第260話 これからも僕と一緒に、共に……

『――行ってきます』


 返事が返ってくることは無いとわかっていても、小さい頃からの習慣から誰もいない我が家に挨拶を残した。

 眠気を引きずったままの通学路は毎朝気怠くて堪らない。

 手持ち無沙汰からおもむろに電子端末を取りだし、直ぐにそっと閉じた。

 高校入学から早1か月。

 初々しい春が終わりを迎えるのと同じくらいに、真新しい学生服にもすっかり慣れた。余所余所しい空気も初めだけで、新しい級友ともなんとかうまくやっていけている。進学校でもないので、授業の方も別についていけない訳じゃない。


 けれど、どうしてか物足りなさを感じてしまう。

 こんなものだったのかと、高校進学に胸に弾ませていたのは最初の2週間ほどだった。

 高校生になれば何かが変わると思っていた。高校生になることで何かが始まると信じていた。

 変わったことと言えば今着てる制服と通う校舎にクラスメイト。そして、春から変わったこの通学路……。


(――……寂しい)


 ふと、誰もいない左側に寂しさを覚える……どうして、寂しいと感じたのだろうか。

 中学時代、放課後は部活仲間と寄り道をしながら下校していたが、朝の登校はいつも1人だった。それは3月の、卒業式まで変わることなく繰り返してきたことだ。


(――高校生にもなったというのに、寂しいなんて情けない……)

 

 掻き消すように首を振るが、1度懐いた侘しさは不思議と消えず、左肘を擦りながら先を進んだ。

 気を紛らわすように昨晩見たバラエティ番組や読んだ雑誌の内容を思い出しながら、徒歩では少しばかり億劫になる通学路をのろのろと歩き続けた。

 ……自転車通学も検討しようかとも悩む。

 時期を外したことで今さら1人で申請を出しにいくのも面倒だ。


(何故、入学したばかりの頃に申請を出さなかったのだろう?)


 そんなことを考えつつ、気が付けばとこれから3年間通い続ける学び舎へと到着した――校門をくぐり抜けたその先で、校庭から去年の秋前まで毎日と聞いた活気を耳にする。

 ある部活動の、朝練風景だ。

 やる気があるのかないのか、中途半端な掛け声を上げて行われる朝練の様子を目にしながら、無意識に鼻で笑った。

 どうして笑ってしまったのかは自分でもわからない。

 朝から無駄な努力がんばってるなぁと嘲笑ったのか、それとも騒音の1つとして捉えられなかった自分自身に対してだろうか。


 小学校から中学3年とやっていた部活動も高校進学と共に辞めて、張り合いのない毎日を惰性のままに送っている。

 惰性だと思っているのであれば、また中学と同じく部活を始めればよかったのではないかと言われるだろうが、入学した高校は1回戦負けの常連だった。勝てても2回戦止まり……無意味にしか感じられなかった。

 また、ずるずる中学の終わりまで続けていた活動も、惰性でやっていたようなものだ。どうしてそれを始めたのかだって今となっては覚えていない。


(大体、自分はそこらにいる一般的な男子高校生で、自分1人がその部活に入ったくらいで変化が起こるなら、この高校生活だってもっと……)


『――もう、中学と同じくそれは卒業したんだ』


 そう、自分の中で終わったことだと切り捨てて……回数はまだ少なくとも、これから毎朝、目と耳にするであろう彼らを前に胸のざわつきは止まらない。

 それは今だけではなく、授業が終わった後の放課後も同じくだ。

 高校を卒業するまでの間、ずっとこの言いようのない気持ちを抱えていくのだろうか。いつかは気にならなくなる日が来るのだろうか。


(そんな日が来てくれたらなら、嬉しいと……思う)


 別に今の生活が嫌という訳ではない。

 こんなものかと呆気なさを感じつつ、新しい友人と放課後に意味も無く駅前なんかに遊びに行くのも楽しいと言えば楽しい……でも、こんなはずじゃなかったと思わずにはいられない。

