ボクが奴隷でキミが王様で

第261話 ボクは求める他に何もありやしない

 人生とは行き先の見えない列車に乗るようなものだ。

 ――人生とは行き先の見えない列車に乗るようなものだ。

 僕はそう言う風に人生を捉えている。

 ――そう、死ぬ直後の僕は人生ってものをそんな風に捉えていた。


 では、人生というスタート地点を定めるとしたら、どこから開始するか。

 ――どこから始めようがそんなものどうだっていい。

 産声を上げた時? 胎内に宿ったとき? それとも、の時? それを定義するのはひとりひとりちがう。

 ――そうさ、僕なんて石から生まれたんだ。普通とはちがう。


 でも、そうしてスタート地点に立ったわけだ。

 ――拒否権も無いままにね。

 僕たちは列車に乗って人生という道を進んでいく。

 ――先の見えない不安を抱えてさ。


 停車駅もなく一本道をひたすら走り続ける列車である……と、僕は思う。

 ――最初から結末の決まった道を止まることなく進んでいく列車なんだ……と、僕は考え続ける。


 人生には分かれ道だってあるって? 

 ――本当にあるのだろうか?

 けどそれは自分で選んでいたつもりの事柄も、既にかに決められていて、が目の前に続いていただけだ。

 ――この結末だって見えないですら予見できない、選ぶ暇すら与えられなかった、が目の前に続いていただけだ。


 そして、何十年と乗り続け線路がなくなるまで列車は止まること無く走り続ける。

 ――何百年先でもいいから、線路がなくなり列車が止まることを強く願い続ける。

 行き先の見えない通路ってやつの長さは人によって違う。だいたいの人が同じくらいの線路だと思うけど、中には人よりも半分だったり、もっと短かったり……。

 ――行き先は見えずとも僕の場合は尋常じゃない長さを持つ。だいたいの人と同じくらいの線路であったらどれだけ良かったか……。

 スタートしても道がなくてそのまま線路から落ちていく列車もいる。

 ――あの日、あの時、僕は落ち続ければよかったんだ。

 そして、どういう結果にしろ走ることをやめた列車っていうのは終わりを意味している。

 ――あの結果で走ることをやめてしまえばよかったんだ。

 これは絶対。たぶんわかってもらえると思う。

 ――もういい。この気持ちなんて誰もわかってくれないって諦めている。


 死ぬってこと。人生が終わるってことだ。


(人生が終わる。死ぬってことだ……と、僕は信じていた)





 この10年、ボクは空を見た覚えが無い。


 ――いや、空ならば毎日と目にはしている。


 ここで言う空とは真っ青な、雲1つない晴れ空のことだ。

 今のボクがいるこの場所はいつだって紫色に染まった分厚い曇に覆われていて、夜も、朝も、昼も、いつだって空は隠れてしまっている。

 晴れ間というものは1日もない。雲の切れ間さえも覗かせない。

 今も内外の温度差で白く曇った窓を通して見える空は紫色をした曇り空だった。

 さらに今は暴風に乗った白い雪が窓を強く叩いているといった悪天候の真っ只中でもある。

 だから、青い青い、雲1つない真っ青な空ってやつを見たことがない。

 本当の空は一体、どんな色をしているんだろう。

 雲1つない、青一色しかない大空とは――。


「……見てみたいな」


 ボクはただ見たくてたまらなかった――。


「……何が、見たいって?」


 無意識に呟いた独り言はどうやら彼女に拾われてしまったらしい。

 その声には苛立ちがふんだんに乗っていた。


(あ、やっちゃった……)


