第200話 試合が始まりました

 ――さあ、フルオリフィアとフルオリフィアのシズク様争奪戦の開催だよ!


 天気にも恵まれ、今日は絶好の試合日和。

 ホームベースの後方に設置された実況席からフラミネスちゃんが大きく鈴の音のような声を響かせる。彼女の声は魔道具マイクを通じてこの神域の間と、ユッグジールの里中へと広がりを見せているだろう。


 ――実況は私、四天のチャカ・フラミネスとぉ~?

 ――ええ、っと、四天のアリディ・レドヘイルの長男ギオ・レドヘイルがお送ります……でいいのかな?

 ――いいよ! レドヘイル兄さんそれでいいよ! 元気にいこー!

 ――うん。あ、ところで……なんでフラミネスちゃんはシズクくんのこと様付けで呼んでるの?

 ――うぐっ……気にしないで! レドヘイル兄さん気にしないで! つい癖でっ、そう癖なの! ついつい口から出ちゃっただけなの! ではでは……。

 ――それにフルオリフィアとフルオリフィアじゃ、どのフルオリフィアかわからないんじゃ……。

 ――はいはい! ちゃっちゃと進もう! 観戦に来てくれた皆が今か今かと待ち望んでいるので先に進もう!

 ――……はあ。やっぱり、フラミネスちゃんも大人になったんだね。昔はおにいちゃんおにいちゃんってレドよりもなついてくれてたのに……あの頃のフラミネスちゃんはもういないのかな。お兄ちゃんちょっとだけ寂しいよ……。

 ――お、おにいちゃん! ちがうの! 私は前と変わってなんかいないよ! 以前からおにいちゃんのことが大好きな……あっ、ち、ちがうからね! ちがうっていうのは大好きじゃないってことじゃなくてそのね!

 ――……ふふっ、冗談だよ。フラミネスちゃんが困ってる顔が見たくて意地悪しちゃったんだ。

 ――なっ、も、もー! もう! 怒るよ! 私だってそんな意地悪されたら怒るんだからね!

 ――ふふ、むくれるフラミネスちゃんもかわいいよ。じゃ、そろそろ始めようか。……その前に、今回審判を務めるシズクくんから一言お願いします。


「――え、僕?」


 ついつい2人のやり取りにほっこりしていたところでの突然の無茶ぶりだ。

 事前に打ち合わせはしていたけど話せなんて僕は聞いてない。

 2人は先ほどまでの仲の良さを見せつけるかのようにニコニコ揃った笑みを浮かべ、実況席へと手招きをしてくる。

 参ったなぁ……。実況席から三塁手側、青チームのベンチにどんと腰を下ろし、腕を組んで構えているレティへと無言の助け船を求めた。


(僕がやらないといけないの?)

(……やれ)


 キリッと引き締まった表情からは肯定以外の返答は無い。おまけとさっさと行けとばかりに小さく顎で示す。

 なんだよそれ。それが賭けるまで求める彼氏への対応なのかな!


「シズクー! よくわからないけどいい一言お願いねー!」


 追い打ちと一塁手側の赤チームのベンチからもルイが元気に僕の背を押す。

 ちなみに色分けは彼女たちの目の色……って、言わなくてもいいか。


(はあ、これはもうやらないと駄目か……なんだか照れ臭いな)


 すっかり涼しくなった頭を掻きながら実況席の2人の元へと向かい、中心にコアが埋め込まれたアンテナみたいなマイクを強引に手渡される。

 魔法で声を飛ばしてるから当然なんだろうけど無線なのはありがたい。


『……え、えー……この度は皆さん多忙な中お集まりいただきありがとうございます。そして、2日と言う短い期間でこんなにも素晴らしいグラウンドを作って頂きありがとうございます……これだけじゃだめ?』


 実況席の2人に聞いたつもりだったが、反応は外野である観客席から返ってきて、四方八方からブーイングが投げ込まれる。

 中には「フルオリフィア様を返せ」「憧れてたのに!」「男の敵!」「本当は女なんだろう!」なんて僕に対しての抗議らしい声明が聞こえたような……聞こえなかったことにしよう。

 フラミネスちゃんとレドヘイルくんのお兄さんからも、もうちょっとと続きを促された。


『うう…………えー……では、野球は本来神聖なスポーツであり、金銭を賭けて勝負をする――いわゆる野球賭博は禁止行為です。ですからお金以上に人を賭けるなんてもっての外。もしも次回開催があるのであれば、名誉や勲章を懸けて競い合って欲しいです。ただ……あ――もうっ、やっぱり1番言いたいのは……やっぱり僕も野球が――っ』


 あっ、ちょっとマイク取らないでよ!


