第127話 四天としての日々 その7 北へ
それから3日かけてぼくは旅の準備を行った。
ただ、やっぱり、というか荷造りをしている間、ウリウリはまったくと良い顔をしてくれなかった。
「考え直してはくれませんか。コルテオスは1年中雪に覆われた大変危険な場所です。そのような場所にこのウリウリア・リウリア、フルオリフィア様を向かわせたくありません……」
「……じゃあ、ウリウリはお留守番してていいよ。別の護衛の人に頼むから」
「……私がいきます」
実のところ、ウリウリはきっとそう言ってくれると信じていたからの言葉だった。
今すぐにでも里を出てイルノートの元へと向いたかったけど、荷造りのほかにぼくにはいくつかやらなければいけないことがあった。
それは里を出ることを色々な人に告げることだった。ぼくは四天で、四天のぼくが仕事を放り投げて里の外に出るわけにもいかなかった。
もうぼくは以前みたいな身軽なぼくじゃないことを改めて思い知らされた。
「ちょっと北のコルテオス大陸にいってくる。その間、留守にするからよろしくね」
「えー行きたい! 私も行きたいよ!」
まず、身内である四天の3人には比較的簡単に話をつけることが出来た。
机の上に広がる水場補強といった無数の報告書を前にしたフラミネスちゃんは羨ましいと頬を膨らませていた。
今もお仕事中のフラミネスちゃんには悪いけど、言っておかないとね。
ちなみにぼくら四天の仕事はこんな感じだ。
居住区の整備や住民の生活管理を担当するフラミネスちゃん
農畜産や国外との物流を担当するレドレイルさん。
魔物の被害や治安を担当するドナくん。
そして、他部族との交流を行うぼく。
部屋の中に籠って仕事をする3人の四天と違い、自由に外を出歩くぼくの仕事は比較的楽なものだった。
そもそもの話、四天の役職に他部族との交流なんて仕事はない。
1年前の魔物被害が多発しているっていう亜人族の長からの提案から開かれた会合から、もっと円滑に部族間での情報を共有できるようにするために出来た仕事だった。
ただ、里の外に出て暴れるぼくを縛るために用意された仕事だと風の噂で耳にしている。
「レドヘイルくんたちによろしくって言っておいて」
「……(こくん)」
レドヘイルくんとレドヘイルお兄さんとは会えなかったけれど、父であるレドヘイルさんに言伝を頼んでおいた。
最後に机に向かって仕事を……ううん、なんだか気が抜けてぼけーっとしているドナくんに……。
「ドナくん。ぼくちょっと北に行ってくる」
「……」
「ドナくん!」
「ん……あ、ああ。わかっ……たって、北? 何しに?」
「イルノートに……ぼくを知っている人に今回の結婚について聞きたいんだ」
「結婚についてって、お前……」
その話をした途端、ドナくんは怒ったり、悲しんだり。2つの感情をまぜこぜにした複雑な顔をした。
これには反感を買ったかなって思ったけど、ドナくんは「勝手にしろ」と素っ気なく一言だけだった。
その後、ふんと鼻を鳴らしてドナくんは仕事をほったらかしにして執務室から去っていった。
ドナくんが去る時、後を追うシンシアちゃんがぼくを見ていた。
「どうしたの?」
「いえ……」
ウリウリみたいに表情は変わらないのに、シンシアちゃんは怒っていたり悲しんでいたり、複雑な感情の乗った目でぼくを見ていた。
これはなんとなくウリウリと似てるからぼくが勝手に思ったことだった。
次に他部族の長たちの元へと向かい、数か月間顔を出さないことを話す。
そして、最初に亜人族の長の元へと向かったことで、最初の1日が終わった。
「そうか。コルテオスは雪国だと聞く。寒いと眠くなる……いや、これは君たちには関係ないか。とにかく、気をつけて……良い答えが見つかるといいな」
「……うん!」
亜人族の長は納屋仕事をしていたため、探すのに手間取ってしまったんだ。納屋の中で仕留めた魔物の皮を剥いで天日干しする作業は今の時期がちょうどいい。
ようやく出会えた亜人族の長は笑ってぼくを見送ってくれて、その日はこれで終わり。
夜は夫婦喧嘩のアニスたちを思っていかないことにした。
2日目は鬼人族の長のところだ。
「んで……北の港まで行きたいと?」
「うん。お願い。鬼人族の領地を渡らせてほしいんだ」
「ふーん……」
鬼人族の長の元へ向かい、今回の結婚の件を含めて話し、ゲイルホリーペ大陸を北方を横断する許可を貰いに行く。
それと同時に海を渡るための船を手配してもらう。
身勝手な話で駄目かな……って思ったけど、鬼人族の長は「ほほぉ」と変な上がった声を上げて笑っていた。
「なんだよ。ブランザと同じことしてるぞ」
「ブランザと?」
「ああ、あいつも北に行きたいから領地の中を通らせろって俺の許しを貰いに来たんだ」
「そうなんだ」
「俺の許しを貰いに来た天人族なんてブランザとお前の後ろにいつもいるあの金髪の天人族だけだったよ」
え?
