第253話 そこにいる、リコさ

 まず、この世界について話そうか……ひゃはっ、そんな急に真っ暗になったからって狼狽えないでよ。


 ……ここはどこだって? その話を込みで今から説明してあげるよ。


 もうすぐ明るくなるから――ひゃ! 見た? 驚いた?

 今の焼け付けるほどの眩しい閃光の残り火。

 残照のように残された煌き浮かぶ塵心が各自で集まりだして、燃え盛る球体がいくつも生まれてきた。


 ……うーん。現地人であるキミたちにはまだ理解できないかな。けど……ひゃふっ! そこの生まれ変わった、シズク、レティ、セリスは薄々感づいてきたんじゃない?


 ……ああ、そうだよ。3人とも正解。

 ここは大地より空高く昇った先……“宇宙”と呼ばれる場所だ。

 まだこの世界には“宇宙”という言葉に代わる呼称はあまり浸透していないため、ここはシズクのいた国の名称を使わせてもらうことにするよ。セリスに合わせるなら“Univers”だね――うん、そうだよ。


 だから、今の発光は……大ざっぱに省略したけど、“宇宙”が生まれた瞬間さ。


 そこの鬼人族の2人は難しい顔をしているね?

 要は広大に広がっている海中に浮かぶ無数の砂粒の1つにキミたちは生きているってこと……いや、だからたとえ話だってば。

 ……は? 砂粒の上に立てるわけがないって……説明するの難しいな。

 もしかして、先にキミたちが生きていた世界っていうのは巨大な球体だってところから説明しないといけなかったかな? え? やめてくれよ。

 ……おかしいな。これくらいの知識は最初に組み込んでいたはずなんだけど、途中で書き換わっちゃった? ……いや、もしかして2人は思ったよりもバカだったりするのかな? ひゃはははっ!


