第146話 私たちは今日もどこかで
元々私はとある国のランジェリーデザイナーだった。
まあ、デザイナーと言っても入社数年のまだ新人扱いで、社内コンペでは低評価の“落ちこぼれ”だ。
訓練校でのコンクールではそれなりに評価を受けていたのだが、どうやらその評価はそこの内部だけに留まった。念願の第一志望で入社した先は私を中々評価してはくれない。
私の作風はこの場には合わないから変えろと何度もダメ出しをされた。何を意固地になっているのかと陰口をたたかれていることも薄々気が付いていた。別のところに移動した方が私の力は発揮できると先輩から忠告もされた。
しかし、周囲からどう言われようとも考えを改めなかったのも、尊敬しているデザイナーがこの会社にいたからだ。悲しいけど、今じゃその人の名前は出てこない。
ただただ、自分のデザインをその人に見てほしかった。そして、その人に私のデザインを認めてほしかった。その人の目に留まればきっと認めてくれる。
そう信じてその日まで頑張って……結局、その日は来ることは無かった。
自分には才能があるなんて、あー…………まあ、ちょっとだけしか思っていない。
ただ、私が私であった最後のあたりは、少しばかりあった自信はすっかりと砕け散っていた。
今思えば、周りの助言に耳を傾けておくべきだったなと思う。あの頃は青過ぎた。
その時の私がどうしたかと言えば、親しい友人から薦められ気分転換にと、東にある島国に小旅行へ行くことにした。
中国の隣にある国だったか。名前はこれまた思い出せないが、色々とアレな国だとは認識していた。
最初は乗り気ではなかったけど、強引な友人に押されるがままに旅立つこと――そして……。
『ひゃはっ、何かお悩みでも?』
「……何? 誰かいるの?」
『ひゃはっ、ひゃははは。いるよ。君の頭の中さ!』
「はあ?」
確か……観光地でも名産があるわけでもない無名の町でその男の声を聞いた。
旅行先は友人に決められたが、その先での行動は全て自分で決めたのに、どうして自分がその町に訪れたのかはよく覚えていない。
ふらりと誰かに導かれるかのようにその地に降り立っていた気がする。今思えば、その不思議な男の声に誘われたのだろうか。
……その後、不思議な若い男の声を聞いたことで私の人生は一転。
新たにセリスと呼ばれる田舎娘へと変貌を遂げた。
◎
「シズクを取らないでよ、か……」
ぼそり、とレティがそんなことを呟いた。
「そっかぁ……やっとわかった。わたしが彼に言えない理由……」
「……」
「……ごめんね……ルイ……ごめん」
「…………」
どうして、レティはルイに謝っているのだろうか。
……僕にはわからなかった。
どうしてレティはルイに謝る必要があるのか。
……ルイに謝るのは僕の方じゃないんだろうか。
(……え、どうして僕……ルイに謝らなきゃって思ったんだろう……)
言葉にし難い罪悪感が募っていく。何故かルイの顔が瞼の奥に浮かんでくる。
シズクとして生まれてから片時も離れなかった、大事な半身と呼んでもいい彼女の顔が頭から消えなくなる。
(ルイ……)
目を覚ましたのは結構前だった。彼女の優しい抱擁に甘えて僕は寝たふりを続けていた。
けれど、それもここまでだ。もう、目を開けることにしよう。
「……おはよう、レティ」
「うん……おはよ。シズク」
僕は彼女の胸の中から顔を上げ、レティは抱き込んだ僕を見下ろして、お互いに初めての言葉を交わす。
……ここにいない少女の顔は僕の目には映らない。今は柔らかに微笑むレティしか見えない。
「……実は、起きてたり?」
「うん、まあ……ちょっと前に」
「……そっかぁ」
そう相槌を打つように返事をする彼女に、先ほどルイに謝っていた様子はどこにも見当たらない。見えるのは僕と同じく裸のレティだ。申し訳程度に1枚シーツが僕らの半身を隠している。
昨晩は夜光を頼りに彼女と身体を重ねたので、こうして明るいところで向かい合うのは今が初めてだ。
むしろ、これが自然体とばかりに僕らはその姿のまま、抱き合っていた。
「……」