 ――はい、ありがとうございました! シズク様……シズクさんからの一言でした。ありがとうございました! それでは野球と呼ばれる競技のルールを説明しまーす!


 と、最後のチャンスと僕も参加させてほしいと皆の前で懇願してみたが、話すらさせてもらえずに終わってしまった。

 ちぇ……。

 フラミネスちゃんが観客に大まかなルール説明をしている間に、僕は両ベンチへと前に出るように合図を飛ばす。

 そして、今回の出場選手の皆をグラウンドに整列させ、お互いに向き合ってもらった。


 まずルイの赤チームは先頭から順に、


・投手(ピッチャー) ルイ

・捕手(キャッチャー) アニス

・一塁手(ファースト) ウォーバン

・二塁手(セカンド) レドヘイル

・遊撃手(ショート) リターさん

・三塁手(サード) 亜人族の長

・左翼手(レフト) 鬼人族の白髪の女の子

・中堅手(センター) 鬼人族の長

・右翼手(ライト) 魔人族3人組の1人、タックン


 ルイのチームに限り守備位置については僕が決めさせてもらった。

 投手は誰にしようかなって思ったけど、ルイがやりたいって言うので彼女の意志を尊重して任せた。

 一方、青チームの方はレティが決めていたので試合当日まで誰がどのポジションにつくは僕も知らされていなかった。


・投手(ピッチャー) レティ

・捕手(キャッチャー) ドナくん

・一塁手(ファースト) シンシアさん

・二塁手(セカンド) フラミネスちゃんのお母さん

・遊撃手(ショート) レク

・三塁手(サード) キーワンさん

・左翼手(レフト) 竜人の女の子

・中堅手(センター) ラクラちゃん

・右翼手(ライト) スクラさん


 ただ始まった後で言うのであればこんな感じだ。


(やっぱりね……)


 わからずとも確信できたことは投手をレティが務めることだ。

 彼女なら絶対にそのポジションにつくと思っていた。


 ちなみに今回の試合は通常の9イニングではなく、6イニングに変更している。

 初心者ばかりということで体力的に9回はきついだろうなと配慮してのことだ。

 ただ、延長線は予定しているし先のことはわからない。


 次に今回に限って目に見える魔法の使用は原則禁止としている。

 これはまだルールも完全に理解していない面々が魔法を使ったことで起こる問題の解決方法が出来ていないことが大きい。

 ただ先ほどのスピーチでも言ったけど、もしも野球というものが里に受け入れられたのなら、魔法の使用を許した試合と言うのも面白いかもしれない。


 最後にチームの識別について。

 メンバー全員のグローブやバッド、両チーム捕手と球審である僕のマスクとプロテクターは用意してもらったけど、さすがにユニフォームまでは揃えらる時間は無かった。なので、みんなには赤と青のビブスを着用してもらうことにした。

 レティチーム捕手のドナくんについては知らないけど、ルイチームの捕手を務めるアニスからは自分の顔が隠れてしまうからってマスクが不評だったくらいだ。


 あ、ついでっていうのも変だけど塁審は、タックンと一緒にいた2人の男の子たちに一塁と三塁を、嫌々言いながらも(結局レティに頼み込まれて)二塁にリウリアさんが入っている。