 昇降口へと向かう途中で、何気なく立ち止まっては空を見上げる。

 やけに青い空が、眠気の残る眼には眩しくて、つい細めた。



 ――夏は、もうすぐだった。





「…………あ」


 今か今かと2人のことを待っていると、どうやら眠ってしまったようだ。

 目を開ければ未だ空は紫色の雲に覆われているが、陽は雲の上にあるらしい。

 周りの明るさから、お昼はとっくに過ぎたようだ。


「――夢かぁ」


 身体がぶるりと震えたのは、野外で居眠りをしてしまったから――いや、直前まで見ていた夢のせいだろう。

 あの夢は確か、前に1度だけ見た覚えがある。そして、今になるまですっかり忘れていた夢だった。思い出せたのも、多分、5日前に白い青年に会ったことも関係があるのだろう。


(……変な言い方になるけど、夢の中で見た夢――前の世界での“もしも”の夢だ)


 もしも、生前の自分だった頃の僕の隣にあの子レティがいなかったらという夢。

 僕が初めて白い青年と列車の中で顔を合わせる、その前に見た夢だった。


「今となっては考えられないや……」


 物心つく前から彼女とはほぼ毎日と同じ時間を過ごした。

 時にはクラスメイトからからかわれ、一時期は別々になったこともあったけど、いつに間にか元通りになっていて、あの震災が起こるまで毎日と僕の隣にいてくれた。

 最初は男女という垣根はなく、ただの友達として、同じ野球の仲間として……でも、次第に彼女のことを意識し始めて、あの満開の桜の中でキャッチボールをしたあの日、告白した日からは完全に変わって……。


「なんで、あんな夢を見たんだろう……」


 今の僕にとってレティがいないなんて考えられない。

 彼女がいたから今の僕という存在があるんだから。

 また、それはルイだって同じだ。

 もしもルイがいなかったなんて今さら考えられない。

 ルイがいたから以前の僕を見失わずにいられたんだ。


「……ふふっ、まあいいか……だってね。そんなのは、もしもの話なんだから……」


 そう、それはもしもの話。

 どうせ夢なのだからと深く考えずにあっさりと手放せたのは、次第に聞き覚えのある車輪の音を耳にしたからだった。

 馬車とも違う高速回転で生まれる車輪の音に、野道の石や土を弾くような音を耳にした途端、僕の意識はそちらに向いて、夢のことはまたも消えた。

 もう、思いだすことはないだろう。


「あ――あいつ!」

「やっと見つけた!」


 僕はバイクが止まり、2人が降りて近寄ってくるまで、わざと背を向き続けた。

 理由はなんだか機嫌を悪くしているような気配を近づいてくる2人から感じ取ったから、かな。気配と言っても僕にはそんな空気を読むなんてことは出来ない。

 僕を見つけたと遠くから叫ぶ2人の声に苛立ちみたいなものが乗っていたってだけだ。


「たくっ、呼び出す場所くらい先に言ってから消えなさいよ!」

「そうだよ! ぼくら、ずっと探し続けちゃったんだからね!」


 案の定、2人は背を向ける僕へと開口一番、怒鳴りつけてきた。そういえば、言い忘れてたっけ。


(でも、こうして僕のところに来てくれたじゃん)


 レティもルイも、僕に最高のプロポーズ求めてたくせに忘れてたんだから、これくらいの失敗は許してよ。

 なんてね……怒らせるつもりはなかった。

 この場所を選んだのだって身体が勝手にここに来ただけだし、2人にどこで待ってるって言い忘れたのだって……それだけ緊張してたからって、駄目かな?