けれど、お互い裸であるを意識し始めると、なんだか急に恥ずかしくなってくる。つい、レティの肌から目を逸らすみたいにそっぽを向いてしまう。
「何、照れてるの?」
「だって……むぐっ」
「ばーか……今さらだってば」
そう言うレティだって、今になって裸に気が付いたのかって頬を赤く染める。
けれど、それを指摘する前に、レティは自分の顔を隠すみたいに僕の頭を自分の胸の中に抱え込む――チャリ……とレティの首にかかっていたルイのペンダントの鎖が鳴った。
とくんとくん、と高鳴るレティの胸の鼓動が直接聞こえてくる。
僕は何も言わずに彼女の抱擁に身を任せた。僕も同じくレティの背に腕を差し込み、同じ様に抱きしめた。
昨晩の残り香と夏の熱で汗ばみ湿り気を帯びているレティの滑らかな肌が頬に触れる。暖かな体温はリコとは違った心地良さを与えてくれる。
「……やっぱり、最初って痛いもんなんだね」
「……大丈夫?」
「我慢できなくはないってところ。足を少し動かすだけでジンジンするけどさ」
僕らが初めて1つになった時、レティは辛そうに顔を歪めていた。その時の噛み殺した声は未だに耳の奥に残っている。
僕は僕で今みたいに大丈夫なんて声を掛けることも、ましてや気遣う余裕なんてものもなかった。
彼女を知れば知るほど……もっと彼女を知りたくなったから。お互い初めてでちゃんと出来ているのかはわからなかった。何が正解か失敗かもわからない手探りでの行為だった。
彼女の体を労わりながらも、そのまま2人して抱き合ったまま、まどろみの中を溺れる。息苦しく思うのは、きっと僕の胸の中がいっぱいだからだ。
溺れながらもレティは僕を見て、薄らと笑みを浮かべた。
「前にさ。前って言っても、中学のころだけど……経験の早い子が初めてした時、こんなもんかってあっさりとした感想を言ってたこと思い出した。わたしもそんなものかって思ったけど……実際に自分で体験して全然違った」
「……レティはどう思ったの?」
「わたしは、嬉しかったよ」
「嬉しかった? ほんとうに?」
「……うん。君とこうして一緒になれて……こんなもんか、なんて簡単なものじゃない。ああ、今わたしは君ともっと先に進んだんだなって……わたし何言ってんだろ! 恥ずかしい!」
見るな、と僕の目を手で塞いでしまうけど、その手を解いて恥ずかしがるレティに笑いかける。
「……僕も同じ。やっと君と1つになれて……幸せでふわふわとした雲の上にいるみたい」
今もレティの柔らかな胸の中にいるから、別の意味でふわふわなんだけどとは思っても口には言えないや。
そのまま彼女の胸の温もりに甘え、彼女もまた僕を優しく抱き締めてくれながら、このいつ終わるかもわからない時間に身を任せる。
「今日は、このまま1日ずっと2人で寝っ転がっていよっか」
「そうしよっか。僕も、ずっとこのままレティに抱きしめられていたい」
「うん……いつまでも、わたしが抱きしめ続けてあげる……」
それはきっと叶わない願いだった。
部屋の外からドタバタとこちらに向かって足音が聞こえてくる。きっと、誰かが僕らを起こしに向かってきているのだろう。
けれど、その間だけでも、今だけは素敵なレティの提案に心から頷く。
柔らかなレティの胸に顔を擦りつけ、彼女の温もりを再度、感じ取る。そして、僕の行動にレティはくすくすと笑って身悶える。
そんな些細な反応を見せるレティがとても愛おしい。
「ねえ、キスしていい?」
「……何よ。今まで断りも無くしてきたくせに……でも、いいよ。許す」
「ん……」
必要のない同意を得て、僕はレティの身体を抱き寄せるように顔を近づける。
その誰かはもう僕らの部屋の前にいるようだ。けれど、構わず僕らは今と言う大切な時間を1秒でも長く続けていく。
「あーあ……このまま、時間が止まればいいのになぁ」
そうレティがぼそりと呟く。
僕も心の中で同意しながら目を閉じた。
「シズク! メレティミ! 私1晩かけて口説き落としました! お母様からは許しをもらいました! 私もあなた方とコルテオス大陸に向か――……え?」
こうして、僕ら2人だけの大切な時間は終わった。