 整列する面々の中には不安そうな顔をする人もいるけど、やっぱり和気藹々としている様は見ててこちらも羨ましくなる。いいなあ。

 ……ま、先頭の2人だけは皆とは違った温度差で、開始前からバチバチと火花を散らすほどに睨み合っている。


「……レティ。ぼく、負けないから!」

「ふん。付け焼刃で勝てるほど野球は甘くないわ」

「レティだって野球やめてからまったくとやってないじゃないか! 今のレティなんてちょっとだけぼくより上手なだけだい!」

「言ってくれるじゃない。まあ、試合自体中学の時の草野球が最後だけど……それでも、昨日今日始めた殻付きのヒヨコに負ける気はしない」


 がるるとルイが嚙みつかんとばかりに威嚇するけど、レティに限っては余裕しゃくしゃくと受け流している。

 逆に血を昇らせたのはルイの方で、1歩2歩と列から離れて、すまし顔のレティに近寄っていく。


「はあ……レティも大人げない……」


 ――なんて言いながらも、彼女の自信の表れは多分ここにいるメンバーの中で1番僕が理解している。

 もしも僕がレティの立場だったとしたら彼らに負ける気はしない。

 だからこそごめんね、と僕はレティに心の中で謝った。

 アニスとリターに引っ張られながらルイは列に連れ戻されているところを見届けた後、僕はルール説明を終えた実況席の2人に向かって頷いた。

 2人も同じく頷き返し、事前の打ち合わせ通りに行動を起こしてくれた。


 ――なお、シズクさんより今回の試合限定でのルール追加を提案され、私たち2人が独断で受理しました。


「……なぬ?」

「え、なになに?」


 ルイだけではなくレティまでもが列から離れ、実況席ではなく手近な僕へと詰め寄ってきそうだったので、僕は逃げるように実況席へと向かい2人に変わって追加ルールについて説明する。


『今回に限り、3イニングまで投手はワンナウト交代とし、メンバー全員が必ず1回は投球するようにしてください』

「……はぁぁぁっ!?」


 レティが目を見開き声を荒げ、先ほどの余裕っぷりな態度はぴゅうっと風に吹き飛ばされたかのように慌てふためいた。

 歩幅を大きく変え、のしのしと大股で迫るように僕へと向かってくる。

 数日前と同じく胸ぐらへと手を伸ばしてきて――自重したのか、寸でで手の平を広げて胸を強く押してきた。


「これ、どういうことよ!」

「……文句は言ってくるとは思ったけど、怒鳴ってくるとは思わなかったなあ」

「あったり前でしょ! 何よ、これは!」

「レティは最初からピッチャーをするだろうなって思ったからの措置だよ。……みんな初めての野球なんだ。楽しんでもらいたいんだよ」

「楽しんで……って、これは真剣勝負よ! あんたとの関係がどう変わるかっていう大切なことなのよ! もしかして、あんたルイに勝ってほしいからって――……あっ!?」


 話途中でも構わず、珍しく髪を後ろに一纏めにしたレティの頭に軽く手を添えて、自分のおでこにこつんとぶつけさせる。

 近距離に迫ったレティの細い眉がくっと上がる。綺麗な青い瞳が揺れて僕をきつく見つめる。頬は赤いのは激昂しただけじゃないよね。変な顔。怒ってるんだか恥ずかしがっているんだかわからない。

 僕の行動に観客を含めて球場全体がわっとわざつくのが聞こえる。

 きゃーとマイク越しでフラミネスちゃんがはしゃぐように悲鳴を上げる中、1番近くで悲鳴を上げているのは多分ルイだ。

 でも……皆には悪いけど今の僕はレティしか見ない。

 目くじらを立てていた彼女の視線が恥ずかしがって逸れるまで見つめ、やっと口を閉じたのを見てから、そっとおでこを離した。


「真剣勝負にしたってレティとルイの喧嘩に他の人を巻き込んでるんだよ。僕はこんなことで野球なんかしてほしくない」


 僕はそう言ってレティと同じ様にきつく睨み返した。

 青い瞳が小さく揺れ、ぐっと奥歯を噛みしめるのが見える。相変わらず睨めっこは続いたけど、閉ざされた口が開くことは無い。

 僕の気持ちがレティに届いてくれたと信じて、固めた顔を溶かしてゆっくりと優しく微笑む。


「僕は皆で野球を楽しんでほしいんだ……ね、だからね。レティも楽しんでよ。勝ちも負けも、結果がどうあれさ。僕を仲間外れにするんだから、その分僕が羨ましくて仕方ないくらい楽しんでよ」

