第116話 四天としての日常 その2 魔人族の夫婦
彼らの住む大きな屋敷には門番もいなければ、膝上くらいの柵はあるようでないもの。
ひょいと柵をまたいで正面ではなく裏庭からお邪魔して、1階端の3人の寝室へと直接向かう。
窓ガラスを覗き込みながら軽く叩き、寝ている2人を起こす。大きなベッドの上で1人分の隙間を開けて2人は寝ころんでいた。
この間、ウリウリはぼくらに背を向け続ける。それもこの部屋の住人が決まって裸だからだ。
今回も、いつもと同じ様に真っ裸なリターが窓を開けてぼくらを迎えてくれた。
「こんばんは! それとおはよう!」
「……ふああぁ、ルイ……おはよう」
「おはよ……ふあぁ……失礼、ございます。ルイさん、リウリアさん」
開け放たれた窓から2人の挨拶といっしょにむわっと汗っぽい臭いが立ち込める。
もしも今が夏季だったとしても、関係ない。いつでも朝はこんな感じ。
2人は汗っかきなのかなって以前聞いたらひとりは失礼ねって怒って、もうひとりは照れ臭そうに笑っていた。その時のぼくはあまりにもそういうことに無知であったため、なんでウリウリが顔を赤くしているのかもわからなかった。
けれど、今ではこの臭いの跡がなんなのか、ウリウリが恥ずかしがったのも薄々と理解しているつもり。
今日は部屋にはアニスはいなくて、いつもの軽口は聞かずに済んだ。
いつもなら2人と同じく全裸のまま、前髪を掻き分けて挨拶をしてくる。
すると毎回飽きもせずウリウリがひぃと悲鳴を上げる。前を隠せと喚きだす。
1度だけウリウリは魔法でアニスを吹き飛ばして2人から反感を買いそうになったこともあった。
ぼくは……最初はびっくりしたけど、もうすっかり見慣れちゃった。
今回もウリウリは、ぼくらに背を向けたまま「はしたない!」と叱りつけるだけだった。
「ん―……さむっ……まあいいや。ごはん、用意するからその間に準備してて」
「うん、わかった」
そう蹴伸びしながらリターが、続いて「失礼しますね」とフィディも片手で胸元を隠しながら笑って、2人は部屋から出て行った。
◎
ぼくは裏庭に茂った木々から葉っぱを1枚1枚と千切り、地面に生えた草を根っこが抜けないように引き抜く。
これらは魔法の勉強をするための教材だ。
無差別に、それでいて形や長さが被らないように選別して千切っては引っこ抜いていく。
「ルイさん、リウリアさん。おまたせしました」
用意を終えて軽く魔法を放って慣らしをしていると、お揃いの薄着に着替え終わったリターとフィディが裏口から姿を見せた。
手に持つお盆をテラスの4人掛けの丸テーブルに乗せ、2人は隣同士に座って食事を始めた。
リターは大の甘党で、彼女特製の甘い紫ジャムをたっぷりと、真っ白で甘々なクリームを山盛りと塗りたくった、茶色に焼けた大きなパンを手で掴んでがつがつと口に運んだ。
フィディは逆に大の辛党で、バターを一欠け、胡椒は真黒になるほどふんだんに振るって、最後に赤くて辛いソースを蒸かし芋にたっぷりとかけて、ナイフとフォークを使い小さく切り分けて食べた。
朝食……ぼくたちにしたら夕食だけど……2人は朝(夕方)からよく食べるなあ。夕食を食べた後だからってこともあるけど、見てるだけでももっとお腹いっぱいになりそうだよ。
