第176話 長たちの帰宅道

「んー……了解っす。じゃ、手筈通り設置作業に移って……あ? 大丈夫っしょ? 今はお祭りで里の監視は激甘とろとろ……平和ボケした奴らに怯えてんっすか? お前らに選択権ってやつは奴隷になった時点でないって……うん、うんうん。団長も……って、朝方伝えたっすよね? 到着する前に作業終わってなかったらどうなることやら……ね、見つかって捕まるより……そうそう、じゃあ、死ぬ気でがんばれー!」


 ばいばーい、と通話魔道具を切る。

 まったく、図体だけでかくて肝っ玉の小さいこと小さいこと。

 これが出来なきゃ作戦自体失敗ってわかってるんっすかね。

 契約で身体の自由は奪えても中までは縛れないのは厄介っす。


(……ああ、本当に失敗したなぁ)


 団員たちにまともな実戦を積ませることが出来なかったのは痛いっすねぇ。

 まさかのぶっつけ本番と、本格的な戦ってやつは今回が初めてって相当辛い。

 大体、ユッグジールの里に到着するまで通った亜人族の村全部がもぬけの殻ってそんなのありっすか?

 1度くらいは亜人族たちと戦わせて、自分たちも格上相手に勝てるぞー! って自信を奴隷たちに持たせたかった。

 では、なぜ亜人族のやつらがいなかったのかっつーと、多分、あらかじめ俺らから逃れるために自分たちの住処を捨てたんだ。じゃなきゃ説明付かないっすよ。


(俺らの計画が筒抜けって、どうにもそう言う感じではないっすね)


 馬車と飛行艇を使って物資と人員を運搬しているけど、何の障害もなく進めたっていうところが不自然っす。

 俺らが侵攻してるって知ったら、どこぞで罠やら待ち伏せていてもいいっていうのにそういうことは何1つとして無かったっすからね。


「うーあー……もぉーこうゆうの苦手なんすよ。なんで俺が頭使わなきゃいけないんすか――ん?」


 キュイン――と耳鳴りのような音が先ほど団員と話していたものとは別の通話魔道具から鳴り響いた。

 この魔道具の繋がっている先はユッグジールの里のある人物――今回、俺らの計画の協力者からの連絡ってことだ。


「はい、グラフェイン飛空騎士団の団長代理っす。――ああ、どうっすか? ふむふむ、なるほど。へえ、式が中断――」


 乱入してきたが結婚式を台無しにした……ねえ。

 今じゃ広場に集まってた魔族たちもちりじりに帰路に着いてると。ふむふむ。


(……はい。なおさら拙いっすね)


 良い具合に式が重なってラッキーなんて思ってたけど、やっぱり早々うまくはいかないもんっすよ。

 しかし、やることは変わらないっす。

 目下のお仕事は“魔封じの塔”の建造が第一! 今行っている作業の方は一時中断してもらって、夜に回した方がよさげっすかね。


(じゃ、今は忍びながら物資の運搬っと……)


 さてはて、現在うちの団員に頑張ってもらっているお仕事……立案者は我らが団長ゼフィリノス・グラフェイン閣下!

 一夜で陣を張るトヨトミ作戦とか言ってたっすけど、トヨトミってなんすかね。学はあるのかないのかさっぱりっすよ。

 ともあれ今は魔人族側の方を優先的に進めましょうか。協力者の話では魔人族は基本夜に活動する人種で、今日みたいな集会も無理して式に参加してる人が多いと聞いている。これから仮眠をとる人も多そうだし、今が多分狙い目じゃないかなぁと。


「――ん、大丈夫大丈夫。何の問題もないっす。……ははっ、今更あんた裏切ったところであっちにもこっちにも戻れないっすよ」


 魔道具越しの協力者が随分と弱気になっている。

 はあ、これだから金で繋がった関係って奴は嫌っすよね。

 自分の身が第一っていうならもともとこんな誘いに乗らず、ひっそりと残り短い余生を不満を漏らしながら暮らしてればよかったんっすよ。


「……あんたの身の保証はするっす。機を伺ってこちらに合流して……その後は、手筈通りに、ね?」


 では、がちゃん!