でも、ノックも無しにばたんと大きく扉を開けて現れたルフィス様を前にしても、僕らは触れ合わせた唇を離さなかった。
◎
この世界に私と同じ存在がいるのではないか、そう疑惑を抱いたのはグランフォーユに出向きだした頃である。
何気なく入った被服屋で取り扱っている商品が、時代背景から見ても存在しないものを扱っていたのだ。
他のお店もいくつか回ってみても同じで、特にビキニと名付けれた水着を見つけた時点でこれは私のいた世界の人間が作ったものだと疑惑は確信へと近づいていた。
店主に服のデザインをしたのは誰だと聞いてもさっぱりわからんとか、町の外にいる冒険者の着ていた服を真似たとか曖昧な返事ばかりなものだったから、結局出所はわからず仕舞いだった。
ともあれ、私はようやく同郷のやつに遭遇することに成功した――シズクとメレティミである。
彼らが去る前に私は2人から面白い話を聞いた。2人はやっぱり私と同じく生まれ変わった存在であったのだ。
2人に言わせれば私が元いた場所はヨーロッパに属する“フランス”と呼ばれる国だとかなんとか? 聞き覚えの無い4文字の羅列はまったくと頭に響かない。
ちなみに2人がいたのは“ニホン”と呼ばれる3文字の言葉だったが、生憎とこれまた理解できないものだった……が、首都や有名どころの名を上げられれば、ああ、この世界に来る直前に旅行に出かけた場所だということは理解した。
アルガラグアに向かう前まではぴーぴーと喚いていたのに、戻ってきたらすんなりと話してくれたのは一体どういう心境の変化はさっぱりだ。
しかし、これで私も彼女らもここの世界とは別の存在であることがわかった。なんとなく胸の中にしこりになっていたものが消えたことは少しは救いになる。
帰る気はまったくとなかったが、帰還方法といったものがあるのか訊いてみても2人は口を濁すだけだった。
「……例えば、この世界にある大いなる力が偶然にも重なることで、願いは叶うのかもしれません」
「……何その言い方。シズク面白いわ」
「そうですか?」
つまるところ帰還方法は無いとのこと……嘘をついてるように見えた。
多分、もしかしたらあるのだろう。けれど、そこから先、やぶを突く様なことはやめる。
それも、興味本位でこの先ふたりは何をするのかと話を変えて聞いてみたことが理由だ。
――誰かを殺す旅をしている。
……なんて、物騒なことを2人は言ったのだ。
この話を聞いた時、これ以上は私が入ってはいけない領域だと悟り、帰還方法を含め深く聞き返すことはしなかった。むしろ、これから先を聞いた途端、自分の身を危うくするような危険も感じ取った。そのため、私から聞くことはこれまでだ。
今度はあちらから話を変えられて、彼らが所有する衣服や道具といったものはここでもなければ私がいた世界でもない、別世界から持って来たものだとと言うことを知った。
彼らがアルガラグアへ出向いた時に乗った自動二輪もまたそこの世界で入手したものだとか。まあ、最後の最後だったし、ちょっとだけ自動二輪に乗せてもらったりもした。
自分で運転が出来ればもっとよかったかな。ま、とても良い体験だった。
私たちがいた世界にもしも魔法があったのならという面白い世界は行ってみたいとも思う。
そんな談話を重ねた後、2人はルフィスの乗ってきた飛行艇に乗ってこの町から去っていった。
「行ってしまわれましたね」
「そうね。……あなたは本当に着いていかなかくてよかったの?」
「はい。テト……いえ、私では足手まといになります。それに面倒を見てもらえるというのなら、私は喜んでセリス様に従います」
「ま、シズクに頼まれたしね」
毎晩酒浸りでうるさかった3人もルフィスの護衛として雇われていったが、テトリアだけは私の屋敷でその後も従業員件モデルとして雇うことにした。シズクからのお願いでもある。
確かに彼には報酬らしい報酬は渡して無い。
テトリアは身体中に薄く残る傷痕に目を瞑れば。とてもいい素材であることは確かだったし、2つ返事で承諾することにした。
従者や裁縫の能力はそこまで高くは無く、若干学力が乏しいところは目を瞑るしかないが、それ以上に彼女は優れた管理能力を持っていたことは大いに助かってもいる。
