第134話 モデルへのおさわりはご遠慮願います

 上空から見下ろしたミラカルドの町は大きな湖畔を挟んで北と南に二分された町だった。

 真ん中から北方が雪の様なふわふわのワタを実らせる不思議な木が茂る樹園に、もこもこの体毛に覆われた羊っぽい動物が放牧されている牧場が広がっている。蚕の吐き出す糸を集める養蚕場もあるそうだ。

 南方が居住区で商店や飲食店に宿と、内外の人はここに居を構えることになる。

 最近じゃわたしもお馴染みになった冒険者ギルドなんかも当然ここだ。


 全体的に見ればのどかな町なんだけど、ここには製糸業を生業とした工房が至る所に構えている。この町の特産は織物であることから、毛織物や絹織物に染織までなんでもござれと上質の生地を日々生産している。

 特に上質のミラカルド織は国内の貴族がこぞって買い付けを申し込んでくるほどだそうだ。


「最近まではぼろぼろのくず糸で織った粗悪品も流れていたのよね。しかも、ご丁寧にミラカルド織の証明印まで押されたさ……まったく、あの糞領主め。ブランドに傷が付くからここ数年でそういう粗悪品を出すお店は徹底的に排除させてやったわ」


 とは、わたしたちの今回の依頼主であり、貴族御用達の仕立て屋であり、この町でも最大手の製糸工房の一人娘さんであるセリスさんのお言葉だ。

 その成果もあり、ここ数年でミラカルド織は業界1位の人気を誇るほどになったとか。また、その時の功績からか23歳という若さながらにこの町の領主も製糸業に関しては口を挟めない偉い人なんだ。


 セリスさんのおうちは南の居住区から少し離れた場所に建っている。密集した居住区から離れているけど、この町でも1・2を争うほど大きな私有地だ。

 もともとは祖父の代から営んでいた小さな製糸場がその土地にあって、本当聞いてて驚くくらいの速さでここまで改築したんだってさ。すごいよね。

 セリスさん家の敷地内にあるマイヤー工房からは従業員たちによって操作される機織り機がご機嫌に歌っているのが聞こえてくる。蛇足だけど、マイヤー工房のマイヤーはセリスさんの祖父の名前だ。

 この数年の発展で近くの村からの移住者も増え、日に日に町は大きくなっていると聞いた。


「ねえ……この町にさ」


 説明を聞きながらセリスさんの自宅に向かっている途中、わたしはかねてから感じていた違和感を彼女に聞いた。

 違和感と言うのもわたしは1度ここに来た覚えがあるからだ。里から1度も出たことがないわたしが、だ。


「ん、奴隷市場? ……何その物騒なの。そんなものあるなんて聞いたことないわ」


 しかし、この町に生まれ育ったセリスさんは知らないと言った。

 わたしの思い違いだろうか。曖昧で何とも言葉にしがたいこの違和感が胸の中で渦巻く――セリスさんに否定された瞬間、しこりとなっていた違和感は肥大する。

 わたしはこの町にきたことがある……いや、わたしではなく、ルイがこの町の風景を眼にしているのだ。

 わたしはルイと記憶を共有しあったことがある。ルイと初めて出会い触れた時、わたしは彼女が紡いできたおよそ10年間分の記憶を一瞬のうちに見せられた。

 その10年と言う長い記憶の中でも、この場いたのは1刻にも満たない時間だった。


 光り降り注ぐ世界をはじめて見た記憶。おっかなびっくりと見るもの全てに怯えながらも彼女らを買った主人の隣を歩いた時に見た街並み。しかし、ほとんどはルイたちの後ろを歩くイルノート……の背に負ぶさられ昏睡しているシズクを見ていたことも知っている。


 確信をもって覚えているとは言い切れない。わたしはそんなに物覚えが良い方でもない。けれど、ルイが初めて見た外の世界だからこそ印象深くわたしにも刻まれたのかもしれない。そのため、確信をもってここが彼らのいた場所なんだと思える。

