第113話 不思議な子供たち

 顔を真っ赤にしたレティにお叱りを受けた。可愛い顔が台無しだ。

 反省しつつも、ふとルイの怒った顔が頭に浮かび、目の前の彼女とは全くの別物であることに気が付いた。造形は違くとも居間のレティの顔は過去の幼馴染の怒った顔にそっくりだ。頬を引き攣らせるところなんて特に。


 改めてお店の中に入り、先ほど遭遇したお姉さんに謝罪を述べつつ、簡単な自己紹介をした――やっぱりだ。


「お姉さん、魔人族の人?」


 お姉さんの身体には仄かな光りが灯っているように見える。

 ただ里ですれ違った魔人族や、ラアニス様? と奥さん2人と比べても身に纏う魔力の量は雲泥に違う。

 微弱過ぎて最初は何か肌にオイルでも塗っているのか、異様に肌が綺麗な人だとも思ったりもした。

 お姉さん、ルフサーヌさんからも、やはり僕の魔力が見えるようだ。


「温かな光が彼を包んでいるわ。そう……お日さまの光じゃなかったのね」

「ね、魔人族の証拠」


 と、嬉々としてレティに告げてもむすっとご機嫌ななめ。

 未だ心配して様子を探っていたことを根に持ってるのかと思ったら違うみたい。

 

「知ってたならなんであの時に教えてくれなかったのよ!」

「そっち? ……知ってたっていうか、言おうとしたらいきなり怒りだしたから言えず仕舞いだったんだけど」

「う……そ、それは……」


 レティの口が淀む。

 だってとか、じゃないとか、ボソボソと口にしながら、顔を赤くして「それよりも!」と声を荒げる。


「シズク仕事はどうしたの!?」

「もう終わったよ。木材集めなんて魔法を使えば簡単簡単。ほら。いい仕事だって色まで付けてもらえたよ」


 じゃらじゃらと鳴る革袋をレティに見せるとさらに不機嫌になる。

 ちなみに報酬は20リット銅貨。これだけあれば1日分の食事と安宿くらいは賄えるだろう。

 ……釈然としない。褒められはしても拗ねられるのは間違ってると思う。

 何が彼女を怒らせたのか知らないけど、そんな態度を取るなら僕だって不機嫌になっちゃうよ。


 「ふんっ」とレティが鳴けば、「ぷんっ」と僕も同じく鳴く。

 2人して反対方向へと顔を背けてそっぽを向く。


「あら、あらあら……2人とも喧嘩は駄目よ」

「リコもそうおもう」


 ルフサーヌさんとリコに宥められても、レティと目を合わせるには多少の時間がかかった。




 

 魔族という魔法に長けた種族がいることは知っていた。

 けれど、魔人族という人と似て非なる存在がいることは、知っているようでまったくと知らなかった。

 52年。思えば長い間、私は人だった。

 そして、今日。私は自分が人でないことを知った。


 元々、捨て子だったとは里親の2人に聞いていた。

 森の奥、赤子の私は真っ裸で外に泣いているところを見つけられた。子供のいなかった2人は天からの贈り物だと信じて疑わなかったそうだ。

 その証にと、赤子の周りにはきらきらと光る石が転がっていて、まるで私を祝福しているかのようだったとも。

 その時の石は大切に保存していると直接見せてもらったこともあるし、確かに綺麗な黒い透明な石だった。

 けれど、両親の死後、先に述べた理由から忌まわしく思い、黒い石を売りに出したけども宝石でもなんでもないガラスの破片だと言われ私は投げ捨てた。

 今では両親の形見程度に考えて残しておけばよかったと思うも、あのころは若かった。


 事実を教えられる前まで実の両親だと慕っていた。けれど打ち明けられたことで納得はついた。

 成長するにつれ、両親と自分は本質的に違うものだとは薄々気が付いていた。母とも父とも似ず、並んだ姿に同じ血が通っているとは思えなかったこともある。

 決定的だったのは2人の髪の色が茶色に対して、自分の髪が黒いことだ。

 もしかしたら、自分はどちらかの連れ子だったのかもしれないと理由の知れない不安に駆られたこともあった。まさか両方とも赤の他人だということを知った時は不安なんて目ではないほどの悲壮感に包まれたものだった。