今では取引で遠出するにも常に同伴させるほどにテトリアは私にとって必要な存在になっていた。
その後――皆と別れて半年ほどが経つ。
この半年はまた色々な出来事に遭遇した。
1つに不調から脱出したことだ。
同じ世界の住人である2人にも言ってないけど、実はここ数年私が提供してきた下着の数々は既存のデザインの流用……悪く言えば盗作。結局は憧れていたデザイナーの模倣をしていたことは苦笑するしかない。
私が憧れていたデザイナーの既存の人気どころを抑えて提供すればやはりと日の目を見るよりも明らかに受け入れられた。
自分の作品に自信が無かったわけではなかった。しかし、以前の記憶に目指していた世界から否定されたことで怖気づいてしまっていたのも確かだ。
……どうなのだろう。私のデザインはこの世界で通用するのだろうか。
この思いに1度はまったおかげで、私は一時期まったくと手が付かない状態に陥ってしまったようだ。それがシズクらと出会うまでのスランプだ。
しかし、あの時のメレティミの一言は私をガツンと殴りつけてくれた。
デザインばかりにこだわって身に付ける人のことを考えていなかったなんて情けない話だ。おかげで目が覚めた。
その後は他人のデザイン任せにしていたものに自分なりのアレンジを加えて提供ていいる。ただ、今まで以上に評価を受けたので、どうにかこのスランプは過ぎ去ることが出来たということだろうか。
次に、とても頼りになる存在に出会えたことだ。
「セリス。鉄の紐っていうの? こんな感じで良いかしら?」
「ああ、いいわね。ありがとう。魔法って便利ねぇ……もうドワーフさんらに頼まなくてもよくなったわ」
「まったく、セリスったら。婦人用下着に使う部品を作らせていたなんて知ったら彼らはきっと怒り狂うわよ」
アルガラグアに頼むよりも若干太さはまばらになるが、遜色のないワイヤーを手渡してきたのは魔人族だと言うルフサーヌだ。
若干陰気臭いルフサーヌだが、見た目は私と同い年かちょい上くらい。なのに私の2倍以上生きていると言う。これだから魔族は……とシズクとメレティミを含めてため息をつきたくなる。
彼女はシズクらと同じく無詠唱で魔法が使える稀有な魔族だった。しかも、裁縫の技術がとてつもなく高い。元々は刺繍を得意としていると聞き、1度見せてもらった作品は私以上に繊細で丁寧で尚且つ時間も早い!
グランフォーユで偶然知り合った彼女を直ぐに私のところで働いてもらおうと交渉したところ、快く引き受けてくれることになったことは僥倖だった。
今ではテトリアとも仲が良く、彼女のことを我が子のように可愛がっている。
「セリス、今日は確か飛行艇で遠出するって話じゃなかったかしら?」
「ええ。でも、その前にちょっと近くまで付き合ってくれない?」
「はい? どこへ行かれるんですか?」
そうして、その日、私は2人を連れて、町から少し離れた丘へと登る。
その丘は見晴らしもよく、魔物も温厚な奴ばかりでピクニックには最適な場所だった。しかし、当然ピクニックが目的ではない。
私が向かったのは更にその奥にある1つの小さなお墓だった。
「誰のお墓ですか?」
「さあ? 名前しか知らない」
「名前しか知らないって……」
「色々あったのよ」
まだ私が子供だった頃の話で、銀髪の美しい褐色肌の青年と一緒に埋葬した墓だった。彼は天人族だった。
ただ、埋まっているのは人ではない。この墓石の下には金とは違うが、鈍い金色の手の平に乗るほどの球体が埋まっている……元は人の形をしていて、枯れ木のような老体の亡骸だった。
その老体だったものは、墓が出来る前に身体を砂に溶かして消えてしまった。後に残ったのはその金色の球体だった。
人じゃない……と私は怯えたものの、銀髪の青年は全くと意に介さず、逆に大切そうに球体を抱えて呪文を唱えだした。
彼が呪文を唱えるとこの辺りに生えていた草木は突然抜け出して、土は抉れて石は棺となる。青年は石の棺に大切そうに老人だった玉を入れ、手作業で土をかけ、最後には墓標がその上に出来ていた。
