第257話 2人の大切な息子さんを、わたしが貰ってもいいでしょうか?

 ウリウリの無茶で無謀な襲来が事の発端だったかのように、あの日は色々なことがあった。


 今回の家出――もとい、旅のきっかけとなったとわたしたち3人の結婚を何とか認めてもらったり、幼少期の2人がいた奴隷市場の訪問から取り壊し。

 その後、シズクとルイの恩師であり里親とでもいうべきラゴンの墓参りでは、まさかのご本人と再会し、短い時間であったが成長した2人と言葉を交わし合った。

 続けて真っ白な少女と同じ存在である白い青年が突如と無く姿を現したりもした。 そこでわたしたちが無理やり参加させられているゲームについて、これまたご親切に周りの皆にもご丁寧に説明をしてくれたり、わたしとシズクの所有者でもある真っ白な少女と“親”とかいうやつが行方不明だってことも教えてくれたり……。

 中でも1番にわたしを驚かせたのは交通事故で死に別れたシズクの両親であるおじさん・おばさんとの再会。


 ――と、そんな立て続けに色々な出来事があったあの日からかれこれ3日が過ぎた。

 その間、タルナさんとベレクトたちはアルガラグアに帰っていったが、お父様とウリウリはわたしたちと共にミラカルドに残ってくれることになった。

 ルイの話になるけど、どうやらあの子はおじさんとおばさんのことを気にいったらしい。らしいと言うのも、暇なときはわたしやシズクよりも2人のそばにいることが多いからだ。


 そこでわたしでさえ知らないシズクの恥ずかしい昔話を2人から教えてもらってはニヤニヤと喜んでいる。

 まあ、その中の話にはわたしの思い出したくない話も含まれていることもあって、うかつに会話に入っては自分の首を絞めることもあった。

 そこでまた驚いたのは、人付き合いが苦手そうなお父様が嬉々として2人と交流を取っていることだった。

 わたしたちに正体をバラした後、2人は自由にリコちゃんの身体から出ているのが当然になっていて、この3日はお父様とルイを交えながら4人で談笑をしているところばかり見かけた。

 ルイたちと楽しげに接するおじさんとおばさんを見ていられるのはとても嬉しいちゃあ嬉しいことだけどね。


(でも、わたしとシズクは、以前の様には接することが出来ないって感じだ……)


 恐る恐るというべきか、以前よりも距離を取っちゃうっていうか……わたしのことはいい。

 問題はシズクだ。

 姿形はリコちゃん(というか自分自身?)だとはいえ、折角自分の両親に再会できたっていうのにシズクのやつ、日中はどこか1人で出かけてしまうのだ。

 日が落ちる前には戻ってくるが、何をしているのか尋ねてみたら1人で考え事をしていたと言う。当然、何を思案しているかは教えてくれない。

 大方わたしと同じく、おじさんとおばさんとどう接したらいいかとか考えているのだろうか。


(この際、わたしに相談してくれたらいいのにさ。そしたらわたしだって打ち明けたり相談し合えるのに……)


 深みにはまって余計なこと考えてなきゃいいんだけど?


「ウリウリはシズクの両親のこと……どう思う?」

「気さくな方たちだとは思います……ただ……」

「ただ?」

「……ただ、2人の境遇はまるでブランザ様のようだと…………その、すみません」

「ううん……謝らなくていいよ。ウリウリが言いたいことはわたしも、わかる」


 やはり、ウリウリもわたしと同じ考えのようだ。

 そう。わたしが以前のようにおじさんとおばさんたちと接することが出来なくなってしまった理由は、2人の今の状態がブランザお母様と重なってしまっているからだ。


 今日明日いなくなるわけじゃない。

 だけど、1年か2年、はたまた数年後という近い将来で2人は消えてしまう。

 お母様も今日明日いなくなるわけじゃなかった。


 でも、その今日明日という日が本当に来るなんて、当時のわたしは思ってもいなかった。

 ……心構えなんて全然出来ていなかった。


 あの日、ケラスの花がひらひらと舞い散る素敵な日に、お母様はケラスの木に背を預けながらとても気持ちよさそうに安らかな顔をして眠っていて、最後まで目を覚まさなかった。


(……お母様が亡くなった日のことは昨日のことのように思い出せるんだ。その時の悲しみだって……)


