第235話 大切な贈り物を預かる日

「あれ、今の声って……」

「……シズク? シズクだよ!」


 おじさんがいる窓の奥からシズクのはしゃぐような声が確かに聞こえた。


「シズクーシズクー! いるの!? ねえ、おじさん! 中にシズクいるの!?」

「あ、ああ。いるぞ。……そんなとこじゃなくて、入口から直接入れって。そこ曲がればうちの玄関だから……」

「ありがとう! おじさん!」

「あ、ルイ! ……その、なんだかお騒がせしてすみません」

「あ……ごめんなさい、おじさん! ……レティ、早く!」

「もうっ、少しは落ち着きなさい!」


 遅れながらもぺこりとおじさんへと頭を下げて、1人で先に駆け出そうとして――レティのところまで駆け戻って強引に手を引いていく。

 ぼくたちはすぐさまおじさんの言うように角を曲がり正面へと回る。そこで今まで休憩させてもらってた民家が、鍛冶屋さんだったことも知った。

 やっぱり、あの人はドワーフかなって思いつつも、2人で正面に張られた窓ガラスから鍛冶屋さんの中を覗き込んだ。


「……レティ見て!」

「……いたわね」

「ふたりともなかにはいればいいのに……」


 ああ、シズクだ。シズクがいた。

 色々な金物がぎっしりと置かれている店内の奥、そこにすごくうれしそうな顔をしたシズクをぼくたちは見つけ……ん?

 シズク1人じゃない。

 ぼくたちに背を向けているけど、シズクの前にもう1人、誰かがいる。

 女の人だ。

 でも、その人はちょっとばかし背は低いし、身体つきはなんだか太くてたくましいような……?

 一見、背の低い男にも見えたけど、でも、あれは、女の、人だ。


「レティ……」

「何?」

「……あの人、女、だよね?」

「……ええ、そう、ね? あの人には失礼だけど、わたしもそう思うわ」

「……!?」


 やっぱり……やっぱり!?

 じゃ、じゃじゃじゃ、じゃあ!

 

「……き、昨日の夜はあの人といっしょにいたの、かなっ!?」

「……かもしれないわね」

「……っ!!」


(わ、うわわわわわぁ! も、ももも、もしか、もしかして! う、うう、うわっ、浮――!)


「いや、そう考えるのは早いんじゃないかしら」

「……レティっ、ぼくが考えてることわかったの!?」

「まあ、表情からなんとなくは?」

「じゃ、じゃあっ、なんでレティはそんな冷静でいられるんだよ! シズクが、う、浮気したかもしれなんだよ!」

「……いやいや、だってあっちの窓にいた人のこと考えると……というか、早とちりで以前わたしは失敗してるし……」


 もぉぉぉっ、レティ! 何を訳のわかんないこと言ってんだよ!


「シズクは男の子だからっ、男なんて穴があれば誰でもいいって前にリターが言ってたもん!」

「ばっ、ばかっ! 公衆の面前で何とんでもないこと言ってんのよ! あんた、ここに来るときの会話を思い出せってっ……って、ルイっ、ルイっ!?」

「……わ、わわわ、うわぁぁぁぁっ!」


 ぼくは目の前の出来事が信じられなくて、隣にいるレティの首元を掴んで、何度も揺すり続けた。

 お店の中で、シズクと知らない女の人が嬉しそうな顔をして抱き締め始めたんだ!


「し、し、ししし、シズクぅぅぅうぅぅぅ~~~~!」

「ル、ルイ! 落ち着け! 落ち着きなさい!」


 し、しかも、しかもだよ!

 シズクったらその後に、たかいたかいって女の人にんだよ!

 それから、2人ともぐるぐるって回ってすごい嬉しそうな顔をしてるし!


「あんなの、ぼくだってシズクにしたことないのに!」

「は、離しなさ……苦し……あ――もう! シズクはしてほしいなんて絶対に頼まないと思うわ!」

「れ、レティはどっちの味方なんだよ!」


 むきぃ! と、その場で地団駄を踏みながら掴んでいたレティへと怒鳴りつけて――。


(……あれ、もしかして、シズクの仲間?)

