第203話 レティを見ろ

 3回の表。メレティミ率いる青チームの攻撃が始まる。

 打者も一巡し、スクラが2度目の打席に入った。赤チーム投手はタックンがマウンドに立つ。

 スクラは地上人であるが、魔法の使用が禁止されたこの場に限り身体的能力に恵まれた亜人族や鬼人族を除けば公平な位置での勝負ができる。

 また、彼は勝手は違えど長物を扱っていた冒険者だ。

 1回の三振で終わった打席とは違い、タックンの投げたボールを軽々と外野へと打ち込む。


「よっしゃぁっ! 見とったかいっ! これが俺の実力ってもんじゃ!」


 意気揚々と二塁まで進出し、高らかに両腕を掲げて喜びを見せた。

 次の打者であるベレクトも勢いに乗ろうと奮起するも、打ち上げ外野まで飛んだフライは危なっかしくも鬼人族の長に好捕されワンナウト。

 一塁に進むことなく悔しがりながらベンチへと戻っていった。


「……」


 タックンに代わり、ここよりネベラス・レドヘイルが投手としてマウンドに登る……が、彼は打者でも捕手でもなく、球審であるシズクを捉え続けていた。

 これもシズクには負けたくないという意気込みの表れだったのだが、注意力が散漫していると言っていいのかもしれない。

 渾身の力を込めて放ったボールは今の彼の気持ちを乗せたように率直なものだった。


「打ったわ、打った!」


 そこを次の打者、実況席に座るチャカ・フラミネスの母アグヴァがあっさりと打ち込み、一塁へと向かう。スクラは動けず二塁残塁。

 ネベラス継投で打者はライズ・ドナだ。彼は最初、前打席と同じくフルスイングで2球空振りしてしまう。

 ただ、次の1球だけは僅かに思考を変えた。

 ライズはツーストライクに追い込まれた状況で、即座に握りを短く持ち直しバッドをボールに当てにいくことを優先し、出塁を果たした。

 今の打席でのスイング……前打席で受けたシズクの忠告に従ったのかと言えば半々だ。アニスとは別に捕手として他の打者を見ていた彼が自分で学んだというところもある。

 一塁に立つ彼は面白くない顔でベンチへと腕を上げた。

 ワンナウト満塁状態で続くのはメレティミであり、彼女は今打席でも好調な打球を見せる。


「あー……残念」


 メレティミが高々と打ち上げたボールは外野でバウンドをしてから観客席に入った。

 バッドを放り投げたメレティミは悠々と一塁へと向かい、その背後で球審であるシズクは高らかに宣言する。


「エンタイトルツーベース!」


 そして、実況席へと向かい、今のプレイについてシズクは説明を行った。

 フェアボールが地面に触れてから観客席に入った場合、打者・走者に2つ先の塁へと進める権利を与える。

 これによりライズは三塁へ、メレティミは二塁。そして二塁、三塁にいた2人は生還。

 2点が青チームに加点された。


 ネベラスは顔を青ざめながら走塁を見届けた。ルイとは違い崩れることは無かったが、動揺は隠せない。他のメンバーも同様だ。

 その後、何とかラクラを打ち取るもネベラスは肩を落としながらマウントを降りた。

 ツーアウト。二、三塁。


 投手は竜人の娘へと変わったが、次の打者であるシンシアが安打を放ち一塁へと進む。

 またも満塁、得点圏内に入ったが、続くキーワンは三振で終わり青チームの攻撃は終わった。





 3-1。2点のリードを許しながらも3回の裏、ルイ率いる赤チームの攻撃に移る。

 最初の打者としてルイが打席に立つも、力み過ぎか凡打を出してのワンナウト。

 これには先ほどの失点と同じくベンチも落胆が広がる。が、鬼人族の長は1人だけが顔色を変えずに席を立った。