 ボクは胸の中で小さく嘆いた。

 今のボクは物言わぬ寝具……彼女の抱き枕でしかない。

 ボクの胸に寄せていた顔を上げて見せる彼女の黒い瞳は、不機嫌に吊り上がってこちらを強く睨みつけていた。

 家具が勝手に持ち主の許可無く口を開いてはいけない。

 だから、今のはボクの失態だ。


「……ううん、なんでもないよ。起こしちゃってごめんね」


 ボクは彼女が癇癪を起こすよりも先に、申し訳なさそうに謝った。


 彼女は睡眠前の運動(殆どはボクが動くばかりだけど)の後、快楽の余韻に浸ってぐっすりと“夕方”まで眠りにつく。

 時にはボクに甘えてきて眠る前にいくつか睦言を交わすこともあるが、殆どは彼女が一方的に気持ちよくなったところであっさりと就眠へと切り替わる。“今朝”もそれだった。

 この部屋に着いた途端、言葉も交わすことなく彼女はボクに抱き付き、それが始まりの合図のように激しいキスの後にベッドへ誘わる。

 その後の彼女はいつだって受動的で、服を脱がすのはボクの役目で、最初の準備で気持ちよくさせるのもボクの役割で、その後の男女のそれが始まっても、例え馬乗りにされても動くのはボクの役割で……。


 どんなに些細なつぶやきでも彼女の睡眠の邪魔をしたのだから、腹に穴を開けられようが文句を言える立場ではない。

 現に何度か身体に風穴が開いたことがある。彼女は機嫌が悪いと直ぐに手が出る。

 ま、実際に動くのは彼女の保有する魔力だ。その魔力は可視光の腕となって彼女の望み通りに動き出す。魔力の腕に掛かれば無防備なボクの身体なんて直ぐに穴が開く。

 でも、ボクがいるのは自分の身体に穴が開くことじゃない。


 彼女の機嫌を損ね、次にこの子が部屋に来てくれる日が伸びることの方が嫌だった。ボクは機会があるならいつだって彼女を抱いていたい。

 彼女の愛らしい唇をがむしゃらに吸い上げて、小振りの乳房を撫でまわし、ほっそりとした腰を掴んでは……そこにボクが最後に気持ちよくなることが無いとわかっていても、時間の許す限り彼女と身体を重ねていたかった。


 でも、それはボク個人の勝手で切実な願望だ。

 許す許さないは彼女の気まぐれで決まることばかりであり、今回はボクの失態である……が、どうやらお咎めを受けずに済んだらしい。

 見せた表情とは裏腹にそこまで逆鱗に触れたようではなく、


「ふーん、そう……」


 と、これまた不機嫌っぽく、そっけない返事を口にするだけだった。

 ボクは謝罪を込めて彼女の髪を撫でた。

 何度も、何度も……眠りを誘い、あやすように彼女の細く柔らかな髪を撫で続ける。

 彼女が気持ちよく眠れるように、いつもよりも丹念に彼女の白い髪を撫でて、おまけとそっと額へと唇を落とす。

 唇を放した後、ご機嫌斜めなその顔に優しく微笑む。が、それがどうしたと言わんばかりに彼女はボクの胸の中に顔を埋めるようにして視線を逸らした。

 続いてボクの長髪を引っ張った。


「……ねえ、さむいんだけど」

「……直ぐに暖めるよ」

「……これくらい言われる前に気を利かせてよ」


 と、彼女は悪態を吐きながらボクの胸へと頬を寄せて目を閉じる。

 彼女の目覚めは悪い。いつもは出ない悪態は空気を吐くみたいに出る。

 ボクも彼女の華奢な身体を両手で包み、魔法を使って室内の空気を暖め始めた。

 会話も無く、吹雪が窓を叩く音だけが部屋の中に響き渡った。

 ……暫くして、適温に縮こませた身体の硬さが取れたのと同じ頃、寝息は直ぐに聞こえてきた。


「……」


 彼女が眠りについたことを確認して、ボクはまた白く曇った窓を見た。

 外は変わらず紫の曇り空が続いていた。部屋に差し込む光の加減からそろそろ昼時だろう。


(昔の自分なら今どうしただろう……)


 今頃は昼食を摂っている頃だっただろうか。

 仕事に精を出している頃だろうか。


(それとも、と青空の下で、笑い合っていたのだろうか……)


