第123話 四天としての日常 その3 鬼の昔話

 ドナくんの誕生月である7之月がきて、15歳となった彼も晴れて大人の仲間入りを果たした。

 そして、ぼくとフラミネスちゃんに続いてドナくんも四天の1人になった。


 最初に大人になったフラミネスちゃんの時にもあったけど、15歳のお祝いとは別に、新たな四天の就任を祝して、里にいる天人族を挙げての盛大なお祝いをする。

 日中は里の人たちからたくさんのお花を送られ、夜は偉い人たちからはお祝い物を送られているのをフラミネスちゃんの時に見た。

 ちなみに2人よりも先に四天になったぼくは、そういったお祝い事は行われていない。15歳になった時、あらためて


 旅をしていた頃、ぼくの誕生月である12之月ではいつもよりも豪勢なごはんを出してもらえた覚えがある。


『本当なら形に残るものが良かったんだけどね』


 そんなことも言われた覚えもある。

 ……懐かしいや。

 ぼくの誕生月だからって1人張り切って料理をしてくれるんだ。

 その日のごはんはいつもと同じ味なのに、いつも以上に美味しかった。そんな優しい――が大好き。


 ……わかってる。イルノートがそんなことをしてくれるはずがない。

 確かにイルノートもお祝いをしてくれたけど、ただ言葉をくれただけだった。


 ぼくに優しくしてくれたもう1人の誰かがいる。

 ぼくはイルノートとリコだけじゃなくてもう1人、誰かと一緒に旅をしていたんだ。

 そのことに気が付いたのはつい最近になってだった。


 やっぱり、その1人って言うのがシズクなのかな。






「……じゃあ、魔物はどう? 鬼人族側の北方領地には魔物の被害とかない?」

「さあな。あったとしても若い衆が倒してんじゃねえのか。里の外のやつらからもなーんも報告はねえ。便りの無いのは良い便りってか?」

「……もー!」


 人の話を聞こうとしない鬼人族の長の態度にいらいらする。

 耳の穴に指を差し込んでほじったりとこっちを馬鹿にしてるのがすっごいわかる!

 毎回こんな感じに子供扱いして、ちっとも話をしようとしてくれない。

 鬼人族の長に比べて亜人族の長である熊さんは親身に話を聞いてくれるんだけどね。


 この後はふんと拗ねるかはあと溜め息をついて立ち去って、鬼人族の居住区でのぼくの仕事は毎回これで終わる――けど、それは昨日までの話。

 今日のぼくはちょっと違うよ!


「ちゃんと話し合おうよー!」


 今日はばんばんと畳を叩いて睨み付ける。鬼人族の長が面白いものを見たかのように目を丸くした。


「お、今日は引き下がらねえのな。どうした?」

「ふふん。今日は友達のドナくんの生誕祭があって、しかも四天の就任式があるんだ! 先輩として良いところ見せておかないとね!」

「ドナ……ドナねえ。ドナって言われても今やってる方しか思いつかねえな。えーっと誰だ?」

「金髪の男の子。ライズ・ドナくん。ぼくと一緒に神魂の儀で舞っている4人のうち、1番背の高い子」

「ああ、あの生意気そうな金髪坊主か。いやはや、おしめも取れてねえんじゃねえかってほど豆粒が四天ねえ……ほほぉ。じゃあ、なんだ? いいとこ見せてえってことはそいつはお前のコレか?」


