第220話 海水浴に興じる日

 リコはいつも皆のことを気にかけ心配している。

 シズクは前よりも大きくはなったけどまだまだ子供っぽいところがある。

 ルイは身体だけ大人なのに中身は全くと子供のままだ。

 2人よりもメレティミの方が大人のように見える。


「もうっ、シズクもルイもリコをしんぱいさせて……しかたないこだ!」


 そう2人への不満を漏らしながら、リコは小さなカニの横歩きを観察していた。

 不思議な奴だ。前ではなく横に歩く。

 進行方向に握った砂を落として小山を作ると上手に方向を変えて早足で横歩きを始める。

 なんて面白いやつだ!


「もー! シズクもルイもリコをしんぱいさせてー!」


 ついつい上機嫌で2人への不満を漏らしながらカニの観察に励んでいると、さっとリコの上に影が落ちた。

 誰かは足音や臭いでわかった。


「リーコちゃん、どうしたの?」

「ん、メレティミか」


 たゆんたゆんと胸を弾ませてメレティミがリコを見下ろしてきた。

 大人になったリコよりも大きい胸だ。いつもなら気にならないが、素肌の露出が増えたことであらためてその大きさに目が行ってしまう。

 それから、胸を覆う布地にも。

 まったく、あいかわらずその恰好は裸にしか見えない。

 赤色の三角形の布を身体に巻いたような格好にリコはむすっと唇を突っぱねる他に無い。メレティミがいつも身に付けている下着と殆ど大差ないではないか。

 いっそ、下着で泳げばいいのではと思うが、メレティミがその恰好で良いなら別にリコはもう何も言うつもりはない。

 メレティミが身に付けている赤色の水着はルイと色違いであり、昨日この港町ネガレンスで購入したものだ(今回はリコも一緒に入ることが出来て中々に嬉しかった)。

 腰にはひらひらとパレオと呼ばれるスカートのような布を巻いており、ちらちらと隙間から細い足が見え隠れする。


「ねえ、シズクとルイ見なかった?」

「あ、そうだ。リコもさがしてた」


 リコがちょっと目を放していたら2人は迷子になった。まったく、シズクもルイもいつもリコを心配させる。

 そして、2人を探している最中にこのカニに遭遇し、ついつい夢中になってしまった。これは失敗失敗。


「リコちゃんも知らないのか……まったく、待ってろって言ったのに……じゃあいっしょに探そうか」

「うん。リコもさがす」


 先ほどまで夢中になってしまったカニと別れをして、メレティミと手を繋ぎながらあっちへこっちへと首を左右に振り続けて2人を探す。

 以前来たとは違って多くの人が海水浴を楽しんでいるので探すのも一苦労だ。

 うちの子たちは器量はとても良く、人の目を惹き付ける。その為、大概は人の目線の先を見ればシズクがいたりするのだが、今回ばかりはどうにも別の方へと集まっている。

 では、別の方というのがどこかと言えば、それは自分たちだ。

 リコとメレティミも、2人と同じく周りの注目を集めている。

 今の自分の姿は異質な存在であることは承知している。

 この発光する髪も含めて、物珍しがって注目を浴びていることは日は浅くともこの世界に戻ってきた時から感じ取っている。

 しかしそんなリコ以上にメレティミへの注目は群を抜いていた。

 リコからしたらまだまだ子供であり、愛らしいという言葉の方が似合うメレティミだが、その未完成の美貌はそこらの小娘や成熟した女ではとても敵うものではない。

 同性からは良くも悪くも様々な含みのある視線を向けられ、男の視線からは以前イルノートたちと旅に出ていた時の奇異なものとはまた違った眼差しを向けられている。

 中でも男たちの視線を集めているのは歩くたびに揺れるメレティミの胸だ。

 メレティミも妙な視線に気が付いているのだろう。いつもより顔つきが固く、男たちの射す様な視線に耐えているかのように見えた。


「……はあ、やれやれ」


 邪な考えを持つ者は寂しく思うが確実にいる。シズク探しとは別に警戒を強めなければならないだろう。メレティミのこともリコが守らなければならない。

 魔物の頃のリコならばちょっと大げさに動くだけで周りへのけん制になったのだが、如何せん今の身体ではただの子供でしかない。いざとなったら変身することも辞さないが、これで騒ぎになって町にいられなくなる方が問題なのでそれは最終手段である。