 今のボクにはそれらの行為がどんなものかはわからない。

 美味しいのか。大変なのか。楽しいのか。

 どれも知ってはいるし、記憶としては認識していても、それらは全て昔の“僕”のもので、今のボクはどれ1つとして経験したことがないことばかりだ。


『――この世は何も知らない人の方が幸せなんだろうなあ』


 何年か前。彼女がそんなことを行為が終わた後に話し出したことを思い出した。

 曰く、美味しいもの、美しいもの、楽しいこと、気持ちイイこと、それらを知ることが無ければ退屈で変わり映えの無い窮屈な毎日にも何も不満1つ漏らすことなく続けていられる、とのこと。

 知性を持った生命である限りそんなことはほぼ不可能に近いことではあるけど、と付け足していたが――いつもは彼女の機嫌を損ねないよう、全てにおいて同意してきたボクだけど、その時ばかりはなるほど、と素直に頷けた。


(だって、青い空を知らなければ、ボクも青空を見たいなんて思わなかったかもしれないんだからさ――なんてね)


 今だってそうだ。何も知らなければその望みも懐かなかっただろう。

 ふふ……と、一息小さく口から苦笑のようなため息が漏れて、胸の中にいた彼女の白い髪を揺らした。

 ふわりと、細く長い髪が宙を舞い、腕の中で彼女は身震いを起こす。

 一瞬、起こしてしまったかと眉を寄せたが、彼女はくすりと微笑を浮かべるだけで、その後も目を覚ますことなく寝入ったままだった。


(よかった……)


 ……ほっと安堵する。

 今度はまた違った微笑を浮かべて彼女の安らかな寝顔を眺めた――彼女の寝顔は直前に見せた微笑を含め、とても可愛らしいものだった。

 普段でも彼女は人の目を惹く愛らしい容姿を持つ。

 絶世の美女とは言わないが、10人中9人は見蕩れるほどの美少女と言っても過言ではない。そんな彼女の無防備な寝顔は普段のそれとは違った魅力を見せている。

 それ故に先ほどまで肌を重ねては、静かに快楽に身を任せて喘ぎ、お互いを求めては猥らに乱れていた人物とは別人のように思えた。

 もう10年も近くこの関係が続いているが、毎度のこと腕の中で見せるこの寝顔だけが信じられない。


「……」


 またも、ボクは彼女から視線を外し、窓の外へと視線を向けた。外は変わらず吹雪いたままだった。

 窓の外に視線を向け続け、おもむろに彼女を抱きしめるために預けていた左手を自分の首へと送った。

 長い自分の黒髪に首筋をくすぐられたとか、妙な寒気を感じたといった理由ではない。日常的に首に触れることが習慣になっていたため、今回も同じく反射的に手を伸ばしただけだ。

 どうして自分の首に触れることが習慣的になったかと言えば首にはめられたを忌々しく指先でなぞるためだった。


 ――首輪だ。


 今、ボクの首には無骨な首輪がはまっている。

 感触的に鉄に近いが、金属の類ではないことをボクは装着されたその日から知っている。

 この首輪はペットや家畜に着けるそれと同様のものであり、今のボクが彼女の所有物としての証だった。

 首輪は首の後の、うなじあたりから太い鎖と繋がり、伸びていた。

 指をその鎖の根元へと這わせ、下から順々に触り続け、1つ目、2つ目、3つ目……数にして9つ目の輪っかの先で指は止まる。

 10を数えるその前に輪っかは半分で途切れて終わる。ただ、この鎖は10の半分で途切れているわけではなく、その先の半分と共に見えない透明な鎖となって、今も胸の中にいる彼女へと繋がって――いや、握られているのだ。

 ボクの首にはめられた首輪と鎖は魔法で出来た特別なもので、ボクの"主"である少女が生み出す魔道器と呼ばれる魔法によって作られたものだ。だから、厳密に言えば金属ではない。