 あの時のわたしの気持ちを、お母様が逝った日のわたしの思いを、シズクにもさせてしまうのかもしれない。そして、それはわたしも同じく。

 2人と再会できたことはわたしにとっても喜ばしいことだった。

 でも、だからって2度目の別れをしなきゃいけないなんて思うと……。


「今からそんな顔をしてはいけません」

「…………ごめん。でも、わたしその時のことを思っただけで……」

「お気持ちは私にも理解できます。でも、その時に1番辛いのは彼でしょう……だから、その時はあなたが彼を、シズクを支えてあげなさい」

「うん……そう、そうだね。そう、なんだけど……でも、今だけは……」

「……はい。セリス様との約束まで時間はあります……ですから、今だけは……構いません」


 きっとその日が来たとしたらわたしは絶対我慢なんて出来ない。

 でも、今は、今だけは、と自分にもウリウリにも嘘をついて、ちょっとだけ、彼女の胸で泣かせてもらった。


 そんな日はまだまだ始まったばかりだった。





 ウリウリの胸で散々泣かせてもらった後、わたしはセリスさんの仕事場であるマイヤー工房の一室へと向かった。

 今日はルイと一緒にウェディングドレスの完成を見届けようって話になっていたからだ。


「……終了っと。これで2着とも完成よ」


 ふう……と、セリスさんは息をついてトルソーに着せていたドレスから針を抜いた。

 ドレスのデザインはルイとお揃いの背中を大きく広げたマーメイドライン。

 膝下から大きく広がる裾が動きに合わせてなびく様子はその名の通り人魚の尾びれだ。

 色はそれぞれは淡いピンクとブルーで、左胸に添えられた一輪のコサージュはドレスとは違って2人お揃いのシャンパンホワイト。このコサージュは数日前に試着した時にはなかったが、試着時とは違って胸に純白の花が咲いているだけで印象がまったく違う。

 コサージュがなかった時の方が寂しいとすら思ってしまうほど華やかに見える。


 近くのテーブルには腰まで届くほど長く細かな刺繍の施されたベールや、無理に動いたら破けてしまいそうな薄いレースであしらわれたドレスグローブもルイとわたし用に揃えられている……すごい!


「すごい、ルイすごいぞ! わたしたちのためだけに作られたドレスだ!」

「うわぁ、レティとっても綺麗だ! これがぼくたちだけのドレスなんだね!」


 1度試着したとはいえ、あらためて完成品を目の前にしてルイと2人で思わず飛び跳ねそうになるくらい大喜びではしゃいでしまう。


「コサージュとベールは私が担当したの。セリスに言われるままに作ってみたのだけど、どうかしら?」

「薄々の手袋は私、テトがやったんだ。仕事の合間合間でのレース縫い、すっごい大変だったんだからね!」


 そう言うルフサーヌさんとテトリアさんには感謝感謝の上に感謝を重ねても、感謝しきれない。


「ありがとう、2人とも!」

「すごいよ、2人とも!」


 わぁっと感嘆としたものを口から漏らしながら、トルソーに着飾られた2着のドレスをルイと共にぐるぐるといつまでも回り続けて見渡し続けた。

 昔みたいに同伴してくれたウリウリも、女の子の部分を刺激されたのか感心しながらわたしたちと同じ様にドレスを見渡していて――そんなふうに3人で完成したばかりのドレスを眺め続けていると、ふとセリスさんが尋ねてきた。


「さ、ドレスは完成したわけだけど、式はいつやるの?」

「式? え、式って何?」

「は? ここで式って言って挙式以外にあるわけ? ……え、ちょっと、貴女まさか……」

「え? ……え、えっ、え!? 結婚式ぃっ!?」


 ……しまった。

 すっかり忘れてた。


「……うーん。やっぱり、レティ考えてなかったんだね」

「え……やっぱりってちょっと待って、ルイは考えてたの!?」

「えっと、3日前にもリコに……ううん。シズクのおとうさんとおかあさんが聞いてきたんだ。さっきもここに来る前に会ってたけど、結婚式について2人とも心配してたよ? でも、レティとはタイミングが中々合わなかったから聞けないって……」

「そ、そっかぁ……」


 完全に頭から抜け落ちていた。

 結婚するイコールウェディングドレスってイメージが先走ってしまったんだろう。


(くぅぅぅ……そうだった。ドレスよりもドレスを見せる場のことを考えるべきだった)