(ええ……お恥ずかしいですけど、そうです)

(……これ、もしかして2人にあげるために作ったのかい?)

(…………はい。そうです)

(ふーん、仲直りのおわびってやつか。物で許してもらうってのは感心しないけど……ま、いいわ。うまくいくように中で祈っとくよ)

(そんなんじゃ……ありがとうございます)


「も――そんな怒らないでよっ……あ、ルイ! ほら、あっち見なさいって!」

「なんだよ! ぼくはまだ――!」


 レティに言われて顔を向けると、ごっつい女の人はシズクの腰をばん! と叩いて、部屋の奥へと戻っていった。

 そして、痛そうに腰を擦るシズクは自分の握った手を見つめて――こっちを見た!?

 慌ててぼくはレティを引いて、窓の外へとさっと顔を引っ込めてしまう。

 ばれたかな。シズクにばれちゃったかな――。


「レティ! ルイ!」

(ああ……ばれてた……)


 シズクはぼくらの名前を呼んだあと、直ぐにお店の外に出てきて、そわそわが止まらないぼくたち2人の前に立った。


「……」

「……」

「……」


 でも、誰も話そうとはしない。

 いざ顔を合わせても、どう話していいかわかんなくなっちゃった。

 助けを求めて隣にいるレティをちらりと見ると、同じ様にレティもぼくを見てくる。ここにきてレティも困った顔でぼくを見てきたんだ。

 どうしよう? どうする? とレティと目線で話し合うけど、ぼくたちは特に良い案は出な――。


「あの……ルイ、レティ。昨日はごめん……そう、ずっと2人に謝りたかった……」


 ――あっ、先に言われた!

 ぼくがどう話し出そうと悩んでいる間に、シズクはぼくたちに向かって深く頭を下げてきた。


「……わたしもまあ、言い過ぎたと思ってるわ。ごめんなさい」

「あ、レティ、ずるい! ぼ、ぼくも、その……シズクごめん!」


 レティが小さく頭を下げ、ぼくも遅れながらに2人よりも深く頭を下げる。

 ……これで、許してもらえたのかな。

 恐る恐る頭を上げてシズクをうかがう……と、何やらシズクは神妙な顔をしてぼくたちを見ていた。

 おもむろに顔を上げ、どうかしたのかって不審がるレティと顔を合わせ、そして2人でシズクを心配そうに見つめて――。


「お詫びって訳じゃないんだけど……ふたりに貰って欲しいものがあるんだ」

「え?」

「ん?」

「だから……もしも、受け取ってくれる気があるなら……左手を出してほしい」


 ぼくとレティはまた顔を見合わせた。

 頷き合い、首を傾げながらも、言われた通りに2人で左手をシズクへと、何をくれるのかなって、ぼくは手の平を上にして差し出す。


「ううん……違う。こう」


 シズクはそう言いながら、ぼくの左手を裏返して、そっと薬指へと何かを通した。


「ん? なにこれ?」


 ぼくがそう聞く間に、シズクはレティの左手の薬指へとぼくの同じものを通していた。

 指輪だ。

 シズクがぼくら2人の指にはめたのは綺麗な指輪――だってことはわかる。

 レティのもぼくと同じ、お揃いの指輪だった。


「……こ、これ!?」


 でも、どうしてか……レティは物凄く驚いた顔をしている。


(どうしてレティそんな顔をするの?)


 レティへの疑問が浮かぶけど、ぼくは何も言わずに、シズクから貰った指輪へと意識を向けた。


「……へえ」


 ピッカピカの白銀色の指輪は、線の上にもう1度線を引いた、リコがもらったというペンダントを細くして輪っかにしたようなデザインだった。

 ぼくは好きだな。

 ……ちょっとだけサイズが大きくて、簡単に指から抜けちゃいそうだけど、とてもいいね。 


「ふーん、かっこいいね! レティに直してもらったネックレスみたいだよ!」

「……2人にってね。夜通しかけて金魔法を練習して、作ったんだ」

「へえ、すごい! 1晩でこんな立派なものを!? うわぁ!」


 夜通しかけてなんて、ぼくたちなんかぐっすり寝てた頃だよね……ああ、シズクったらぼくたちと仲直りしたいからって作ってくれたのかな。でも頑張り過ぎだよ!