 以前は首輪と同様の手錠と足枷も両手両足に繋がれていたが、今はどうにか信頼され……いや、性行為で邪魔になるからという理由で外されている。


 空間から伸ばした鎖で対象を縛る魔法の拘束具――そう、捕縛されてから少し経って彼女から説明を受けた。


『ワタシずっとあなたが欲しかったんだもん。気にいったものは縛ってでも近くに置いておきたいじゃない? だから――』


 だから――自分の奴隷ものになれと言われたあの日、ボクは2つ返事で承諾した。


(まあ、はいとかいいえとか、返事の前後に色々と言葉を足してはいるので2つ返事っていうもの変だけどね)


 別に話したいほど面白いことは言ってはいないが……だから、だからね。

 ボクが何を言いたいかっていうと――。


(ボクは、この子の奴隷だってことだ)


 今のボクはこの子の奴隷であり、彼女はボクのご主人様である。

 そしてこの10年、ボクは奴隷として生きてきた。

 世界は目まぐるしく変わっているらしいが、ボク自身はほとんど変わることもなく停滞した10年でもあった。

 また、彼女もボクを奴隷に捉えたあの日からその見た目はまったくと変わらないでいる。隷属してから10年間以上も経っているのに、彼女は12、13歳といった少女の姿のままだった。

 彼女が身に取り込んだ魔力による副作用……呪いの1つらしい。

 ボクもまた、10年前と変わらず14歳の頃から姿を変えずに今に至っている。

 理由は自分でも不明――けれど、これでいいとボクは思い込むようにしている。

 だって、ボクの今の容姿を彼女はかなり気に入っているんだ。

 あと4・5年は成長する余地はあっただろうが、その成長した先で彼女のお眼鏡に適うかもわからないし、ならいっそ今の姿を維持した方がいいだろうと開き直ってもいる。これは魔石生まれの、魔力で出来た身体だからこそ出来ることだ。


 ただ、この子はこの子で執着心が強い癖して突然ポイっと飽きやすいところがある。

 最初は猫可愛がりと愛でられていたけど、それも数年のうちことで、ここ最近は勝手を知ってか以前よりも控え目になっている。それでもボクにご執心なのは変わらずなのはとても喜ばしい。

 お気に入りのくまさん人形みたいに捨てようにも捨てられないってポジションになっているなら願ったりかなったりだ。


(まあ……ボク個人としては……この姿でいることが、ただただ、非常に不快なんだけど――……っ!)


 ……しまった。こんな些細なことでつい感情的になってしまったようだ。

 身体に発言する違和感に眉をひそめ、ゆっくりと目を閉じた。

 直ぐに感情を鎮めよう、気を落ち着かせようと心がける……が、どうにも間に合わなかったようだ。


(あ……)


 ふと、自分の意識が遠ざかるような感覚と身体の1か所――左腕の感触がすとんと消えた。

 その後、自分の意志に反して今まで鎖に触れていた左手が勝手に動き出し……ボクは――。


「……っ!」


 ――“僕”は自身の胸の中で眠るこの女を強く睨み付ける。

 声を荒げて怒鳴り付けたいほどの葛藤に見舞われたけど、そこはぐっと息を呑み込んで耐えて耐えた。ここで起こすわけにはいかない……。

 感情に流されるな。

 いいか? 僕がやることはただ1つ……唯一自由に動かせる左手をゆっくりとゆっくり間抜けにも眠りこけている女の細首を――。


《今ならいける……掴んで1度に首を捻り折る。そして、これで終わり。この女をあっさり殺すなんて真似はしたくないけど、僕にはもう寝込みを襲うしか殺せない……!》


 首を掴んでは強化魔法でいっきに力を込めてへし折る――!