後は老人だったものを内包したお墓に2人して祈りを捧げて終わった。
今思うと、魔法を見たのもこれが初めてだったと思う。
彼との出会いはその老人を埋葬する場所を探している、と尋ねられたことがきっかけだ。そして、その日以来、彼は1度たりともこの墓に出向いてくることは無い。
つまり私も彼とはその日以来会っていない訳だけど、今日までずっとここの管理を私がし続けてしまった。
もしかしたら、これが一目ぼれってやつかもしれない。
私は名も知らないあの青年にきっと恋とか愛とかそんな甘ったるいものを食わされてしまったのだろう。
惚れた弱みというか別に約束もしていないが、私は名も知らない青年のためにここのお墓を管理しているんだ。
唯一知っているのはここに眠る人だったものの名前だけ。墓石に刻まれたその名は……。
「……ラゴン」
「ん?」
テトリアがぽつりと呟いた。
「そっか……シズクが死んだって……だからここに……」
「なに?」
「あ、ううん。何でもない」
ま、いいか。
3人で両手を組んで、あの世でも幸せでありますように。そう素性も何も知らない老体へと祈りを捧げる。
「今日はどこに行くんですか?」
「マルメニっていう町の貴族のもとよ。あそこは私を拾ってくれた恩があるの。彼らに出会わなかったらきっと私は今でもこの町に住むただの田舎娘で終わった。……とても楽しみだわ。奥様とも最近会ってないし、あそこで出してくれる紅茶がとても美味しいの」
今回のお客様は私のお客第1号の熱愛夫婦である。
まあ、今思えば貴族に対して罪に問われかねない失礼な振る舞いをして彼らとは知り合った。その失礼な振る舞いと言うのも、この町に訪れた旦那様に試供品と下着を手渡したことだ。
正直なところ村人たちと比べて身なりがよかったからという理由で渡したのだが……今思い返しても冷や汗ものだ。彼らではなかったらどうなっていたことやら。
しかし、そのおかげで彼ら夫婦と私との交流が始まった。
下着を渡してひと月もしないうちに私は奥様に呼ばれてマルメニに向かい、とんとん拍子に契奥様専属の仕立て屋に抜擢……次第に他の貴族の奥様たちに私の下着の評判は広まって今の地位まで昇り詰めた。
おかげさまで自分1人では手に追えないほどの依頼を受けるようになったが、ご恩から彼女らの注文は優先して受けることにしている。それだけ2人には感謝しているのだ。
「あそこの家は凄いわよ。何て言ったって竜人の門眼がいるんだから」
「竜人? 竜人ってあの羽が生えてたり、火を吹いたり、はたまたトカゲや蛇みたいな顔をしてたりする人? それはすごいわね」
「でしょう! 彼の場合はそのトカゲ男なんだけどね。2本足で立って人の言葉を理解するなんて信じられないことよ……おっと、トカゲとか蛇とか、これは本人の前で言っちゃだめよ? 奥様と旦那様からも絶対に口にするなって言われてるんだから!」
「はあ……今まで狭い世界にいた分、こんな1年も経たずに私の世界はどんどん広がっていくのね」
ルフサーヌは予想通りとはいかないものの、思いの外驚いてくれた。
これは本人に合わせるのが楽しみである。
しかし、もう1人の相棒は何やら素っ気ない態度でぽつりと呟くだけだった。
「竜人ですか……」
「ありゃ、テトリアは驚かないの?」
「はい。以前、テトにも竜人の知り合いがいたので……もう十何年も前の話です」
「なんだーそっかー。残念」
なんて……実際に合わせてみれば予想以上に驚き、泣き叫ぶほどの反応が見れたんだけどね。
まさか、テトリア、ハック、ベニーの3人が知り合いだったなんて世界は広いようで狭い。
その後、お互いの縁からもっとマルメニの方たちとは今以上に深く仲良くなれた。
「じゃあ、行こうか」
「はい! テト、どこまで着いていきます!」
「次はどんなものが見えるのかしら」
でも、今はまだそんなことを知らずに町へと3人で帰路につく。
私たち3人はこれからも貴族様に向けて下着を作っていく。
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