 まあ、駄目だよね……悪かったよ。場所を伝えなかった僕が全面的に悪かった、と僕は胸のうちで謝罪し、振り返っては2人へと笑いかけた。

 ここで謝らずに笑ってしまったのは、やっと、2人に会えたことが嬉しかったからだ。

 だから、2人の不満や文句も全部受け止めてあげるから――と、笑って振り返っては顔を見合わせたところで2人はぎょっと顔を驚かせていた。


「あれ、シズク……なんか、印象が違うね?」

「あんた、その髪、どうしたのよ?」

「ん? ああ、母さんがしてくれたんだ……どうかな? 少しは男らしい?」

「……そう、おばさんに……へぇ……はっ、ふ、ふーん? いいんじゃないっ!?」

「うん! シズクカッコいいよ! やっぱり髪の短いシズクもぼくはどっちも好き! あ、でもだからって髪は切っちゃだめだからね!」 


 僕の髪型のことを指摘しつつも、レティたちもしっかりと髪を整え、薄らと化粧をしているんだ。多分、セリスさんあたりにしてもらったのかな。

 今朝の幼い寝顔が嘘みたいに、2人は素敵な女性となって僕の前に立ち並んでいる。

 でも、そんな綺麗な顔をレティはぎこちなく歪めては、裏返りがちにがなり立て、それにルイも驚きながらも真似するように続いた。


「な、何よ! すこぉぉぉしくらいカッコよくなったからって、わたし許してないから! 朝起きたらいないし、おじさんおばさんは先に行ったってどこかは知らないってさぁ!」

「うんうん。そうだよ! シズクのおかあさんとおとうさんは朝ごはんになったら帰ってくるって……でも、シズク帰ってこなかったし!」

「わたしたち、あんたのこと待って朝食食べずにいたのよ! なのに、あんたは帰ってこないじゃない!?」

「おかげでぼくたち朝ごはん食べてないんだよ! もうお昼だって言うのにさ!」

「そうそう、もう空腹だっていうのにさぁ、それでもセリスのところ行って……ええっと……」 

「そうだ! それでね! ぼくたちもセリスさんにおめかししてもらって、すっごい期待してたのに! どこに行ってもシズクいなくて――」

「ちょっと、ルイ! それは言わなくて――」


 2人ともお腹が空いてるから怒ってるってこと? なんだか、話を聞く分には朝ご飯を食べれなかったから腹を立てているみたいだね。

 でも、そんな怒ってる2人もさ。


(……2人とも、綺麗だ……)


 口が勝手にそんな言葉を、場所を知らせなかったことに対して苛立ちを募らせる2人へと言いかけそうになる。

 僕はぐっとその言葉を飲み込み……始めることにした。


「……僕、ずっと考えてたんだ」

「――ちょっと、あんた何勝手にっ……ルイ?」

「……レティ、いいよ。聞こう」

「……わかったわ」


 まだまだ言い足りないとばかりにレティが前に出てきたけど、そこはルイが引き留めてくれた。

 ここで無駄話をし続けたらきっと今の空気は壊れてしまう。

 多分、そんな気がして僕は話し始め、2人が口を閉じたのを見計らって、話を続けた。


「考えたんだ。あの日、この指輪を渡したあの時からずっと……2人別々に最高のプロポーズって約束した手前、余計なことばかり考えて空回りしてたかもしれない」


 そもそもプロポーズってなんだっけとも考えちゃうくらいね。これも余計なことだった。

 ただ好きだから、愛してるから一緒になってくれませんか。

 そのための確認と承認程度に捉えればよかった。

 これだけのことなのに僕は余計なことばかり考えて物事を難しくしてしまう。


「死がふたりを別つまで……なんてお決まりの言葉は僕たちには当てはまらない。だって、僕らはじゃなくてなんだから。だから、死ぬまでっていうのは違くて――……今のは無し」