(――だが、赤の他人であるはずの私を本当の我が子のように育んでくれた2人には感謝しきれない)


 自分は家族だけではなく、周りの人と違う。

 時がいくつか過ぎ去って薄々は感づいて、ゆるやかに流れる時に身を任せては色濃くなって。

 抵抗をする間もなく進んでいく時間に停滞した私は1人に取り残された。

 変わって行く人。変わっていく町並み。変わっていく夫。

 変わらない私。


 知人がいた時はまだよかったものだ。彼らは私のことを知っていたのだから。

 気味が悪いと陰で囁かれても、昔の私を知る人は、こちらを知っているからこそ普通の人と接してくれたのだから。

 そんな人たちもこの10年で消えてしまった。残るのは埋葬を手伝ってくれた夫の知人だった人たち数名だけだった。

 そして、彼らはどちらかと言えば私を怖がる側の人だった。


 町が変わり新しい人が増える。増えた新しい人は古い私を知らない。

 知らないからこそ私を知って驚き、畏怖した。


 心を閉ざさなかったのは夫がいてくれたから。

 私と違って進む時間は夫を老いさせて姿を変えていったが、心だけは時間を掛けても変わること無く私と共にいてくれた。


 そんな、心の支えだった夫は先日に亡くなった。

 絶望に打ちひしがれていた私ではあったが……。


(私は今、ほっとしている……)