「ウリウリが? どうして?」
「それは、たしか……ブランザの代わりにエストリズまで手紙を届けるためだったかな」
「手紙を……エストリズに?」
エストリズと言えばぼくが最初にいた大陸の名前だった。
「どうしてそんなところに手紙を?」
「エストリズにいる幼馴染宛てのものを自分の愛娘から直接手渡してほしいからだとよ。まあ、あの時にはもう、ブランザはお前たちを……いや、これは言う話じゃねえや」
ブランザの幼馴染がエストリズにいたんだ。けどそれだけ。その人がどんな人で、どこにいるかまでは鬼人族の長も知らないようだ。
「で、そいつがお前のいいやつか?」
鬼人族の長はにやにやとしながらぼくを見ていた。
またその話? いいやつって。
「ううん。ぼくの家族だよ。ぼくのことを小さい頃からずっと守ってくれたの――」
そう言って、ぼくはイルノートのことについて鬼人族の長に説明した。
ぼくは元々奴隷でエストリズにいたことも。
買われる前も変われた後もずっと隣にいてくれたのがイルノートであること。
奴隷から解放され、ユッグジールの里に来るまでイルノートが一緒にいてくれたこと。
銀髪で茶色の肌にぼくと同じ赤色の瞳の青年のことを――家族について話した。
奴隷って言葉にはやっぱり良い顔をしなかったけど、鬼人族の長は何も言わずに聞いてくれた。
話が終わって鬼人族の長はふと首を傾げて唸りだす。
「赤目に銀髪にそして……茶色の肌……もしかして、そいつはロカと呼ばれていなかったか?」
「ロカ? 違うよ。イルノートって言うんだ」
「そうか。別人か……」
そう言って、鬼人族の長は直ぐになんでもないって言葉を濁す。変なの。
けど、いいや。長は直ぐにでも話をつけてくれるって約束してくれた。
「ありがとう。おじさん!」
「おじさんはやめろ」
1番の問題はここだったので無事に解決して本当に良かった……ここが駄目だったらどうしてたんだろう?
やっぱり夜忍んで行くしかなかったかな。
最後に一晩間を開けて魔人族の長であるアニスたちに里を出ることを伝える。
まだ喧嘩継続中で少し機嫌が悪そうだったけど、里の外に出ることを伝えると結婚の発表とは違って3人そろって驚いていた。
「ふーん……里の外かあ。いいなあ。あたしも行ってみたいなあ」
「私……ゲイルホリーペから出たことありませんね」
「……なるほど。――天秤はいつぞ傾くや。知るは神の匙加減と」
そこからは3人で内緒話をするからって今日は追い返されてしまった。
なんか怒らせることでもしたかなーってちょっと悲しくなったけど、この理由は2日後にわかった。
最後の3日目。
昔使っていた道具を探し出したり、以前ぼくの忘れ物だってアニスたちから渡されていたお金を手にしたり、旅装束を亜人族の里で見繕ったり……。
旅は慣れていたつもりだけど、思えば旅支度っていうものはしたことはなく、予想外にも手間取ってしまった。
これが無かったら1日は早く出れたと思う。
……ただ、途中で、余計なことが1つ増えた。
護衛はウリウリ1人だけで十分なのに、あの嫌いな護衛見習いが着いてくることになった。
名前は……覚えて無い。嘘だけど。
ぼくらが外に行くことをどこからか知って、自分も一緒に行くと言い出したんだ。お馴染みの3つの言葉を吐いてね。
ぼくは嫌だったけどエネシーラ様に直接許しを貰ったとも言う。
(こんな奴いても足手まといなだけだよ!)
