第194話 ルイへの告白

 冷たい水に守られて、ぼくは歌を歌い続ける。

 好きな人を想った悲しい歌を――。


 ――ルイ! あんたね。何、すべてに絶望したーみたいに歌ってんのよ!


 こぽっ……と、中に残っていた空気がぼくの口からもれた――びっくりした。

 が大声を上げた青髪の女の子を注目する。

 どこかで見たような気がして、自分の顔に似てるな。今のぼくより少し年下かな。それと見覚えのある声だな……あ、昨日の結婚式に現れた子だ。

 顔を見たのはちょっとだけだったけど、あの時は自分とそっくり過ぎてぞっとしたほどだ。

 あと……それだけじゃない。

 初対面であるはずなのに、ぼくはどうしてか目の前の女の子のことを知ってる気がする。


 本当なら両目を閉じて歌いたかったけど、だけはずっと開きっぱなしでずっと黒髪の男の子ばかり見ていた。今じゃ両目で2人の子たちを見つめている。

 今朝から右目が――が邪魔をする。

 目を閉じるのも歌うのも、朝からずっとぼくの意志に反する行動を取る。笑いたかったのにイルノートに睨みつけちゃったりね。

 今も時たま、ぼくが歌うのを邪魔してシズクって言葉を出そうとする。

 何度も、助けを求めるみたいに邪魔をするんだ。外に出たいって叫ぶんだ。気が付いてほしいって騒ぐんだ。


(へんなの。へんだよ。どうしてぼくは嫌がってるの? ここにいれば安心なのに、どうして助けなんて求めるの?)


 そして、今度も右目のぼくは目の前の女の子の言葉を聞こうと耳を傾けようとする。こんな子の話なんか聞かなくていいのに、どうして?


(仕方ないな……仕方なくだよ?)


 お邪魔虫の右目が聞きたいって言うから、ぼくは歌いながらその子の話を渋々と聞くことにした。


 ――……その歌はね。事故で好きな人を失ったカズハが苦しんで苦しんで苦しみ抜いた先で……ようやく彼との死を受け入れたことで出来た歌……前を向くための希望の歌よ!


 はきょとんとして青髪の女の子を見た。


 ――わたしだって前を向こうって少なからず思って歌ってたの! だからっ、そんな歌い方なんてしたらカズハにもわたしにも失礼だわ!


 じゃあ、はどう思ったかって言うと……うるさい。

 どうしてぼくが怒られなきゃいけないの。わけがわかんない。どう歌おうがぼくの勝手でしょ。君が決めないで、とむしゃくしゃとする。


(この歌を歌っている間、何も考えないで済むんだ! 嫌なことも、煩わしいことも全部、全部歌ってる間は考えなくて済むんだ!)


 ぼくは氷のつたに命令をして、目の前の2人を叩き付ける。でも、なんでか見えない壁にぶつかって2人には届かない。

 じゃあ、貫いちゃえ! って、さっきみたいに氷柱を出そうとしても右目が出しちゃだめって邪魔する。

 もうなんだよ……忌々しい。忌々しくて堪らない。

 目の前の子も、言うことをきかないぼくも、全部が全部苛々させる。

 話が終わったのか、青髪の女の子はぎろりとぼくをひと睨み。ぱちんとぼくを包む水球を平手でたたくと、背を向けている黒髪の男の子と入れ替わった。


 ――ルイ。


 次にぼくの前に立った男の子は昨日結婚式に乱入して式をめちゃくちゃにしたやつだった。

 女の子みたいに綺麗な顔をしてるけど、この子は男の子で、女装をするやつで、いきなり目の前で髪を切り裂いた変なやつだ……だけど、どうしてか髪を切り裂いた時にぼくは取り乱した。

 それから、シズク……シズクって何度も……。


「――シズ――」


 またがシズクって言いそうになって、ぼくの歌を邪魔する。

 男の子はよろけてぼくの水球へと左手を押し付ける。ふらふらだ。

 そんなに元気がないならさっさと帰って寝てればいいのに――っ!?