 今更ビビられても困るんっすよねぇ。もう俺らも目と鼻の先まで来ちゃったわけですし。


「うーん、けどなあ」


 余計なことは口走らないとは思うっすけど、相手側にばれてると考えて行動した方がよさげっすね。

 といっても、こちらの行動がばれてるなんて奴隷たちに伝えたところで尻込まれても嫌なんで、この話は俺の胸の内にってところか。


「ま、引き続き、皆さんには頑張ってもらいましょう!」


 ではでは、部下に持たせた魔道具に連絡を入れ、作業工程の変更をっと――……よし、じゃあ、後は塔の設置が完了するのを待つまでしばし休養……ん?


「副団長! 副団長副団長、ふくだんちょ――!」


 横になろうとした矢先、馬車の外から子供の声だ。まったく、次は何っすか!

 新たな問題を持ち込まれたのかと若干、苛立ちながらも幕を開けるとそこには……おおっと苛立つことなんてなく、逆に喜び溢れる光景が広がってたっす!


「魔物の回収、完了しました!」

「おーえらいぞー! ずいぶんと早かったじゃないっすか!」

「この杖を振ったら一発でしたよ! 本当に、こいつら俺らに従うんですね!」


 馬車の外は子供の奴隷たちと一緒に、無数の小型の魔物がうじゃうじゃと溢れかえっていた。

 4つの手を持つゴブリンや、気性の荒らそうな牙豚。ずんぐりと肥えた針鼠に、プルンプルンと震える赤いスライムくん。ぶーんと羽音を鳴らしたり、キシキシと関節を擦る昆虫型までいる。


「お、ウルフもいるのかー」


 毛色は違うけどなっつかしいなあ。俺も前に何匹か操ったっけ。

 あの頃は1匹しか自由に出来なかったのに、今じゃ子供たちが持っているその魔道具1本でその10倍も支配できるっていうんだから文明の進歩ってすごいっすね。


(ま、今回は魔人族ののおかげっていうのもあるっすけど。はあ……まあ、これはすごい。絶景絶景よ!)


 どの魔物たちも息荒く、ずいぶんと興奮しているようっすねえ。種の副作用とはいえ、本来なら俺らに飛び掛かってもおかしくない。

 よだれを垂らしている懐かしのウルフの頭に触れば体毛の下の皮膚に小さな粒を感じ取る。よしよし、ちゃんと種も発芽してるっすね。

 食わせた魔物を支配下に置くことが出来る種の効力を元々知っていたけれど、子供たちが手に持っている杖の方は半信半疑でしたね。

 魔道具とは言えど、杖1本で種に寄生された魔物を大量に操れるなんて信じられなかったっすよ。


「まったく、もう。いやはや……会ったこともない協力者さんだけど、いい仕事してくれたっす」


 うじゃうじゃうじゃうじゃ……大軍隊!

 今ここにはいない大人を含めた奴隷の数が300、魔物も200。

 畜生だらけのこの軍団もようやく大隊と呼んでも良いくらいっすかね?


(塔の守りに7人置いて設置数が14……だとしても200人は里への攻撃に使えると)


 ただ魔物が使えるのは心強いっすけど、味方の士気にも影響を与えるのは何ともしがたいが……そこは努力と根性で皆さんには乗り切ってもらいたいものっす!


「なんだこれは! 祭りか! すっごい魔物だな!」

「あー、そうっすね。祭りっす。これから楽しくなるっすよー!」

「おー! おれも騒ぐのは大好きだ! 早く始まらないかな!」


 子供の奴隷の中からひときわ元気な声が上がる。

 ほほ、なんだなんだ。怯えてばかりかと思いきや、威勢の良いやつもいるじゃないっすか。将来有望っすね。

 時間までゆっくりしてってー、と子供らには食事と休憩を取らせ、俺はまた馬車の中へと戻り雑魚寝を決める…………が、眠れるものか!


 あの魔物の群れを見て興奮するなって方が無理な話っすよ。

 もう止められない。ここまで言ったら誰も止めることなんて出来やしないっす!


