第228話 目覚めも良く快調になるはずだった日
リコちゃんが夜中に出歩くようになった。
毎日と言う訳じゃないが、立ち寄った町の滞在中に必ず1回は1人で出かけてしまう。
外出する日は明るいうちに知らせてくれるし、行ってきますの一言もある――あるにはあるが、行き先を訊ねてもまったくとリコちゃんは教えてくれない。一夜過ぎれば、けろりとした顔で帰ってくる。
いつしかお小遣いをねだられるようになり、私たちは渋々と渡している。
別にリコちゃんにお小遣いを渡すのが嫌なわけじゃない。
わたしたちの所持金の幾らかはリコちゃんの働きで手に入った分もある。今までの賃金分だと考えればお小遣いを渡すのは全くと問題はない。
でも、何に使っているのか? これまた秘密とにっこり笑顔で教えてくれないのだ。
今のうちにお金の使い方を学ばせておいた方がいいとも思うけど、何に利用しているかも不明なお金を使わせていいのかと悩むこともある。
夜中に出歩くこと自体叱るべきかと思うも、どうしてもとリコちゃんは外に出たいとせがむ。
渋々という形で許可はしているけど、わたしたち3人はリコちゃんの夜遊びにはいい顔は出来ずにいた。
リコちゃんの夜遊びが始まったきっかけはあの不思議なオアシスだとは思う。
それと……リコちゃんの中で何かが起こったのは紛れもなくあの日からだった。
外見の変化は光らなくなった髪以外はないが、内面ではかなりの変化が起こっていた。
以前は自分で着る服を魔力で作っていたのにそれが出来なくなってしまった。
今までは無かったのが不思議なくらいだっのに、排泄を行うようにもなった。
食いしん坊だったのは変わらないけど、自分から空腹を訴える……お腹を空かせるようになった。
……等、大小さまざまな変化がリコちゃんの中で起こっている。
中でも1番の変化はシズクの中に戻れなくなったことだ。
「……リコは人になれたって喜んでたんだ」
「どういうことだろうね……」
「わからない……けど、リコが言うには僕たちと同じになれたって……」
そう本人は言っているのだが、それは一体どういうことなのか。まさか受肉したとでも言うのだろうか。
そんな話信じられるわけはないけど、かと言って今までシズクの魔力であったリコちゃんの存在も信じられないものだった。
あの時、オアシスで出会った雌のクレストライオンも身体の変化がどうとかも言っていたしね。
もしも彼女の言う変化というものが、人になることであれば……様々な疑問から目を逸らしたとしても、そこの部分だけでもわたしは喜ばしいとは思う。
「リコには絶対に危ないことはしちゃだめだよって約束はしてるしね」
「でも、心配になるよ。リコ、悪いことをしてなきゃいいけど……」
「……リコちゃんは利口だもの。善悪の区別くらいつくわよ」
けど、やっぱり人になれたことと夜遊びのことは別だ。本気で怒って夜遊びをやめさせるべきだろうか。
(あ――でもリコちゃんは毎回嬉しそうな顔をして帰ってくるんだよねぇ。だから悪いことなんて絶対してないとは思うけど……でもでも、本人が悪いことだとは思ってないだけかもしれないし……)
「はぁ……わたしじゃ駄目だって強くは言えないわ……」
だって、リコちゃんは本当に楽しそうな顔をして帰ってくるんだ。
何をしてるかは知らないけど、あんな笑顔を見せられたら自分でも甘いなぁと思うけど、ついつい言えなくなってしまう。
――そう、わたしたちがこんなにも心配をしていると言うのに、今夜もリコちゃんは嬉しそうな顔をして出かけていった。
だから、明日もきっと嬉しそうな顔をして帰ってくるのだろう。
そして、なんだかんだでわたしたちだって……。
◎
普段、わたしたちは馬車の中で川の字に並んでおやすみなさいと一夜を明かす。
足を伸ばして寝れるけど、馬車の中は三人並んでぎりぎりと言ったところでなので多少は窮屈な思いをしている。大きな荷物を鍵の中に収納する術が無かったら、もっと悲惨な思いをしていただろう。