 しかし、奴隷市場なんてものはセリスさんは無いと言う。

 こののどかな町で人身売買が行われているとはわたしだって到底思えない。


「……最近は見かけなくなったけど、見慣れない金持ちがこそこそと牧場の方に行くのを見たことはあるわね。でも……向かった先はさっき言ったくず生地をミラカルド織だと偽って売ってた豚みたいな成金が住んでいた館があるだけ……けど、あなたが言うような大きな部屋に10人以上も暮らせるほど館は大きくないわ」


 でも……とセリスさん続ける。


「でも……わたしが子供のころ、妙に羽振りの良さそうな成金たちを週1ペースで見かけてた。若い女や働き盛りの男と一緒に……それに旦那様もハックとベニーをここで会ったって……ううん。まさか。まさか……ね」


 何かを思い出したようにひとり呟くセリスさん。

 最後の方はあまり聞き取れなかったけど、わたしは聞き返すことはしなかった。

 暗い話はその場限りにしよう。依然しこりは残るけど、話していて気持ちのいいものじゃない。





 わたしたちがミラカルドの町に到着してから数日が経った。


 今回の依頼内容はランジェリーモデルをすることだ。だいたい1日3~4着のペースで下着を身に着ける。1度に全部着るんじゃなくて他の人たちとローテーションを組んで、1着1着入れ替わりで試着してセリスさんに見せていく。

 最初はわたしたち2人だけがモデルとなるはずだったけど、人は多いに越したことは無いということで、ラクラちゃんにテトリアさんまでもがモデルとなることになった。

 ただ、ラクラちゃんは初日で奇声を発して逃げだした。


『あ、あたしにゃ無理じゃあああっ!!』


 顔を真っ赤にして涙目になりながら半裸状態で逃げる彼女をたまたま近くを通ったキーワンさんに見つかってマジ泣きに変わっていたのは苦笑するしかなかった。

 兄であるスクラさんやシズクならまだ理性を保てたと思うけど、流石にキーワンさんはねぇ。


『見られた! 見られた! キワに見られてもうた!』

『大丈夫よ。キーワンさんなら気にしないから』

『そなことあるか! あれでインランじゃインランじゃ思われて嫌われたらどうすんっ!? もう嫌や! もともとあたしにモデルなんてガラやなかったんや!』

『インランと思われて嫌われるって……そもそもあんたの常日頃の言動からして思われても当然だと思うけど……』


 ……シズクに対してその気もないのにすり寄ったりとかさあ。

 キーワンさんの気を引く演技だからと言われてても、内心あんまりおもしろくなかったのだ。

 当てつけ役なんてシズクも断ればいいものを。まったく、こういうところは昔っから変わらないんだから。


『なんでじゃ! 他の男に色目使うんが好きな男振り向かせるに1番効果的じゃとおにいはゆっとった!』

『ラクラちゃんさぁ……わたし、前にも言ったよね? それはスクラさんには効果的があるのかもしれないけど、キーワンさんには絶対意味はないって。それどころか逆効果になるかもって』