 まあ、いっか。

 今は“この宇宙”が生まれた時の過去の映像をキミたちに早送りで見せている……キミたちにとっては考えられないほどの早さで時は進んでいる。

 そろそろだよ。

 あのひと際眩い眩く燃えている恒星である“太陽”を公転する無数の惑星がようやくそれらしく形を成してきた。

 今はまだ赤々と燃えているけど、次第に覆った炎も消えては冷えて……ほら、今キミたちが立っている大地であり、ボクらの今回の遊戯盤として選んだ星の誕生だ。


 この星は“キミたち”がいた“地球”よりも一回りほど小さいかな。

 重力も僅かに軽く、若干の周期のずれはあるものの、その他は“キミたち”がいた“地球”と極めて同等と言っていい惑星だ。

 ただ、極めて“地球”にそっくりな惑星だというのに、1つだけ違ったことがある。


 それは、この星はの母星と同等の環境でありながら生命が育たなかったことだ。


 ……長い時間が経った。

 気が遠くなる、なんて言葉では足りないほどの長い時間が経った。

 大気を形成し、地中より溢れた出した多量の水に覆われ、命の寝床としての資格を十分に持ちながらも、それでもいつまで経っても孤独な星だった。


 どうしてキミたちと同じ“地球”にならなかったのか――その原因は月にあった。


 キミたちがいた“地球”には唯一の衛星として月があった。

 しかし、この星には月に代わる衛星が無かった。そのせいで生命が根付かなかった。


 月がそれほどまでに重要なのかって? ――ああ、重要さ。

 変な言い方になるだろうけど、月の引力のおかげでキミたちの“地球”は1日の自転をんだ。


 もしも月がなければ、キミたちの“地球”は今よりも超高速で回転し……諸々の説明は省くけど、とても生命が生きられるような環境にはならなかった。

 何かしらの生命体が生まれる可能性はあったにしろ、現在の“人間”っていう種族は生まれなかっただろうね。


 この宇宙が生まれた瞬間からキミたちに記録を見せてきたけど、ボクが……いや、がこの星に来たのは実はこれよりもずっと後のことだ。

 そして、こことは違う別の宇宙……別次元から新しい遊戯盤を探していたボクたちが最初に見つけたのがこの星だった。


 ……ボクらには時間だけはあった。いや、姿を形成する前では、時間という概念は無いに等しいものだった。

 ボクらはね、遊戯を始める度に毎回、を移動して遊戯盤を探していたんだ。


 並行世界って言葉が理解しやすいかな。現にシズクとメレティミ、キミら2人は実際にその身で観測したはずだ。

 宇宙は1つじゃない。こことは違う次元、空間に無数に存在しているんだ。


 はあ……もうそこの2人のことはそろそろ無視するよ。

 ボクは説明してあげると言ったけど、事細かく教えるほど親切じゃない。

 キミら2人だけが納得しなくとも、他の人たちはなんとなくでも理解している。だから、キミたちはなるべく聞く側に徹していてくれ。


 話を戻すよ。

 この星は衛星がないから生命が生まれる環境が得られなかった――ならば、とボクらは直ぐに実行したよ。

 君たちも馴染みのものでしょ。何度も夜に空を見上げたでしょ。

 あの夜空に浮かぶあれは本来存在しないものだった――そうさ、ボクらが月を作ったんだ。

 簡単だよ。周りの塵を集めて1つにするだけなんだから。同じような経験なら数えきれないほどしてきたしね。

 1つの惑星を1から作るよりも簡単なことだったし、ここまで環境が揃っている星ならば使わない手はない。

 月が無くても生命が生まれた惑星もあったことにはあったよ。

 でも……光って重要なんだ。月によって反射された陽光の恩恵はとても偉大なものだ。

 もしも、自転がキミたちと同じ星で回ろうとも、月による反射光がなかったら夜は殆ど見えない闇の中さ。

 ただ、その星の生命はその闇に適応していくわけだけど……今は他の星の話は良いね。


 ……ほら、見てよ。月が出来てからの星の進化を。

 あんなにも寂しかった星が次第に色付いていく……もうあの星には生命が生まれているんだ。

 実はボクらも成長促進を手伝ったよ。通常の進化を何十段と飛び越えて早いうちにヒトも生みだしたりもした。


 ちなみに不思議に思ってくれていたら嬉しいけど、この世界で使われているヒトの言語が1つしかない理由はボクたちが関わっているからだ。

 生まれも性別も、種族も違えど同じ言葉と文字を扱うよう、キミたちの祖先を生み出す過程で知識の1つして組み込んでいる。また、言語にも流行り廃りはあるけど、大まかな変化はしないよう調整もされている。

 言語を統一した理由は意思疎通の齟齬を無くすことが目的だ。

 これはゲームが進んでいく中、後に新しく引き入れる駒の為……キミたちのように別世界から連れてきた人たちに対する配慮でもある。

 同じプレイヤーの駒同士なのに言葉が違うだけで敵対されても困るんだ。

 実際にそう言うことがあったし……つまらない争いごとで試合が停滞するようなことは避けたいからって理由でこの星の言語は1つにしている。 


 また、惑星の規模と衛星を持たないことを除けば、キミたちがいた“地球”と極めて同じだと先ほども言ったよね。けど、どうだい? キミたちの“地球”にはありえないものがあるだろう?

