第187話 もうお前たちは魔法が使える

「アイシテルアイシテル……」


 もう何度目だろう。ルイの口から溢れる歌を聞いていると悲しくなってくる。

 気落ちしそうになることはルイの歌だけじゃない。


 ユクリアに巨人、まだ見ぬ鬼人。そして、そんな彼らを束ねるゼフィリノスという男の実力は未だ謎のままだ。

 かなり厄介なことになってしまった。

 後手後手に回り過ぎてしまって、完全に侵略者たちにペースを握られてしまっている。

 僕の身はどうなっても構わないが、せめて妻たちだけでも無事に済んでくれれば――。


「……シズク、青髪の少女を連れてきた!」


 聞き覚えのある声がする方を見ると、これまた見覚えのある3人がこちらへと向かってきた。

 先頭は声を上げたリウリアだ。

 彼女の背後にいるのはメレティミに、頭に赤い布を巻いているシズク……いや、あれはリコだろう。の身体には魔力が漂っていない。

 では、シズクはどこだ……と、どこかに潜んでいるだろう彼を探そうと視線だけをあちらこちらへと動かして、偶然も“それ”を見つけてしまう。

 地上ではない――空だ。

 僕が住む魔人領の空に、3つの機影を見た。


(まずいな。彼らの援軍だろうか……)


 これ以上の増援は心から御免被りたい――けれど、希望の光も僕らを照らしているる。

 上空には、光り輝く銀色の鳥が空を飛んでいた。

 ゴマ粒の様な小さな鳥の背に、見覚えのある魔力の光が灯っている――あの煌きこそ、この状況を逆転する鍵となるだろう。


「なるほど……空か……」


 思うように魔法が使えない中、どうやってあそこまで飛ばしたのかという疑問が浮かぶも、この際どうでもいい。暗いことばかりではない。


「援軍が来る前に出来ればあの男、ユクリアだけでも捕えておきたいものだが……」

「……おい、間抜けな顔してんなよ」


 と、囁くような声が近くから聞こえた。これも聞き覚えのある声だ……だが、ありえないなあ。

 そよ風のような声は彼と顔を合わせるようになってから1度だって聞いたことはない。

 聞き間違いだろう――しかし、現実に横たわっている彼から発したのだとはこちらを睨み付ける本人を見て知った。


「ん……やあ、鬼人の長。気が付いたのかい?」

「馬鹿言うな。こんな状況でおちおち寝てられるか。静かにしろ」

「してるって。それで、どうしたんだい?」

「ちっ……いいか。もうそろそろ魔法が使えない状況が終わる。その時に俺とこいつで一斉に攻撃に移る。もちろん、お前も参加するよな?」


 こいつ、というのは亜人の長のことを差している様だ。

 顔を向ければ亜人の長が大柄な外見に似合わずこくりと小さく頷いた。


「それは構わないが……どうして魔法が使えるようになるんだい?」


 鬼人の長はへっと笑う。痛々しくも青痣の浮かぶ顔ではいつもの憎たらしさはない。


「原因だと思われる魔道具が取り除かれるからだ。まだ確信は持てねえが、こんな大規模で俺たちの魔法が邪魔されてるってのは“それ”としか思えねえ」

「原因だと思われる魔道具?」

「ああ、ユッグジールの里の周辺に妙な柱が立っている。近くには地人どもが群がっているっつうおまけつきでな。……で、以前も話しただろ? 南方から避難してきている亜人族のやつらに壊させている」

「壊させている? そもそも……どうしてそんなことがわかる?」

「……俺っつーか、俺の血族には遠く離れた場所にいる仲間に連絡を取れる魔法が使えるんだよ。さっきからずっとそれを使って外にいる奴等と連絡を取り続けていた」


 ほう? そんな魔法が? 身体1つで行えるなら魔道具よりも便利じゃないか。


「いったいどんな魔法なんだい?」

「さっきから質問ばかりだな……たく、いいよ。風魔法の1種で、神託オラクルって俺らは呼んでる」


 ……オラクル、と言われても僕には聞き覚えの無い魔法だった。

 詳しい話を聞きたかったが「なら、生き残れ」とはまあ鬼人の長らしいか。

 いいだろう。ぜひとも聞かせてもらおうじゃないか。


「ただ、いつコトをおっ始めるかって……安易に突っ走っても状況がよくなるとは思えねえ。俺とこいつじゃいい案が浮かばなくてな」

「だから、我れが魔人族の長を頼るべきだとな……」


 元々、2人だけで反撃を行うつもりだったと?

