第159話 ベルフェオルゴンーブランザ161歳ー
「では、このウリウリア・リウリア。これよりフルオリフィア様から託された任務を全うしてきます!」
ユッグジールの里北門にて見送りに来た私に向かって旅装束に身を包んだウリウリアさんが背筋をピンと伸ばして敬礼をする。
(あんな小さなウリウリアさんがこんなにも立派になっちゃって……)
まるで本当の母のように嬉しく思う。
「なあ、フルオリフィア様よ」
「はい、アルバさん。なんでしょうか?」
「今まで黙っちゃいたが……そいつは一体何なんですかい?」
と、今の私の格好に対して何かの仮装かとアルバさんが指摘してきた。
「ああ、これ? これはほら、中に魔石が入っているんですよ」
「魔石……」
今の私は大きなポケットのついた前掛けを着ている。中には以前私が生み出した魔石が入っていてぽっこりとお腹が膨らんでいるので、前の世界で言えばカンガルーのように見えるかもしれない。
ポケットに収まった魔石を見せると、アルバさんは「やっぱり噂は本当だったのか」と苦々しく呟いていた。
私が魔石を生み出したことは里中に知れ渡っているらしい。同族からは奇異な目で見られ、会合で顔を合わせた鬼人族のお兄さんにも何馬鹿なことをしてるんだと強く怒鳴られたほどだ。
周りからどんな目で見られようと私は自分のしたことに後悔はないから別にいい。
私はアルバさんの何とも言いたそうな視線を感じながらもウリウリアさんに向かい合った。
今回、彼女にはアルガラグアに住むタルナに向けて手紙を届けてもらう“任務”に出てもらうことにした。ただ、それは建前で、本当は彼女に長い休暇を与えたいと考えたからである。
「……旅に出る前に、ウリウリアさんには聞いてほしいことがあるの」
「はい? なんでしょうか?」
「ウリウリアさんの進む先には辛く大変なことに沢山遭遇するかもしれません。……でも、でもね。辛いことがあっても、それ以上にこの旅を楽しんでほしいの」
「楽しむ……ですか?」
「ええ、手紙のことは2の次でいい……言わなかったけどね。今回の“任務”はウリウリアさんの為に考えたことなの。だから、色々なものを見て、色々な人と話をして、色々なことを経験して……そして、辛いことも楽しかったことも全部、帰ってきた時に報告してちょうだい」
「フルオリフィア様……」
ウリウリアさんは難しそうな顔をして――僅かに眉をひそめて私を見た。
「でもやっぱり1番重要なのは無事に帰ってくること。アルバさんがいるから平気だとは思うけど、時間をかけてもいいから大きな怪我をすることもなく無事に帰ってくること! わかった!?」
「……はい。このウリウリア・リウリア。無事に帰還することをフルオリフィア様に約束いたします」
「よろしい!」
彼女は50年も私の傍にいて付き添ってくれた。
小さい頃はよく後ろに着いてきて、大きくなったらなったで護衛としてどこまでも共にいてくれて……けれど、そろそろ巣立ちの準備をしてもいいし、彼女にはこれくらいの自由はあげなきゃ罰が当たる。
長い旅路は険しいものになるだろう。危険なことにも何度も遭遇するかもしれない。だけど、里の中ばかりで、外のことに疎い彼女には絶対にいい経験になるはずだ。
更に文句をつければ旅先で良い人でも見つけてきてくれたら万々歳だ。
(ん……帰宅して早々、この人が夫ですって紹介されたらどうしようと焦っちゃうかも……ちょっと気が早いかな?)