 ひゃはは……ボクたちはね、この星の成長を助ける過程でもう1つの要素を加えたんだ。


 それが、キミたちがと呼ぶものだ。


 砂の1粒から大気中の元素分子に至るまで、あらゆる全ての存在にボクたちはを宿らせた。

 宿らせた理由はゲームを楽しめるための1つの要素でしかない。殴り合って戦うよりも魔法と呼ばれる異能を足した方が面白いってだけだ。

 あっ……と、こうして話している間に大分この星も進歩してきただろう。

 原始的な生活が終わり、今の生活水準にも大分近づいてきたってところだね。


 さて、話が長くなったけど、実はまだボクらの遊戯は始まってもいなかった。

 今はまだ遊戯盤を整備していたところなんだ。


 ……うん。ここから始まるんだよ。 

 “親”と“子”に別れての、星を遊戯盤にしたゲームの始まりはここからなんだ。

 ある程度の知識を持ち、成熟したヒトが安定して生活を送れるようになった時期を見計らってから、ボクたちは今回の遊戯を始まることにした。


 最初にボクらがしたことは何だと思う? せっかく準備した遊戯盤を用意しても、それで遊ぶ駒が無きゃ意味がないでしょ。

 だから、最初にしたことは自分たちの手先となる駒を作ること。


 ――ボクたちはをこの時、初めて形成し、各々に別れては自分の駒として……この星に本来存在していなかった別の種族を生み出し始めた。


 1人目は角を有する身体能力に優れた鬼人族と呼ばれる種族を作り上げた。

 そこのぎゃあぎゃあうるさい2人だね。

 2人目は見た目を重視した長い耳を持つ天人族……これは言わなくてもいいとは思うけど、キミたちの所有者でもある白い少女アレのことだ。

 3人目であるボクが生み出したのは……キミたちが亜人族と呼称する多種多様な種族たちだ。


 あ、蛇足だけど、魔物と呼ばれる種族は元々この星に最初からいた生命のことで、魔力の影響を受けて本来辿るはずだった道から外れ、異質な進化を遂げたものたちのことだ。

 言う必要はないと思うけど一応、ボクが作った訳じゃない。亜人族を生み出したとしても魔物はボクの管轄じゃないんだ。


 そして、最後……今回のゲームの“親”である彼女が生み出したのが原住民と同じ姿をしつつも、この星に溢れる膨大な魔力を操る魔人族だ。


 北のコルテオスに鬼人族。

 東のエストリズに天人族。

 南のテイルペアに亜人族。

 西のゲイルホリーペには魔人族。


 ……そんな感じにボクらは別れて、ゆっくりと時間をかけてゲームの準備を開始した。

 じっくりと魔法の扱い方や、戦い方を教えたり、戦いとは関係ないヒトとしての営みや、教養を身に付けたり。

 ……中には自分自身を神と崇めさせたりね。そう、そこで天人族の間でヨツガが崇められる。

 だから、ヨツガの名は白い少女アレだけのものじゃない。

 普段は名乗ることもないし、必要も無いと感じるヨツガの名はボクら4人が最初期の1つだった時の状態を差している。

 白い少女アレもそのことを理解しつつも広めていたようだが、どうしてその名を選んだかまではボクにもわからない。聞きたいとも思わない。ボクは白い少女アレが嫌いなんだ。


 時間をかけた準備も終わり。

 では、ゲーム開始――となったものの、実はいきなりボクたちは失敗した。


 大陸が離れ過ぎていたこともあるのかな。

 各陣営、自分たちの大陸ばかりに籠ってばかりで、いつまで経っても衝突が起こらなかったんだ。

 内戦は何度と起ころうとも100年が経ち、200年が過ぎ……ゲームは完全に停滞してしまった。

 このままではいけない。


 そこで、急きょ親の所有地であるゲイルホリーペに各自の駒を招集し、世界樹と呼ばれる巨大な大樹を生み出しては、そこを目指して陣取り合戦をするように皆に言い聞かせたんだ。


 最初のうちは良かったね。

 今までの停滞していた200年が嘘のように日夜争いの日々が1000年以上も続いた。最初の100年ほどはいつ自分の王がやられるかとハラハラしたものさ。


 まあ……ボクの駒である亜人族たちは獣寄りの本能によるもか、年を重ねるごとに生存を優先するあまり、逃げることに徹し始めてね。また繁殖力を優先し寿命を短く設定したためなのか、時間が経つにつれて、生まれてくる子たちに魔法が扱えないものも多くなったりで今回のゲームは結構劣勢だったよ。


 だから、ボクを除いた三竦みの戦いになったんだけど、これがまたまた停滞した。

 戦争をしては休戦。戦争をしては休戦……各自の王たちは奥に引っ込んでしまって、まったく前に出ようとしない。程よく勢力も均衡してしまったのも悪かったね。

 いつまで経っても目ぼしい変化を見せない遊戯盤に、ボクたちは何度か手を加えたりもした。


 “親”である彼女もしびれを切らしてか自分の持つ特権を使って“とっておき”を投入したりもした。

 ああ、“とっておき”さ。

 “親”である彼女は要所要所で自由に生命を作りだすことが出来るんだ。ただ……ちょっとだけ生まれた先と調整に失敗したらしい。


 確か、“とっておき”だった彼の名前は……鬼人族のノイターン、だったかな。


 魔人族として生まれる予定だったところを何かの手違いで鬼人族として生まれ、また、“親”である彼女は器のことも考えずに魔力を注いだとかで、生まれた時から身体と心は壊れていた。

 ノイターンは中々に面白い存在だったよ。歩くたびに地面は揺れて、手を振るだけで遠くの山は崩れ去った。

 あの時は放っておいたら世界が崩壊してもおかしくないほどで……これで今回のゲームに勝利することは“親”である彼女の意にそぐわなかったようだ。

 だから、一時休戦と敵対していたボクたちも仕方なくと共同で彼の制御に回ったりもした。


 えっと、話が逸れたね。

 その話はいつかまた、いや……別に言ってもいいけど、もう終わった話だよ?