 いつの間に2人はそんな仲良くなっていたのか気持ち悪いな。しかし、余計なことは言わないでおくよ。


「なら、合図は僕に任せてくれないかい?」

「何かあるの? 失敗しなきゃいいけどよ……」


 ふっ、と笑う。出来れば前髪を掻き分けたかったが縛られているので今回はなしだ。


「間もなく、神域の間に1人の少年が舞い降りるよ。彼がこの地に現れた時――それが僕らの反攻の刃が振るわれる時だ」


 手で掻き分けられない分、首を振って髪を振り回す。

 おっと、2人には顔を上げないでと伝えておく。





 里の中じゃ見たこともねえ金髪の鬼人族にオレ、キッカ・ディーマは大苦戦していた。


「くぅ……なんだよ、あいつはぁ……!」


 橋の前で陣取ってる地人たちが使う魔道具……網を出す筒とは別、禍々しいモヤを纏った銀の長ものをその男は軽々と振るわせて、里の野郎どもを滅多打ちにしてしまったのだ。

 最初はガキのナリして人のこと油断させておいて、大きくなるなんてふざけたやつだ。オレもそいつで何度と叩き飛ばされ、何度だって地面を転がされた。

 けどよ、オレはお前から目を離すことはない。

 もう何度吹き飛ばされたか覚えちゃいねえ。身体はズキズキ痛えけど、オレは負けねえ。


(ふざけんな、畜生! お前、鬼人族だろ! 地人に味方しやがって! 裏切り者め!)


 人質に取られたオジキたちが心配だっていうのに。

 こいつさえいなきゃ今頃神域の間に行けたって言うのに。


「糞、がっ……オレ、は……まだ立ってるぞ!」

「おーどんどん来い! ……ん?」


 そいつはふと空を見上げだす。オレを前にしてよそ見とは言いご身分だな!


「……おおっ、あれシズクだ! すっごいなあ! なんであんな空高くにいるんだ! でもやっとあえたなー! じゃあ、そろそろおれも行くことにするよ! お前、女の癖して強いな! びっくりしたぞ!」

「……な、待て! 逃げるのか! この野郎!」


 なおさら余計にやべえ! こいつは神域の間へと向かおうとしている。

 今こいつを行かせちゃいけない。確実にオジキたちの障害になる。


(ああ糞が! なんでこんな強いやつが地人族どもに味方してんだよ!)


 だいたい何見てって……え、空から銀の光が落ちてきた。あ、流れ星? 珍しいものを見たな―……じゃあねえ!


「うわああ、流れ星が神域の間に落ちた! 落ちた!」


 目の前の奴も「シズクが落ちた! 落ちた!」なんて浮かれている。

 今の流れ星がさっきからうるせえシズクだと? ふざけんなよ!


「いやあ、ユッグジールの里は強いやつばっかで楽しいな! 魔法が使えないっていう不思議な体験を出来たし、とっても楽しい場所だ!」

「ま、まて! オレはまだ負けてねエ!」

「ああ負けてない! おれももっと楽しみたかったが、今は一時休戦だ! 今はシズクのことが大事だからな! おれはシズクに会わないといけないんだ! じゃ、シズクのことが終わったらまたやろうぜ!」

「さっきからシズクシズクって一体誰なんだよ!」

「友達だ! ん……おー、いやな空気も消えたしそろそろ使うか!」


 使うって何だよ――と尋ねる前に、そいつは両手を空へと掲げだす。

 微弱な閃光と、ばちばち、と何かが弾ける音が聞こえた途端、紫電が彼の指先に集まった。


 一瞬のことだった。


 眩い光と同時に轟音が鳴り響き、最初は目くらましかとついつい目を瞑りかけたが、堪えて目を見張った。

 こいつは、ばりばり、と両手に電気を灯して一斉に上空へと放ちだしたんだ。

 薄目を開けてあたりを見渡せば、悲鳴と同時に橋の前を陣取っていた忌々しい襲撃者たちが身体から煙を出して倒れている。

 ……雷魔法だ。なぜ、どうして? 今オレらは魔法が使えないっていうのに!