ごほん。
「アルバさん……ウリウリアさんを頼みますね。この子は世間には疎いところもありますから……悪い人に騙されたり着いていかないように注意してあげてください」
「な、フルオリフィア様! 私を何歳だと思っているんですか! そんな子供みたいに――」
「おう、フルオリフィア様! こいつのことは任せておきなよ! なにせこーんな小さな頃から知ってるんだ。こいつの扱いはフルオリフィア様の次くらいにはわかってるよ」
アルバさんはにやりと笑いながら指で輪っかを作って私に見せる。
くすっ、それもそうね。と私も頷いた。
「あ、あなたも……勝手なことを! くっ……いつから“鍛冶屋”さんは私の保護者になったんでしょうか?」
「はっは、そんな恥ずかしがるなって。では、“騎士”さん。それでは行くか」
「ふん、私が先陣を切る! では……行って参ります!」
「はい、気をつけてね」
2人は毎回こんな感じの仲良しさん――今回、ウリウリアさんの旅にはアルバさんも同伴してもらうことにした。
やっぱり女の1人旅は怖いしね。
ウリウリアさんは1人でも大丈夫だと言うけど、親心からどんなに大きくなっても心配なものは心配なのだ。ましてやウリウリアさんは多少堅物な面も見せるが、とびっきりの美人さんなので尚更心配になる。
だからこそ、小さい頃からちょくちょく面倒を見てもらったドワーフのアルバさんに同行を頼んだ。保護者として信頼も置けて、他大陸を放浪していた旅慣れている彼に任せれば安心だ。
ばいばい、と手を振って彼らの旅路を見送った。
「……さ、私も帰ろ」
とぼとぼと帰路につくさながら、私はお腹に収まっている魔石を撫でる。
今の私は結構自由な身になった。
未だ整地や水路の拡張作業中ではあるが、10年以上かかった外壁の建造も終わりを迎え、ようやく自分で生み出した魔石に向き合うことが出来るようになったのだ。
もともと魔石はいつ生まれるか予測できないものだとブロス先生から聞いた。
明日明後日は無いにしろ、生まれるのは1年後、10年後、それ以上……それだけ長い期間を見なければならない。話の通りこの20年近くの間、魔石は小さく呼応しながらも何の反応も示さなかった。
反応し出したのはこの子に触れた出したここ数年のことでもある。
生み出した者の直感みたいなもので、あと1年もしないうちに生まれるだろうと考えている。
母親が魔石に寄り添うことで孵化(……と言うのも変な感じだけども)を早めることが出来るとも聞いている。他にも魔石同士を近づけることでも効果があるとか。
その話を信じてこの数年私は常にこの子の傍にいた。その結果が今の魔石の状態だ。
人の都合で生まれを遅くしたり進めたり、我ながら勝手だな……と少し苦笑する。
今年はレドヘイルさんの家に待望の長男が生まれた。
四天の子ということで里に住む天人族がこぞって彼らの子供の誕生を喜んだ。
祝福は振り分けられるかのように広がりを見せ、あの赤い魔女と恐れられたフラミネスさんも懐妊し、現在は産休中だ。彼女の代わりは夫が四天の代理として仕事に携わっている。
生まれるのは来年あたりで、もしも時期が合えば私の子供も同い年として生まれるだろう。ぜひとも仲良くして欲しい。
さて今更だけど今回のウリウリアさんの旅の目的について話そう。
無事に里の改築工事も終わり、ようやく一段落着いたことで私はウリウリアさんに手紙を届けてもらうように頼んだのだ。
タルナから初めて手紙を貰って20年と経ったが、その間に彼女とは手で数えられるほどの文通をしている。彼女の手紙が届くのは3年に1度あるかないかという頻度だ。
多分、彼女も私も、出した手紙のうちの何通かは届いていないのだと思う。途中に強盗にでもあったのか、それとも輸送料だけ持ち逃げされた可能性もある。それでも手紙を出し続ける理由はこれしか伝達方法がないので仕方ない。
昔はあるのが普通だった紙という媒体もこの世界では非常に高価で希少品である。あまり無駄には出来ない。
長距離で話せる電話みたいな魔道具があることにはあるけど、これは紙以上に貴重で私個人で所持できる物でもない。その為、届くかわからない手紙に頼る他に無い。
本当なら自分で行きたいが、魔石を生成したことで長旅をするほどの体力は無くなってしまったことが悲しく感じる。
今回の手紙はどうしてもタルナに届けたいものだった。
もしかしたら、これが私から出せる最後の手紙になるかもしれない。明日明後日で死ぬことはないとしても、最悪の場合を想定して出したのだ。
(出来れば……せめてこの子が大きくなるまでは生きていたいと願ってはいるけれど……)
どうしたものかと思いついた方法が今回のウリウリアさんの旅の始まりだった。
最初は護衛であることから私から離れないと拒んでいたが、辛抱強く頼み込んだことで、渋々と応じてもらえるようになった。
もう魔族同士で殺し合わず、手紙のやり取りまで出来るようになったなんて本当に平和になったなあ、と感慨深いものだ。
里も落ち着きを見せている。
