクくんのことは手放せなくなってしまった。

 だって、彼が、シズクくんがいたら。


 ――ワタシ、この世界のどこまでも行ける!


「レティア様、どうか……なさいました?」

「ううん! なんでもな~い!」


 心配してイルノートが声を掛けてきたけど、ワタシは笑って首を横に振って答えた。


(――ああ、今すぐシズクくんに会いに行きたくてたまらない)


 会って飛び付いて抱き付いて、その場でお客さんにも近衛たちにも、皆に見られるのも構わずに彼とちゅーっとキスがしたい。

 そして、今すぐにでもシズクくんにワタシの身に起きたことを知らせて、今まで出来なかったことを2人でしに行きたい。


(……だけど、これも我慢。この先いくらでも時間は有り余っている!)


 イルノートの娘たちの顔や嫌な態度なんてどうでもよくなるくらい、ワタシは舞い上がっていた。

 でもこの場は落ち着いて、コホンと咳払いをする。

 今までイルノートとの会話で蔑ろにしてしまったお客さまへと振り返って頭を下げた。


「……ごめんなさい。皆さん、お待たせしました。イルノートも積もる話はまた後で……」

「あ、ああ……そうですね。ですが、最後に1つだけ、レティア様にお願いしたいことがあります」

「ん? お願い?」

「ええ、実は――」


 と、イルノートのお願いと言うのは個室を1つ貸してほしいという。

 なんでも、緊張のあまり娘2人は体調を崩してしまったらしく、休める場所を貸してほしいってことだ。

 この女2人の印象は最悪にまで落ちているけど、こんなところで駄目なんて言うほどティアちゃんの心は狭くない。


「はい、わかりました! ……慣れない船旅の疲れもあるのかな? メイドに案内させますので、ゆっくり休憩してくださいね!」

「ありがとうございます。うちの娘たちがご迷惑をかけて申し訳ありません」

「いえいえー。じゃあ、姉妹ちゃんたちはまた後でってことで。次に会った時にはその顔を見せてくれると嬉しいなー!」 

「「……」」


 と、言う訳で、体調を崩した娘たち2人と、彼女らに尽きそうウリウリアって女とはここで別行動。

 3人は呼び寄せたメイドたちに任せ、今までずっと待たせてしまったお客さまと共にワタシたちは応接間の方へ!


 ……もう振り返ることはなかったけど、イルノートの娘だとかいう女たちのから感じる嫌な気配は今も背中越しにひしひしと感じる。

 嫌われ妬まれるのは生まれる前から慣れっこだけど、気分のイイもんじゃない。

 だけど、今のワタシは最高にハッピーだから見逃してあげる。

 何の恨みがあるのか知らないけど、あんたらが何をしたってサイキョーであるワタシに適うはずもないしねー。


(ま……気が向いたら、遊んであげるよ)