 ……ああ、そうだ。違うな。そうじゃない。死ぬって話自体が違う。

 僕はこんなことを言いたかったんじゃない。

 もう2度と死にたくないし、死に別れなんて絶対にしたくない。

 これからもずっと、いつまでも2人と共にいたい……死ぬとか別れるなんて言う必要なんてない。

 だから。


「やり直しで、その……今日は今まで預けていた指輪を、貰ってもらえるか聞きたくて2人を呼ばせてもらいました」


 だから――余計なことなんて言わず、ただ、簡潔に伝えればよかったんだ。

 でも、そのことを伝える前に言葉につっかえ、えっと……とついつい頭を掻いた。さっきは止められたのに、ついつい頭を掻いてしまった。

 でも、母さんが纏めてくれた髪は思った以上にしっかりと結われていて、僕が反射的に指を差し込んでも崩れることはない。

 ごほん、と咳払いをしつつ僕は2人へと顔を向けて、一応に用意しておいた言葉を伝える。


「僕の全てを2人にあげる。この身体も、この命も、これからの時間も。そして、僕の魂も、僕の気持ちも……全て2人に捧げます」


 そして、ここからは今の素直な気持ちを、最初はルイへと――。


「だから、ルイ――」


 これは誓いの言葉だ。

 僕がルイへと捧げる心からの永遠の誓い。


「結婚してください。これからも僕と一緒にいてください」


 ――そう、小さく一礼した後に、左手を差し出した。


「……」

「……」


 でも、差し出した左手はいつまで経っても手に取ってもらえることは無く、代わりに伸ばされたのはルイの声だった。


「ねえ、シズク……本当にいいの?」

「え?」


 と、ルイは不安そうに僕へと訊いてきた。


「本当に、3人でいいの? 本当に、後悔しないかな?」

「後悔だなんて……ルイは後悔してるの?」

「そんなことない……ぼくが言いだしたことだし、さっきも、シズクを探してた時だってやっと3人で家族になれるんだって思ったら嬉しくて仕方なかったんだよ。……でも、今プロポーズを受けた途端……なんだか、わからなくなっちゃって……」

「ルイ……」

「……ねえ、いいの? ぼく、シズクのお嫁さんになってもいいの? レティといっしょにシズクのお嫁さんになっても……ぼくのわがままで、恋人だった2人の中に入ってもいいの?」


 僕たちは3人で夫婦になる――全てはルイの提案だ。

 それは元いた世界の僕の常識では異質なもので、だからこそ後悔はしないなんて言えないよ。

 でもね。ルイが言ったんだよ。この世界で考えろってさ……だから、今この世界で生きた僕が出す答えなんて1つで、当に決心はしてるんだ。


「……後悔するかなんて僕もわからないよ。でも、だからって僕はもう2人から離れるなんて考えられないんだ」


 ねえ、ルイ。もう1度言うよ。

 僕の気持ちはこれから先も変わることは無く――。


「ルイ、君のことを愛してる。これからもずっと僕と……ううん、僕らと一緒にいてくれないかな?」

「……いいの? ぼく、これからもわがまま言っちゃうよ? 何度も困らせちゃうよ」

「それくらい慣れっこさ。だって、ルイとは生まれた時からいるんだよ? だから、これからも僕に我儘を言い続けてよ」

「もう……何ばかなこと言って……。でも……うんっ……うんっ、言う! シズクにずっとわがままを言いたい! ……だから、ぼくも愛……“アイシテル”! シズクを、誰よりもぼくはいつまでも“アイシテル”っ、愛し続ける!」