(こんなもの貰わなくたって許すっていうのに! だけどもぉぉ、うれしい! ありがとう!)


 ああ、こうして形に残るものを作るのもいいな。

 なんだかぼくも作ってみたくなっちゃったよ。ぼくもレティに教わって何か作ってみようかな。

 と、そこまで長くはないけどお礼を言おうとして、指輪からシズクへと顔を向けた時、シズクは何も言わずに今度は自分の左手をぼくたちへと見せるように掲げる。

 そこにはまたぼくたちと同じデザインの指輪がはまっていた。


 少し照れ臭そうに口元を歪ませるシズクと、顔を真っ赤にしてなわなわと唇を震わすレティと、きょとんと眼を丸めるぼく。

 ぼくたち3人は思い思いに口を閉じていたけど、唇を震わせながらレティが最初に口を開いた。


「……左手の薬指にって、これがどういう意味か、あんた、わかってるのよね?」

「うん……わかってる。レティ、僕はわかってるつもりだ」


 ん?

 2人の会話に妙な緊張感が漂っていることに気が付いた。


「……レティ、どういうこと? シズク、どういうこと?」

「ルイ、聞いてほしいことがあるんだ」

「……う、うん?」


 レティとはまた違った緊張で固まった変なシズクが、ぼくを見て重々しい口調で言う。


「ルイ、僕たちのいた世界で指輪をあげることの意味ってわかる?」

「え、どういうこと?」


 シズクたちのいた世界で指輪をあげる意味?

 言われても……ぱっとは思いつかない。


「レティは、わかってくれてるよね?」

「……ええ」


 そう、レティは震える左手を胸に抱きかかえるようにして頷いた。

 そして、レティは左手に視線を送ったまま、ぼくに教えてくれたんだ。


「……ルイ、これはシズクなりの“プロポーズ”……求婚よ」

「“プロポーズ”……きゅうこん?」


 それって……え? 何、えっと、あれ?

 今、ぼくの頭の中がごちゃごちゃし始めた。

 求婚って、え? それは、嬉しい。でも、あれ……?


「え、けど、けど、もうぼくたちは結婚の約束もしてるし、夫婦も同然だよね?」


 シズクがぼくのお婿さんで、レティがぼくのお嫁さんでって、そう約束して……。

 ぼくの言葉に、シズクはおもむろに頷いて話し出す。


「……うん。でも、なんか成り行きっていうかさ、口約束みたいなものだったし……。ここではっきりとさせておくのもいいかなって……」

「え……う、うん?」


 シズクは本気にしてくれてなかったってこと?

 ……でも、とりあえず、ぼくは黙ってシズクの話を聞いた。


「……作り始める前にはそんなこと考えてるつもりはなかったんだ。でも、考える時間は一晩中あって、やってることと言えば金魔法の練習としてハンマーを振り降ろすだけでさ。……そしたら、もう2人に指輪をあげようって……“エンゲージリング”を渡したいって、それ以外考えられなくなった」

「シズク……」


 ぼそりと熱のこもった口調でレティがシズクの名前を呼んだけど、ぼくはぼくでなんだか感動して声が出なかったんだよね。

 ぼくたち2人に見つめられながら、シズクは恥かしげに続けた。


「それで、その……貰ってもらえるかな? って……言おうとしたんだけど――」

「そんなの――」


 ――答えるまでもないじゃん! そう、ぼくは大声を上げて返事をしようとした――んだけど。

 ……それなのに、シズクのやつ!


「――けど、待ってほしい!」


 と、指輪のはまった左手を前へと突き出して、ぼくらへと待ったをかけた。


「…………は?」

「…………へ?」


 突然の待ったにぼくもレティも変な声が出た。

 なに、どゆこと?