「……っ!」


 ぼくの右手が男の子の手へ重ねるように伸ばそうとした。

 そんなの許さない。

 ぎゅっと胸に抱えた氷絶のつるぎを抱きかかえて右手の動きを止める――止めるのに、も彼の手に手を伸ばしたくて仕方ないって思っちゃうんだ。

 ぼくの中で激しい葛藤が生まれている。

 つらい。つらいことから逃げたかったから生み出した氷の花の中に籠ったのに、どうしてここでもつらい思いをしなきゃいけなんだ!

 これも、全部全部お前たちが――!

 

 ――僕ね。ルイに言わなきゃいけないことがあるんだ。


 ぎゅっと睨み付けようとして、思わずぎょっと目を見開いた……右目がね。左目のぼくは笑ったままだ。さっきからずっと氷絶のつるぎを出した時のふわふわってする気持ちよさに頬がにやけちゃう。

 でも、彼の言わなきゃいけないことって……右目だけじゃなく、も気になった。

 水の中にいるのに、妙に男の子の声は透き通って耳に届く。

 きっと、が耳を傾けているせいだ。ぼくは別に聞きたいわけじゃ――聞きたいなんて思うはずないもん! だって、だって……。


(お前なんて……ぼくは知らないんだから!)


 知らない。知らないんだ。ぼくは、お前なんて、青髪の女の子も黒髪の男の子も、お前たちなんて知らない!

 知らないって……知らないって言ってるのに、どうしてかぼくの胸の中が嫌な気持ちになっていく。

 この嫌な気持ちっていうのは、嘘をついた時と似てる気持ちだ。


(へんだよ。ぼくは嘘なんて、ついてない!)


 ――実はね。僕はこことは違う別の世界で生きていたんだ。


 そう、ぼくが自分自身に苦しんでいると、男の子は唐突に話し始めた。


(別の、世界? ……いや、知ってる。知ってる。ぼくは知ってる)


 こことは違う魔法の無い世界があるんだって……ぼくは聞いたことがある。

 誰から教えてもらったんだっけ。覚えてない。頭の中がちりちりする。

 知ってはいるのに、まるで初めて聞いたかのように右目がぱちぱちと瞬きをした……驚いていた。

 左目のぼくは構わず歌い続ける。右目のぼくはきょろきょろと目を動かしながらも男の子を注意深く見つめていた。

 男の子は話を続けた。





 ――異世界って言うのかな。僕は元々ここじゃない別の世界にいてね。今みたいに特別な力なんて何1つとして持たない、普通の人間として生きていたんだ。


 ――そこには僕を産んでくれた両親がいて、もうすぐ生まれてくる妹か弟がいてね。友達がいて、恋人がいて……多分年齢は16か17……多分この世界じゃ14か15歳くらいなんだ。あ、えっとね。僕らの世界じゃ1年の日数が違って……なんだろう。余計なことまで言っちゃってる。いいや、とにかく僕は何の力もない普通の人だった。


 ――その時の僕はとても幸せだったよ。多分、人生の中で1番幸せだった。でも、僕はとある理由からこの世界に生まれ直しちゃったんだ。理由は半年前くらいに知ったけど、納得はしてない。僕は望んでこの世界に来たわけじゃない。


 ――でも、僕は自分のいた世界から逃げたがっていたのも事実だ。


 ――……最後にとても悲しいことがあってね。今のルイと同じなのかな。何もかも絶望していた時にこの世界に生まれ直した。そして、生まれ変わった当初はずっと死にたい死にたいって思ってた。


 ――赤子だったこともあるから結局死ねなかったけどね。はは……でも、ずっと悔やんで悔やんで、なんとか立ち直ったんだ。……ただ、これが自分だけの力かって言ったらそうじゃない。1番の理由はルイ、君が隣にいてくれたからなんだ。