 次の打者である鬼人族の長は歩きながら素振りを続け、バッターボックスの前でゆっくりと息を吐き肩の力を抜いてその時を待つ――しばしの試合中断である。

 これも運良くルイを打ち取ったラクラの次に投手として入るのはライズだからだ。

 捕手であるライズの装備を外しメレティミと守備位置の交換。シズクの手を狩りながらメレティミが防具を身に付けている間にライズはマウンドに立った。


「お待たせ。いつでもいいわよ!」


 試合再開。打席にも鬼人族の長が入った。

 経験者であるメレティミは、思いっきり投げろとチームの皆にベンチ内で伝えてある。だからこそメレティミはボールがどこに来ても良い様にミットを中心に構えた。

 中でもライズの球威ならば無理なく打者に勝てるとメレティミは考えていた。それは捕手を任せられる程にライズの肩の強さが良いことを知っていたからでもある。

 しかし、メレティミは知らない。知っていたとしても彼女が生まれる前のことであったため想像は難しかっただろう。

 鬼人族の長を任されているこの男は野球は初心者であっても、となれば彼女以上に経験を積んでいたのだ。


「……舐めるなぁ!」

「……!」


 乾いた金属音をバッドが大きく奏でる――ボールは弧を描いて外野へと送り込まれた。

 そして、巨漢に似合わない俊敏さを見せ一塁を蹴り、二塁へと進む。

 戦いの場から長い時間離れて勘はある程度鈍ってはいたが、彼にとってライズの投球程度であれば剣を振るよりも簡単に打ち込めるというものだ。

 メレティミは気遣いながらもライズに次に集中するように鼓舞するが、次の打者である竜人の娘も続くように打ち一塁へ。鬼人族の長も三塁へと向かう。


「――うそっ!?」


 おまけとばかりにウォーバンが鋼のような筋肉が飾りではないことを証明するかのように本塁打を打ち込む。

 今回2度目のホームランだ。

 観客席はまたも割れるかのような歓声を上げ、熱と言う熱を上げた。

 3点。3-4と赤チームが逆転し、青チームに1点差をつける。


「ドナくん、気にしない!」

「……おう」


 メレティミは球審であるシズクから新しいボールを貰いライズに送球。

 受け取ったライズは内心で悪態付きながらも地面を蹴り、次だと前を向いた。

 だが――。


 ――ホームラン! 2連続でのホームランだよ!

 ――2打席連続っていうのはすごいね。ドナくん落ち込まないといいけど。


 ウォーバンの後に続く亜人族の長までもが彼の放ったボールを観客席へと届けてしまう。

 先ほどとは違い、二足歩行でゆっくりと塁を回る亜人族の長は毛皮に覆われた顔でもわかるほどに嬉しそうだ。

 3-5。

 まだまだ半分も進んでいないイニングで気落ちするには早いが、打たれ続けたライズは別格だ。

 先ほどのルイ以上の落胆が彼の身体全体で現れていた。

 はじめて試合を行ったのだから――と言い訳するのは簡単だった。


(……プライドの高いドナくんならここでやめるって言うかもしれない)


 直ぐにでもライズの元へ駆け寄ろうとメレティは考え、背後のシズクへとを宣言しようしたところで、


「ドナ様! まだです! 立ち上がりなさい!」

「……シン、シア?」


 そう、一塁手であるシンシアの激励によりライズは顔を上げた。

 顔を真っ青にしながらも今にも泣きそう……とは流石に無いが、心が折れかけている彼はしっかりとシンシアへと顔を向けて、立つ。

 その後、再びメレティミへと顔を向け、小さく頷く。

 メレティミも頷き返し、元の位置に戻り腰を落とす。そして、バッターボックスで待ちぼうけを食らっていた次の打者であるタックンに「待たせたわね」と言いミットを前に出して構えた。