 ぽかーんレティと2人、呆気に取られていると、シズクは頭を掻きながら誤魔化すように笑った。


「あ、いや……その、ね。今は寝不足とか鍛冶場に一晩中立ってた疲労とかで、頭の中がもやもやしてるんだ」

「……」

「……」


 ぼくたち2人は口を閉ざした。

 そして、すぐにレティが「それが?」と言った。


「……あー、その。えっと、だから、こんな状態で2人に求婚したくない」

「……」

「……」


 ぼくたち2人はまたも口を閉ざした。

 次に「それで?」とぼくが言うと、シズクはむぐっ……と唸り、さっきまでの神妙な空気なんてなかったみたいに口を引き攣らせて、言った。


「実を言うと、指輪を作ることばかり夢中になっちゃってプロポーズの内容……考えてない」

「……」

「……」


 ぼくたち2人はまたまた口を閉ざし、同じタイミングで深く、深く溜め息をついた。

 さっきまであんなに感動して喜んでたって言うのになあ。

 ……なんだか、いっきに冷めちゃったよ。

 折角こんなに綺麗な指輪を貰ったのに、嬉しさ半減って言うの? これなら貰わなかった方がまだましっていうかさ。いや、嬉しいよ。シズクから指輪貰えてうれしいよ。

 でも、でもさ。これじゃあ、なんだかね……。


「レティ……貰ったこれ、どうする?」

「ルイ……そうね。どこかで売っぱらっておいしいものでも食べる?」

「それもいいかもね。二束三文にでもお金になってくれたらいいよね」

「ええ、そうね。トーシローの作品でも素材自体はいいものっぽいだろうし……」


 じゃあ、とお別れだね、また後で~……という感じにシズクへと、小さく手を上げててここから立ち去ろうと――。


「え、ちょっと2人とも、それは酷くない!?」

「「ひどいのどっちだ!」」

「ぐあっ!」


 何がひどいだよ。

 ここまで期待させておいてひどいのはシズクじゃないか。

 ぼくらはシズクへとずいずいっと近寄ると、


「じゃあ、そのプロポーズってやつはいつしてくれるのよ!」


 とレティが怒鳴りつけて、


「今考えるって安易なのはやだからね……」


 とぼくが呆れ気味に続き、2人でシズクへと迫りながらに噛みついた。


「ま、待って! 2人とも、待ってほしい! いつって、そのまだわかんないけど、えっと……そうだ! ルイじゃなくて今度は僕がイルノートに直接2人との婚姻の許しを貰うから! だから、その、だからね! イルノートに伝えたその時には必ず!」

「なっさけないわねぇ! あんた、ここまでしておいてそんなのありだと思ってんの!?」

「うう、胸にグサッと刺さる……情けないけど、ありだって許してほしい! レティ本当にごめん!」

「もうイルノートにはぼくらの婚姻認めてもらってるのに、シズクがもう1度する意味ってあるの?」

「イルノートに関しては一応、男の僕がきちんと報告しなきゃいけないんだって! ……ね、ルイ、レティ。お願いだよ、それまでプロポーズは待っててほしい……」


 もういいよ! とレティと一緒に不機嫌そうに顔を背ける――でも、ぼくもレティもこれは振りで、本当は怒っていない。

 レティのことならわかるよ。だって、ぼくたち姉妹だもん!


(……あー、でも、ちっとも怒ってないって言ったら嘘だけどね)


 シズクもわかってるみたいだけど、顔を背けたぼくたちへと申し訳なさそうに、ゆっくりとした口調で話しかけてきた。


「……だから、その時まで指輪を預かっててほしいんだけど……駄目?」


 はあ、まったく。シズクは仕方ないな。

 まずはぼくからゆっくりと振り返って小さく頷いた。


「……いいよ。その時まで預かっておく」


 そして、次はレティで、やっぱり怒った様子もなく小さく溜め息をつきながら振り返った。


「まあいいわ……それと……ちょっといい?」


 すると、レティが呆れ気味にシズクへ質問をするように左手を上げて――上げた左手の薬指にはまった指輪を、右手の指で掴んで上下に動かした。


「……ぶかぶかなんだけど」

「え!?」

「あ、ぼくも」

「本当に? ……おっかしいな。2人の指は僕と同じくらいだと思ったのに」


 ほら、と見せてもらえば確かにぴったりとシズクの指にはまっている。指先を下に向けても指輪はまったくと動かなかった。

 むっ、ぼくたちの指とシズクの指の太さが同じだなんて思わないでよ! なんかしょっくだよ!