「ははっ、死ぬぞー! これは死ぬぞー!」


 たった200人ぽっちで魔法を扱う魔族の群に戦争を吹っ掛ける。

 団長はこれを戦争だとは思ってないみたいってところが今回のミソっすね! 平和的な解決で済ませるって算段っぽいけど、これで血が流れない方がおかしい。

 平和的に侵攻して、平和的に侵略、とか本気で言ってるのかって笑いそうになったっす。


「へへ……早く団長来ないかな」


 この無謀な作戦は魔物も塔も魔道具も、どれか1つとでも欠けたら終わる代物っす。

 うはは、穴だらけの作戦だ。こんなの成功しようがない。


(間違いなく俺らは全滅する!)


 だけど、ただで死んでやるつもりなんてない。

 周りを蹴落してでも俺は生きて生きて殺しつくす!


(魔族の皆さん、きちんと反撃してきてくださいっすね。一方的に暴力を降らすって展開は本来俺らが受ける側っすからね)


 ああ、わくわくしてもっと眠れない。

 無数の人の死。死、死、死――敵も味方も入れ混じって死が溢れかえる。

 ああ、殺したい。犯したい。奪いたい。何もかも終わらせてしまいたい!


「俺は一体何人殺して死ねるっすかねぇ……ねえ、黒い女神サマ♪」


 もうすぐっすよ。

 俺をこの世界に呼んでくれた黒い女神様……俺はあんたの言うふさわしい駒を演じてやるっす。






 シズクたちの乱入で中断された挙式は再開されることなく、結局お開きとなった。また、主役2人に他数名の体調不良者が出たことも大きく、式は明日に延期……ということだ。

 僕ら長たちも一応出席することになったが、明日は天人を除く他の種族たちは警戒のため神域の間には入ることは出来ない……一部では神域の間を私用していると不満の声も上がっている。

 あ、今臨時で開かれた会合では鬼人の長もそう口にしてた。天幕だけで囲った即席の会議場はいつも以上に外に声が漏れていただろう。


 僕個人では年に4度しか使用されないのはもったいないって思っているので、民衆に解放して有効活用すべきだと思うんだ。

 もちろん、どうして普段閉鎖されているのかって問題とも向き合ってね。

 私的な意見としてはルイのことを思い、鬼人の長と同じく反対の意見を持ったが――長であるアニス・リリスとして賛成の立場を取っただけのことだ。


 会合では明日の段取りを新郎の父であるドナ元四天長と、天人の長であるエネシーラ長老を中心に行われ……後半というか、話の大半は突如現れたについてに議論されることになっていたのだが――。


 彼が魔族であるということで、鼻息荒くエネシーラ長老から僕ら魔人たちを強く非難されたが「確かに魔力を纏っているのは見えましたが……彼? 彼ってあれは男だったんですか? 女性にしか見えませんでしたが……」なんてとぼけたりもする。

 エネシーラ長は「なら今回は女装をしていたのだ!」と反論するも、ついでに鬼人の長に「じゃあ、俺も同じように聞くが、あんたはなぜ男だと知ってるんだ?」と追及されたことで彼は言葉を濁しつつ、自分勝手に会合を切り上げてしまった。


 なんだと口汚く罵る鬼人と、同じく納得いかないとばかりに黙ってしまった亜人の長には悪いけど、僕は天人の長が動揺している理由は大筋理解している。

 まさか、自分たちが殺したと思っていた2人が生きて現れたのだ。

 心中穏やかではいられないだろう。


 会合を開いた本人たちが席を立ったことで僕らもこれにて終了だろうと、各々自由に解散することになった。

 天幕の外では各部族の領民たちも程なくして神域の間からいなくなる。見計らってから僕らも帰路につくことになった。


 終始眉間に皺をよせ不快を露わにしていた天人の長はそそくさと東の橋へと向かい、追いかけるようにドナ元四天長やレドヘイル氏、彼らの護衛、神魂の儀で武芸を披露してくれた若い子らも自分たちの領地へと戻っていく。