 祭壇の上で横たわるノイターンに触れた瞬間、まるで身体の内側から燃やされていくような感触に襲われた。

 最初は全く何をされているのかわからなかった。


 だけど、シズクという器の中身を無理やり引っ張られるような激しい痛みを感じた瞬間、ノイターンはボクを食らおうとしているのだと理解した。

 痛覚を遮断しているのに、痛みを感じたのは、きっと外部からの攻撃ではなく内側からのものだからだろう。

 見える肉体ではなく、見えない魔力や心をノイターンは攻撃してきたのだ。

 身体に侵入したノイターンの魔力は、ボクの魔力を奪い、宿主である自身の身体に戻ろうしているようだ。

 だからボクは自分の身体に蓋をするように、ノイターンの魔力を外に出ないように抵抗を続けた。


 少しでも気を抜くと一瞬で今までボクが貯めてきた魔力を根こそぎ奪い去ってしまう。

 激痛に苦しみながらも魔力が外に逃げ出さない様、抗うので精一杯だった。

 次第に立っていることすらままならず、何時しかボクはミイラのようなノイターンの上に倒れ込んだ。

 接触した箇所が広がったことで、更に自分の中へと無理やり魔力を注入され、流し込まれた魔力はボクの身体を貪り食らおうとする。


 それでも、ボクは悲鳴を漏らしながら、彼から抵抗を続けた。


 外へと逃げようとする魔力に抗っていると、意思より先に身体の方が根を上げてしまい、ところどころで皮膚が裂けて血しぶきが噴き出した。

 開いた傷口から流れ出した血と共に下敷きにしたノイターンに魔力を、ボクの命を飲まれていく。穴の開いたボクの残り時間はぐんと短くなった。

 それでもボクは耐えた。耐え続けた……だって。


 ――このままむざむざこの化け物に奪われる? そんなの絶対に許せるものか。


 ボクは身体も名前も、自分の生すら“僕”に奪われ続けてきた。

 ボクはこれ以上誰にか奪われるのはたとえ死んでもいやだった。

 だからこそ、そんなの許せるかと抗い続けた。


 ……だけど、ボクがやれることなんて何もない。


 魔力が外に出て行かないように耐える以外、何もできない。

 自分の身体だって倒れてから全くと動かせない。動かせるのは苦痛から大きく叫び声を上げ、歯を食いしばるだけの口だけだった。


 どうすればいい? どうしたらいい――?


 抗い続けながらボクは何度も何度も考えた。


 考えて考えて。

 もがきながら考えて。

 苦しみながら考えて。

 抗いながら考えて。

 耐え続けながら考えて……。


 そして、極限まで追い詰められたボクは1つの結論を出した。


 ――体内で暴れている魔力の帰る場所、ノイターンの身体を消してしまえばいい。


 けど、今のボクは身動ぎすらままならなくて……だから、唯一動かせる口で彼を消そうとした。

 だから。


 


 自分がおぞましいことをしているなんて考えは一切浮かばない。

 喰うか、奪われるか。

 生死がかかった状態でまともな感覚なんて1つだって働きはしなかった。





 この2日の間、ボクは食事をし続けた。

 口の中に入るのはノイターンと呼ばれた化け物の身体だ。

 無我夢中に餌に首を突っ込む犬のように我を忘れて貪りついた。


 この2日の間、ずっとノイターンの身体を噛み千切り、噛み砕き続けた。

 最初は口を開くことすらままならなかったが、強化魔法で自分の身体に命令をして噛り付いた。

 思うように魔法を使うことが出来ず、力の加減も出来なかったから強く噛み合わせたことで歯が何度か折れたけど、ボクは構わずに噛み続けた。


 この2日の間、ボクはずっとノイターンを食べていた。

 味覚を失っていることをこの時ばかりは感謝した。けれど、舌の上に走る異物の感触だけは消せなかったのは辛かった。

 薄皮だけの鶏の足を噛り付いたような感触だった。これならまだ石ころを噛んだ方がましだと思えた。


(それでも、この2日の間でノイターンの身体は最後まで食べたよ……)


 彼の身体を3分の1ほど食べ終わった頃、どうにか身体も動くようになっていた。

 もう彼がボクを奪おうとする力は残っていなかった。それでもボクは食事を続けた。

 それもボクが他者から奪っているという優越感に浸っていたからだ。

 手も口も止まらなかった。


 最後はしっかりと手を使って口へ運ぶようにもなった。

 折れた歯も身体の一部と捉えてくれたのか、いつの間にか綺麗に修復されていた。裂けた皮膚も何も無かったかのように綺麗に治った。

 彼の身体は、頭から突き出たトナカイみたいな2本角から、足の爪1枚まで全て喰らいつくしてやった。


「ごちそうさまでした……」


 ボクは挨拶と共に食事を終えた――ティアの言った通りだ。

 ここにはボクが望んでいたものが確かにあった。

 彼を摂取したことでボクはずっと求めてた強大な力を手に入れた。

 これには大きな達成感すらある。


 けれど、それはいわば準備が終わったことによる達成感に近い。また、達成感とは別に、魔道器を発現した時とはまた違う高揚感がボクを包み込んでいく。

 その高揚感は今まではうんと我慢し、自分や“僕”に言い聞かせてきた自制をいとも容易く打ち砕く。


「ティア……今行くよ……」


 彼の身体から得た魔力は膨大だった。が、それ以上のものをボクはノイターンの身体から手に入れた。

 それは目には見えない繋がりだった。

 今のボクはティアと見えない線で繋がっている。

 前以上に身体の感覚が希薄になっていたが、前以上にティアのことがわかる。

 今ならどこで誰と何をしていようが彼女の一挙一動、全てが掴める感覚がある。

 これでティアがどこに隠れていようとも直ぐに居場所を突き留められる。


「ティア……ティア……」


 2日ぶりに立ち上がった足はゆっくりと祭壇を下っていった。

 まだ意識もおぼろげだけど、ボクは歩き続けた。

 地面を踏む感覚もすっかり無くなったけど、ボクは気にせずに歩き続けた。


 だって、ボクを待っているティアがそこにいるから……。

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