ルイと再会する前はバイクのおかげで日のあるうちに町にたどり着けることが多く、宿での寝泊り生活が主立っていた。
かと言って、野宿をすることも少なからずあった。
野宿をすると決めた場合は日が暮れる前に雨風が凌げるような場所を探し、毛布に包まって心細い思いをしながら瞼を閉じていた。
今じゃ外で寝る回数もだいぶこなしたことで慣れてきたけど、最初のうちはまあ大変だった。
初めて野宿を体験した朝は辛くて堪らなかったことは今でも覚えている。
たとえ毛布を敷いたとしても、硬い地面の上で長時間横になることに慣れていなかったわたしの目覚めは最悪だった。
長時間の運転による疲労も抜けない。身体はだるく重い。節々は軋み、頭はぼーっとする。
生き物の声や些細な風音でも敏感になって寝付けなかったり、エストリズ大陸は初夏であったが朝方の寒さにも相当参った。
これから野宿をするたびにこんな思いをするのかと泣きたくもなった。
でも、こんなことで弱音なんて吐いてられないし、心の底ではシズクと……また彼と共にいられる嬉しさの方が強かったからこれくらいなにくそ! と我慢できた。そして、まあどうにか野宿生活にも慣れたのよ。
けど慣れたと言っても多少はマシになったというだけで、好んでしたいとは思っていない。
前置きが長くなった。
つまりわたしが何を言いたかったって言うと、しっかりとしたベッドで眠れることはとても素晴らしいということだ。
不安と緊張を抱えながら眠る野営と違い、柔らかなベッドに横たわっての睡眠は格別で快適だった。
建物の中にいるという安心感は何物にも代えられず、どんなにおんぼろな宿であろうとも外で睡眠をとるよりも遥かにマシだった。
「…………」
ではでは……。
現在、バーバリオに滞在している今朝のわたしはと言うと、当然とベッドの上で目を覚ましたのでいつも通りの快眠だ――……うん。
3人で仲良く夜を明かしたとしても身体の疲れはまったくとないし、頭もすっきり爽快。お腹だって軽く空いて、素直に気持ちの良い朝を迎えられたわ。
「……はぁ」
――ええ、目を開けて自分の今の状況を認識するまではそう思えたはずだったの。
「だぁぁぁ…………まぁた、このパターン……なんでなのよぉぉぉ……このふたりはぁぁぁ……」
起きて早々、わたしの心中にもやもやとしたものが圧し掛かる。
理由はシズクとルイがぐーすかぴーと寝息を立てていたからだ。
それだけなら別に構いやしない。2人とも左右対称みたいに横になってて、起きても寝てても仲の良さを見せつけられる、何とも微笑ましい光景だった。
問題は2人が眠っているのがわたしの両脇ということ……わたしが抱き枕にされているこの状況が問題なのよ。
「たまにはわたしが腕枕で目覚めたいわよ……っ……はぁ……」
(なんでよ。どうしてよ。シズクあんた、わたしと寝る位置間違ってるわよ!?)
そう声を荒げたくなったが、深く深く息を吐くにとどめる。
「も――……気持ちよさそうな寝顔晒しちゃってさ……」
わたしよりも一足お先に大人っぽくなったルイと、ようやく男っぽくも見えてきたシズクの寝顔は普段では見ることはない無邪気なもの……こんな気持ちよさそうに眠ってる2人を起こすには忍びない。
その為、わたしの腕に頭を乗せながらも両腕を回して腰にしがみ付き、尚且つ人様のチチだというのに仲良くはんぶんこと右も左もぎゅっと鷲掴みにして揉まれようとも、2人の行動に関しても目を瞑らざる負えないって、いや……胸を揉みながら眠るのはやめてほしいけど。
「……わたしもわたしでどうして2人の肩に手を回して抱きしめてるのよ」
これではまるで率先して腕枕を2人にしたようじゃないか。
どうしてこんな図になったのかと頭を悩ませるけど、うーん、まったくと記憶にない。
(……いや、無いわけじゃないけど……その、なに?)