『聞いてねぇ! 聞いてねぇ! あたしゃ何も聞いてねえ』


 そういうわけで半裸状態でピーピー泣き叫んだラクラちゃんは1人ギブアップ。

 まあ、彼女のことはどうでもいい。今じゃ何事も無かったかのようにこの町のギルドに3人仲良く依頼を受けたりしているわけだしね。

 で、現在はわたし、シズク、テトリアさんの3人のローテーションでモデルをしているのだが。


「獣人の子はいいわね。従順でなんでもさせてくれる」


 メインで呼ばれたのはわたしら2人を差し置いて、セリスさんの1番のお気に入りとなったのはテトリアさんだった。

 亜人族の人寄りの彼女は嫌な顔1つせず、あれやこれやと素直に着替えては応じてくれると聞いた。

 そこに本人の意志があるのかどうか――。


「無理強いされたり、嫌なことがあったらはっきりと断った方が良いよ」


 わたしたちに巻き込まれた形でモデルの仕事をさせることになってしまったから、嫌だったらやめてもいいと言ったつもりだった。


「メレティミさん。私は今とても楽しいの。他人に命令されることが全然苦じゃないの。こんなことで喜ばれるなら私は何でもするよ」

「……そう? それならよかった」


 ほっと胸をひと撫でする回答を得られた。

 実のところ、わたしはテトリアさんと話すのにちょっと躊躇ってしまう。理由はシズクを押し倒すところを見ちゃったからなんだけどね。

 あの晩以外でテトリアさんの夜這い行為(……なんて言ったら失礼かな)は1度も見ていない。

 自分で抑制しているのか、それとも振り払えたのかはわからない。あの晩の話は途中から聞いたけど、男に何度も暴行を受けたことを嘆いていたことを知った今となっては、こちらからおいそれと尋ねることも出来やしない。


「今ね。私、すごい嬉しい。この気持ちがなんていうのかわからないけど、世界がきらきらして見えるんだ」


 そう語った彼女の笑みにはあの晩の嘆いた彼女の姿は見当たらない。

 今の彼女は心から笑っているように見えた。





 わたし、メレティミ・フルオリフィアの1日は起床後、みんなと朝食を終えた後にセリスさんの部屋に向かい、衣服を受け取るところから始まる。


(ぐ……今日はこれなのね……)


 手に取った下着はとても軽い。いや、軽すぎる。

 思わず眩暈がしそうになる。続いて身体ががくっとふらつく。おっと、自分でもオーバーなリアクションだったと小さく踏ん張った。

 改めて手の中の下着を広げて現実を再確認する。

 紐だ。紐だった。


「シズクが紐紐言っていたのはこれのことかな……。まさか彼が着たものじゃないでしょうね……?」

「いいえ、彼が着けていたのはまた別よ。まあ、彼に渡したのじゃ、あなた着られないでしょうし?」

「え……着られないってそれどういう?」

「……さあ、今朝はシズクの番からね。着替え終わった彼が来るんだからさっさと出て行きなさい」

「おい、答えなさいよ! ねえ!」 


 結局聞けず仕舞いで部屋から追い出され、わたしは渋々と自室に戻るしかない。朝1番で肺の中を空にするほど大きく溜め息をついた。

 紐パンならまだ余裕が持てる。小さい頃からわたしのパンツは腰で紐を縛って止めるタイプだった。最初の頃は「ああ、紐パンだ……」って抵抗もあったけど、毎日穿いてればこう……人って慣れる生き物じゃない? というか慣れ過ぎてアサガさんたちがいた世界で購入したゴム製品に違和感を覚えてしまうほどだった。

 だから、だからね。

 紐パンは大丈夫なの。


「何よこれ……」


 しかし、今回に限ってはわたしも開いた口が塞がらない。

 わたしが渡された下着は紐だった。紐。紐よ、紐。大事なところだけ隠せばいいやと言う感じのもの。むしろ、これを下着と呼んでいいのかも定かではない。

 下着を構成しているパーツは何度も言うように全て紐。カップどころか布地も無い紐だけの下着なのだ。これが下着だっていうのは広げた時にどうにかブラとパンツの形を成しているからである。どっちが前か後か、上か下かと迷って手で広げていた時は、あやとりでもしているのかと思った。

 なんだこれは、星座か? 夜空に浮かばせればパンツ座とブラジャー座と名付けられるかもしれない。


(これを着る? 冗談でしょう? くっ……)


 ――なんて拒絶したのも一瞬のこと。これも仕事なのだと、どうにか悪戦苦闘しながらも着衣に成功する。

 少し動いただけで見えてしまいそうになるものだ。

 ブラのバストとパンツのアンダーに薄いレースで申し訳程度に線を引いて大事なところは隠しているけど……こんなの下着としての効果は1つとして発揮していない。今まで着た下着は全て仮縫い状態で無理に動くとほどけてしまうのも難点だ。