――はっ……はっははー! 2人の食べっぷりはいつ見ても飽きない。――さながら男を誘い喰らう魔花のようだ。僕はいつ贄となるのかと不安で仕方ないよ。
フィディとリターは顔を赤らめて嬉しがったり恥ずかしがったりするけど、そんなふうに言うアニスの顔は毎回引き攣っているのぼくは見逃さない。
好きな人の欠点の1つや2つに3つと言わず、全てを受け入れる許容がなければいけない、なんて自信満々にアニスはぼくとウリウリだけに語っていたっけ。
「失礼します」
「ええ、どうぞ」
続いてウリウリが彼女たちの対面に座った。ウリウリは2人の食事に顔色1つ変えず、フィディに出されたカップに手を取り口に運ぶ。
それら、いつも通りの光景を目の当たりにしてから、ぼくは彼女たちから少し離れたところで魔法を使う。
木魔法。
草木を魔力で成長させる魔法……とぼくは捉えている。
本来なら魔法陣の書かれた紙や木材といった魔道具を補助にし、呪文を唱えながら発動するけれど、ぼくは植物の1部を持つだけで発動できる。
火、水、雷、風と違って木魔法は魔力の通し方が違うんだ。
水魔法を例とすれば、水を思い浮かべて指定した場所に水が集まるように魔力を貯める。もしくは留める、かな。
それに対して木魔法は手にした植物に魔力を注ぎ込んでいく。
使用しない時は魔力を流さなくてもいいけど、操作するときは上4つの魔法よりも深く魔力を流し込まないといけない。
また、魔法陣を使用しての木魔法なら補助してくれるんだけど、ぼくの場合は手にした葉っぱ全体にまんべんなく魔力を注がないとちゃんと育たない。
失敗すると1部に魔力が向かわなければ変な形になる。場合によっては魔力が滞った場所が育たなくてそこから曲がったり折れたりする。
「不思議よねぇ……天人はなんで使っちゃいけない魔法があるのかしらね」
「確か、自然の流れに逆らう行為を天人は嫌う、というのを聞いたことがありますね」
「ぼくもそんなことをブロス先生から聞いた」
2人の会話に混ざりながら千切った葉っぱに魔力を注いでかさを厚くする――5枚重ねたくらいの厚さになる。
うん、葉っぱ1枚くらいなら完璧だね。
そういえば、ブロス先生は木魔法が使えるんだよね。主にぼくたちの魔法の的としてだけど。
1度、木魔法を教えてって言ってもブロス先生は笑って駄目だと言うだけだった。
「木魔法は命をいたずらに触れるもの。
魔法を扱うぼくの後ろでまたもお茶を口にしながらウリウリは答える。
「おかわりは?とフィディに聞かれ、「お願いする」と無表情のままに注いでもらっていた。
次に抜いた草は根っこを掴んで伸ばしていく。たらたらたらと手の中で草が伸びていくのをじっと見守る。魔力配分を間違えると、途中で成長による痛みが生じて、そこから裂けちゃうから注意が必要だ。
全部やり遂げ、はい、と成果を見せ、リターから、よし! と合格を貰った。
「この1年で初歩的な木魔法は一通りマスターしたし、この手の練習は手慣れたものね。じゃあ、フィディ。前々から話していた通り、次の段階に行ってもいいんじゃない」
「そうですね。では、ルイさん、これを」
「え、なに?」
リターに言われ、フィディから受け取ったものを見る。
種、かな?