 鬼人族の長が指を立てる。小指? どういう意味かわからないと聞いたら「コレっつったらコレだ」って言う。


「……え、恋人?」


 いやいやとぼくは首を振った。


「ドナくんは友達だよ?」

「友達ぃ? なんだよ。つまらねえな。誰か良い奴いないのか」

「皆良い人だよ。……おじさんは意地悪だけどね」


 ぷうと頬を膨らませておじさんを見た。

 おじさんはぽかんと口を開けた後、へらへらと口元を緩ませて、大きく声を上げた。


「だっはっはっはっは……おもしれえ。俺にそんな口を訊けるやつなんてお前くらい……いや」


 鬼人族の長は顎に撫でながらぼくをじーっと見つめてきた。


「なに? ぼくの顔に何か付いてる?」

「かっかっか。いやな。確かにブランザの娘なんだなって思ってよ」


 ブランザ? ぼくのお母さんとかいう人だ。

 鬼人族の長は頷いた。


「あいつもお前と同じ様な生意気な口を訊いてきたよ。しかも決まって開口一番、争いはやめましょうーなんて、名だけじゃなくて頭まで天に昇ってんのかと呆れたもんだ」


 そう言うと、別に聞いてもいないのに鬼人族の長はブランザについて話し始めた。


 人死にが出ている中、敵であるブランザが毎日と長のいた村に顔を出しに来ていたことを。

 最初は敵襲かと村人総出で追い払っていたが、ブランザは諦めることなく村に出向いては話を聞いてほしいと懇願してきたことを。

 そのうち門番数名だけでブランザの相手をして、毎回言いたいことだけ言わせて、いつも魔法でボロクソにして追い払っていたそうだ。


「どんなに痛めつけても、ブランザは懲りることを知らないとばかりに村に現れたんだ。……正直なところ勘弁してくれって思ったよ」


 死にたがりブランザ。頭のおかしくなった天人族。殺す価値もないアバズレ女。

 鬼人族では悪い意味でブランザは有名になったんだって。


「怒ったか? 自分の母親馬鹿にされて」

「……べっつに。ぼくブランザって人会ったことないもん」


 嘘。

 実の母親って言われてもあんまり関心の無い人だけど、鬼人族の長の話を聞いてちょっとはむっとしてくる。


「そっかそっか。で、話の続きだが。実のところその時の俺はまだ長じゃなかったのよ。次席ってやつかね。その時の長である兄者からいい加減にやめさせろって俺にブランザのことを任せられたんだ」


 鬼人族の長もうんざりしていたし、次にブランザが村に来た時に終わりにしようと考えた。

 つまり、殺そうと思っていたんだって。そして、実際に鬼人族の長はブランザへと強烈な一撃を与えて瀕死にさせたそうだ。


『……ん、お前、どこかで見た顔だな?』

『……っ……そう、ですか?』

『……ああ、お前か』

『……え、あ』


 ただ、その数奇な偶然から、長はブランザのことは殺さずに終わる。

 またその後も何度と拳でわからせても、ブランザは懲りずに長のもとへと足を運び、仕舞いに根負けした長が、どうしてそんなことをするのかとブランザに尋ねた。


「……あいつは色々なことを言ってたが、結局は男のためだってよ」

「男のため……?」

「ああ、好きになったやつのためにやってるって。それ聞いて、俺は思わず笑っちまったんだ」


 今でも思いだせば呆れて仕方ないとこの場でも大笑いを上げた。

 しゃがれた耳の奥を震わせる大きな笑い声だった。

 いつも見せる会合の時に見せるひとを不快にする笑い声じゃなく、今回は聞いてて気持ちのいい笑い方だった。


「呆れて、馬鹿げてて、俺に取っちゃくだらなくて。だが、顔を真っ赤にして好きな男のために争いを失くすなんて夢を見てるあいつを見てな。……馬鹿馬鹿しいって思っちまったんだ」

「馬鹿馬鹿しい? ブランザが?」

「……ブランザも馬鹿だと思ったが、それ以上に俺らが馬鹿だったと教えられた気分だったよ」

「おじさんが?」

「おじさんって……まあ、そうだな。そもそもなんで俺らが天人族や魔人族を相手に戦っているのか少なからず疑問は持っていたんだ。だが……親の代から引き継いだ争いってやつに意味なんてものを考えたことはなかった」

「考えたことなかったの? 戦うことに?」

「ああ。生まれた時からあいつ等は敵だ。天人族も魔人族も人の形をした魔物と同様だって教えられて育ったんだ。それがブランザを見て、ああ、あいつらも誰かを好きになるんだな……同じなんだなって知っちまった。……知っちまった時、俺はもうブランザを殺すことは出来なくなっていた」