「ご、ごめん! 最初は自分だけの指輪を作ることに専念してたからっ……だから、その……同じサイズで3つ作っちゃったんだよ……」

「……もういいわ。サイズ直してもいい?」

「はい……」


 すっごい疲れたような顔を見せながら、レティは自分の左手に右手を置いてぱっと金魔法を使った。

 続いてレティはぼくの左手に手を添えると、同じようにさっと指との隙間を詰めてくれた。

 指輪のサイズを直した後、レティは「もう、仕方ないわね……」と口にして、やっぱり呆れ気味に苦笑して答えた。


「……待ってあげる。その時には今以上に素敵な“プロポーズ”をお願いしてもらうわ」

「そうだね。……あ、その“プロポーズ”? は、ぼくとレティ、別々に用意しておいてね!」


 ぼくもレティに続くように言うと「え? 2人別々?」とシズクが驚いた顔をしてぼくたちを見てきた。


「それはいいわね。いったいシズクはどれだけ素敵な“プロポーズ”を考えてくれるのかしらねぇ」

「うんうん! きっと、今回の台無しが帳消しになるくらいすっごいイイのにしてくれるよ!」


 そうレティといっしょにシズクに向かってニヤニヤと笑った。

 おー、困ってる困ってる。

 これくらい困ってくれないとぼくたちの気持ちだって晴れないよ。


「はい……わかりました。精一杯考えさせてもらいます……」


 そうしてシズクは泣き出しそうな顔をしながら、渋々と頷いていた。

 うんうん、よろしくね。


(……でもこの指輪、とっても素敵だね)


 あーだこーだ言ったけど……ぼくは今とっても嬉しいんだよ。

 さっきまでは売ろうなんて話もしちゃったけど、こんな素敵なプレゼントがもらえるなんて思ってもなかったし、さっきまでは仲直りできるかって心配になってたんだしね。


「……そういえば、どうして今回僕たち喧嘩したんだっけ?」

「えっと……なんだっけ?」

「……さあね。ぼくも覚えてないや」


 ぼくは覚えてたけど、レティと同じように首をかしげる。

 だって、今さら思い返しても本当にどうでもいいことだった。

 今思えばどうしてあんなことで3人一緒に怒ったのかが不思議に思えるくらいだもん。

 でも、ぼくらの喧嘩なんてだいたいいつも下らないことばかりだ。

 今さら思い出すこともないよ――と。


「……さんにんとも、おわった?」


 話も一段落ついたところで、リコがそう、建物の影から顔を覗かせた。

 いっしょに鍛冶屋さんの中を見てたのに、今まで姿が見えなかったのは、ずっと気を利かせて姿を消してくれてたんだね。


「リコ待っててくれたの?」

「うん。……シズク、うけとってもらえてよかったね」


 リコはてとてとと近寄ってきて、ぼくたち3人の左手を取ると、指輪を手でなぞるように触っていった。

 なんだか、リコにこの婚約を認められたみたいに思えちゃうのぼくだけかな。

 リコは少しだけ寂しそうな顔をして、直ぐににっこりと笑ってぼくたちへと顔を向けた。


「じゃあ、シズク! リコね、こんやもまたでかけてくるね!」

「え、そうなの?」

「……だって、こんやはリコいないほうがいいでしょ?」


 にやにやとリコはいたずらっ子みたいに笑っている。


「え、えっと……ぼ、僕は別に……リコも一緒にいようよ」

「そ、そうね。わたしもリコちゃんがいない方が、なんて思ってないわよ?」

「そ、そうだよ! ほ、ほらリコも、え、ええっと……」


 ぼくら3人は顔を真っ赤にしてしまい、リコはもっと笑いだした。

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