……なんて思うけど、ここで変にこじれて外に出してもらえなくなるのはもっと嫌だったから我慢する。
「明日から行ってくるね」
「ふわぁ……明日ね」
「明日です……かぁ……」
「明日か」
その晩はアニスたちのところに挨拶だけして直ぐに帰った。
ウリウリに旅立ちの前日は直ぐに寝るように提案されたからだ。行きたくないって言っていたウリウリなのにこういうところは優しい。
でも、ちょっとお話でもしていこうかなって思ったけど、3人が大きく欠伸を浮かべて、凄い眠たそうだったのでやめておいた。
もう夫婦喧嘩は止んでいた。
◎
以前着ていたものと似ている旅装束を身に纏い、新品の茶色のブーツに足を差し込み、亜麻色のマントを上から羽織って屋敷を後にする。
腰には久しぶりに握った剣をぶら下げて、荷物を入れた鞄の紐を肩にかけた。
「こなれたものですね」
「伊達に長旅はしてないよ」
もう吹っ切れたのか、いつも通りのウリウリがそこにいた。そんなウリウリとは久しぶりに話が様な気がする。いつものウリウリに褒められたら素直にうれしく思う。
ウリウリはいつも通りの緑の上着の上に、護衛見習いがつけているような軽装を身に着け、胸元には鞘に収まった短剣が下げられていた。
褒められてうれしかったけど、ただ荷物は重い。いつも馬車で運んでたからちょっと大変だけど今は強がるしかない。
「フルオリフィア様! 自分が荷物を持ちましょうか!」
「……大丈夫。それより本当に君来るの? 旅は出たことあるの?」
「ありません! ですが、私はフルオリフィア様の護衛です! フルオリフィア様に降りかかる火の粉は私が振り払いましょう!」
なんだか逆にぼくが火の粉を吹き飛ばすような気がするよ……まあいいや。
じゃあ、出発だ。
久しぶりの旅に心を躍らせるぼくを先頭に天人族の居住区を歩く。
いつも鬼人族の長のところに行くために使っている橋を渡り、鬼人族の居住区の中を歩き――。
「おーい、ルーイ!」
「ん? え……なんで?」
呼ばれて振り返ると、そこには3人の見知った顔がいた。驚いた。
アニス、リター、フィディだ。
「僕たちも君たちの旅に同伴させてもらうよ――旅は道連れ世は情けとね」
「あたしも里の外って出てみたかったのよね!」
「見聞を広めるにはいい機会です」
彼らはぼくらと同じく旅支度を済ませている。中でもアニスは埃の被った、とても丸まった絨毯らしきものを携えている。
それは一体……いやいや、一緒に来てくれるのは嬉しいけど、じゃあ長の仕事はどうするの? って聞いたら、彼らの父親3人が代わりに担当するって――書置きをしてきたって言う。
「それ大丈夫?」
「人の上に立つ者として有意義な経験を積むことが悪か――否。旅に出ることは長たるもの、必要な経験なのだよ」
「あたしは少し遅れのハネムーンって言っておいた」
「私もリターと同じようなことを書いておきました」
そんなのでいいかな。……うん、いい。
逆に3人がいてくれたらとても大助かりだよ。
「じゃあ、よろしくね」
3人が増えて賑やかになりながらも鬼人族の居住区を歩いていった。
他種族がいることで嫌悪感を示す様な視線が向けられるけど、3人がいるおかげか、以前みたいな気持ち悪さは無い。
◎
「おおい、待ちくたびれちまったよ」
「あれ、おじ……鬼人族の長。どうして?」
「どうしてって見送りに来ちゃわりいかよ?」
「そんなことないよ!」
ユッグジールの里、鬼人族側の北口付近にどっしりと地面に座っていた鬼人族の長が大きな欠伸を浮かべてぼくらを待っていてくれていたんだ。
ぼくらに向かってぶんぶんと太い腕を振っていたけど、ぴたりと腕が止まってぎろりと鋭い視線をアニスに向けていた。
「なんでおめえがいるんだ……」
「僕がいることに何か不満が? 他部族の里に踏み入ってはいけないと言うことはないだろう? ――ああ、もしかしてその様な決まりが貴方の頭の中だけにあるのでしょうか?」
「ああ?」