縞々模様で半月型のもの。豆みたいな湾曲したものもある。
空はちょっと暗くなってきていて、見にくい。
「今日はルイに、ここの庭のお手入れをしてほしいの」
「お手入れ? ぼくが?」
「ええ、魔法でこの庭を花いっぱいにしてください」
ガーデニング。園芸。この屋敷の庭の花壇いっぱいに花を咲かせてほしいって2人は言うんだ。
実際に土を弄りながら木魔法を使う……植物を育てることで技術は比較的高まるんだって。
ただあちらこちら勝手に植えるだけじゃない。
綺麗に整え、植える場所を選別し、見栄えもよくしなければならない。
中々に楽しそう。
でも。
「花って夜に見ても楽しい? 真っ暗で見えないんじゃないの?」
「今回渡したのは夜光花といって、魔人族で改良した品種なの。夜になればあたりは蛍光の世界に彩られるわ」
「リターもアニスも、もちろん私も大好きなんですよ」
夏季になればこの庭にはフィディが植えた花でいっぱいになる――と、リターは自分のことの様に語ってくれた。
ガーデニングはフィディの趣味で、いつもは彼女が庭を管理している。しかも、魔法は一切使わず、彼女は1から手作業で育てている。そっちの方がやりがいがあるとフィディは笑っていた。
時たま、リターもアニスも雑草取りに手伝わされることもあるそうだ。
そして、お花が綺麗に咲いたら毎日リターとアニスとフィディの3人でお花見をしながらお酒を飲むらしい。
「空には幾臆の星々とひときわ輝く月、地には満開の夜光花に私たち3人の魔力光。お酒を飲むには最高の肴になるのよ」
リターがくいっと口に手を送り、お酒をのむ仕草をして笑った。
ほお……といつもは無口なウリウリが口を開いた。
「それは……とても興味深いですね」
「でしょ? じゃあ、来月は一緒にお酒でも飲まない? と言っても、するのは天人で言えば真夜中になるんだけどね」
ぱん、と小さくウリウリの肩をリターが叩くけど、ウリウリは残念そうに首を横に振るだけだった。
「私は下戸でお酒は飲めません……それに夜中となると、外出は頂けませんね」
「えー! ウリウリ行こうよ!」
「あら、リウリアさん。あなたお酒飲めないの? もったいない……人生の半分を損してるわね」
お酒というものは、ぼくも小さい頃に1口舐めたくらいだ。
フィディの言う人生の半分を損してるっていうのはちょっとわかんないけど、お花はすっごい興味ある! ぼくは行きたい! 無理言って説得しないと!
後で見てろよー、とウリウリをじーっと見つめて……あら? 対面に座るリターとフィディの視線に挟まれて、肩を縮ませて狼狽えているウリウリがいた。
しかも、岩女の顔が少し角が取れてる。こんなウリウリも珍しい。
行こう行こうと右と左と誘われて「でも」とか「しかし」と口をまごまごさせている。
お、これなら期待できそうかも!
ともかく、ぼくは来月のために夜光花を植えて育てるのだ。
「よーし! ぼくがんばるぞ!」
「ええ、頑張って綺麗な花をさせてくださいね」
「期待してるわよー。あたしたちの酒盛りの為に!」
今期はぼくのために土いじりをしないでくれていたようで、大きな花壇は荒れた土に枯れた草木が散乱しているものだった。
いつもならフィディに倣って身体を使って耕すけれど、今回は木魔法の練習だからと、ぼくは魔法を使って整える。
ただ、魔法の練習じゃなくても、ぼくも3人といっしょに魔法を使わずにガーデニングをしてみたいと思った。
とても楽しそうだ。
隣に立つフィディの指導のもと、花壇の中を土魔法で優しく耕し終えて、種を持ったまま土の中で魔力を解放する。手の中で虫みたいにうごめくのを感じる。少しくすぐったい。
微弱に魔力を注ぎ込み、次第に手を開いて土を含ませる。土と根が定着するのを待った。
ここで失敗すると変な方向に芽が顔を出しちゃうから慎重に。成長させ過ぎても駄目だ。
ここで花を咲かせちゃうと無理をして成長した分、直ぐに枯れてしまうからとフィディに注意は受けている。
時にはフィディの指示で植える場所と種の種類を変えていった。
並びも大切で、近すぎても互いに絡みついちゃって汚くなってしまう。間隔を広げ、それでいて開きすぎないように。
慣れない作業は大変だけど、楽しくて仕方ない。こんなふうに魔法を使うのも久しぶり。
「おや――魔法の練習じゃなかったのかい?」
土いじりをしていると屋敷の中からアニスが出てきた。
「やあ、おはよう。客人たちよ。そして、僕の女神たち――君たちを見なければ僕の心はいつまでたっても太陽は昇ったままだった」
「やっと来たわね、アニス! おはよう!」
「アニスさん。おはようございます」
アニスは最初、近くに座っていたリターの頬にキスを落とし、今度は花壇にいたぼくらの方へと近寄ってフィディの頬にキスをした。