 ああ、ヨソの子だっていうのにこういうところは昔っから2人にはよく心配されてからなあ。

 これでも昔よりは立派になったつもりだったけどなあ。

 変に遠慮して2人と話さなかったのがここに来て裏目に出たかぁ。

 ……ああ、失敗した。


「……えーっと、どうしよう?」

「ぼくに聞かれても……」


 結婚式の話が出た途端、わたしもルイもにんまりと緩みきった笑顔はすっかり消えて、眉を歪めて見合わせる。

 そんな戸惑ったわたしらの様子を見てか、はぁ……とウリウリが深いため息をついた。


「まったく……フルオリフィア様は昔から変わりませんね。後先考えずに物事を始めるところや、自分のしたいことを優先させるところ……1年前に里を飛びだした時と同じじゃありませんか?」

(くぅ、ウリウリまで同じことを……!)


 これには今回の家出――いや、今回の旅の始まりのことを遠回しに責めているようにも思える。

 もうわたしの中では和解して解決したことだと思っていたけど、ウリウリにしたらまだ今回のことは終わってないのだろうか。


(はぁ……もしかしたら、何か失敗をしでかす度に、これからずっとこれを引き出されて怒られるんだろうなぁ……)


 と、内心で反省をしながらもわたしは明るく振る舞った。


「……ま、まあ! これでいつだって式は挙げられるってことで! 大丈夫、行き当たりばったりになりそうだけど、なんとかなるわ! ね、ルイ!」

「レティがそう言うならいいけど……じゃあさ。シズクと話したことなんだけど――」

「ん、何なに?」


 と、ルイはドナくんの時みたいに神域の間を借りるのはどうかって話をシズクとしたっていう。


「ええ……それでいいわ。他に挙式を上げれそうな場所なんてわたしは知らないからね」


 でもなあ。

 親戚友人一同の前でやるならまだしも、里に住む4種族ほぼ全員の前で見世物になるのは結構恥ずかしいかなぁ……って、うーん。

 あの場所を借りるのだから、それくらいは我慢しなければいけないか。


(3人でバッディングをした時みたいに個人で借りれられないかしらねぇ……)


 これはアニスを含む各長たちに要相談ってところか。


「ほら、今はそんなことより出来たばかりのウェディングドレスで喜びたいじゃない! ね、ルイもそう思わない? せっかく出来たんだからさ、もう1度着ちゃだめかな、だめ?」


 あと、写真とかってないのかしら?

 ぜひともウェディングドレスを着たルイと一緒にこの記録を残したい!

 皆の冷たい視線を跳ねのけながら明後日の方向を向いて笑い飛ばす――セリスさんが呆れながら口を開いた。


「その様子だと直ぐにやるって訳じゃないのね。それならいいけど、式の日取りは最低でもひと月前には教えなさいよ? 私だって暇じゃないんだからさ」

「え、セリスさん来てくれるの?」

「なあに? 私は呼んでくれないつもりなの? せっかく、テトやルフと3人、睡眠時間を削ったり、出張先の移動中やら空いてる時間のほぼ全部使って作ってやったっていうのに? はぁ……そこまで薄情なやつだとは思わなかったわ」

「ああ――全然! ぜひ来てほしいわ! その時にはこのウェディングドレスを制作してくれたって大々的に宣伝してあげる!」


 ここまでやってくれたセリスさんを呼ばないなんてそんなはずないじゃない! って、ああ、そうか。次は来賓についても考えなければいけないのか。


(セリスさんを呼ぶのだから、これはあのルフィス御一行も呼ばないと駄目ってことかしら? やだなぁ。絶対あいつシズクにベタベタひっつくじゃん。もしかしたらシズクみたいに突然式に乱入してくるなんて真似はしないわよね?)


 ……やめやめ! 考えるのやめ! 今は式とか来賓とかはこの際、1度置いておくことにしよう!

 今は、もう少し自分のドレスを見渡していたかったけどさ、ドレスが完成したことを……伝えに行かないとね。


「……じゃあ、わたしこれから席を外しますね。ウリウリもここで待っててもらえる?」

「フルオリフィア様? どこへ行くというんですか?」

「おじさんおばさんのところ。ドレスが出来たって話をしに……それと、頑張ってくる」

「……わかりました。頑張ってらっしゃい」


 多分、これがいいきっかけになるかもしれない。

 ドレスの話をきっかけに、以前と同じ様に2人と接するようになれるかもしれない。


「あ、ぼくも行く! シズクのおとうさんとおかあさんに――」

「ルイ様。ここは私と共に待ちましょう。フルオリフィア様……いえ、メレティミ様の為に今だけは1人で行かせてあげてください」

「どういう――ううん。わかった。レティにとって1人で行くことが大切なことなんだね? レティ行ってらっしゃい。ぼくここで待ってるよ!」


 1人で行かせてくれること。ルイを引き留めてくれたこと。そして、わたしに頑張れと言ってくれたこと。

 先ほどのわたしの話を聞いてくれたウリウリだからこそわかってくれたのだろう。


(ありがとう。ウリウリがわたしの護衛で本当によかった)