「しっずくー! 今からおれもそっちに向かうぞー!」

「お前……魔法が! なんで呪文を唱えてねえんだっ……おい待てよ!」

「なんだよ! おれはシズクに会いに行かなきゃいけないんだ!」

「聞かせろ! お前の名前、なんていうんだよ!」

「おれの名前!? ふん、いいだろう! おれの名は――」


 と、そいつは両腕を振り回しながら身体を横に1回転。

 最後に小さく飛び跳ねこちらに拳を付き立てて――。


「ベレクトだ!」


 と、彼は――ベレクトは言いのける。


「へ……」


 ぽかん……としながらもオレはその挙動1つ1つに見蕩れてしまった。

 片手を上げて「じゃ!」と颯爽と神域の間へと彼は走って行ってしまう……ところまで見届けてしまう。


「あいつ、足も早え……」


 なんだよ、それ。まるでオレとの決闘は本気出してなかったみたいじゃねえか。


(完敗……オレが? オジキ以外にオレが負けた?)


 オレを負かした男……名前は……。


「ベレクト……ベレクト……ベレ……はっ!」


 やべえ、くそ!

 あたしは目を閉じて深く念じる。神託オラクルだ。


《オジキ! むちゃくちゃつええやつが神域の間に向かった! 金髪の鬼人族だ! なんでか地人たちに味方しててシズクってやつを求めて向かってる! ……オジキ? オジキ聞こえてんのかよ!》


 くそ、どうなってんだ!

 まさか、オジキまで死んだのか……いや、そんなはずない! 


《オジキ……オジキまでっ、オジキまで死ぬなんて許さねえぞっ!》

《……死ぬか、バーカ! 今、立て込んでんだ! お前らもさっさとこっちにこい! もう魔法は使えるんからな!》


 よ、よかった!

 オジキまで死んだらオレ、オレ……ああ、もういい! 魔法が使えるのは今目の前でオレも見た! 行くよ! いくったら!

 あのベレクトとか言う野郎……すぐに追いついて負かしてやるからな!


「野郎ども! さっさと行く……よ……がぁぁぁっ! てめえら!」


 ……とりあえずは、ベレクトに叩きのめされた情けない里の男たちを蹴り起こさなきゃな。





 しびれを切らしてか、橋を陣取っていたやつらがついに魔道具をぶっ放ってきた。

 正直、血が頭に昇ってたことから反応はまったくと出来なかった。せめてもとフィディの身体を庇うようにあたしが盾になるしかない。

 宙に広がった網は、まるで船の上で食べた蛸の様に足を広げてあたしたちを包み込もうとする――……と、思ったところで網は突然横に弾かれた。

 いや、掴まれた、と言った方がいいのだろうか。


「これがあいつを捕まえた網か。漁業でもするのか?」

かしら? でも、魔人族なんて食べても美味しくないと思うわ」

「だな。しっかし、これはやっかいだな。捕まったら魔法が今以上に使えなくなる。魔力抑止の腕輪に近いものをこの網から感じるぞ」

「そうなの? あ、店長も魔法が使えるんだっけ?」

「まあな」


 ……ぱちぱちと瞬きをする。

 あたしたち2人を捕まえようとした網を握っているのは黒い体毛と赤黒いたてがみを頭から生やしているライオン男だ。その隣には縞模様の毛皮のネコ女が佇んでいる。

 ……だった。

 何が変って、その毛むくじゃらの筋肉まっちょな大男が見た目に似合わないエプロンを着けているのだ。もう片方のネコ娘もふりふりのエプロン、給仕服を着ている。

 料理人と給仕の2人……この場には不釣り合いな変な2人組だ。


「獣人!? なぜここに……げひっ!?」

「よそ見はいけないよお」


 そう、あたしと身重のフィディに向かって網を放ってきたにっくき男をメス猫っぽい獣人が蹴り飛ばす……蹴った、でいいのよね。あまりにも早すぎて出た足が見えなかった。

 彼女の一撃が引き金になって、地人たちと亜人たちの戦いは始まった。


(……戦いって言うよりも、一方的な暴行よね)