 それから鬼人族の長とブランザの距離は1歩だけでも近寄ることが出来た。ブランザが村に来たら長本人が直接話を交わし、長い時間をかけて、ゆっくりと2人は交流を重ねた。

 日を重ねるごとに次第に会話は柔らかくなっていって、いつしか素直に鬼人族の長もブランザの話に耳を傾けるようになった。


「聞けばあいつの好きな男は同族の村では自由に生きてはいけなかったそうだ。だから、どんな人種だろうが自由に暮らせるも場所を作りたいってブランザは言っていた」

「同じ天人族なのに一緒に暮らせないの? え、そんな人がいたの? ぼく知らなかった」

「おめえは大陸外から来た余所者だろ。それに100年以上も昔の話よ。俺だって詳しい話は聞けてねえよ」

「そっか……でも、こうしてユッグジールの里が出来たってことは、ブランザが好きだった人はユッグジールの里が出来たことで自由を手に入れることが出来たってことでしょ?」


 もしかして、ぼくのお父さんって人になるのかな。

 ブランザの話はウリウリからよく聞いていたけど、ぼくのお父さんについては何1つとして聞いてない。

 一体どんな人だろう――と鬼人族の長の話の続きを待った。

 けれど、鬼人族の長は首を横に振るだけだった。


「いや、ブランザの好きだった男は俺のとこに出向く前には行方不明になっていたそうだ。あいつは居もしない男の為に頑張り続けてたんだ」

「そっか……」

「一途にその男のことだけを考えてな。そんな女、俺も長いこと生きてきたがブランザ以外には出会ったことは無い。……天人族にしておくには勿体ない女だったよ。あいつに角があったら俺の嫁に向かえていたところだった……なんて、なんで俺こんな話をしてんだ」


 鬼人族の長は髪の無い頭を掻いた。

 それからじーっと見ていたぼくに向かって顔を歪ませ「もう終わりだ! お前もさっさと帰れ!」なんて大声を上げてぼくを追い払った。

 今度は居座ろうとしても駄目そうだね。

 でも、いつもとは違って晴やかな気持ちがぼくの中にある。


「おじさん」

「なんだよ」

「おじさんって思ったよりはいい人だね」

「はあっ!?」

「さっきは意地悪なんて言ってごめんね」


 じゃあね! と大きく手を振って鬼人族の長の家から去った。

 鬼人族の長もなんだかんだ言って玄関先まで見送ってくれた。照れているの、苦笑いは見送られる間、消えることはない。

 やっぱり、いつもの嫌な気持ちはまったくない。

 鬼人族の居住区を抜ける間、鬼人族の人に睨まれてもちっとも嫌に思わない。


「ぼくもブランザに習って少しずつでも話をしよう」


 だって鬼人族の長とも仲良くなれたんだから。

 次に会う時はもっと話が出来ると思う!


「あ……昔話を聞いただけな気がするけど」


 まあ、いっか! 距離は縮まったに違いない!

 今日はなんて良い日だろう。

 鬼人族の長とも話が出来て、この後にはドナくんの誕生祭が待っていて。

 夜は抜け出してアニスたちのところに行く予定まで立っている。お花見はとっても楽しみだ。


「じゃあ次は亜人族の居住区に向かって熊さんの話を聞いて……家にいるといいな。畑仕事してると里の外出ないといけないし……もうすぐドナくんの生誕祭も始まっちゃうしね」


 足取りを軽くして、ぼくは鬼人族の居住区を後にした。





 まるで天さえも俺を祝ってくれるかのように、今日は晴天に見舞われた。

 そして、祭りは定刻通り俺らの居住区の広場で行われた。


「ドナ様、ご生誕おめでとうございます。あの幼子がここまで立派に成長されまして里の者として大変嬉しく思っています」

「ああ、ありがとうな」


 組み立てられた舞台の上、エネシーラ様くらいしか座ることが立派な椅子に腰を掛け、その老人は俺にかしずいてそんなことを言った。そして、老人は左右に置かれた大きな籠に花を1輪刺していく。