 あの不機嫌の塊と同じ橋を渡るのは嫌らしく、亜人・鬼人らは僕らが使う西の橋を使って帰るようだ。

 必然的に僕を含めた3種の長は同じ橋を歩き、互いの住処へと戻ることになった。





 橋の上は民衆の帰還と同じような大行列となった。

 別に気にかけなくてもいいのに、僕ら長3人を先頭に他種族入れ混じっての帰宅となる。

 ただまあ、仲が悪いのは相変わらずで、誰1人としてお話をしようとはしない。

 まるで葬式の参列だな――なんて苦笑してしてしまいそうになった。


「――問題ねえよ」


 おや、こういう場面では一番に不満を露わにする鬼人族の長が何やら額に手を当ててぼそりと小さく――まあ、普段の彼にしては小さく言葉を呟いた。

 時には頷き「ふむ」とか「ああ」とかも1人で呟いている。


「おや、鬼人の長よ。どうした? 頭でも痛いのかい?」

「……なんでもねえよ。それよりお前、これから何が起こっても不思議じゃねえぞ。長としてきっちりと身構えておけ」

「……ん? それはどういう意味だい?」

「…………いや、さっきの2人がまた戻ってくる可能性があるってことだ。何が起こっても対処できるように気にかけておけ」

「――ああ、そうだね。肝に銘じておくよ」


 さらっといつも通りの調子で僕は答える。

 今ここで「実は彼らは僕の客人なんだ」なんて言ったらどうなることやら。2人の為にも、また無益な争いを防ぐためにも僕は絶対に口にはしないけどね。

 ま、こういう結果になりそうだな、とおおよそ想像はしていたが、血を見なくて済んだのは僥倖かな?


 本音としては駆け抜けたくて仕方なかったが、他の長2人の歩幅に合わせて歩き続け、ようやく重苦しい橋を渡り僕らの居住区に入った。

 けれど、おいそれと僕は帰ることは出来ない。

 2種族が北へ南へと戻るのを見送るのも長としての義務である。多分しなくても良い仕事だとは思うが、その方が長らしいだろう?


 余計な衝突を防ぐため、他の魔人たちは早々に帰って欲しいと願っていたところ――鬼人の長と亜人の長が突然、顔を合わせて睨み合いだした。

 またいつもの口喧嘩かな。と、肩をすくめそうになるが……おや?


「約束は?」

「――守る」


 なんて言葉を交わしただけで、亜人の長は舞を披露してくれた若衆を引き連れて何事もなく里へと戻っていった。

 約束? どういうことかと思ったが、鬼人の長がぎろりとこちらを睨み付けてきたので聞けず仕舞いだ。おお、怖い怖い。

 では、このへんで見送りもいいだろう。


「……ん?」


 僕も帰るかと踵を返そうとしたところで……おやおや、亜人たちと共に帰ったと思ったが、ぽつんとだけがこの場に残っている。

 この子のことはよく知ってるよ。僕が皆と神魂の儀で術を披露していた時から共に演武を披露していた子だ。

 今日も力強い演舞を見せてくれて、胸を熱くたぎらせるその美技に魅了された。


「鬼の総長! オヤジはまだ連絡寄こさねえのか! あの糞ジジィ! ひょっこり帰ってきたと思ったらすぐに消えちまってさ! 知り合いのあんたからもひと言くらい残してから行けって言ってやってくださいよ!」


 竜人の娘はのしのしと鬼人族の長の前に立つと、両手を腰に当てて怒鳴りつけた。

 たんたんと服の下から伸びる蛇のような尻尾が地面を叩く。


「あー、そんな怒鳴るなよ……あいつなら――」


 ふと、鬼人の長が苦い顔をしながら僕を1度見た。

 先ほどの亜人の長と視線と同じ種類の……まるで見られたくないような目をしていたが、今回ばかりは構わずに僕は鬼人の長へと視線を向け続けた。

 ここは僕らの領地だ。僕が何を見ようが文句を言われる覚えはないし、ま、僕ならどこだろうと好きにさせてもらおうけどね。

 さてはて――何か企んでいるのかい?