「……わかったわよ。もうっ!」


 レティは真っ赤な顔のまま列へと戻ってくれた。

 楽しんで――と僕が言った意味は、今のレティならわかってくれたはずだ。

 1人の凄腕ピッチャーが入っただけで弱小だったチームがあれよこれよとトーナメントを勝ち進んでしまうことがある。今のレティはまさしくそれに近い。

 彼女がマウンドに立つということは、例え他のメンバー全員が初心者だらけだとしても、完全にバランスは崩壊しているんだ。

 1回からレティが投げたら下手をすると完全試合なんて結果も起こる可能性すらある。

 それだけ以前の彼女は野球が上手だった。彼女が男として生まれていれば甲子園だって目じゃないって思えるくらいだ。

 そして、その腕前が落ちていないことをルイたちに比べて時間は短くても、個別で練習を受けていた僕だけが知っている。


「……ルイもね」

「え?」


 僕らのやり取りに驚きながらも、ぽつんと突っ立っていたルイにも同じことを伝えたい。

 ルイに近寄り、手を取って彼女の赤い瞳を覗き込んで僕は微笑む。


「楽しんでよ。僕らのいた世界のスポーツを。僕がずっと続けてきた野球をさ」

「……うん。わかった。ぼくね、シズクたちの野球……楽しむよ!」


 そう言ってルイはもう何度目になるかもわからない、大きな笑顔を咲かせて頷いてくれる。

 見違えるほどに成長してしまっても、この満面の笑みだけは変わらないでいてくれたことはとても嬉しくて堪らない。

 しかし、彼女の笑顔に見蕩れているわけにもいかないんだ。

 僕はルイとレティの間に戻り、両チームを見渡した。

 1人だけまだ顔を真っ赤にして不機嫌で、もう1人もちょっとだけ頬を赤くしながら頬を緩めているけど……よし。


「それでは……礼!」

『『よろしくお願いします!』』


 ともあれ皆揃って僕の宣言から各自頭を下げる。

 これから僕らの野球が始まる。

 僕ら3人の関係がかかっているなんて気乗りはしないが試合が、始まりを迎える。



 ……やっぱり、羨ましい!





「プレイボール!」


 1回の表、先行はレティ率いる青チームだ。

 先頭打者としてスクラさんがバッターボックスに入り、1番目にマウンドに登るのはリターさんだ。


「ま、レーネよろしゅうな。……お、これでええんか?」

「うん。事前の説明でも言ったけど、バッターボックスから足が出てボールを打つのは反則だから気をつけて」

「了解じゃい。おおぅ、なんかわからんが燃えてくるなあ! さあ、リターの嬢ちゃんこいや!」


 そう意気込むと、スクラさんは肩越しにバッドを2度回した。

 おお、姿だけなら経験者っぽい感じがする。


「嬢ちゃんって、あんたよりもあたしの方が年上なんだけど…………このっ!」


 と、リターさんがセットポジションを取り振りかぶってボールを投げる。

 投手のリターさんには捕手を務めるアニスとのサインの交換なんてものはないため、強めのキャッチボールみたいなものだろう。

 僕もまたサインの交換といった捕手の技術までは彼らには教えてない。というか、僕自身捕手としての経験はないのでうまく説明できないだろう。アニスには一応の説明はしておいたけどね。


「おりゃっ……あら?」


 ストライク!

 ぐあんっ! と豪快に素振りをするスクラさんのバッドは宙を切るだけだ。体勢を崩しながらもスクラさんは「なかなか難しいのぉ……」と再度バッドを構え直す。

 スイングをしなければボール判定だったけど「ああ、君のボールは最高だよ」とアニスからボールを受け取ったリターさんは無言のまま再度、構えを取る――続く2球ともスクラさんは空振りで終わった。


「だあっ! 次こそ打っちゃる!」

「ふう……まあ打たれなくてよかったわ」


 ――おおっと! 最初の打者は3球三振だよ!