 じゃあ……ボクたちにかかれば取り抑えるのは簡単だった。

 だけど、出来るのは彼を取り抑えるまでで、膨大過ぎる彼の力は生み出した彼女ですら手が付けられないほどの化け物と化していたんだ。

 どうにかボクたちは彼を2分し、力を半減させることで2つの駒として遊戯盤に再配置することに成功。

 まあ……2つに別けた片方がまた暴走して大変なことになったんだけど、今度はボクたちが関わらずとも現地のヒトたちがどうにか封印して終わったんだ……。


 さあ、話を戻すよ。

 重要なのはここからさ――ここでようやくキミたち生まれ変わりの出番なんだ。

 今回の世界は中々に粘り強くというか、いつもなら3回はゲームが終わってもいいほど長引いてしまった。

 だから、ボクたちはいつも通り別世界の人間を呼んで、現在の停滞したゲームに刺激を与えることにした。

 今までのゲームでもこれが良く効いた。

 別世界の思想や働きは思った以上に世界を変えていくんだ。


 1回目で僅かに揺さぶり、2回目で更なる動きを見せ、そして、3回目でやっと実を結んだ――。


 とある生まれ変わりの女性の働きで、3種族の抗争にかなりの変化が起こり始めていたんだ。

 ボクは期待したよ。これで決着まで向かってくれたら……でも、ボクの期待は直ぐに裏切られ、意外な結末を迎えることになった。

 その結末っていうのが争っていた4種族がほぼ完全に停戦状態に入ってしまったことだ。


 ……そうだよ。


 メレティミやルイの母親であり、キミたちが白い少女と呼ぶアレのブランザと呼ばれる女だ。


 ……おや、聞いてなかったのかい? ブランザは白い少女アレのお気に入りの駒だったんだよ。

 つまり、シズクの前任者だね……ひゃははははっ、はははっ! なんでもない!

 思い出し笑い。キミたちは忘れてるだろうけど、この話のどこが面白いかっていうのにキミたちが気が付いたらって思ったら、ついね。

 さあ、続きだ。


 その後、50年近くの間、ボクたちのゲームは完全に時間を止めた。

 止まった時間の中で、再度別世界から人間を呼びだすこともしたけど、時間を進めることにはならなかった。

 ただし、変化はあった。

 その後も停滞は続いたが、ゲームは確実に終わりへと向かう大きな1歩を刻んだ――ボクらの1人が脱落したんだ。 


 後でわかったことだけど、最初の脱落者である“子”のプレイヤーのお気に入りは鬼人族の長と呼ばれる男だったんだ。

 あ、そうだった。そこにいる鬼人族の娘の父親が脱落した“子”のプレイヤーのお気に入りだったのさ。

 ひゃはは、皮肉だよね。自分で連れてきた駒に自分の王を殺されたんだ。

 ……あーあ、怒らないでよ。ボクは無関係さ。キミたちの陣営が勝手に自滅しただけってことだよ。

 こうして、1人の脱落者を出しつつも、結局は時間は殆ど止まったまま――だけど、変わったのは次の人間を呼び出した時のことだった。


 さあ、話も今に近づいてきた……キミたちのことだよ。


 シズク、メレティミ。あと、おまけにセリスもかな。

 キミたちの世代は実に良い。ここ最近は信じられないほどにボクたちの時間は進んでいる。

 シズクは“親”である彼女の駒と戦った経験すらあるからね。

 これはとても大きな1歩であり、次の2歩目も直ぐだと――ボクは思っていた。

 ああ、ボクはそう思っていたんだ。


 …………。


 さて、そろそろわかってきてもらえたかな?