「ちょっと2人とも、やめようよ!」
最初はアニスと一悶着がありそうになったけど、ぼくの同伴として来てくれることを告げると鬼人族の長は渋々と納得したような顔をした。
「本当、お前がブランザに見えてきたよ」
「そう?」
「以前は俺が魔人族の長の位置にいたからな」
「もしや……」
とアニスが声を上げた。
「先々代の話。我々魔人族との停戦協定が行われた時、ブランザ様の隣にいた鬼人族とは貴方だったんですか?」
「まあな。俺がいなかったらブランザは魔人族と話し合いなんて出来なかっただろうよ」
「……そうだったんですか。まさか、フルオリフィアの懐刀と呼ばれる鬼人族と呼ばれる方がこんな身近にいたなんて。――知らなかったとはいえ、そのような方へ無礼な振る舞いをしました。心よりお詫びします」
「お、わかったか。ま、次からはもっと目上のもんを敬えや」
ばんばん、とアニスの背を叩き……それを見てフィディとリター2人がきっと目を吊り上げた。
「「ラアニス様になんてことを!」」
一昨日、アニスのことをリターは殴って、フィディは止めなかったのになあ……って、2人して何してるのさ!
詠唱を読みはじめようとして慌てて駆け寄りぼくは2人の口を塞いだ。
「痛っ! フィディが噛んだ!」
「あ……ごめんなさい!」
急いで止めに入ったからフィディの口の中に指が入っちゃったじゃん。
あーあ、指に噛み跡が出来てる。
「もう! おじさんってば1言多いよ!」
「がっははは! おじさんはやめろ」
鬼人族の長は高笑いを浮かべただけで後は何も無かった。
アニスは少し咳き込んでいたけど、髪を軽く靡かせてどうってことないと強がっているように見える。
おじさん……鬼人族の長には悪いけど、ぼくは「じゃあ行ってくるね!」ってアニスの背を押して皆を先に進ませた。
もう出発からこんな様子でこの先大丈夫なの?
少しばかり歩いた後、後ろを振り返ればもう鬼人族の長の姿は見えなくなっていて、じゃあそろそろ飛んで行こうかなって思ったところでアニスが手を上げた。
「どうしたの?」
「君らは徒歩で行くつもりなのかね? ――ここから徒歩でゲイルホリーペを抜けるには半年はかかると聞いているが」
「ううん、ぼくの出す水龍とウリウリの飛行魔法で飛んで行くつもり」
「ほほほう、ならリター!」
「ええ! じゃあ、フィディ!」
「はい! アニスも!」
3人は声を合わせて先ほどから不思議に思っていた丸まった布をさーっと広げた。
続けてアニスとフィディが両端を持って広げ、リターがパンパンと真ん中を叩いた。するとたくさんのほこりを吐きだして3人はげほげほと咳き込む。
「で、これが何?」
「これは我が家の家宝、空飛ぶ絨毯だ」
「ふーん」
ああ、絨毯。なるほど。ところどころで四角形をたくさん重ねたような模様はそれっぽく見える。
ぼくの使っている部屋に敷くには大きすぎるくらいかな。とにかくでかい絨毯だ。
荷物を含めた今のぼくらを乗せてもまだ余裕なこの巨大な絨毯が空を飛ぶんだ。
それはすごいね。
「ふーんって……それだけかい?」
「だって、ぼく空飛べるし?」
「ま、まあ、そうだけど」
あれ? これって驚くところだったのかな。
ウリウリを見ても同じく普通だし……とりあえず、ぼくらは絨毯の上に乗った。
アニスは先頭に座って絨毯に埋め込まれている綺麗な石2つ――魔物から取れるコアみたいのに手を置いた。
コアっぽい石は絨毯のあちこちに縫合わさっていて、アニスが魔力を注いでいるのか、次第に光りを帯だした。
「……!」
お尻が少しむずかゆいような感触。その後でふわりと絨毯は浮かぶ。
あ、これ風の浮遊魔法を発動するときとちょっと似てるかも。
後はゆっくりと速度を上げて絨毯は前へに進んでいった。
「あ……これはアニスたちが自慢げに言うのわかる気がする。馬車より早くて乗り心地いいね」
「喜んでもらえてよかったよ。――地上人においても持つ者はいないと絶賛される名品だ」
「へえ、そんないいものなの?」