 日に日にきわどくなっていく衣装に深く溜め息を落としながらも、ガウンを羽織り、自分の番が来るまで待つ。

 待ち時間をわたしは渋々と読書をすることにしている。この家にはセリスさん所有の本があって自由に読めることになっているんだ。本そのものが高価で稀少であったりもするが、わたしがこの世界で本を手にするのは結構珍しいことだった。

 ユッグジールの里は本屋さんなんてものは当然の様に無くて、わたしが読んだのもブロス先生に教えを請う時広げた教本や、以前お母様が読み聞かせてくれた薄い昔話の乗った童話が2・3冊くらいだ。

 ただね。活字はちょっと苦手なんだけどさ。


 この数日、着せ替え人形となったことで精神的な疲労が溜まっているのか本を読む集中力が続かない。眩暈すら起こりそうだ。頭も痛い気がする。文字を追う前から頭が熱くてぼーっとしたりもする……きっと精神的に参っているのだろう。ぶるっと震えるほど肌寒いため、本当はこんな恰好でいたくもない。


(風邪……いやいや、まさか。気持ちの問題だ。この世界で風邪は怖い。天人族ならなおさら怖い)


 休み休みで頑張って本を読んでいるとコンコン、とノックが聞こてきた。


「はーい……いっ!」


 返事をしながら扉を開けるとそこには黒髪の美女がいた。

 はっと息を飲みそうになりながら誰だと確認すればシズクだった。

 いつも縛っている長い黒髪は解かれたままで、彼が身動ぎする度にその長髪はさらりと揺れた。

 彼はわたしと同じガウンを身に纏っているが、随分と着崩れていて鎖骨が露わになっている。肩を震わせて、虚ろな目で愁いを帯びた表情をしている。

 すごい、色香を感じる……エロい……いやいや、彼男だし。

 ありえねぇ……。


「レティの番だよ……」

「大丈夫……?」

「……レティ――」


 その後シズクが発した言葉に、ちょっとドッキリというか、がっくりと肩を落としそうになったけど、わたしはセリスさんの部屋へと向かった……。


 コンコンとドアを叩いてから入室し、1言2言言葉を交わしてわたしはセリスさんと対面する形に置かれたソファーに腰を掛けた……ところでポーズの指定の注文を受ける。

 足をソファーに投げだして膝を折って頭を乗せる。そのままこちらを見ていろと言う。何だこのポーズは。

 机に向かってペンを持ったままこちらを凝視するセリスさんの目から逃れるようにわたしの目は彼女の手元へと向けた。セリスさんの手はさらさらと洋紙に向かって滑らかに動く動く動く……止まる。