 ――まだまだ始まったばかり。次は肩の力を抜いてがんばってほしいね。


 2番手はレク。今回は青年版での登場だ。

 投手はアニスで「ああ、流石僕の妻だ――君の一挙一動についつい目を奪われてしまったよ」なんてプロテクターを外すのに四苦八苦しながら口にしていたが、リターさんはあっさりと自分のポジションに戻った後だった。

 近くにいたのは彼の代わりに捕手につくルイで「もうリター戻ってるよ」って突っ込まれアニスは顔を引き攣らせながら苦笑していた。

 今までルイはリターさんのいた2塁手を守っていた。これからもルイは投手が変わるたびにその人のポジションを補っていく。レティも然り。


 腰を落として「ぜったい勝つよ!」なんて、ルイがマスク越しににっこりと背後にいる僕へと笑いかけてくる。僕もついつい笑い返しそうになったけど、今の僕は審判だからどちらかに肩入れするわけにはいかない。ほら前を見て、と注意をするに留まった。


「シズクー! おれ打つからな!」

「うん。がんばって」


 バッターボックスに入り、にっこりと八重歯を覗かせてレクも元気に笑いかけてくる。

 無邪気で元気を分けてくれるような笑顔を浮かべる子供の時とは違い、青年時の彼の笑みは人をほっと安心させるかのような力強いものだ。

 小さく一言だけ声援を送り、前を向いて試合に専念するように無言のまま促す。


「……やれやれ。リターは恥かしがり屋さん……だから悲しくなんて――さあ、鬼人の者……私の剛球を受けるがいい!」

「当てたらデッドボールだからね」

「おおぅ! こいっ! おれはどんな挑戦も受けるぞ!」


 2人とも雄叫びみたいに声を上げ、アニスがセットポジションに入り……球を投げた――!


「……ふん!」

「……なっ!!」


 レクのスイングは豪快ながらも放たれた投球とタイミングはぴったり、芯でとらえる。

 爽快な打球音を響き渡らせ、1投目だというのレクは早々に打ち上げた――。


「お、おおぉぉぉっ!」


 ボールは一瞬で僕の目の前から一直線に吹き飛び、大きなアーチを描いて、観客席の中へとどすんと落ちた――入った。ホームランだ!


 ――入った! 入ったね!

 ――うん! あの場合はホームランって言って、確定で進塁者は全員帰還できる……だっけ?

 ――つまりつまりー? フルオリフィアに先制1点目だ――!


 「さすがね。シズクと2人でも勝てなかっただけはあるわ」「なんや、あの兄ちゃんやるやん!」「ま、まあ俺の三振のおかげやろ!」「意味わかりませんよ……ま、よしとしましょう」「流石あたしが見込んだ男……こ、これくらいしてもらわないと!」などなど。

 レティたちのスタンドからも歓声が沸き上がる。まだ試合の空気に不慣れな場外の観客にもざわつきが起こり出している。

 実況のフラミネスちゃんが思いのほかノリがいいこともあってか、このまま続けば観客の歓声はもっと良くなっていくだろう……ん? あ!


「やったぞ! な、言っただろ! おれは打つって!」


 ひゃっほー、とばかりに歓声を上げて塁へと向かうレクは周りが見えてないのだろう。

 スキップをするかのように軽やかな足取りで白線の上を走り……当然とばかりに塁を踏み――あ。嘘でしょ。

 僕も初めて見た。


「あ……え、嘘……はあっ!? あの馬鹿レクトがぁぁぁ!」

「え、な、フル、何だ? どうしたんだよ?」

「フルオリフィア様……そのような口ぶりは四天の子女としては控えるべきかと」


 さっきまでわあっと喜んでいたレティが立ち上がり大声を上げて罵倒した。

 今にも飛びだしそうなところをドナくんとシンシアさんに止められ、歓喜に震えていたベンチ陣が何事かと彼女を宥めだす。

 それもそのはず。


「……アウト!」


 僕は気が抜けながらも……嬉しそうにレクに届くように大声で宣言するほかに無かった。

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