わだかまりは未だ残るが、初期に比べてしまえば安穏としていて、部族毎に目を向ければどこもかしくも活気が溢れている。
ロカに見せてあげたい。争いの無い世界がやっとできたんだよ。
「君はそんな幸せな世界に生まれるんだ。私たちが受けた悲しみなんてものの無い世界に……早く生まれておいで」
そうささやきかけながら、もうすぐ生まれそうな魔石を優しく撫でた。
◎
ウリウリアさんらを見送って半年ほどが経った。
もうコルテオス大陸も半ばを越えたくらいだろうか。それとももっと先に進んでいるのだろうか。私と2人でコルテオス大陸へ出向いた時は往復で10か月ほどかかったっけ。
ウリウリアさんの帰還には多く見積もって2年弱ほどと目星を付けている。しかし、どれだけ時間がかかろうとも無事に顔を見せてくれればいいと祈るばかりだ。
「……?」
そう……今夜も1人魔石を抱きながら眠っていると、ふと扉が開かれる音が聞こえて一瞬で目を覚ます。
もう戦争は終わったと言うのに、僅かな異変に反応し即座に目を覚ますあの時の習慣がまだ身に染みていることに悲しくなった……が、この時ばかりはよかったのかもしれない。
「目を覚ましたのか……夜分遅くに失礼する」
「……誰っ!?」
目を開けたところ、暗闇の中で1人の男が何やら人の部屋の中を物色しているのがわかった。
(……物取り!?)
声を上げようと思うも、即座に男は音もなく近寄り私の口を掴んで音を出させてはくれなかった。
何、今のは……まるで鬼人族が使う強化魔法のような速さだった。
呪文を唱えたような素振りもない。部屋に入る前から発動させていたのだろうか。
今、この場は僅かな息遣いも衣擦れの音も聞こえるほどに静まっていた。
近寄ってきたことで、ようやく侵入者の全貌が伺えた。間近に迫った人物は目深くフードを被った老人だった。
「私の名前はベルフェオルゴンという」
「……っ!」
聞いたことがある。いや、忘れるものかと今まで仕舞い込んでいた記憶の奥からその名前はすんなりと拾い上げられた。
私のロカを連れ去ったやつの名前――口を塞がれても尚、問い詰めようとしていた私の言葉よりも先に彼は話を続けた。
「手荒なことはしたくない。出来れば話し合いで解決したい」
この状態で何を話し合うというのだろうか。憤りを感じつつ、私は口を塞がれたまま小さく頷いた。
ぎろりと老人を睨み付ける。ふるふると震えるこぶしは毛布の中だ。頷いてはみたものの、話し合いをする態度としてはいささか気を張り過ぎていた。
老人は口を覆っていた手を外すと、ゆっくりと近くにある椅子を引いて私が横になっていた寝具の近くに座った。
「今回、私が……いや、我々がここに訪れた理由は貴様が生み出したと言う魔石を求めてのことだ。我々はとある理由から魔石を欲している」
「魔石を?」
「ああ……魔石だ。ユッグジールの里のフルオリフィアという者が魔石を生み出したという話を風の噂で耳にしてな――貴様で間違ってはいないか?」
「……ええ。私がフルオリフィアよ。魔石も確かに生んだ」
「そうか。それはよかった。……では、率直に用件を伝える。その魔石を頂けないか? この場で是が否で答えてもらおう」
「……ちなみに断ったら?」
「手荒な真似をしてしまうだろう。命までは獲らないつもりだが、如何せん貴様は四天と呼ばれる天人族でも上位の者だ。私も手加減は出来ない」
別に四天だから強いって訳じゃない。四天はただの役職名だ……なんて考えているのは私くらいだろうか。
だけど、その理由で間違いはいない。
力はすこぶる落ちたけど、伊達にあの地獄を生きてはいない。こんな老人に倒される気なんて全然ない。
彼への回答は、その質問を貰う前から決まっていたようなものだった。
「ふざけないで! 誰が貴方なんかの言うことなんて聞くか! さっさとここから立ち去りなさい!」
「では答えは?」
「もちろん“いいえ”よ! 私は貴方には個人的に恨みを持っているの! ロカまで取り上げて、今度は彼との子供を奪おうとするの!?」
「……ロカ……ロカとはフォロカミのことか?」
「そうよ! 貴方たちがイルノートだっていう彼のことよ!」
そうして、私は声を荒げながら別に言う必要もないのに1から説明していった。
幽閉されていた幼いロカと出会った時から、私が彼との交流でどれだけ癒されていたか。そして、彼がいなくなってどれだけ絶望したか。
……これらは全部私個人が勝手に思っていたことだ。
勝手に思って、勝手に支えにして、勝手に絶望したものだ。
けれど、確かにあの時の私の支えは彼だった。そんな彼を奪われた気持ちなんてこの男には絶対にわからないものだ。
普段では使わない言葉を吐き散らす毎に混乱していって、余計なことまで口走ったかもしれない。
「私は自分の命を削ってこの子を産んだの! 考えて考えて、彼の子供だからって降ろすなんて考えはなくて……それを“はい、わかりました”って渡せるわけないで――」
私の怒鳴り声は音を出すことをやめた。
突然、彼は自分の手の平に小さな火の玉を生み出したことが原因だ。
(……なんで?)