「オジキ! オレはもう我慢できねえよ! ずっと待ちぼうけくらって我慢したんだ! オレァ早く帰ってオジキと手合わせがしてェ!」

「おい、キッカ……」


 と……今度は後ろに控えていた、2本角の白髪頭の娘が2人の間に入り、鬼人の長の分厚い胸を拳で殴る。

 この子も僕と同じく神魂の儀で舞を披露しあっていた1人だね。

 竜人の娘も、白髪頭の鬼人の娘も、会話は交わしたことはないけど、メレティミなんかも含めて僕らは顔なじみに近いかもしれないな。

 今度はその子を含めて僕は傍観を続ける。


「鬼子てめえっ、今はあたしが総長と話してんだろ! 邪魔すんな! その角引っこ抜くぞ馬鹿野郎!」

「ああっ、ドラ子の癖して息巻いてんじゃねエぞ? その羽むしり取って酒のつまみにされてェか!」


 罵り合いながら2人の娘はつかみ合いの喧嘩を始めるが、そこは同じく舞台で舞った若い衆が鬼人族の娘を、竜人の娘を鬼人族の長が抑える形で小さな擦り傷程度で済む。

 取り押さえてもなお、2人は自由な足をばたつかせて蹴りあうので、そこを鬼人の長が喝を上げたことでどうにかその場は治まった……のだろう。

 気分が悪い! と叫びながら竜人の娘はばさっと背中の翼を広げた。


「テメエ! 逃げるのか!」

「うるせぇ馬鹿野郎! お前の父ちゃんでーべそ!」

「オヤジならもうとっくに死んだわ、バーカ!」


 そんな幼稚な暴言を残し、竜人の娘は飛び立ってしまった。

 後には呆然と彼女の後姿を見送る僕と鬼人の方々だ。地団駄を踏むように悔しがる鬼人の娘は見た目の割に中身は幼そうだ。

 ふと、鬼人の長を見れば強面の顔を崩してほっとしたかのような、安堵の息を漏らしたのを僕は見逃さない。


「……あの竜人の娘と仲がいいんだね」

「ちっ……あいつの父親とだけは古知の間だからでな。色々あるのよ」

「そうか――仲がいいことは良いことだ」


 にっこりと笑って見せたけど、鬼人の長は気に食わないのかもっと不機嫌になった。

 それからは別れの挨拶1つせず、僕に背を向けるとさっさと北の領地へと橋を渡っていく。

 ぞろぞろと進行している中、鬼人の娘だけが長の腕を掴んで何やら喚いているのが見えた。

 じゃ、今度こそいいかな。

 鬼人の居住区へと続く橋を渡りきるのを見届けて僕もようやく帰路に着く。


「……ふう。まったく、あの2人には困ったものだ。こうなることは予想していたとはいえ、実際に遭遇するとなると心労が祟るなあ……それに――」


 家に着くまでの帰り道、先ほどの鬼人の長と竜人の娘について暇つぶしに程度に頭を巡らせる。

 ……もしかして、内通しているのだはないだろうか。

 竜人の娘は伝言役で、亜人の長との間を取り持ち……鬼人族と亜人族が手を組んで里を乗っ取る――はは、考え過ぎだろうか。


「ま、僕は2人さえ無事ならどうでもいい」


 一足お先に帰ってもらった妻のもとへと――おや、思わず口元が緩む。

 帰路の途中に、丁度想っていた愛すべき2人が佇んでいた。

 待ちくたびれた表情は僕を見つけるなり、ひとりはむっと頬を膨らませ、もうひとりはほっと頬を緩ませる。


「「アニス!!」」


 手を上げると2人は一目散とばかりに僕に駆け寄り、跳び付き、頬を引っ張ってくる。

 ははは、重い。痛いよ。フィディは身重なのだからそんな走っちゃだめだろ。ふふ、リターもそんな顔をするなら家で待っていてくれたら……痛い痛い。

 わかったから、ほら、うん。足蹴はやめよう? 地味に脛は痛いからね。

 出迎えてくれた妻たちと交流を深め合っていると……続いて3人の男の子たちも妻2人から離れた位置で僕に近寄ってきた。


「ラアニス様」

「……やあ、タックン」


 妻2人とのじゃれ合いを止めてくれてもいいのに、タックンたちは十分な時間を取ってから僕の名を呼んだ。

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