 ライズの放ったボールに最初のような球威は無く、制球力もない。

 何度かの投球の後にタックンに打たれるも、ピッチャーゴロ。直ぐに拾ってシンシアへと送球し念願のアウトを取った。

 どうにかアウトを取り、マウンドから捕手であるメレティミの元へと向かい防具を装着し直した。


「悪いフル……俺のせいでいっぱい点が入っちまった……」

「よくやったわ。後は任せなさい」

「フル……」


 メレティミは防具の代わりに受け取ったグローブでぽんとライズの肩を労う様に叩いた。


「やっとわたしの番ね」


 メレティミは本来のポジションである投手として今日初めてマウンドの上へと立った。

 ライズもしっかりと腰を下ろして、ミットを構える。

 打者にはネベラスが立ち、メレティミを強い眼差しで捉えている。


「フルオリフィアちゃん……!」


 彼女の名を呼び、ネベラスはバッドを構える。気合は十分だ。

 先ほどの投手としての失点は忘れてはいないが、今彼は真摯にメレティミとの対決を臨もうとしている。


「……こい!」


 ――はたく様な乾いた音が球場に響いた。


 数にして3回。

 ライズの構えるミットに一閃の軌道を残すかのようにボールは飲み込まれていった。


「……何……それ……」


 ネベラスは呆然と呟き、打席に立つ前とは違ってすっかりと冷めた視線でメレティミを見た。

 バッドを振ることもなく3球とも見送るだけで終わったのだ。

 スリーアウト。


「みんなには悪いけど、ここから先……塁を踏めると思わないことね」


 3-5。2点リードしているというのに、赤チームのベンチは静まり返ってしまった。

 ベレクトを凌ぐ剛速球を投げ込み、3球とも全てストライクゾーンに放り込むという制球力の良さも見せつけられたからだ。

 シズクがどうしてワンナウトで投手を交代させたのか――ここで皆、ようやくその理由を知った。


「ぼくら……あれを打てるの?」


 長い3回の攻防はようやく終わりを迎えた。





「さあ、わたしがピッチャーについたんだから後は点を取るだけよ!」


 4回の表、3-5と2点の差がついているがメレティミは全くと気にかける様子もなく、きりっと顔を引き締め胸を張ってチームの皆に強気に言い放つ。

 そして、次からはゆっくりと優しく微笑んで口にする。


「……お願い。みんなの力を貸して。わたしはもうシズクと……彼と離れたくない。だから、わたしをこの試合で勝たせてください。お願いします」


 メレティミはぺこりと真摯に深々と頭を下げた。


「おい、フル」

「何、ドナくん?」

「……お前そんなにあいつのことが好きなのか?」

「昨日も言ったでしょ? ……好きよ。この身に生まれる前から、ずっとね」

「そうか……」


 そうか……と、それ以上ライズは何も言わなかった。そして、他の皆も口を開かなかった。

 陽気なベレクトやスクラたちですら茶化すこともせず、彼女の気持ちを酌むようにゆっくりと頷くだけに留める。

 その中で1人、この場から逃げるように鬼人族の娘キッカ・ディーマが打席へと向かっていった。


(ああっ、なんだよ! オレはああゆぅうのは苦手なんだよォ!)


 4回からはワンナウト投手交代の縛りは消え、両者ポジションの変更は無くなる。そして、守備である赤チームの投手はルイだ。キッカは正投手となったルイと向かい合う。

 しかし、キッカはルイをはっきりと見ようともせずバッドを構えた。胸の中に勝手に埋め込まれたメレティミの言葉の1つ1つに悶えそうになる。

 心中渦巻くむず痒い感情を発散するかのようにキッカはバッドに力を込める。


(けどよォ……苦手だけど、嫌いじゃ、ねェ!)


 が、キッカは力みを解き、軽いスイングでボールを捉え、左中間へ。

 どうにか慣れてきたリターが拾い送球を行うが、危なげもなくキッカは一塁へと進塁を果たした。

 だが、続くスクラが打席に立つもののあえなく凡退。ワンナウト。


「よーし、今度こそだな!」


 3度目のベレクトの打席は意気込みと共にルイの放ったボールを強く弾く。

 ボールに乗った勢いも距離は十分だ。バッドに押されたボールは大きく山なりに観客席へと向かう。


「あ、またっ!」


 打たれた本人のルイも、またも先ほどと同じ結末を予想してか顔を歪めて飛んだボールへと目で追う。


「よしっ! どんぴしゃあ!」


 これで同点だとベレクトは歓喜に震えながら一塁を目指す……が、


「……え!?」

「な、なにぃっ!」


 ベレクトの目が、ルイの目が、いや、ここにいる球場全員の目がに釘付けになった。

 皆の注目を集めたのは小さなボールではない。

 力強く翼を羽ばたかせた竜人の娘だ。

 彼女はボールが打たれるよりも前に跳躍――同時に翼を広げて一直線に上空へと飛び立っていた。

 そのまま伸ばした左手で飛んできたボールをキャッチ――までには至らず、叩き落とす。

 ボールは竜人の娘のグローブに弾かれグラウンドへと落下するも、その落球に他のチームメンバーがフォローに入るかと言えば、誰も手を出せずに棒立ちで彼女を見続けていた。予想外過ぎた。