 俺は花よりも食い物の方が良かったが、そんなことは絶対に口にするなとは親父に言われている。

 また、俺の舞台から少し離れたところで、挨拶を終えた住民たちが簡単な軽食を口にしているのが見えた。これは四天である親父たちが労ったものだ。

 楽しそうに食事をしている皆を、次々と挨拶に来てくれる住民たちの話を聞き笑って見ているだけだった。


「腹減った……」

「我慢なさってください。これも四天の務めです」

「そんなはずないだろお……」


 後ろに控えているシンシアが俺を咎めた。

 単調な口ぶりに素っ気ない態度、振り向かなくても愛嬌のない凛とした美しい面構えが余裕で想像できる。

 俺は笑顔を崩さずにため息をついた。


(なんでこんな奴になっちまったのかな……)


 半月前はがちがちに緊張し、たどたどしく噛み気味の挨拶に、まったくと動かない表情から面白いやつ……それでいて多分里でも特上に入るほどの美人で、平然を振る舞いながらも内心は歓喜したほどだ。

 だが、そんな初々しい反応はどこへやら。こいつがかなりの堅物であることを後に知った。

 シンシアは俺の知る限りだとフルの護衛であるリウリア並に石仮面なやつだった。

 リウリアの隠し子疑惑を懐くほどに、な……いや、嘘だ。シンシアの出生処は知ってるからそれはない。

 まあ、窮屈で仕方ない。


「これならヘナ姉ちゃんの方が良いや」

「日中からお酒を飲んでヘラヘラしている人のどこがいいんですか?」

「……お前」


 ぼそりと呟いた俺の独り言に答えるようにシンシアが呟いた。

 飲んだっくれだとしてもヘナ姉ちゃんは列記とした四天の護衛だ。

 ヘナ姉ちゃんは笑って許してくれると思うけど、人によっちゃあ不敬罪で謹慎、最悪俺の従者を解雇されるぞ。


「おい、どうした?」

「別に……」


 目に余る発言を注意しようと振り返るとそっぽを向いて不機嫌になっているシンシアがいた。おいおい、石仮面が剥がれかけているぞ。

 なんだ、こいつ……。

 直ぐにこちらを向けば、俺と視線を合わせずに元通りの石仮面に戻ったけどよ。


「ドナ様。笑ってください。民が見てます」

「お、おう」


 言われて俺も前を向いてにっこりと笑う。手も降ってあげてくださいとシンシアの指示通りに手を振れば食事をしている住民から小さく歓声が沸いた。

 その後も何人もの住民が俺への祝辞を読み、毎回同じことを生産された笑みを浮かべて返す。


「ドナさま! 15さいのおたんじょうづき、おめでとうございます!」

「おうっ! ありがとうな!」


 ただ、小さい子供が可愛くお花を手渡してくれた時だけ、心から笑って相手が出来る。

 里でも少ない子供の天人族だ。

 俺が今までそうであったように、今日からは守られる立場から守る立場になるんだ。


(こいつらを今日から俺が守る。大事な使命だ)


 改めて自分が四天だということを子供たちを見ることで実感した。





 日も落ちた頃ぐらいに昼の誕生祭はお開きになり、今度はユッグジールに住まう天人族を取りまとめるお偉いさんたちとの会合となる。これも一応俺の生誕祭だ。


 昼と同じく貴賓は俺ということもあり、座りっぱなしでよかった昼とは違って挨拶回りに忙しくなった。

 会場には俺も年に数回しか食べることが出来ないような豪勢な食事を横目に、里でも四天の次の地位にいる十華と呼ばれるお偉いさんたち……まあ、まだ親父の、俺たち四天の部下へと声を掛けていく。俺の従者のシンシアも共に回ってきてくれる。