相変わらず、見せつけてくる。
2人は幸せそうだからいいけどさ。
あらためてぼくは魔法の練習で花壇に花を咲かせていることをアニスに伝えた。
「へえ、ルイ! この花壇は君がやったのかい! ――そうと知れたなら、今夏の花はいつもとは違った美しさを見せてくれるだろう」
「うん! 美しさが変わるかはわかんないけどね!」
また、よくできているとアニスはぼくを褒めてくれた。ぼくも綺麗に植えられたと自信満々の出来だ。
素直に褒められればうれしくなるよ。
まあ……けど、というか、やっぱりって言うのかな。ウリウリがむっとする。
「貴様。いい加減、フルオリフィア様と呼べと何度言えば……」
「いいんだよ! ぼくはルイって呼ばれる方が好きだし!」
ウリウリはぼくがルイって呼ばれるのすっごい嫌がる。
ぼくだってアニスって呼ばせてもらってるんだ。おあいこだよ。
これについてはフィディとリターが言っても、いい顔をしないけど、もう諦めたのか2人にはウリウリは注意しない。でも、アニスは異性だからなおさら駄目だって言うんだ。どっちでもいいのにね。
「おや、リウリアさん。今日もまた激情に身を任せているのか」
「誰のせいだと思っている!」
「さあ、誰だろう。それが僕なら光栄だ。――怒りに震えたあなたは尚のこと、美しい」
「ふん……同じ言葉を何度も吐いたところで、私の心が揺るぐことはありません」
「あらー? 最初どぎまぎしていたのは誰だったかね」
「あの時のリウリアさんはとても可愛らしいかったんですけどね」
「な、あ、あれは慣れていなかったからです!」
アニスが出てきてウリウリが怒り、その様子を見てリター・フィディの奥さん2人が茶化す。
なんだか毎回同じことを見ている気がするけど、それを横目で見ながら作業を続けるとあらかた終わりを迎えちゃった。
フィディからは合格! と大きくまるを貰えた。よかった。
このまま別の練習を続けていてもよかったけど、休憩とお茶を進められその後は5人でお茶会の開始となる。
「どうだい? 四天の仕事は?」
「まあまあかな。亜人族の長はいいけど、鬼人族の長は話をするだけでも大変」
「ははは。そうだろう――彼らは強者の言葉に耳を傾ける。認められなければ話なんて出来てないようなものさ」
「強者ってどうわからせればいいんだろ。まあ、話すこともあんまりないし一言二言で済むの楽だけどね」
とは、ぼくとアニス。
「ねえ、リウリア。いつになったら私もウリウリって呼んでいいの?」
「私もウリウリさんって呼びたいですね」
「駄目です! これはフルオリフィア様しか許して無い!」
「「えー」」
とは、リターとウリウリにフィディだ。
残りわずかな時間を5人で楽しむ。
アニスたち3人はこの後に長としての仕事があるし、ぼくらはお月様が1番上に昇るよりも前に戻らないと駄目だから長くはいられない。そのため、今みたいなささやかな時間は練習後のお茶1杯を飲めるかどうかってくらい。
けれど、この時間が長い1日の中で1番ほっとできるんだ。
(こんな時間が作れるようになって本当に嬉しい)
この関係も去年の集会でぼくが3人と……リターとフィディと知りあって、集会や顔通しがあるたびに話すようになったことから始まった。
次第に集会だけじゃなくて、ぼくが彼女たちの元へと訪れるようになり、木魔法を教わるようになるのは直ぐのこと。
むしゃくしゃして魔物に当たっていたあの頃が嘘みたいに今は心穏やかな日々を送っている。日中は色々と面倒だったり、つまんないことも多くてむしゃくしゃするけどね。
これも2人とアニスのおかげ。アニスは変なことを言ってたまーにちょっととっつきにくいけど、屋敷の出入り許可もしてくれたし、普通の時でちゃんとしてたら良い人なんだ。
◎
「あ、ドナくん!」
「……ん、フルか」
時間を守って天人族の居住区に戻ると、偶然にも帰路の途中でドナくんと鉢合わせた。
「――では、ドナ様。私はこれで」
「……あ、ああ。気をつけて帰れよな」
そう言い、ぺこりと一礼をしてドナくんから去っていく金髪の女の子。見かけない子だ。
ぼくが以前着ていたような白いエプロンとフリルのついたカチューシャを見に付けてた……メイドさんだよね。
誰だろう? ……いや、どこかで見た覚えはある。けど、はっきりとしない。
曖昧なのはきっと、ごちゃごちゃになったぼくの記憶のどれかにいるからだろう。
「ドナくん今のは?」
「ああ……今日からうちで働くことになったシンシアだ。もうすぐ俺も四天だってことで、お付きとして働くんだとよ」
「へえ、そうなんだ! 可愛い子だね!」
「だな――……い、いや、普通じゃないか!?」
「そう?」
シンシアちゃんか。
ぼくと同い年か、年下かな?