 今まであたしたちが近づけなかった男たちへと2匹の獣人たちは軽々と迫っていく。ライオン男は足を引きずっているように見えたが、自慢の筋力で何人もの男たちを掴んでは投げたりぶつけたりする。

 ネコ女はさっきのが見間違いではなく、機敏に動き回り迅速な蹴りを男たちにぶち込んでいく。

 彼らに遅れて、続くように複数の亜人たちも怒号を上げながら、この場に姿を見せ始めた。傍目から見ても彼ら亜人たちは興奮しているようだ。

 しかし、他の亜人たちがたどり着く前に、目の前の獣人たちだけでも十分にも思えた。


「……リターの知り合い?」

「まさか? あたしに獣人の知り合いはいないわ」

「ですよねぇ……あれ、あの人?」

「ん……?」


 ぼけっと見張りの男たちが倒れていくところを見届けていると、ばさばさと音を立てて1人の竜人の子が空から降りてきた。


「この子、以前あたしたちと一緒に神魂の儀で踊ってた竜人じゃない?」


 竜人の子はむすっと頬を膨らませて不機嫌にあたりを見渡している。

 もう入り口前の男たちは全員倒されていて、後から来た亜人たちのお縄になっている。


「あーなんだよー! あたしの出番残しておけよ! 店長なんて戦える身体じゃないのに無理してさ!」

「何言ってんのよ……いの一番に捕まったバカ娘が。あたしが助けなかったら今頃半ベソかいて転がされてたわよ」

「でも姐さんよ! あんな聞いてねエよ! あの網、あたしの中の魔力をべたべたって吸い取ろうとするんだぜ! おかげで空からは落ちるわ、火も吹けないわ、氷柱も出せないわで……あーもう! こいつらが悪い!」

「ぎゃあぎゃあうるせえな! ほれ黙れ黙れ!」


 頭をがしがしと撫でられて子供扱いされる竜人の子をついつい眺めてしまったが、途方に暮れていたあたしの代わりに隣のフィディが口を開いてくれた。


「あ、あの……」

「あ、ごめんね。一応、助っ人としてきたわけよ。この時間だとさんたちはまだ寝てるのかなーって勝手にやったことだから別に恩に感じることもないよー」

「いえ、助かりました。実際は何も出来ないままでしたから……。情けないです……」


 ぺこりとフィディが頭を下げるので、あたし以外にいた魔人の男たちも習って獣人たちに頭を下げる。

 ちなみに、あたしは下げないわよ。こいつあたしたちをおねぼけさんって馬鹿にしたのよ。

 ふん、とそっぽを向いていると赤たてがみのライオン男があたしたちの前に立ってきた。

 隻眼のぎょろりとした鋭い目には思わず息を呑んだ。


「伝言だ。もうお前たちは魔法が使える。中では俺らの長も奮闘してる。直ぐに向かって人質の確保に努めろ……だとよ」

「え、アニスが……」


 長たちがって言うんだから、アニスも馬鹿みたいに戦っているんだろう。きっとあたしたちの為だ。

 まったく、柄じゃないだろうに。アニスはあたしたちのことになると直ぐに頭に血が昇るからね。無茶なことしないといいんだけどさ。

 もう、アニスが心配で仕方ないわ!