この暗い部屋の中で丸い橙色に光りゆらめく炎の球はとても眩いもの――彼は呪文を唱えなかった。
呪文を唱えないで魔法を使えるなんて方法を私は知らない。ブロス先生は知っているのだろうか。
見せつけるかのように、彼の手には水、火、雷と小さな球体を何度も出しては消して、またも出した。細かな技術は暗に彼の力量を嫌というほどに見せつけられているようなものだった。
寝具の上にいる私に彼の攻撃をとめる術はない……こんな近距離での対処法はない。
近寄らせてしまった瞬間に私はもう彼の手の中にいるようなものだった。
老人は顔色も変えずに言葉を紡いだ。
「まさか、魔石を生んだのがあのブランザだとはな。ならば、貴様には包み隠さずに教えなければならないだろう……見てもらいたいものがある」
「何……?」
そう言って彼が出したのは丸い球で、有無も言わさず私にそれを手渡してきた。深い闇を形にしたような、黒曜石のような球だった。
同時に……触れて、わかった。
「……魔石? でも……」
「これが私が魔石を求める理由だ。母体となったお前ならわかるだろう」
言われなくてもわかった。だが、触れたからこそわからなかった。
これが本当に魔石なのだろうか、と。
どういう理屈かはわからないが、渡された魔石に触れたことで“この子”がどういう状況か理解できた。それはきっと私が魔石を生んだことが関係しているのだろう。
この魔石は――この子は死にかけている。私の持つ魔石とは違い、鼓動する感覚がとても小さくて儚い。
「…………」
生まれそうな私の魔石とは違い、死に向かう魔石に思わず顔をしかめてしまう。
「お前の話は王妃からも聞いている。イルノート……ロカがお前を行った仕打ちもな。よくもまあ自分を襲った相手の子を魔石に変える決心を持ったな」
「……その話はしないで」
時たま、本当に生んでよかったのかと思うことがある。
しかし、どんな形であろうとも、ロカとの繋がりを消したくなかった。
「……失言だった。それで、わかるだろう。その魔石は死にかけている。このままでは生まれることなく崩壊する恐れがある。我々はそれを阻止したい」
「どうして?」
「王妃の……――王妃の最後の頼みだからだ」
「あの人の……?」
そこで私はまたもあの彼女の名前を耳にした。いや、気がしたというのだろうか。老人の言葉がか細くて聞き取れなかったこともある。
でも、確かに私はあの時に面倒を見てもらった彼女の名前を耳にしたんだ。
「その人は……どうして魔石を生んだの? 魔石って母親が寄り添えば……それに……」
「いや……もう無理なのだ」
「無理? 何、が? どういう、こと?」
そこで老人は……ベルフェオルゴンは教えてくれた。
ロカのいるラヴィナイが滅んだことを。崩壊してしまったことを。たくさんの人が亡くなったことを――その多くの中に彼女の名前があることを。
「その時のことが原因で王妃は重傷を負ってしまって……自分の身よりも身篭った子を優先とすると聞かず……不完全なままでの生成で生み出された魔石を我々に託された」
「そんな……じゃ、じゃあ……彼女は?」
「亡くなられた。魔石を生みだしている間にな」
「……嘘……?」
重い空気が漂う中、私の沈黙に彼は黙って付き合ってくれた。
――彼女はたった半日ほど慰めてもらっただけの人だった。
悲しくてすすり泣く私の背をいつまでも撫で続け、いつまでも励まし続け、寄り添ってくれて……。
――彼女のことを思い出しながら黒い魔石に触れ続けると使命感とも思える何かが降り注いでくる。
思えばあんなに親切にされたことなんて数えるほどにしか無い。
(でも、あの時慰められたからこそ、私は……)
私を介抱してくれたあの女性が生んだ魔石だったということもあるかもしれない。
手の中の黒い魔石を撫でる。
この魔石が彼女が遺したもの、生んだものだと知ってしまったら、もう他人事ではいられなくなってしまっていた。
(……この子は助けなきゃいけない)
私はそう決心して頷き、老人を見た。