 ただ、少しダメ出しをするならば出来れば“様”はいらないし、メレティミ様じゃなくレティってだけ呼んでくれた方がよかったけどね。


「行ってきます!」


 わたしは今の気持ちに胸を張っておじさん、おばさんに伝えてくるとルイをウリウリを残して2人の元へ向かうことにした。





 今まで外に出れなかったことも理由にあるのか、2人は日が出ている間は外にいることが多い。けれど、2人がいる場所はだいたい決まっている。

 時には町中をお父様と散歩したりもしているけど、大体は煮詰まっていたセリスさんを外に連れ出した時みたいに庭にいる。

 そして、今回も予想通りその場所にいた。また、お父様も当然とそこにいた。

 お父様は以前スランプ時のセリスさんが頭を抱えてうんうんと唸っていた時と同じ椅子に座り、テーブルに頬肘を突いて3人を嬉しそうに眺めていた。


「お父様」

「……ん。どうした? ドレスの方は出来たのか?」

「はい。先ほどようやく完成しました。今回はその報告と、ね? それと――」

「そうか。では、私は少し席を外そう」


 ね? と言ったところでお父様は何もかもわかったと言わんばかりに頷き、席を立ちはじめた。


「私がいると話し難いことがあるのだろう?」

「え、っと……そんなことは……っ!?」


 でも、お父様は「気にするな」と、わたしが思わず口を閉ざしてしまっていた間に庭を後にしていった。

 ……うわぁ、見てしまった。


「何あの笑顔……反則。……すっごい綺麗……お父様、表情が柔らかくなったなぁ……」


 いやはや、実の父とは言えドキっとするような微笑が姿が見えなくなった後も目の奥に焼き付いている。

 あんな優しい笑みを見せられたらそこらの女子は平然なんて保ってられない。シズクとは違う真正の美形だ。


(まったくも――初めて出会った時と2度目の再会の時は本当にタコ殴りにしてやろうかってくらい最悪な印象しかなかったって言うのに、ここまでわたしの中で印象が変わった人も珍しいよ)


 ……でも、もしかしたら、元々はこういう人だったのかもしれない。

 多分、座敷牢に閉じ込められていた時、お母様と普通に接していた時期のお父様が今の感じなんだろうか。

 なんにせよ、この1年でかなりトゲが落ちたのかもしれない。

 おっと、いかんいかん。お父様の微笑に心を奪われている場合じゃない。


「あのっ……おじさん、おばさん」

「あら、レティちゃん」

「やあ、レティちゃん」

「メレティミ! どうしたの?」


 わたしは意を決してその場にいる3人へと声を掛けた。

 先ほどまでお父様が着いていたテーブルの上には4人分のお茶が置かれていたが、3人は青々とした芝生の上に座っていて、大人版クレストライオンの姿をしたおじさんのお腹に背に預けながら、おばさんとリコちゃんは何やら手遊びのようにじゃれあっている。

 声を掛けるなりリコちゃんはおばさんのもとから抜け出して、飛び跳ねるようにわたしに抱き付いてきた。

 うわっ、にっこり笑顔のリコちゃんだ!


「メレティミー!」

「……はっ、きゃぁぁぁ、リコちゃぁん!」

「ひゃっ、もぅ、くすぐったいぞ!」


 と、わたしもリコちゃんを抱き締め返しては、ぷにぷにのほっぺに頬擦りをする。


「ああ、もうリコちゃんかわいい!」


 以前の少ぉぉぉしだけ避けられていた時期が嘘みたい!

 今だってわたしの抱擁から頬擦りまでくすぐったい、なんて笑ってリコちゃんは受け入れてくれる。

 だからこそ、わたしはもうすこーしだけリコちゃんとの距離を縮めたい、と思ってしまう。

 だってこれからわたしの妹になるんだからさ!