 打った本人のベレクトさえ一塁手前で呆然と立ち尽くしてその様子を見届けてしまったほどだ。

 そして、ボールが地面でバウンドをしたのを見てから慌てて両チーム共に動き出す。捕球したリターが即座にボールを投げようとするも、先に塁に出ていた鬼人族の娘は慌てながらも目の前で二塁へと到達。

 ベレクトも自分のものだと一塁へとのしかかるように覆いかぶさった。


 ――おおーっ飛んだ! 竜人さんが飛んだ――!

 ――今のはホームランになっているところだったね。


 あわやベレクトの打席で2点の失点と言うところを竜人の娘によるプレイでどうにか防ぐことが出来た。

 ただ、当然とばかりに異議を唱えたのは二塁到達を果たしたキッカだ。


「てめえドラコ! 魔法使うなって言われてんだろォがっ!」

「ああっなんだと鬼子! 使ってねエじゃねエか!」

「飛んだだろうがっ!」

「竜人のあたしがなんで飛んじゃいけねエんだよ!」


 こうして始まったふたりの言い争いに試合は一時中断だ。

 今回の試合は魔法の使用は禁止している。だが、竜人の娘が魔法を使った形跡は見られない。

 では、どうして魔法を使ったとキッカがケチをつけたかというと――彼女の言い分では竜人の飛翔能力は魔法を使用してのものだという。

 翼は主に方向転換や小回りといった運動制御を担うものであり、実際に身体を浮かせ、飛行をする分は魔法の力が大半を占める――と、飛んだ本人ではなくキッカが説明し「ああ、そっか」と納得しながらシズクがそのことについて訊ねると、竜人の娘は頭を傾げながら……認めた。


「うーん…………これはありかなぁ」

「なんでだよてめェ!」

「……一応って言ったからね」


 目に見えての魔法を禁止するルールを追加したのは皆と話し合った結果でもあったが、これはベレクトを含め、レティとルイ、魔石生まれの2人に対しての措置でもあった。

 魔石生まれの彼らは現在に強化魔法を使用していると言っても過言ではないからだ。

 ここで極端に魔法の使用を禁止となると、以前出会ったルフサーヌと呼ばれる魔石生まれの魔人族の様に……とまでは言わないが、常人よりも筋力は落ち、また、経験者とはいえ、メンバーの中で最年少であるメレティミがハンデを抱えて試合に臨まなければならない。これを踏まえてシズクは魔法の使用を禁止するルールを提案し追加したのだ。

 このことに関しては皆にも事前に許可を取っている。

 そして、無詠唱で魔法を扱える3人が魔法を使用した場合、また劇的な身体能力の向上を図れる強化魔法の使用の形跡が見られた場合も、即座にアウト宣告をする予定ではあった。


 今回の件とは関係のない話ではあるが、竜人の娘とは違う亜人族には同じように羽を持つ鳥人族もいる。

 人の姿をした鳥人族は背中の羽ではなく、魔力を使って空を飛ぶことをシズクはアルガラグアに滞在している間、ベレクトを通して知っていた。


 今後ユッグジールの里に住む彼らが野球を始める様になれば、どうしても羽の使用を禁止することは出来なくなる。

 例え両足で試合を行おうとしても、大きな羽を背負ったままでは負担となり対等の勝負にならない。これは地に両足をつけて活動を主とする者に対して走ることを禁止することと同義だとシズクは考えている。 