「……はあ」


 セリスさんは大きく溜め息をついた。


「なんですか……わたし何か間違ってます?」

「いんや……全然。間違っちゃいないけど、全然。あのさぁ……インスピレーションが全然わかないのよねぇ」

「はあ……」


 なんだこれは。

 ちょっと失礼な態度に内心むっとする。


『Bravo! やっぱりいいわね! もう前から前から天人族の人にモデルを頼みたかったのよ!』


 なんて初日は跳ねるほどに喜んでいた彼女はどこへ行ってしまったのだろう。

 今じゃ不満そうに何故私がこんなことをしているのか、と不満たらたら溢れ出している。


「ねえ、メレティミの知り合いの子ってこのあたりにいないの? あ、天人族のことね」

「いません。わたし、ゲイルホリーペからこっちに来たんですから」

「ゲイルホリーペ……聞いたことはあるわ。魔族たちがひしめき合っている怖い場所ですってね。なんだ。わたしはてっきり、アルガラグアから来たのかと思った」

「アルガラグア、ですか?」

「この町の北にある魔族たちの村のことよ。あなた天人族なのに知らないの?」

「え、ええ……全然」


 どうしてか、名前だけはどこかで聞いた覚えがある。

 どこで聞いたんだっけなあ。……うん、思い出せない。わからない。

 アルガラグアはここから北に馬車で2日3日ほどかかる場所にある村だと言う。このエストリズ大陸の最北端の村で、コルテオス大陸に渡る船も出ているとかなんとか。


「そんな近くに魔族の村があるなら、セリスさんこそ天人族の知り合いがいてもいいと思いますけど?」

「……いるっちゃあいるんだけどさ。何分相手の立場がかなりアレなものでね。おいそれと頼めるわけにもいかないのよね」

「アレ? アレですか?」

「ええ、彼女は……村長っていうのかなぁ。まあ、その村のまとめ役みたいなことしてるしね」

「そんな人と知り合いっていうのもすごいですね」


 ふと、わたしは自分を生んでくれたブランザお母様のことを思い出した。

 長じゃないけど、わたしの母はゲイルホリーペ大陸の魔族たちを一度は束ねた立派な人だとはウリウリから耳にタコができるほど聞いている。

 セリスさんの手は止まったままだ。机の上に置かれた洋紙には今のわたしが中途半端に描かれている。何度か完成された絵を見せてもらったけど、デザイナーを名乗るだけあって結構うまいんだよね。


「知り合いって言っても親しいわけじゃないわ。ちょっとここらじゃ作れない素材を村のドワーフに作って欲しいって許可を貰った時に知り合ったくらいの間柄。だから、殆ど知人」


 セリスさんは進まないスケッチを止めるとわたしに近寄り下着……紐へと手を伸ばす。仕事の顔になったセリスさんは着心地を確認するためにわたしに許可を求める前に触ってくる。最初は驚いたけど、真剣な面持ちをしながら「動かないで!」って凝視されると何も言えなくなる。まあ、パンツの中に手を入れられた時は思わず引っ叩いてやった。

 最初はくすぐったかったけど、セリスさんの接触はわたしの身体ではなく下着に対してということが途中からわかった。シオミさんの時の検診とも違い、フラミネスちゃんみたいなぎゅーっとは掴んではこない。このあたりはプロ的な何かなんだなって思う。


 彼女は斬新なデザインから、20歳と言う若さで王妃の専属ランジェリーデザイナーとして抜擢されたという。でも、わたしからしたらそのって言うほどのものじゃない。

 確かにこの世界で何度か下着を見繕っては見たものの、なんていうかな……地味っていうかシンプルっていうか。ただ布を切って縫って加工したものばかりなんだ。サイズもいい加減で前で言えばS・M・L的なものしかない。背に腹は代えられないと仕方なく買ったけどちょっとごわごわしていて動きにくい。

 しかし、セリスさんの作った下着には華がある。胸を包むカップもある。丁寧に縫われた刺繍もある。可愛いリボンやレースといった飾りもある。インナーウェアなのに、普段見せるものじゃないのに見えないからこその装飾がされている。

 また、仮縫い状態だけどその辺で買った下着とは身に着けた感触が全然違う。


 しかし、それはわたしがいた元の世界ではなんていうか……丁寧だけど言われたら当然ののあるデザインをしているんだ。

 を作るセリスさんに対して、わたしの中である考えが生まれてしまう。

 下着のデザインと、わたしたちと顔を合わせた時に発したあの不思議な言葉……わたしは、不確かな疑問を尋ねることにした。


「あの……」

「何かしら?」

「以前、セリスさんが言っていた……ぶらぼーとか、ふぇ……びあんしょ? とか、えーっと、せって……ぼん? とか、あれはどういう?」

「…………まあ、癖ね。感激した時なんかつい出ちゃうのよ。意味は無いわ。意味の無い変な悲鳴よ」

「そう……なんですか」


 そこで話は1度止まった。セリスさんはわたしの身体を下着越しで触り続けた。

 しかし、発見はあった。セリスさんの顔が職人から素に戻ったのをわたしは見逃さなかった。


(やっぱり……)


 そして、わたしは思った。


(この人……わたしたちがいた世界の人かもしれない)

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