「……わかったわ。ただし、条件がある」
「条件?」
「私が大切に育んでいる魔石は譲れない」
「それは困る」
「話は最後まで聞いて……だから、私は自分の魔石を2つに分ける」
「2つに……貴様わかっているのか? それはつまり……」
ええ、わかってる。
「私はもう1度魔石の生成を行う」
「……死ぬつもりか」
「死なないわ。まだ我が子を抱いてもいないもの」
……ただの強がりだった。
魔石生成を行ってから20年経過し、ある程度は体調も回復したとしても、身体は衰え慢性的な倦怠感は拭いきれないままだ。
ブロス先生の言う通りであれば私の寿命はあと30年……いいや、20年もありはしないだろう。
「約束なさい……私が新たに生んだその子のことも黒い魔石の子と同じように守って。私が関わらなかった分、大切に育てるって」
「承知した。感謝する」
私は胸の中に我が子を抱きかかえ、また魔力を注ぎ込む。
初めてこの子を産んだ時は1から生成したが、今回は元がある分、負担は少ない――はず。
ただ、2度目である今回の魔石生成では何度も気を失った。
気を失っては目の前の老人に起こされて、止められてもすぐに魔石生成を再開する。
身体がばらばらになるような感覚だ。自分の細胞が内側から食い荒らされていくような
もうやめたいと、何度も涙をこぼしながら思いつつも、歯を食いしばって食いしばって――。
「……おい、死ぬんじゃない。お前は生まれた子供を抱くんだろ!」
「……あ、ああ……」
生成中よりも深く気絶をしていたらしい。
だが、その甲斐もあり私の手元には2つの青い球が生まれていた。
慈しみながらも1つを彼に渡そうとしたけど、手は持ちあがらない。
頷くだけで彼は、ベルフェオルゴンは私の元から魔石を取り上げてくれた。
「……フォロカミには何か伝えておくか」
「……いいえ、どうせ……彼を……苦しめ……るだけ……この子たちのこと……は……伏せて……」
「それでいいのか?」
「いい……彼は、何も知らない。この、魔石が……彼の、子だっ……てことも……」
「……わかった」
そうして、ベルフェオルゴンは私の元から去っていった。
彼が闇夜に消える中、私はいつまでも老人の背を見送り続ける。目が閉じるその時まで。
侵入者が入って里が騒然となったとは……数日間、生死の境を彷徨いどうにか目覚めた後に聞かされた。
私はそうだったのね、と他人事のように話を合わせた。それよりも、私の衰退っぷりに里中が大騒ぎになったことは自分のことなのに意外に思ってしまった。
私が魔石生成を2度行ったことは直ぐにもブロス先生にも届き、彼には頬を叩かれるほど怒らせてしまった。
侵入者と何か関係しているのではないかと何度も追究されたが私はずっと黙秘を続けた。
その後、私は晩年寝たきりの生活を余儀なくされた。ほぼ1日中横になり眠る毎日を送る。
身体の感覚は殆ど無く、少しでも動かすだけで激痛が走るようになった。それでも、胸に抱いた我が子は手放すことはしない。
――帰ってきたウリウリアさんはきっと泣いてしまうかもしれない。
天井を見上げながら胸の中で鼓動する魔石を撫で……もう1人の愛娘の悲し気な表情を思い浮かべたら、罪悪感に包まれた。
◎
今回の手紙は行商人にではなく、ウリウリアさんに届けさせました。
彼女には外の世界を少しでも知るきっかけになればと思って旅に出させます。ただ、私の目が届かないところで無茶をしないかと少し心配をしてします。
出来ればこの手紙を彼女がいる間に読んでもらえるといいな、と考えますがタルナの性格を考えると、この手紙は後回しにしてしまいそうだなあと苦笑してしまいます……なんて、もう小さい頃の話ですね。
もしも、この手紙を読んだ後であったのであれば、ぜひ愛娘のウリウリアさんを可愛がってあげてください。
― 親愛なるタルナへ 第4頁(5/6) ―
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