今のわたしたちは3人とも裸であることを考えれば、何となく予想は出来る……。
「……あ……はは…………慣れって怖いわね……」
胸を掴む手を剥がし、起こさないようにゆっくりと2人の拘束から抜けながら乾いた笑いを漏らす。
もう2人と身体を重ねることに、さほど抵抗は無くなっている自分に多少驚くこともある。
最初の頃は下着姿になることすら躊躇っていたと言うのに、今では日の光が注ぐ中、全裸のままぽりぽりと頭を掻くほど落ち着いていられる。
(けど、そのね……直前はまだまだ緊張して身体が強張っちゃうのよ……)
これから2人とするんだって、心臓はドキドキして苦しいくらいにさぁ……――まあ、始まっちゃえばそんな感情は一気に流れるんだけど。
「……こほん」
自制心だってそれなりに持っているつもりだ。
音が漏れないようにシャボン玉みたいな水の膜をベッドの中に張って防音対策を行ったりする。壁が薄い場合は特に念入りだ。
それから……誰も見ていないとしても今、自分が全裸である羞恥心も、持ち合わしてはいるつもり。
だから、と起き上がってするべきことはいち早く全裸のメレティミ・フルオリフィアをやめることだろう。
わたしは挟まれた2人を起こさないようにゆっくりとベッドの上から這い出ると、キョロキョロと周りに散乱した3人分の衣服の中から自分のパンツを拾い上げては片足へと通した。
片方だけ輪っかのままにしていたパンツを上まで上げた後、ほどけている反対側の紐を結び、ようやくパンイチ程度の人らしい知性を取り戻す。
さっきまでのわたしはまだ寝起きの野生動物だった。
後はブラも着けて服も着込めば完全な自制心を保ったメレティミ・フルオリフィアに戻るだけ――だが、その前に1つ。
ベッドに眠るシズクに近寄り、そっとおはようのキスを額へと落とす。
「……昨日もおつかれさま」
わたしたちをいっぱい愛してくれたシズクに労いの言葉をかけるなんて真似は、普段なら恥ずかしくて自分からじゃ出来ない。
今はまだ自制心が薄いメレティミ・フルオリフィアだから出来ることだ。
そして、続けて隣に眠るルイへと髪を掻き分けながらシズクと同じようにキスをしようとして…………?
「………………おい。いつから起きてた?」
「レティがこっちにお尻を向けてパンツを履いてる時くらいかな?」
額に唇が触れる直前、前かがみでたゆんだわたしの両胸を押し上げるようにルイに掴まれた。
近づけていた顔を下げ、じろりと下の人物へと睨みつける。
わたしの胸へと手に伸ばすルイはいたずらっ子のようににやにやと口元を緩めて笑っている。
「レティおはよぉ」
「お、おはよう、ルイ……」
キスを落とすはずだった口を引き攣らせながら、わたしも挨拶を返した。
そして、ルイの両手から逃げるように身体を起こし、人の気持ちも知らないで愉快そうに笑う妹に背を向けるようにしてベッドに腰かけ直した。
「キスしてくれないの?」
「……しません」
「えー、ぼくもシズクみたいにしてほしいな」
「……あんたが胸を揉まなきゃしてたわよ」
「レティのけちぃー」
(何がケチよ。雰囲気ってもんがあるんでしょうが、まったく)
続くように起き上がったルイは共にわたしの隣へと並んで座ってきたが、ぷいっと顔を彼女とは別の方向へと背ける。
だらしなく片足を上げて膝に乗せ、その上に頬肘を突いて深く溜め息を吐いた。
「なにさぁ、その溜め息はさぁ……ねえ、また大きくなったよね?」
「……は? …………ええ、そうね」
「いいなぁ……ぼくもレティくらい大きくなりたかったなあ」
そう羨ましそうにルイは横から手を伸ばしてわたしの胸を弾ませるように下から触れてきた。
もうルイの行動を咎めやしない。好きに触れ。
(まったく、どの口が言うんだか……)
それを口にしていいのは以前の人だったわたしくらいの持たざる者たちだけだ。
今のルイのだって健康的に膨らんで形の良い美乳じゃないか。それこそ以前のわたしが求めていた大きさなんだぞ!