次第に速度を上げる絨毯は、ぼくが空を飛ぶよりは遅く、馬車で走るよりはとても速いくらいで飛んで行く。
近くの木々を悠々と飛び上がっているので、馬車みたいに変に迂回したりしなくてもいい。この様子なら数日で港まで着けそうかな。
さっきの言葉は訂正。これは本当にすごいね。
アニスの操る絨毯を堪能しているとリターとフィディが話を始めた。さっきの鬼人族の長とのやりとりについてだった。
「ルイ、すごいのね……あの親父と話が付けられるなんてあたしには無理だわ」
「思ったよりも良い人だよ。もしかしたら、リターが1番仲良くなれるかもよ?」
似てるからって思ったけどリターはすごい嫌な顔していた。
「私……あの方は嫌いです。アニスさんのこと悪く言ってましたし。殴ってましたし!」
「そ、そっか……結構叩くからね」
リターが殴っていた分にはいいのかなって、フィディに聞きたかったけど言わないことにする。
「僕は平気さ。――彼もまた人の上に立つだけの経緯があったということ。それを知れてよかったよ。……ただ、少し痛かった」
ぼそりと最後の言葉は聞こえなかった。
「流石フルオリフィア様! 話に聞く鬼人族の長は鼻持ちならない高慢ちきで傍若無人な方だと伺っています。そのような方と対等に話を交わせるなんて!」
「……」
「……」
「……」
と、黒髪の護衛見習いが1人感激と震えていると、アニスたち3人はぽかーんと彼を見つめていた。
護衛見習いの子が笑いながら首を傾げた。
そして。
「「「誰?」」」
アニスたち3人は今になって彼に気が付いたのか、ぼくを見て聞く。
1度は不審者だと騒がれてリターは絨毯から落とすとか、フィディは縛っておこうとか提案が上がってしまうほどだ。
「……はは、自分はフルオリフィア様の護衛ですよ。不審者だなんてそんな……最初からいましたし」
「護衛? そのナリで?」
「最初からいましたっけ?」
「ルイ、彼の言っていることは本当なのかい?」
「……」
「ふ、フルオリフィア様! なんで言ってくださらないんですか!」
「はあ、仕方ないな……この人はね……」
と、エネシーラ様の命で一緒に行くことになった護衛見習いだと伝えておいた。
この人からは「ちゃんと説明をなさってください!」なんて言われたけど、ぼくは元々こいつが着いていくことは賛成じゃないんだ。護衛ならウリウリだけで十分だ。
「じ、自分の名前は――」
「別にいいじゃない。護衛くん」
「護衛さんでいいですね」
「え、ええっと、そうですか? ですが、こんな綺麗なおふたりに名前を知られないと言うのも勿体ないと言うか――」
ぎゅん――と速度が上がった。
同時に、以前会合中にあった気持ち悪い雰囲気がアニスから流れた気がした……けど気のせいかな。
「アニス?」
「――ん? どうかしたかい?」
あれ、アニス怒ったのかと思ったけど普通だ。
「ううん、なんでもない」
「そうか。たまにはこんな空の旅もいいだろう? 昔は3人で乗って――はて、どうして乗らなくなったのだろうか」
今ではそんなこともあった、なんて3人の昔話を聞いているとフィディの運転でアニスが落ちてからは乗らなくなっちゃったとかなんとか。アニスは覚えがないって否定していた。
アニスが落ちたのが本当かどうかはわからないけど、3人の話についぼくは笑っちゃう。
珍しくウリウリ噴き出すほどで、護衛の子も笑って、アニスもフィディもリターもみんなみんな笑って――そんな笑いながらぼくらは魔法の絨毯に乗って里を後にする。
向かう先はコルテオス大陸。
イルノートからは北に行くとしか聞いてないし、ウリウリはまったくと教えてくれないし。
イルノートがいる場所はわからない。でも、きっと見つかると思う。
「……ううん、きっと見つけてみせる」
まるで自分に言い聞かせるみたいにぼくは呟いた。
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