 話は戻り、竜人の娘に対してもそれだ。

 羽を背に持つ彼女にとって空を飛ぶのは当たり前のことであり、今回の件に関しては羽という重りを付けたままでの試合は公平ではない。

 だからこそシズクは今回の判定はあり、と結論を出した。


「……納得してもらえるといいな」

「ちっ……わかったよ。ドラコてめえ、こいつに感謝しろよ!」

「んだと! ルールを聞いてねエお前が悪いんだろ!」

「そりゃ手前のことだっ、ば~か!」

「誰が馬鹿だっこの――」


 再三の話だが、今後野球というものがこの場に広まるのであればどうしても魔法は見逃せないものになる。

 例え選手たちが行わなくとも外にいる観客が魔法を使用して試合に介入する可能性もある。

 そういう点を踏まえて今はまだ解決できない課題として使用を禁止したのだ。


「……」


 今回の件に関しては亜人族故の特権みたいなものだ。これもまた後に考えなければいけないだろう。

 キッカに渋々と同意してもらい、エンタイトルツーベース判定で2人には二塁、三塁へと進んでもらって試合再開。


 さて、一時中断してしまったが、次の打者であるアグヴァは集中を途切ることなくバッドを振り抜き、安打により一塁に進んで満塁と埋まる。

 ただし次の打者であるライズは先ほどの打席を忘れたかのようにフルスイング。三振。

 ツーアウトと後に追い込まれたが――。


 ――打ったぁ! 大きい! フルオリフィアがまた大きく打った!


 追い込まれながらも次の打者であるメレティミが外野へと長打を放ち二塁へと進んだ。

 キッカは楽々と本塁へと生還、ベレクトも彼女に続いて本塁を踏む。

 ベンチに戻る時に呼び止められたキッカは、ベレクトと大きくハイタッチをした。


「やったな!」

「おうっ! ……って、なんでオレがお前とたたえ合ってんだよ!」

「ええっ、喜ぶべきところは素直に喜ぼうぜ! え、もしかしていやだったか!? そんなにおれ、きらいか!?」

「ば、ばかやろう! きらいとかすきじゃねえ! オレは別にお前なんか……お、お前はオレの……宿敵だ!」


 しかし、青チームの攻撃はここで終わる。ツーアウトながらにラクラが一塁へと駒を進めたが、最後の打者として立ったシンシアは凡打でアウト。

 5-5と、この攻撃で両チームの得点は並んだ。


「……っ……!」


 2度もメレティミに打たれ消沈するルイがマウンドから降りベンチへと戻る時、彼女はシズクに呼び止められて顔を上げた。


「ルイ、この試合はピッチャーとしてのレティを見続けるんだ」

「レティを……どうして?」

「それ以上は……僕からは言えない」

「……うん」


 シズクの言葉を理解しきれないところがあったが、助言だろうとルイは頷きベンチへと戻った。





 4回の裏、攻守交替で赤チームの攻撃はリターからの開始であったが……。


 ――ストライクストライクストライク! フルオリフィア完封!

 ――最初の自信がここにきて現れているね。流石、メレティミちゃん。

 ――え、名前で呼んだ!? レドヘイル兄さんフルオリフィアのこと名前で呼んだよ! そ、そんなの、家族以外で名前を呼ぶことを許すって、それって……!

 ――え? ああ、そこにこだわっていたのね。僕はもともとメレティミちゃんから許可を貰ってたけど……じゃあ、フラミネスちゃんも名前で呼んであげようか? あ、でも、フラミネスちゃんの場合はご両親の許可を貰わないと駄目かなって?

 ――う、うん! 呼んで! ね、ね! ほら、ママも大きくまるってベンチから合図出してるし! 呼んでほしいな!

(ちょぉぉぉっと待てぇぇぇ! パァパは許さないぞぉぉぉ!)

 ――……あーほら、観客席のお父さんは駄目だってよ!

 ――許す! 私が許すからいいの! パパ……お父様のことはいいの!


 実況席の2人のやり取りを余所に、正投手としてマウンドに立ったメレティミは、リターだけではなく続くアニスをあっさりと3球三振で終わらせる。


「……今度は、ぼくが打つよ!」

「………………やってみなさい」


 ――ストライク。

 そして、ルイまでもが粘りを見せることもなく、三者連続3球三振でこの回は終わりを見せた。

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