(…………まあ、昔のわたしだって今のこの胸に憧れたこともあるわ)
ルイの言う通りまたサイズアップしたなぁと成長した胸も今では悩みの1つとなった。
せっかくセリスに作ってもらった下着も結構前から窮屈に感じてたし、ヨレてもきている。
(新しい下着を購入しようかなぁとも考えるけどねぇ……)
こっちの下着って大体フリーサイズばかりで自分の体形にぴったり合うものは無い。
贅沢は言える立場じゃないとわかっているけど、貴族様御用達の職人が制作した高級下着の付け心地を知ってしまえば、今更そこらのものなんて身に着けられない。
(試しに試着して見たこともあるけど着け心地が天と地もあるのよね。これなら着けない方がまし! とまで考えっちゃったりさ)
まだ使える、もう少し行ける。伸ばし伸ばしで今の下着を着続け今日に至ってしまった。
(自分でもズボラっぽいなあとも思うんだけどさぁ)
ただ、身体全体でも大きくなってきてるから、仕方ないというか成長期とでもいうべきか……本来なら喜ばしいことではある。
(……はあ、セリスに頼んだらまた作ってもらえるかしら)
モデルの仕事を引き受けるのは勘弁だけど背に腹は代えられないか……。
「ねえ、レティ」
「……なぁに」
朝の清々しさはどこへやら。
気だるげに返事をし、かすかに顎を動かして隣の贅沢な悩みをもつ妹であり、奥さんとやらへと目を向ける。
今の仏頂面のわたしと違って、ルイは小さく微笑んでいた。
「ぼく、今すごい幸せだよ」
「…………そう」
「レティは?」
「……………………幸せよ」
…………。
別に勝ち負けとかはないけど、これにはわたしの負けだ。
小難しい顔はそっと吐息と共に噴き出して、くすりとルイと同じ顔で微笑み返した。
そして、顔を上げ、先ほど出来なかった朝の挨拶を、そっと愛する妹の頬へと落とした。
続いてこつんと唇じゃなく、お互いの額を触れ合わせて今度こそと挨拶をやり直す。
「おはよう、ルイ」
「おはよ、レティ」
額を合わせた近距離で見つめ合ったまま2人して大きく笑みをこぼす。
――幸せよ。
(大切な2人がいて、こうして好調で気だるい朝を迎えて、愛する人たちと共に毎日を過ごす……ここに幸せがないなんてわたしは嘘でも言えやしない)
ルイもわたしも、言葉を交わすこともなく肩を触れて寄り添い合った。
たまには姉らしいこともしないとね、とルイの頭に手を添えてそっと抱き寄せる。
優しく優しくルイの髪を撫でながら今の幸福な時間にわたしも身を任せる。
わたしも心から幸せだとルイに伝わるよう――ん?
「………………おい」
こんなどこにでもある些細な幸せに浸っていたその時だった。
わたしのお尻を誰かがそわそわと撫でまわしてくるのだ。
一体誰の手だって……って、そりゃあ――。
「なんだ、この手は?」
「……」
「な・ん・だ・こ・の・手・はっ……ルイっ!」
「……え、えぇっとぉ…………あのね。怒らないで聞いて?」
「ええ、いいわよ。聞いてあげるからさっさと尻から手を離――」
「……レティ、ぼく……ドキドキしてきちゃった……」
「…………はぁ?」
ドキドキしたってどういうこと? って、ルイはわたしの手を取ると自分の胸の上へと導いていく。
(……う、うん。ドキドキと高鳴ってるのはわかった。それがどうして尻を触ることにつながる? ……いや、ちょっと待て。興奮してるってのか?)