 ……だがしかし、良くも悪くもメレティミが注目をされていることは中々に気分の良いものであるとリコは思った。

 彼女もまた自分の守る対象であり、我が子のように思うことがあるからだ。

 鼻高々にメレティミの細い指をぎゅっと握り、注目を浴びる浜辺を歩き続けた。


「やっぱり海はいいわね。久しぶり。いつ以来かなぁ」

「リコはまえにここにきた。あのときはまだクレストライオンだったころだ」


 この町に着いたのは昨日の夕方頃であり、海に入るには遅すぎるということでその日は宿を決め、水着を購入して終わってしまった。その為、本日がリコたちの海水浴初日である。

 だからこそ今日という日を楽しみにしていたというのにまったく……シズクもルイもどこへ行ってしまったのか。

 2人はいつだってリコを心配させる。


「いいな、わたしもそこにいたかったなあ」

「そしたらもっとたのしかったな!」

「そう言ってくれると嬉しいな。あー、早くシズクたち見つけていっしょにあそぼ!」

「うん!」


 けらけらと2人して顔を合わせて笑い合う。先ほどの硬い表情も大分和らいだようだ。

 今はこうしてにこにこ笑ってメレティミと話していられるが、以前のリコはメレティミのことをたまに嫌いになる時があった。

 嫌いになるのはきまってシズクと2人っきりだった頃だ。


 《大目に見てあげなさい》とか《仲のいい証拠だ》とけど、リコは気に入らなかった。

 中でも《シズクのことを取られちゃったと思ったのかな?》って小馬鹿にされた時はもっと腹を立てそうになる。

 《安心しなさい。彼がどうなろうともシズクとリコとの関係は変わらないさ》と続けられて頭を悩ませる。

 ソレが言うにはどうやらリコとシズクはメレティミやルイとも違った、特別な間柄だということだ。ただ、詳しく聞こうにも《まだ早い》とか《もう少し待ってほしい》と曖昧に返されてしまうのでもう聞かないことにした。


 ソレらに諭された為か、今は仕方ないと大人な対応を取ることを心掛けるようになった。メレティミがシズクと2人っきりになっても多少は我慢できるようにはなった。

 また、たまに受ける過剰な可愛がりはやめて欲しいのだが、まあ……リコの複雑な心境からメレティミのことは未だにメレティミと呼ぶことにしている。

 本当はレティと呼んでもいい。

 なんとなく名前を呼ぶことをためらってしまい、機会を逃したままになってしまっている。いや、レティと2人と同じ様に呼びたいと思っていたりもするのだが……ぶるぶる! やっぱり、リコはこれでいいと思う。

 メレティミのことをレティとは呼ばずに一線を引くことがリコなりの距離感なのだ。


「リコちゃんの水着可愛いね。真っ白なチューブトップでフリル付きだ。尻尾も……うわ、水着の上から尻尾が生えてるみたいに見える」

「ふふん、でしょ! シズクもほめてくれた!」


 今のリコもまた周りと合わせて魔力で作った水着を着ている。これが結構動きやすく、普段着にしてもいいくらいだとリコは思う。

 2人のような三角形の水着も試しに纏ってみたがシズクにはうーんといい印象を得られなかった。だから、リコのやつはメレティミ・ルイとは別のもので、ラクラが選んだ水着を参考にリコのサイズに合うように繕ったものだ。