(おっと……危ない)


 ――と、ボクは勝手に動き出した左手が彼女の首を掴む前に止めに入った。

 直ぐに奪われた左手の支配権を取り戻し、ゆっくりと彼女の背中へと回して自分へと抱き寄せる。

 そして、愛おしく彼女の背を撫でながら身体の中でやかましく喚く“僕”を叱りつけた。


《短絡的だって何回言わせれば気が済むの。ねえ、いい加減やめてよ。勝手なこと、しないでよ?》


 まったく、気を抜くとこれだ。毎回、悪い方向に感情が揺れると直ぐに出ようとする。

 


《もう少しで彼女を起こしちゃうところだったよ。そんな真似をしたらいったいボクの身体はどこまで損傷することやら。寝起きの時ほど機嫌が最悪になるのはキミも知っているだろう?》


 ただ、そう言ったところで“僕”は聞く耳を持ってくれないこともボクは知っている。仕方ないから毎回暴れる以前の人格である"僕"を力尽くで頭の中で抑え込む。

 イメージとしては、小さく暴れる"僕"を踏み付ける感じだ。

 現に目を閉じた先で暴れ回る小さな“僕”をボクは踏みつぶしている。


《この身体はボクのものだ。もうお前が好き勝手出来るもんじゃないんだよ》

《うるさい……黙れ……お前なんか知らない……僕は、僕は絶対そいつを殺――っ!》

《黙るのはそっちだよ。お前はつぶれてろ。14年も人の身体を好き勝手にしておいてさぁ……居候がいい気になるなよ?》

《ぁがっ、がっ、がががっ……僕はぁ、僕はぁぁぁあああ!》


 頭の中で踏みつぶした"僕"の悲鳴を聞き続け、その声が消え去るまでの時間を1人目を瞑って待ち続けた。

 このやり取りも一体何度目だろう。彼は踏みつぶしたところで死ぬことは無い。

 きっと時間にしたら2呼吸する程度だ。が、そんな短時間だけど、自分自身を黙らせるのは結構疲れる。はあ、最悪だ。

 自分で蒔いた種だとは言え、思わぬを背負う羽目になった。


(……うっ……ぁ……眠気が……)


 そして、その疲労の反動として急激な睡魔が襲ってくる。

 魔法でも腕力でもなく、自分の意思で“僕”を抑え込むという行為は心的疲労が溜まり、激しい頭痛と共に眠気に苛まれる。

 どうにかして自分の身体から彼を追い出せたらいいんだけど、彼もまた自分の一部なのは理解しているし、無理だともわかっている。

 ここ数年、彼を抑え込むのも日に日に辛くなってきている。


 彼はのに比例するかのようにその存在感も身体の支配力も強くなってきている。

 昔は指1本動くかどうかってところだったのに、今では左腕1本も好きにさせちゃうなんて……参っちゃうよ。


(眠い……でも、寝たく、無い……)


 この状態で眠ると、以前の自分の記憶が呼び起こされるからなるべくなら眠りたくはなかった。

 以前の――""は酷く胸をざわつかせる。

 今では食事も排泄も不要となった身体だけど、どうしても睡魔だけは中々抗えない。

 もしも、ここで自分が眠り込んでしまった場合、中にいる"僕"も同じく意識を失うので身体を奪い取られる心配はないが……。


(…………まあ……しかた、ない……か)


 目覚めた後の不快なざわつきもその場限りのものだ。稀に夢を見ないことだってある。


(どうせ、まだまだ時間は必要だ。焦ることは無い。ボクはまだ彼女に気に入られている。捨てられるのは先の話だ)


 大丈夫。ボクは待てる。彼みたいに短絡的な愚行は犯さない。

 だから、今はまだ静かにこの睡魔に身を任せることにする。


(大丈夫だ。じっくり待とう。この10年だってうまくやってきたじゃないか)


 心配することなんて何1つとして無い。


(おやすみ……レティア様)


 そう、口元を緩めてボクは降参と重い瞼を降ろして身体の力を抜く――その直後に、ボクは小さな懸念を懐いた。

 それは、胸の中で眠る可憐なご主人様――今ボクがいるラヴィナイを支配する絶対的な王、ティア・シティブよりも先に目を覚まさなきゃいけないことだ。


(夢、見なきゃ……いいなぁ……)


 窓の外は未だ吹雪いたままだった。

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