「リコちゃんはいつになったら、わたしのことレティって呼んでくれるのかなー?」

「……さぁ? メレティミはいつまでもメレティミだ」

「えー? そんなこと言わずにさぁ……あ、じゃあいっそわたしのことはおねえちゃんって呼んでもいんだよー? ね、ね? 本当のおねえちゃんになるわけだしさ!」

「ぷい、リコはそんなこといわないもーん!」


 おっと、ちょっと頬を膨らませた可愛らしいお顔を逸らされてしまう。

 これはいつまで経ってもメレティミで定着しちゃうパターンだろうか。


(って、何がおねえちゃんと呼んでもいいんだよ―? だ、わたし。勢い余ってというか、これは自分で言っててすごい恥ずかしいぞ!)


 ウリウリもだが、出来ればリコちゃんにも愛称であるレティって呼んでほしいなぁと思いつつ苦笑していると、おばさんは楽しそうにくすくすと笑っていた。


「リコがレティちゃんの名前を呼んであげないのは言い換える機会を迷ってるからだよねー?」

「ち、ちがうよ! べ、べつにリコはそんなことおもってないし!」

「へえ、そうだったっけ? いつ言い換えようかなって父さんたちに相談してくれてたじゃないか?」

「い、いってなっ、も、もぉっ! おとうさんもおかあさんもきらいっ!」


 リコちゃんはわたしの胸にぎゅっと顔を押し付けて2人から顔を隠した。

 あらら、そうだったの。じゃあ、別に心配することなんてなかったか。でもでも、プリプリと怒ったリコちゃんも可愛い!

 このままずっと小さなリコちゃんとぎゅーっと抱っこしていたかったけど、まあ……わたしがこの場に来た本来の目的を果たさければならない。

 わたしはリコちゃんを抱きかかえたまま、2人と同じく芝に座って向かい合った。


「おじさん、おばさん。わたしたちのウェディングドレスようやく完成したよ」

「へぇ、おめでとう! 後で見に行かないとね! おばさん楽しみ!」

「ああ、そうだね。きっと2人とも綺麗なんだろうね……ところで、レティちゃん。おじさんたち心配してることがあるんだけど」

「……ええ、その話はおいおいと」


 おっと、式の話はとりあえず今はなしの方向でお願いします。

 今は、そうね。ドレスが完成したという報告はただのきっかけで、もっと違うことを話そうと……では、何からは話しはじめればいいかと、一瞬だけ考えて“あらためて”と、もっと大事なことを報告をすることにした。


「ねえ、おじさん、おばさん……こんな形になっちゃったけど、わたしさ。シズクとさ……」


 シズクと結婚するわ――とわたしは“あらためて”2人に報告するつもりだった。

 けど、そこまで口にしたところで2人は即座に理解したようで、ちょっとだけ恥ずかしくて間を開けていたところで先に行かれてしまった。


「……うん。レティちゃんがいいなら私は別に構わないわ」

「けど、あいつでいいのかい? 本当に後悔しない?」


 そう言われて、わたしはまたも間を開けつつ、横に首を振って答えた。


「……後悔しないって言ったら……多分、これから何度でも後悔すると思う。やっぱりしなきゃよかった。なんで3人でしちゃったんだろうって思う日は直ぐにでも来るとは思う」

「そう……」

「まあ、だろうね……」


 そう相槌を打ちつつもおじさんもおばさんも笑ってわたしの話の続きを聞いてくれた。

 それはきっと、その先のわたしの回答を理解しているからこその反応だ。

 だから、わたしもその期待を裏切らない予想通りの返答が自然と口にできた。


「けど、後悔はした後にするわ。何度も、何度も後悔して、でもそれ以上に3人で夫婦になれて良かったって思えるようにしていきたいと思う」

「うん。レティちゃんらしいね」

「そうだね。レティちゃんらしいよ」

「そう? ありがとう……で、2人の真似ってわけじゃないんだけどさ。まあ、ルイがお父様にして、あいつもウリウリにして……わたしだけやらないのも格好がつかないっていうか、負けたような気がしてね……って、あ――もう、何が言いたいかってさ!」


 ついつい頭を掻きつつ、髪を振り回してから2人を見つめ直す。

 今この場に来たのはドレスが完成したことを報告する――それから以前と同じく自然に会話をしてくる。それだけだったのに、わたしは余計な発言だとわかっていても言い放った。


「2人の大切な息子さんを、わたしが貰ってもいいでしょうか?」

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