「……だめ?」
と、ルイは上目遣いで頼み込んでくる。
何をしたいのかはすっかりぶち壊された雰囲気から察した。
「だ、だめって、い、今目が覚めたばかりだし! シズクは起こせないじゃない!?」
「……うん、だから……レティと2人っきりで……ね?」
「2人きりでって……でもぉ……」
一応わたしたちは同性同士で、しかも姉妹なのよ。
そりゃ、野宿みたいに慣れてきたとはいえ、まだ、まだっ、わたしには躊躇ってしまうところがあるのに!
「……えっと、不健全というか、その日も昇ったばかりだし……ね?」
「……しようよ」
「……けどぉ」
「レティはいや?」
「いやって……その……」
たしなめようにもルイの潤んだ眼差しを受けていると、わたしの中でも深く鼓動が高鳴りだす――しまった、わたしまでドキドキし始めた。
さっきまでの安らかな雰囲気は一体どこへ。
「ほら……がまんは良くないよ」
「が、我慢なんて……」
「いいじゃん……ちょっとだけだから……」
「ちょっとルイ……あ……」
ああ、もう観念します。
さっきまでの自制心がどうとか言ってた癖に、今のわたしは断り切れない。パンツ1枚程度の知性では太刀打ちできなかったか。
半ば強引に腕を引かれるまま昨日は使わなかったわたしは隣のベッドに押し倒される。
「……リターに感謝しないとね。女の子同士でもこんなに楽しめるんだから」
「わたしは逆に次に会ったらぶん殴ってやるわ……」
そう言いながらわたしは抵抗のひとつも見せることなく、落ちてくるルイの唇を自分のものと重ねる。
防音を目的とした水の膜を張らなきゃとか、まだ落ちちゃいけないと崖に手をかけた程度の理性が残っている。
「レティ……ん……」
「……ル、ルイ……」
しかし、息も荒く舌を絡ませてくるルイに結び直したパンツの紐をそっと引かれ、もう何でもいいやと崖から手を離そうとした――その時だった。
ぷはっと息を荒げて口を離し、蕩けた笑みを見せるルイの背後で、もぞりと何かが動くのを目にした。
なんだろう。
赤い……あれ……あれ、あれっ!? え!?
「……っ……え、ちょっ……リ、リコちゃん!?」
「レティ何言って……リコがいるわ……け……り、リコぉっ!?」
ぽつんと椅子に座ったリコちゃんがじーっとわたしたちを見つめていることに気が付いたのだ。
わたしたち2人は、シンクロしたかのように飛び跳ねてベッドの上で正座をするほどに驚いた。
「……リコおじゃまだったか?」
「と、とんでもない!」
寂しそうにぽつりと呟くリコちゃんにわたしは両手と首をぶんぶんと横に振って否定する。
続けてルイが焦りながらも口を開いた。
「い、いつからそこにいたの?」
「……たいようがのぼったくらい?」
なんだそれは。
じゃあ、3人真っ裸で寝息を立てていた時には既にいたというのか?
というか……どうやって部屋に入ったのだろうか。
「まどから?」
「窓ってここ2階よ……」
次からはちゃんと入口から入ってきてほしい。出来ればノック付きでお願いしたい。
そうたどたどしくも体裁を整えながら急いで解けたパンツの紐を結ぼうとしていると、リコちゃんは追い打ちとばかりに爆弾発言をわたしたちへと投げかけてきた。
「んー……リコのことはきにしないでこうびをつづけて?」
はぁっ!? 交尾!?
どこでそんな言葉を覚えてきたのよ!
わたしもルイも先ほどまで晒していた痴態のことは忘れて顔を真っ赤にして声を荒げた。
「り、リコ何言いだすんだよ!」
「し、しませんっ! するわけないでしょ!」
「そっか。ざんねん」
何が残念なのよぉ……もぉ……。
もう完全に先ほどとは別の意味でドキドキしっぱなしで、また深々とため息を吐く。
一体、朝から何度ため息を吐けばいいのだろう。
こうして今日も1日が始まった。
ベッドの上で起きたと言うのに、朝から気疲れをしているのは一体どういうことだろう。
(本当、目を開けるまでは最高に調子が良かったのに……)
こんな騒がしいやり取りの中、シズクは一向に目を覚ますことはなく、ことりと寝返りを打つに終わった。
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