 ――今は1つ空席があるから九華だけどさ。


 シンシアは十華の人たち全員知った顔のようで俺以上に緊張は見られない。

 それどころか大きくなったねとか、お母さんに似て綺麗になったねとか、俺以上に、そう。今回の主賓である俺以上に声を掛けてもらっていた。

 これもシンシアが空席と化している十華のひとつ、ロレイジュ家の息女だからだろうか。

 詳しくは教えてもらっていないが、彼女の両親は不運にも事故で亡くなり、その後後見に立った我が家が彼女の身を預かり、回りまわって俺の従者となっている。

 シンシアは……相変わらずの無表情で淡々と受け答えをしていた。


「おーい、ドーナ!」

「フラミ!」


 十華の挨拶が済んだ後、今度は四天の1人であるフラミのとこへと向かう。

 フラミの母ちゃんである前任のアグヴァ・フラミネスに旦那であるハーバンさん、また護衛であるヘナ姉ちゃんも食事中らしく酒を飲んでは笑い声を上げていた。

 和気藹々と振る舞われた酒を飲み合っていた大人3人も(まあフラミも大人と呼ばれるんだけどよ)、フラミの大声と共に俺に気が付いて軽く手を上げてくれた。


「おめでとう! 15歳おめでとう! それと四天就任も一緒におめでとう!」

「ありがとうな。これでやっと俺もお前ら2人と肩を並べられるぜ」

「ドナは後輩なんだからこれからは先輩の私の言うことをよおく聞くんだぞ!」

「あーん? なんだとぉ? こいつ1年早いだけじゃねえか!」


 1歳年上だと言うのに相変わらずちっこいの首根っこを抱き込んで首を絞める。

 もちろん手加減はしているし、フラミもわかっててきゃっきゃ笑いながらじゃれあう。


「2人は相変わらず仲いいのねー」


 ただ、これがフラミの親の前だということをすっかり忘れていた。

 こちらを見て微笑む先代四天のフラミネスさんが微笑む反面、旦那さんは険しい顔をしていた。ヘナ姉ちゃんはたははと笑いながら自分のおちょこに酒を注いで飲んで――あ、面倒臭がって酒瓶に直接口をつけて飲みだしやがった、って、ちげえ!


「……ドナ様。成人と四天就任おめでとうございます」

「は、はい! ありがとうございます!」


 ハーバンさん――親父さんに声を掛けられ、フラミとのじゃれ合いを直ぐにやめて直立不動になって挨拶をした。

 親父さんは国境警備長と言う役職に就いてはいるけど、地位は四天の息子……今日からとは言え四天の俺よりも下だ。

 だが、彼は俺が中々頭が上がらない数少ない天人族の1人だ。


「ドナ様。うちのチャカとは相変わらず仲がいいんですね」

「え、ええ! 同じ四天の子として良い関係を築かせていただいています!」

「へえ……良い関係ね。それはそれは」

「はい! それは勿論友人として! そう! 友人としての交流させてもらってます!」


 親父さんが首を傾げ「友人?」と聞くので俺はぶんぶんと首を縦に振って「友人です!」と肯定する。

 すると親父さんの不自然な作り笑顔がケラスの花みたいに満開になる。


「そうか! それは何よりだ! はっはは、これからもうちのチャカと仲良くしてくださいね!」

「う、うっす!」


 ちなみに俺が頭に上がらないのは俺の両親を筆頭に、ブロス先生にエネシーラ長老くらいだ。後はだいたいフランクに接してしまう。インパは……半々ってところだな。

 ただ、最近シンシアも頭が上がらなくなりそうで要注意だ。

 あれやこれやと従者のくせして指示してきやがって面倒臭がって拒否すると親父に言付ける、なんて……これじゃあ従者じゃなくてお目付け役だ。

 まあ、これからは天人族の顔である四天となった俺とシンシアとで上下関係をはっきりとさせておかないとな……ん?