「まったく、こんな可愛い2人を放ってシズクったらどこに行ってるんだか?」

「だな……ルイもいないし……」

「そいえば、昨日の夜2人で抜け出してたみたいだけど何してたの?」

「あーそれな。シズクが――……ちょっとさんぽしたいっていうからいっしょにね?」

「なんだ。言ってくれたわたしも行ったのになあ」


 おっと、このことはシズクに口止めされていた。

 2人を心配させたくないからとシズクは言うが……だが、代わりにリコが心配したのだ。昨晩は本当に心配した。

 シズクはと題して真夜中の海を潜り続けていた。

 魔石から生まれた者は水の中でも呼吸が出来るようになる……そう海の中で咳き込みながら何度も試行錯誤する彼の姿をリコは見届けていた。

 どうにか成功したらしく、シズクは海の中で長時間潜れるようになったが、いつまでも海から上がってこないシズクにリコはでも溺れてしまったのではと心配したのだ。

 ようやく姿を見せた時にはどうにかほっと安堵出来たが、海から上がったら上がったでシズクは大量の海水を口から吐き出し、またしても心配をかけさせる。

 何度も咳き込み、自分の口に指を差し込み海水を掻きだすほど辛そうな姿を見せて、一体何回リコを心配させれば気が済むのかと怒りそうになった。


『ユッグジールの里にはまともな水辺がなかったからね。いつか試したかったんだ……海の中なら大丈夫なんだよ。問題は陸に上がって身体の感覚が戻った時。身体の中に入ってた海水を認識しちゃってもう苦しいのなんのって……感覚だけは覚えたから、次はもう必要な時以外は使わないことにしよう』


 シズクの言い分はこんな感じだった。

 何を言っているかわからなかったがつまりはシズクたちは水中でも活動が出来るということだ。

 身体が魔力で出来ているから“空気”を必要とせずに行動が出来るとは――ベレクトがそんなことを言っていたか。


『まあ、突き詰めればおれたちは痛覚も遮断できる……しかし、絶対痛みだけは忘れちゃだめだ! そんなことをしたら本当に人じゃなくなるからな!』


 ベレクトの話の大半は理解できなかったが、その痛みを感じないという節だけはリコも理解できた。

 以前リコも身体の半分を失くした経験があるが痛みを感じることはなかった。

 ただ、とてつもない虚無感や疲労感が失くした箇所から襲ってくるのだ。あれは実に気持ち悪い感覚だった。

 リコも出来ればもうあんな目は合いたくない。しかし、いざとなったらリコは大切な子を守るためにも身体を張る覚悟はできている――。


「……あ、リコちゃん、あそこ!」

「ん、なんだ?」


 昨晩のことを思い出していたらメレティミが声を上げて大きなパラソルを指をさす。

 パラソルの影にはリコたちをここまで連れてきてくれたルフィス・フォーレがデッキチェアに身体を預けていた。隣のテーブルに置かれたグラスを片手に持って、赤い液体を口の中へと送っている。