 ボクたちはキミたちという星の住民を駒代わりして、遊戯をしていたんだ。

 勝敗条件は“親”と“子”のどちらかの陣営の王と呼ばれるプレイヤーのお気に入りの駒が倒されること。

 こういうゲームをボクたちは何度と、何度と何度と何度と何度と何度と何度と……続けてきた。


 理不尽だ? 勝手に巻き込むな?


 でも、ボクたちがこの星に来なければ、キミたちがそうして怒ることも嘆くことも出来なかったんだよ。

 怒っていいのは、そこにいる別の世界から呼ばれて巻き込まれた人たちだけだけだろうね……ひゃはは! 


 さあ、そろそろこのゲームの開始から今に至るまでの長い説明も終わりだ。


 今この星には3つの王だけがいる。


 そこにいるシズク。

 “親”である彼女の王。

 そして、最後の1人、ボクが選んだお気に入りの駒。


 ……ああ、言うよ。


 今さら隠す気もない。むしろ、こちらから共闘をお願いして欲しいくらいだよ。

 ……白い少女アレは周り全てが敵だって思ってるところがあるし、ボクだって白い少女アレと一言だって話したくはない。

 今回の遊戯だって言葉というか、連絡を取り合ったのも駒の交換を頼まれた時だけだ。

 だから、共闘を頼むような間柄じゃなかったし、したくもなかったんだよ、ボクはね……そう、、ね。

 だから、今のボクはと言うと……白い少女の言う飽きとは違って、飽き飽きなんだ。


 ……疲れちゃったんだ。


 確かに、このゲームは面白いよ。

 勝った時は大声で笑って喜んでしまうし、自分のお気に入りの駒が首を掻っ切られて敗退した時なんて、自分のことのように胸が張り裂けそうになる。

 これは今も気持ちは変わらない。


 ボクらは適当に選んだ星に住む生命を駒として戦わせて遊ぶ。これが存在理由と言っても過言じゃない。

 毎回ゲームが変わるごとに記憶や自我は一新されるけど、蓄積されていくものだってある。

 そして、その蓄積されたものが今のボクに伸し掛かって……多分、こういう心境になったのは今回のゲームが長引きすぎたせいだと思う。

 始まっては終わり、始まっては終わり。

 いつまでも続いていく始終なんてものは停滞しているようなものだ。


 ボクは次第に考えるようになったよ。

 そろそろこのゲームそのものから降りたい……もう疲れたんだって。

 だから、今回のゲームでボクはキミに、いや、キミたちに終止符を打ってもらいたい。


 どうやって……ってどうだろうね。

 考えが無いわけじゃない。だけど、それで正しく終われるのかはボクにもわからない。

 でも、その考えを実行するにもキミたちには負けてほしくないんだ。

 その為にもボクの持つお気に入りの駒と力を合わせて、“親”である彼女に絶ち向ってほしい。


 ……ああ、教えるよ。

 ボクの……王はね。





 ――そこにいる、リコさ。








「……リコが?」


 ……目を開けると――というべきなのだろうか。

 気が付けば僕の視界から先ほどまでの俯瞰していた世界が消えた。

 しかし、元の世界に戻ったと言えばそうではない。

 今度も僕の目は違う世界を映していた。そう、別世界を――僕のいた世界を。


(……いや、ここは僕がいた町だ)


 見覚えのある家、公園、駅、河川、学校――。

 道路には無数の車が走り回り、あちらこちらとこの町に住まう人たちが点々と……僕は今は薄れた記憶の奥に微かに残る自分の故郷を見上げて――。


「ここは、わたしがいた町?」


 ――急に耳元でレティの声がした。


「な、なんだあれ! 白、青、黒、色々な箱が動いている! 中に人がいるぞ!」


 今度はレクの叫ぶような声が耳に届く。

 レティやレクだけじゃなく、他にもウリウリアさん、タルナさん、キッカちゃん等……あの場にいた全員が何らかの声を上げていた。


「……ここ、シズクたちの世界だ」


 そう、ルイのぼそりと呟いた声も聞こえた。

 だけど、彼らの姿はお互いに見えない。


 それ以上に今、僕は自分の身体を認識できずにいた。

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