 ――赤子だったルイが夜泣きした時とか、1人ではいはいが出来るようになった時とか、意味のない言葉の羅列を口にした時とか……些細なことだけど日に日に成長していく君を感じていたら、悩んでいる暇はなくなっていったんだ。


 ――絶望に打ちひしがれていた僕にとって、ルイは生きる糧になってたんだよ。


 ――ルイがいなかったら僕はきっとどこかで死んでいたと思う。いや、死なないにしろ奴隷として生きていくことになっていたから、多分無気力に他人の言うことを聞くお人形になってたかもしれない。


――だから、今日この日まで僕が僕として生きてこれたのは全部ルイ……君がいてくれたからだ。


 君がいてくれたから……ぼくの右目が熱くなる。涙は自分で生み出した水の中に溶けて消えてしまう。

 なんでかなしいのか。の想いはぼくに伝わってくる。ぼくの左目も同じ様に泣きそうになった。

 でも、涙が流れても周りの水に紛れちゃうからわからないとしても、ぼくは、ぼくは、泣きたくない。


(もうやめろ! 何も話すな! お前の話を聞いてるといやになる!)


 耳を塞ごうとしても、ぼくの身体は言うことをきかない。

 ぼくの手は氷絶のつるぎをぎゅっと握っていないと直ぐに男の子へと――シズクへと手を伸ばそうとする。だから、ぼくは耳を塞ぐことは出来ない。

 いやだっていうのにシズクは続ける。


 ――ルイは小さい頃から僕だけ知ってることがあるって言ってたよね。


 ――別にラゴンから教えてもらってたんじゃないよ。元々僕が知っていたことなんだ。


 ――筆の持ち方も。リボンの結び方も。本当は箸の持ち方だって知ってたんだ。


 ――奴隷市場から出れた後、寝たふりをする僕にルイが先に外の世界を知っちゃうよって急かしてきたけど、空の色も風の感触も太陽の暖かさも……僕は知っていたんだ。


 ――でも、ルイと一緒にまた知りたかった。


 やめて、やめてよ!

 もう歌うのも辛いほどにシズクがぼくを虐めてくる。

 ぼくの左目も右目と同じく睨み付けるのでいっぱいいっぱいだ。

 シズクを黙らせようと氷のつたで叩こうとしても後ろの女の子が大きな扇子で粉々にする。


 ――……えっと、それでその……昔話はこれくらいだね……そのね。最初にごめんって謝っておく。


 ――最初は保護者のつもりだったんだ。ルイが立派に大人になるまで見守らなきゃ。守らなきゃってさ。そうやって僕は新たなシズクの人生をルイのために生きていくつもりだった。


 ――……でも、いつからか、僕は君に惹かれ始めていたんだ。


 ――次第に大きくなって、女の子だった君が少女になって……最初は自分でも気づかないふりをした。ルイとは歳は同じでも、中身はもう大人って言うか、おじさんって言われてもいい歳をしてたからさ。


 ――次第にルイに惹かれていることに気が付いた時には、ここユッグジールの里に置いて君の元から去ろうと思っていたんだ。……まあ、望んだ形での別れじゃなかったけど君と離れ離れになった。


 ぼくが出来るせめてもの抵抗はもうシズクを睨み付ける以外にできることはない。

 シズクは悲しそうな顔をして、首を振っていた。


 ――結果を言えば駄目だったよ。距離を取ったつもりでも、ルイが結婚するってアニスたちに聞いた時の僕の動揺は自分でも恥ずかしくなるくらいすごかった。

 

――すごい……嫌って思った。なんでルイが結婚するんだって、自分勝手に他人に喚き散らしたりね。


 ――……最低だよね。“ルイ”にも“レティ”にも。結局、僕は君のことを振り切れていなかったんだ。


 我慢できなくなって、ぼくは胸に抱えた氷絶のつるぎを自由な左手で握って寄りかかるシズクの右手の上から貫いてやろうと――したのに、自由なはずのぼくの左手は寄りかかっているシズクの手へと向けられ、次第に重なり合う。


(なんで、どうして!? ぼくの身体が勝手に!)