 ルフィスの隣には天人族のネベラス・レドヘイルも同じく座っている。

 ネベラスは野球の時もそうだったが、あまり運動が得意ではなく、この強い日差しにすぐに参ってしまうらしいが、今は別の意味で参っているようだ。

 それも、ちらちらと隣に寝そべるルフィスの胸を盗み見ているのだ。

 リコの中で《まあ、男の子だしね》と言うのでリコも何も言わないことにした。


「はっ、良い身分ね、ルフィス。こんな時間からお酒?」

「ふ、フルオリフィアちゃん!?」

「あらメレティミさん。忙しい身としてはこんな休暇は滅多にないのよ。少しくらいバカンスを楽しんでもいいでしょう」

「物は言いようね。ま、いいわ。ところでシズクを見なかった?」


 そう言ってメレティミはルフィスに近づくと、彼女の持つグラスへと手の先から氷を生み出して入れた。


「気が利きますわね」とルフィスはグラスを回して「先ほどまでスクラさんたちに連れ去られて行かれましたよ」

「なっ……待ってろって言ったのにぃぃぃ! 薄情なやつ!」


 確かに酷いな。リコだって待って……カニに夢中になってたことは忘れてメレティミと共に腹を立てる。


「ま、まあ……ギリギリまでフルオリフィアちゃんを待つって粘ってたから……ほら、シズクさんのことは許してあげて、ね?」


 そう、シズクを庇うのはぴんと背を伸ばしたネベラスだ。


「ふん、大方ルイあたりがしびれを切らしてスクラさんたちに同調したんでしょ! 何よ、人が着替えに手こずってる間にさ……」

「いつまでも恥かしがってその水着に着替えなかったあなたが悪いんじゃありません?」

「うぐっ……そ、そうよ! 今だって恥ずかしいわよ! さっきからずーっと見られっぱなしで恥ずかしいったらないわよ!」

「はあ、左様で。それにしては堂々とした振る舞いでこちらまで歩いてきてましたけど……?」

「ああいうのは恥かしがったら負けだって自分に言い聞かせたわ! 何よルフィス! あんたは男の視線は気にならないの!?」


 ルフィスは「気になる気にならないで言えば多少は気になりますが」と口にして「ねえ、ネベラスさん?」と隣に座る彼へと愉快そうにほほえみながら同意を求める。

 しかし、ネベラスはびくりと驚き、すぐさま顔を真っ赤にしてルフィスに背を向けて背を丸めてしまった。

 どうやらルフィスはネベラスの視線に気が付いていたのだろう。

 意地悪そうに笑ってルフィスは再度メレティミを見て続けた。


「……ね? こういうことよ。気のある殿方に意識してもらえているとわかるのであれば悪い気はしませんわ」

「はあ、さいですか……まあ、いいわ。わたしたちも海に行ってくる」

「またな、ルフィス」

「はい、行ってらっしゃいまし」


 それでは先に海へといったシズクたちを探そうと、その前に。


「メレティミ、かたぐるまして?」

「ん、オッケー」


 メレティミに肩を貸してもらって周りを見渡してみるが、海に遊ぶ人たちの中にシズクたちは見当たらない。

 シズク、ルイ、スクラにラクラ、最後にキーワン。あちらは5人もいるのにどこを探してもそれらしき人はいない。

 担がれたままメレティミと共に波打ち際の手前まで歩いてきたが、やはりどこにもいない。遠くへと目を凝らしても流石にそこまで人が泳いでいる姿も無い……。


「……どこに行ったのかしら。ここじゃなくてもっと奥とか?」

「リコにもわからない……ん?」


 目の前の海はとても穏やか。

 が、ふと……目の前の海面の一部が急に盛り上がりだした。波による弛みかと思うのは一瞬で、次第にその盛り上がりは普通の波とは違ったふくらみを見せ――。


「な、なに……ああっ、いたぁ!」

「あ、シズクだ!」

 