「……わかったわ。ごほん……皆の者、直ぐにラアニス様他、神域の間に囚われている者たちを助けよ!」


 心配で仕方ないから、もちろんあたしも行くつもりだった。けど、そうしたらフィディも行きたいって言いだすだろうな。

 さっき捕まりかけた時に頭は冷めたよ。

 彼女の身を考えればあたしがストッパーにならないと駄目だ。


「じゃ、あたしも行くぞ! まだまだ暴れたんねエ!」


 ええ、あたしたちの代わりに行ってらっしゃい――と竜人の娘を見送ろうとした時だ。

 背後から声を上げた3人の少年たちが駆けつけてきた。タックンたちだ。

 あら、家の中にいろって言ったのに、子供なんだから外出たら危ないじゃないの――。


「レリタ様ご報告を! 現在西門にて新たに地人の飛空艇が着陸しました!」

「……は? なんですって! まさか、侵略者たちの援軍っ!?」


 そこをタックンが首がもげるんじゃないかってくらいブンブン横に振って否定した。


「ちがうちがう! あっ、違います! えっと、面会を求めています!」

「面会? 今それどころじゃ……くっ……ラアニス様は現在、神域の間に囚われていることは伝えたのですか?」 

「はい……ですが、来訪者たちは長ではなく、レフィデ様をご指名なんですよ」

「はあ?」


 どうしてフィディを?

 顔を見合わせても、フィディは知らないとばかりに首を振るだけだ。


「相手の名は?」

「確か、ルフィス・フォーレという女の地人で……」

「ルフィス!」

「ルフィスさん?」


 どうして、ルフィスが?

 あたしとフィディは再度顔を合わせ、頷き合った。

 そして、アニスたちには背を向けて西門へと向か……と、竜人の娘へと目を向ける。彼女はまだこの場に留まっていた。


(この子も律儀ねえ。自分が呼び止められたのもとばかりにあたしたちの会話をずっと聞いていたっぽいな?)


 しかし、これは運が良い。

 駄目もと……いや、駄目どころか無理も言わせない。


「あなた、2人担いで空飛べる?」

「は、あたし? いやまあ、行けるけどよ。何?」

「じゃあ、お願いするわ! あたしたちを西門まで運びなさい!」

「は……はあ? 嫌だよ! なんであたしが魔人族のいうことを聞かなきゃいけないんだよ! あたしは神域の間で暴れる――」

「だまらっしゃい! 里の一大事なのよ! 四の五の言わずにいいからさっさと運べ!」


 ぶつくさいう竜人の娘の足をあたしは掴み、フィディを抱きかかえてもらって空を飛んでもらった。

 これもあたしたちが飛ぶよりも、有翼種の方が遥かに速く飛べることを見通してのことだ。

 運んでもらう身なので持ち方にどうこうは言うつもりはない。魔法が使えるって言うんだから、旅の途中でリウリアやルイから教わり直した風魔法で身体を軽くしておくことも忘れない。

 これなら負担は少ないでしょう?

 あたしは雑に扱ってもいいけど、身重のフィディは丁重に頼むぞ。


「くそ、なんであたしが……」


 先ほどからぼそぼそ文句を口に続けているけど、頼まれたら断れない人種なのかもね。今はその性格でよかったと思うわ。

 こうして、あたしたちは空を飛んで大急ぎで西門に向かった。

 地上では他の亜人たちがあたしたちの居住区にはびこる馬鹿達を追い回しているのが見えた。


(さっきの件といい、もしかして、亜人たちが里中に出向いてるの? ……何よ、心強いじゃない!)


 さあ、と彼らの勇敢な姿を眺めつつ、外壁を抜けてゆっくりと地表へと下ろしてもらう。

 降りる最中、眼下には大勢の地人の集団がいた。

 里を攻撃してきた不揃いなやつらとは違って、同じ鎧や武器を持つ整列の取れた集団であり一瞬息を呑みそうになる。


「お、敵か? 里の一大事ってつまりあたしにあれを倒せってことだろ!」

「違うわ。味方、だと思うわ」

「思うじゃなくて、味方です!」

「なんだ、残念……」


 思うと言った手前、その集団の先頭には見覚えのあるスクラ、ラクラ、キーワンたちにルフィス・フォーレの姿を確認した。

 無駄な心配だったと安堵しながら……あら? あの人は誰? と地上に降り立つ手前に彼らに紛れた1人の人物に目を奪われる。


「おーい、ルフィスー!」

「ああっ、リターさん!」


 ルフィスの隣には、見知らぬ緑髪の天人族がいてあたしたちを見上げていた。

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