 ルイは笑って僕に飛び掛かってきた。慌てることなく彼女を抱き留めては強く身体を引き寄せる。

 お互いに笑い合い、今までとは違う恋人ではなく、夫婦として抱擁を重ね合う。

 今日から僕はルイの夫なんだ――昨日と変わらない抱擁なのに、今だけはまるで初めて彼女を抱きしめたかのような特別な気持ちが溢れてくる。

 ……しばらく、2人だけの時間を作った後、ルイとの抱擁を笑って解いたその先へ、レティへと身体を向けた。


「はぁ……なんかずるい。2人だけの世界作っちゃってさ……のけ者にされた気分だったわ」

「そう言わないでよ。これでもいっぱいいっぱいなんだ。ルイにやっと言えたって、受け止めてくれたって、もう胸がどきどきして倒れそうで……ああ、これ以上はやめとく」

「ええ、そうしてね……じゃあ、聞かせてもらえるかしら」

「……うん」


 次はレティへ――今の僕の想いを言葉に乗せる。


「レティ――」


 これは願いの言葉だ。

 僕がレティへと望む心からの願い。


「結婚してください。……これからも僕とこの世界で生きてくれませんか?」


 並んでいたルイよりも1歩前に出て、僕はレティへと同じく左手を差し出した。

 そして、ルイと同じくレティも手を取ってくれない。


「……なんで、わたしだけ疑問系なのよ?」

「別に言い方がそうなっただけ……いや、元の世界に返すって約束を守れなかったから、だと思う」

「あっそ。元の世界に戻るなんて、もうとっくに諦めてたわ……ふん、70点ってところね」

「70点……これじゃ許しはもらえないってことだよね」

「あたり前でしょ? ……気に入らないのよ!」


 気に入らないって……それを言われたらもう何も言い返せないじゃないか。

 レティはむすっとしながらこちらへと歩き出し、僕の横を通り過ぎていった。

 僕はそのまま前を向き続け、ルイが代わりと振り返ってレティの後を目で追い続ける――レティは僕ではなくルイへと話し掛けた。


「ルイ、後でぐちぐち聞かれるのも嫌だから先に言っとく」

「え、えっと、何……かな?」

「わたしも3人で夫婦になることに多少の不安はあるけど、後悔なんてしない。だから、もう後悔するしないなんていちいち聞かないでよね?」

「え、え? ……うん。わかった」

「それから、限度ってもんはあるけど、ワガママくらいわたしにも言いなさい。……これでも、わたしはルイのお姉ちゃんなんだからね?」

「う……うん、言う、言うよ。レティにもわがままいっぱい言うっ……けど、でも、それって――」

「ならよし! ……シズクこっちを向け!」


 その言葉に従って僕は振り返り、両手を腰に当てて胸を張る彼女を見つめた。


「わたしがさっき気に入らないって言った理由を教えるわ」

「……それは?」

「それは……あんたがわたしに気を遣い過ぎてるところよ! 何がこの世界で生きてくれますか、だ! 未だに昔のことで負い目を感じてか知らないけど、もっと男らしくきっぱり言いなさいよ!」

「うっ……ごめん……なさい」


 確かに彼女の言う通り、僕はレティに対してついつい気を遣ってしまうところがある。

 それが無意識であっても今回のプロポーズに出てしまったんだ。

 もしかしたら、ずっとレティは僕の気遣いを重荷に感じていたのだろうか……反省をするのは後だ。

 今、僕がレティにしなくちゃいけないことは1つ……プロポーズのやり直しだ。


「レティ、お願い。もう1度、最初からやり直させて!」


 さっきはやり直しが男らしくないなんて思ったけど、ここでうだうだして何もしないままの方がもっと男らしくない。


「……うん。今度は間違えないでよ」

「ありがとう。じゃあ――」


 今度こそ間違えないよう彼女へと向き合い、僕は再度自分の想いを言葉に乗せて彼女へと届ける。


「結婚してください……これからも僕と共にこの世界で生きてください!」


 しっかりと頭を下げて指輪のはまった左手を彼女へと差し出す――が、またもレティは僕の手を取ってはくれない。

 もしかして、今回の駄目だった――なんて、心配することなんて何もなかった。


「シズク、頭を上げて」

「……うん」


 言われて顔を上げると、レティは胸を張っていたその場から1歩も動くことなく僕を見つめていた。

 僕も同じく頭を下げたその場から動くことなく彼女を見つめ返す。

 いつまでも彼女の目を見つめ続けて――ふと、彼女の口が小さく言葉を紡いだ。


「シズク、愛してるわ。これからもずっと……」


 返事をする必要はなかった。

 僕も聞き返すこともしなかったし、レティもそれ以上の言葉を口にすることは無かった。


(彼女らしいや。でも、返事なんてそれだけでいい……)


 だって、僕は彼女の照れくさそうな満面の笑みを前に、


「……うんっ!」


 泣きそうなくらいの笑顔で頷き返すだけなんだから――。











【あとがき】


 ここまで読んでいただきありがとうございます。

 これにてシズク、ルイ、メレティミ、3人の冒険は終わります――が、もう少しばかり続きます。


 どうか、よろしくお願いいたします。

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