 どうして……どうして……――。


「……ズク」


 ――なんて、もう、わかってる。でも、気が付きたくなかった。

 だって、もうここには意地っ張りになっただけが残ってたんだから。

 右目の、はとっくにぼくに戻っていた。


(そうだ。今のぼくはただ……悲しくていじけてるだけなんだ……)


 ぼくは、思いだしていた。

 目の前にいる男の子の――シズクのことも。

 シズクの背後で殴り続けてるつたを防ぎ壊す女の子の――レティのことも。


 けれど、この数年間、ぼくがどれだけ寂しい思いをしたか……シズクを忘れていても、理解できない孤独感だけが今のぼくを支配していたんだ。

 

「……シズク」


 本当のぼくが彼の名前を口にする。

 そして、ぼくがからに戻った時、シズクの声は今以上にはっきりと耳に届いた。


「以前の僕は大切なものを全て奪われた。……もういやなんだ。僕はもう前みたいに大切な存在を手放したくない。だから――」


 シズクがもう片方の手も氷の壁に突き出し、ぼくも同じく残った手を伸ばした。

 薄い氷の壁越しにシズクの両手に自分の両手を合わせる。


「君を離したくない。僕はもう君と離れたくない!」

「シズク……!」


 ぼくも、ぼくも、ぼくも同じだよ!

 もうシズクと離れたくない。ずっとずっと一緒にいたいんだ!

 だから!

 出たい。ここから出たい。ここから出て今すぐにでもシズクに触れ合いたい。でも、出たくないって出してくれない。

 邪魔をしてるのはぼく自身だ。意地っ張りな左目に残ったぼくだ。

 ぼくが作った魔法なのに、ぼくは、ぼくを振りほどけない。


「シズク! シズク!」

「ルイ……っ!? ルイっ、思い出してくれたのっ!?」


 たった1枚の薄い氷に隔たれているだけなのに、ぼくはシズクに触れられない!

 なんで、どうして! シズク! ぼくの一番大切なひとなんだ!

 こんな壁、いつもだったら直ぐに壊せるのに……!


(いやだ! ぼくはいやだ! ぼくはここにいる! いやなんだ! 出ていきたくない!)

 

 ……左目だけが嫌だって抵抗して、この1枚の距離を壊させてくれない。


「シズク!」

「ルイ!」


 ごんごんってシズクが壁を壊そうと強く叩く。ぼくは両手を壁に貼り付けてシズクの名前を強く呼ぶ。


「ルイ! 思い出したの!?」


 レティがシズクの隣へと駆け寄り、同じ様に壁に手を付けてぼくを見つめてくる。


「わかんない! でも、!」


 レティ! レティだ! レティだってぼくの大切なひと!

 ずっとずっと一緒にいてくれたレティも、ぼくの大切な人なんだ!

 もう氷の蔦はレティを殴ったりはしない! ぼくがさせないよ!

 どうして、大切な人をここまで拒んでたのか自分でもわかんない。でも、ごめん! ぼくの本当の意志じゃないけどごめん! レティもシズクも殴ってごめん!


 そう謝る言葉も、今のぼくの声は2人に届かない。

 なんでこんなことになったのか――そんなの嫌なことから逃げようと殻に籠ったぼくのせいだ。


「あとちょっとなんだ!」

「ちょっとどいて……ふんっ……駄目ね。力任せで壊すには今のわたしじゃ限界みたい」

「どうしよう……」

「後は本人の意志じゃない! ルイ、早くこの魔法解きなさいよ!」


 レティの叱咤を受けても、ぼくは透明な壁越しに首を横に振ることしか出来ない。

 できないんだ! ぼくじゃ、ぼくじゃ壊せないの!