「おい、シンシアまでそんな顔してどうした?」

「……っ……別に。いつも通りですが」

「ならいいけどよ」


 まだ短い付き合いだけど、こいつが少し微笑んでいるのに気が付いた。

 何か良いことでもあったのかね。変な奴だ。


 別に里の外に出てるわけじゃねえけど国境警備に任に就いている親父さんとは中々会う機会は無い。だけど、結構な親馬鹿だっていうのは俺たちだけじゃなく里のもん全員が知ってるんじゃないってくらい有名だ。

 親父さんはフラミに近寄る男は片っ端から遠ざけようとするきらいがある。

 実力で護衛となったリウリアとは違って、女であるヘナ姉ちゃんがフラミの護衛に選ばれたのはそう言う経緯があるとか無いとか。勿論、実力だって織り込み済みだけどよ。


「もう! お父様ったら! 私とドナはこれからずーっと四天で頑張るんだからね! 仲違いなんかしてられないって!」

「ははは! いつの間にか考え方も大人になって! さすが我が自慢の娘だ!」

「あはははっ! 恥ずかしいよー! もう私は16歳なのにー! あははははっ!」


 フラミの親父さんが16の娘を抱き上げてその場で回り始めた。

 嫌々言いながらもフラミはとても楽しそうだ。現に笑ってるし。小さい子供と戯れる父親って印象を受ける。

 けどまあ、この容姿だしな。まだフラミは10歳だって言われても信じてしまいそうになる。


「……何か?」

「いんや」


 それに比べたらシンシアの落ち着きようはどうだ。まだ14歳だというのに俺以上に大人の貫禄が出ている気がして焦る。

 シンシアとフラミを並べてどっちが年上かわかる? なんて聞いて答えられる奴なんていないだろうよ。2歳も差があるのに、どっちが年上かなんて一目瞭然だ。

 ただ、内面的にはシンシアはまだ子供で、こいつは直ぐに感情的になる。

 俺がフラミとかフルと話してる時なんか顕著で、若干眉が吊り上がるのをよく見ている。これがレドと話しると変わらない。

 ただ、この反応は俺以外はわからないっていう。その場限りでは素っ気ない態度で「そうか?」と答えたが、内心なんでか嬉しく思った。


「15歳だなんだいっても、ドナも大きくなったよねー」

「そうか? フラミが小さくなっただけじゃねえのか」


 昔から殆ど成長していないフラミとこの数年でグーンと伸びた俺。

 今じゃインパも俺を軽々と抱きかかえるような真似が出来ないほどになった。インパは里の中でもデカい方だからな。そんなやつと頭1つほどの背丈になったのは結構いいもんだ。

 ちなみにフラミは頭2つほど違う。俺の胸より下に奴の頭は来る。


「なんだとっ!? 私は怒るよ! これでもお父様には毎日大きくなったって言われてるんだからね! だから私はこれからも毎日大きくなっているんだよ!」

「本当かあ? ……あ、はい。そうだな。そうですね! ええ、今日よりも明日のフラミネス様は大きくなってる気がする」

「でしょ! いつかドナだって追い抜いちゃうんだからね!」

「た、はは……」


 フラミの親父さんが俺たちのやり取りを凝視している手前下手なことは言えない。

 親父さんの睨みから逃れるために俺は一刻も早くこの場を切り上げて、次へと挨拶に向かおうとした――その時だった。

 

「やあ、2人とも」

「……ん? ……な、なっ……レド兄っ!?」

「うそっ、レドヘイル兄さん!」


 呼ばれて俺ら2人が振り返るとそこにはレドと、数年来の知人がいた。

 最初は誰かわからなかった……見間違いかと、思った。

 だって俺の中の記憶の彼と目の前にいる彼とでは背も伸びてて、悪い意味で体格も変わっていたんだから。


「久しぶり。やっとみんなに顔を見せられるようになったよ」


 レドに肩を借りながら姿を見せたのは、俺らが昔お世話になったレドの兄である、ギオ・レドヘイルだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る