 ルイかシズクか。どちらかが魔法を使ったのだろう。

 探していた5人はその盛り上がり……大きな水球を纏って海から姿を見せた。どうやら水球の中を空洞にし5人を包んでいるようだ。

 今度こそリコやメレティミではなく周りの視線を一斉に集めている。遠くでは精霊が出たとかなんかとか以前聞いた言葉をまたも耳にする。

 球体はリコたちの前で止まると音を立ててはじけ飛び、ようやく探していた喜びはしゃぐ5人の顔が見られた。


「ひゃあ、すごかったわぁ! 海の中ってああなってるんやね!」

「ええ、とても素晴らしかったです! 水中散歩なんて体験そうそうできるものじゃないですよ! ルイさんもおふたりに負けず劣らずの魔法の腕前です!」

「いやあ、びっくりしたのお。魚どもがピカピカ眩しいのなんのって……これは一生モンの自慢になるやろなあ……」

「楽しんでもらえて何よりだね! 無事に成功してよかったよ!」

「ルイならできるって思ったよ。僕だったらきっと途中で空気の供給に失敗して破裂させてたかも……あ、レティもやっと来たんだね?」

「何がやっと来たんだね、だ! も――人がどれだけ探したと思ってるのよぉ――!」


 楽しそうに語る5人を前におまけとばかりの扱いにメレティミが激しく激怒した。

 ルフィスの言う通りなら多少は自業自得な面もあるが、リコもまた同じ様に待たされた身としては何も言わなかった。

 さぁ、行こう。

 置いて行かれたことに腹を立てたメレティミの機嫌を直すまで少しだけ時間を消費して、遅れながらリコもやっと海水浴を始めた。

 気持ちよさそうに海を泳ぐメレティミと、その後をルイが続いて、リコはシズクの背中に捕まって2人を追う。

 振り返り、スクラたち3人の様子を見ると水の掛け合い……いや、キーワンへとスクラ・ラクラ兄妹は集中砲火を浴びせている。実に楽しそうだ。

 またシズクに隠れてリコも同じ様に海の中で呼吸が出来るかと挑戦したが……失敗した。

 鼻の奥や喉の“痛覚”を刺激される。試すのは1回だけで十分だ。リコには出来ないでいい。

 咳き込んでいるとルイに心配されたが、シズクの視線に気が付いてとっさに誤魔化した。

 その後、長々と海と戯れた。

 途中、リコはもっと遊びたかったが、休憩も大事だと海から上がってルフィスたちのところへと戻ってきた。

 水分補給や事前に購入しておいた軽食を口に運んだり各々で休憩を取る。


「……ルフィスさんは泳がないんですか?」

「ええ、まあ。疲れるのも嫌ですし何より肌が焼けるのがね……一応、人前に出る身ですから極端な日焼けは控えないと?」


 イカ焼きを頬張っているとそんなルフィスとネベラスの会話を耳にした。そんなものか。

 ちなみに海で遊ばないとしてもパラソルの下で涼んでいる2人も水着を着用している。

 ネベラスも上着を羽織りながらも緑色の膝上ほどの水着だ。男たちの水着にはそれほど種類は無いのだろう。シズクもスクラもキーワンも黒、赤、黄、と色違い程度の差異しかない。

 ルフィスも海に入る気はなさそうだが胸元に深い切れ込みが入った薄黄色のワンピース型水着を身に付けていた。

 よくもまあこぼれないものだとリコは感心してルフィスの胸の動きを目で追う。

 水着のおかげなのか、それとも形の問題なのかはリコにはわからない。それだけルフィスの胸は大きい。

 大きさで言えばルフィス、メレティミ、ルイ……ラクラという順番か。


「な、なに? リコちゃん今あたしの胸みてんかった!? なあ、なんで、なんでや!?」

「……みて、ないよ?」

「うそや! ぜったいみとった! ううぅ、どうせうちのがこんなかで1番貧しい思ってんやろ……!」


 ちなみにリコが大人になったらメレティミとルイの間には入る。今の青いビキニを着たルイを客観的に見てもそうに違いない。

 ルイがこちらを見て首を傾げたがリコはそっとそっぽを向いた。


「……あっ、そうだ。人数もいるしさ!」

「どしたシズク?」


 休憩も終わりさあまた海へと向かうとした矢先、シズクは手の平に人の頭ほどの大きさの水球を生み出した。

 先ほど5人が海の中を潜っていた時の水球の縮小したもの――だと、これくらいなら僕にも出来るよ、とシズクから放られて受け取った水球の中は空洞になっていて、触るとぴしゃりと水の感触があるが軽くて弾力がある。

 別の世界で触ったビニールボールのような感触だった。


「これでビーチボールでもどう?」

「へえ……ビーチボールかあ。いいわね!」


 ビーチボール?

 なんだそれは。リコにも出来るのだろうか――簡単なルール説明を聞く限りだとリコも出来そうだ。

 シズクが足で浜辺にコートを書いている間にメレティミが他のメンバーに簡単なルール説明を行っていく。

 人数も男女で別れての3対4で行うことになった。


「あたしすっごぉわくわくしてきたぁ! ほなメレちゃんもルイちゃんもきばってこ!」

「運動は得意ではないと……まあ、なるべく2人の足を引っ張らないように頑張りますよ」

「ええか! 負けた方が昼飯おごりっちゅうこと……で……あ、そや! 魔法は使わんでくれ!」

「ふふん、別に使わなくたってぼくら女子チームが勝つよ! そっちこそ、シズクはずるして水球操作したりしないでよね」

「そんなことするか! いつだって試合は真剣勝負! ズルして勝ってもつまらないよ!」

「ほら、言い合ってないでさっさと始めるわよ!」

「よーし、リコぜぇったいまけないから!」


 審判として駆り出されたレベラスの始めの一言からリコたちのビーチバレーは始まった。

 次第に自分たちを中心に観客が増えて、遠くからまたも精霊がどうだこうだと話が聞こえてきたが、リコは試合に夢中で目を向ける暇なんてなかった。

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