 2人の声はしっかりと聞こえるのに、ぼくの声は届かないのか2人は首を傾げる。


「……魔力が制御出来ていないのかしら」

「制御出来てない?」

「ほら今のルイは正気に戻ったみたいだけど、自分から出ようとしない。逆に出れないってことは暴走してるんじゃないかって……」

「じゃあ、どうしろって言うんだよ! 魔力切れまで待てって言うの!?」

「……うーん。どうかなぁ。魔法って精神によって左右されるっていうから……何か大きなショックを与えるとか?」

「大きなショック――「」――……口が勝手にって!?」

「……ん!? リコちゃんなの!? え、だって、リコちゃんまだあそこにいるのに!?」


 シズク! レティ!

 ぼくを見てよ! 2人で内緒話してないで! お願い! ぼくを、ぼくを見て!

 シズクはレティの耳に口を近づけて、ぼくに聞こえない小声で囁いた。


「……ええっ! ちょっと、リコちゃん本気で言ってるの!?」

「そんなことで――「」――……だってさ」

「いやいや! ないでしょ!」

「でも、駄目もとでやってみようよ!」

「駄目もとって……だ――! わかったっ、わかったから!」


 放し終わったふたりは顔を向かい合わせて、頷きだす。

 シズクが目を閉じて、レティがこちらを見てばつの悪そうな顔をした。


(なんでそんな顔をするの! ねえ、ぼくはここにここにいるのに! 助けて助けてよ! ねえ、2人とも――……っ!?)


「……いい、シズク!」

「……うん! お願い、レティ!」


 そこで――え……と壁を叩くぼくの手が止まる。

 身体を取り戻したが、さっきから抵抗していた意地っ張りなが――の両目が2人に集中した。

 両目を開けて、1点を凝視する。

 どこを見たって2人だ。


 レティが、シズクが……だ!





 リコの提案を聞いて、もうこれしかないと思った。

 レティは嫌々と言うか、渋々といった反応だったけど、もしも拒まれても無理にでもしてやろうと思った。


「なっ!」

「ええっっ!」

「みゅう!」


 唇が触れたのは多分、数秒のことだった。

 僕は目を瞑ってレティの感触を唇に感じていたからわからなかったけど、周りから悲鳴に似た叫び声が聞こえた。

 それから、パリンと玻璃がぶつかるような綺麗な音が耳に届いて、初夏のゲイルホリーペでも遠慮したいほどの冷水を頭から被った。

 水晶が割れたのだとはわかった。

 そして、うまくいった! と大量の水に殴られ吹き飛ばされながらもよし! って胸の中で喜んだ。

 レティと抱き合いながら冷水に吹き飛ばされ、舞台の上を少し転がること直ぐ。

 顔を上げてルイがいた場所を見つめると、そこには愕然としながら僕らを指さすルイの姿があった。


「……な、ななな、なっ!」

「「ルイ!」」


 両目を大きく見開いて、口からはだぼだぼと身体の中に入っていた水が流れていて、綺麗な顔はお化粧が滲んで悲惨なことになっている。

 いつもなら見れたもんじゃないって笑うところだけど、そんなルイでも僕は嬉しくて彼女の名前を呼んだ。

 そして、身を起こしてルイへと駆け寄ろうとしたんだけど、それよりも先にルイが走ってきてふんだくるかのように引き剥がされた。


「どうして! どうしてシズク! レティとキスするの!」

「ルイ! よかった! ルイずっと心配してたんだから!」


 感激のあまり、ルイを中腰で抱きしめてしまう。今の僕にはルイの言葉なんてうまく聞き取れない。その為、なんで怒ってるのかわからない。

 ルイはぷんぷんと首を振り続けるんだ。

 

「よくないよ! なんで、ねえなんで! レティぼく言ったよね! シズクのこと取らないでって言ったのに――!」

「…………ごめん」

「ごめんじゃないよ! なんで、なんでだよぉ――!」


 申し訳なさそうに謝るレティと、泣き喚くルイには悪いけど、僕は……やっと僕を見てくれるルイに再会できたことを心から喜んでいた。

 もう、離さない。僕もレティもルイも。

 3人ともずぶ濡れで酷いありさまだけど、僕はルイに抱き付きながら彼女がここにいることを実感し続けた。

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