ぱっとしか見れなかったけど、ちょっと緊張しているのか表情は硬かったけど、とても可愛い子だと思うよ。
それなのにドナくんは普通だっていうの。
「ねえ、ドナくんの普通って何? どこ基準?」
「どこって……」
ドナくんはふとぼくを見る――けど、直ぐに逸らして何とも言い方、寂しそうな顔を見せる。
そして、首を傾げてうーんと小さく唸った。
「どこだろうな……」
「ん? 変なドナくん」
「お話のところ、申し訳ございませんが――」
と、ずっと黙っていたウリウリがそろそろ夜も遅いというので、お話はまた明日にでも、とぼくらは3人そろって帰宅をした。
「じゃあ、ドナくん、おやすみ」
「おやすみなさいませ。ドナ様」
「ああ、フルもリウリアさんもおやすみな」
先に屋敷に着いたぼくとウリウリは別れの挨拶を済ませて、ドナくんに背を向けた――ところで、なあとドナくんに呼び止められた。
「なあ、お前本当にフルか?」
「ぼくはぼくだよ。ドナくんさっきから大丈夫?」
「……そうだよなあ」
悪いと謝られて手を振って別れた。
本当にどうしたんだろうね。けど、ドナくんがこういう反応をするのは今日に限った話じゃない。
時たまドナくんはこんな反応をする。
ドナくんはぼくを見て変な顔をすることが多い。またそれはドナくんにだけじゃなくて、フラミネスちゃんにもあった。
「まあいいや!」
「はい、フルオリフィア様も直ぐにおやすみになさいますように」
言われてウリウリに自分の部屋まで送られておやすみと挨拶をして扉を閉め――
「着替え、手伝いましょうか?」
「自分で出来るって!」
――扉を押してウリウリを帰した。
またふう、と息を吐いてぼくは服を脱ぐ。
「……ただいま」
棚の上に置かれた位牌に話しかける。
壊れた位牌は今では木魔法を学んだことで直すことが出来た。まあ、繋ぎ合わせた程度だけど。でも、半分に折れてるよりはいいかなって思う。
手についた土汚れはアニスの屋敷で落としたけど、もう1度窓を開けて手を洗う。
「あ……綺麗だな」
空にはたくさんの星が花を咲かせていた。
アニスの屋敷でのお花見はきっとそれ以上のものになるに違いない。
「ウリウリだって絶対見たいくせに。やっぱり、行かないと損だ!」
ぱっぱっと手の水を落としてぼくは横になる。
本当に彼らとは出会えてよかった。この1年はとてもいいものだった。
「花が咲くのは来月かあ……」
来月は7之月の春を迎える。
今はまだ寒かったりするけど暑い日は暑い。直ぐに夏へと姿を変えるけど丁度良い季節だ。ぼくは寒いくらいの今、6之月の方がいいけどね。
来月には神魂の儀があったり、ドナくんの成人の儀もあり、そして、絶対夜光花の花見は行きたい。
そう――今は燭星699年の6之月。
ぼくがいた反対側、エストリズ大陸では初夏が始まるころ。このゲイルホリーペ大陸では2度目の冬に見舞われているころだ。
「……」
この里に来てから短いようで、あっさり2年以上経ってしまった。
ぼくはもう14歳――周りでは15歳になれば大人とみなされるため、ぼくが大人と呼ばれるまで――15歳の誕生月まで残り半年を切っている。
里に来た時はまだ子供だったぼくが、大人の仲間入りを果たすまでもうすぐだ。
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