 彼らと出会い、彼らの話を聞いて、私は心から安堵したのだ。

 ああ……私の身体がおかしかったのではない。私たちの考えが間違っていたんだと。


 このことを出来れば夫に伝えたかった。

 声に出して、目で伝えて、身体を広げて。

 私は病気でも呪いでもない。


 そういう存在だった――と。

 私は魔人族であった――と。


 夫に伝えることが出来たら安心してもらえただろうか。今の私のように安堵してもらえたのだろうか。

 それとも、自分たちとは違う種族だったと怖がるのかしら――いえ、そんなことあの人はしない。だったら私は10年も前に捨てられている。

 こればかりは長年付き添った時間と、彼の意志を酌んでのことだ。


 夫を喪ったのは奇禍だった。2人に出会えたことは僥倖であった。

 夫を亡くして何も無くなった私に……誰かが労ってくれたのだろうか。

 その誰かを安易に思い浮かべれば、顔も形も爪先も見たこともない信じることをやめた偶像へと辿り着きそうになり、私は頭を振ってかき消した――。





 2人の喧嘩が一段落ついたころ、最初は女の子だと思ったシズクが店内を物珍しそうに見渡し、重ねて置いておいた織物に興味深そうに眺めていた。


「織物に興味があるの?」

「あ……その、以前作っていたことがあったので」

「男の子なのに珍しいわね」

「……まあ、色々と事情がありまして」


 事情があって、と口にするシズクの表情に僅かに影が落ちたことに気が付いてしまう。

 聞いてはいけないことを聞いてしまったのかもしれない。


 初見での窓に張り付いて私たちを驚かせていた彼、メレティミと喧嘩して拗ねる彼。

 どこにでもいそうな子供だというのに、その横顔はどこにでもいそうな子供が見せてはいけないものだった。


 辛い過去を背負っているのかもしれない。会ったばかりの私が踏み込んでも良いものか。

 振り向き、彼は私を見て笑った。無理をして繕った笑顔だ。


「作りが丁寧ですね。ここの鳥の刺繍なんて崩れもないし、しっかりと針も通ってる。もしかして、これを縫ったのはルフサーヌさん?」

「……ええ。これが私の仕事だったから。これくらいしか私には出来なかったの」


 ただ、購入してくれる人はまずいない。

 若かった頃は評判もよく買われていたが、老いることが無くなった後、呪われた女の作ったものを好んで買う人はいなくなった。

 売れなくなった後での購入者は私を昔から知る知人と、町の外から来た人だけだ。

 ちなみにいくらで? と聞かれたので値段を伝えたら驚かれた。


「これが20リット銅貨!? 場所が場所ならこれ、銅が銀に代わりますよ!」


 あら、嬉しいことを言ってくれる。

 お世辞が上手なのね。


「またまた、こんなおばあちゃんをからかわないの」

「からかうなんて、そんな!」


 身振り手振りを使って否定してくれる。

 でも、信じられないわ。


「シズク、それ本当?」

「本当だよ! テイルペアで立ち寄った大きな街で、これと同じ感じの絨毯が20リット銀貨でお店のショーウィンドウに飾られてたんだから!」

「うーん……わたしの記憶には無い。もしかしたら、ルイも見ているかもしれないけど、わたしはそんな細かいところまで覚えられないし……。リコちゃんは?」

「リコはわかんない。もじよめないし」


 メレティミが変な言い回しをしていたのは気になったが……テイルペアと言えば、南にあるとても暑い大陸だと聞いた覚えがある。

 だとしても、20リット銀貨なんて値が付くものなら大層な高級品だろう。

 とても良い生地で織られたか、名のある職人の手によるものでしょうね。

 ましてやこれは絨毯でもない。絨毯なんて立派なもの、私の腕力的に作るのに一体どれだけの時間が必要か。

 お世辞だとしても気を良くした私は珍しく口が回った。


「3人ともどうしてこの町にきたの? 観光……って、観光ならギルドで働く必要もないわよね。働き口ならもっと王都に近い方が良いでしょう?」

「それは……あ……そうだ。ここヨーソタス地方でしたよね? フォーレ家が治めるヨーソタス。合ってますか?」


 シズクが思いついたように口を開く。

 フォーレって誰? とメレティミが聞き、シズクがベルレイン様とルフィス様――と、領主であるクライン・フォーレ公爵の名よりも奥様と息女の名前を出していた。ベルレイン様はともかく、ルフィス様の名前が出るのは珍しい。


「……? ええ、それが?」

「やっぱり。そうなんだ。いえ、ちなみにここはエストリズで言えばどの辺りですか?」

「んん、東……東の海側の方だけど、あなたたちそんなことも知らずに来たの?」

「……! ええ、まあ……」


 先ほどもだけど彼らの口ぶりは重い。シズクもメレティミも濁しながら頷いた。リコはさあ? と無邪気に首を傾げるだけ。

 ……知らない?

 シズクもメレティミもリコも、3人共この町どころか、ヨーソタス地方についても知らないようだった。それなのに、フォーレ家については知っている。

 ……不思議な子らだ。


「東の方ね……シズクたちがいたのはサグラントだったよね?」


 メレティミが聞くとシズクは頷いて、リコも「テイルペアにちかいところ!」という。


「サグラント……聞き覚えがあるわ。どこだったかしら。3人はそこから来たの?」

「……え、あ……えーっと、僕とリコはそこから。レティは――」


 口を止め、ちらりとシズクはメレティミへと視線を向ける。

 彼女もまた目線をシズクと合わせてから私に向かって答えた。


「わたしはゲイルホリーペから来ました」


 ゲイルホリーペ……と聞いて、今度は逆に私の方がわからない。

 どこの町かと尋ねたら、なんとエストリズではない大陸の名前だと言う。

 このエストリズから南下しテイルペア大陸を西へと横断し、なおかつ海で渡った大陸だと……声を上げて驚いてしまう。

 想像し――想像も出来ない程遠い場所だということはわかった。


 ゲイルホリーペについては知らないので何も言えないが、サグラントという名の付いた町については妙に頭に引っ付いている。


(なんだったろうか……ヨーソタスにはない無い名だから、うろ覚えで……)


 ふと視線を彼らに向けて綺麗な衣服を見て……貴族っぽいなと思い経ち、ああ、と思いだした。


「……そうだ、サグラント。南の方にある町の名前! こんな東の辺境でもその事件については耳に届いたわ。領主殺害なんて悲惨な事件が起こったサグラント……もう3年も前になるのね」

「領主が殺された!?」


 シズクが真っ青な顔をして大声を上げた。


「グラフェイン候が死んだって言うんですか!?」

「え、ええ」


 顔を強張らせ、シズクが私に詰め寄ってくる。

 なぜ、サグラントに住んでいた彼が知らないのか。

 聞くよりも先にシズクの口から言葉が溢れた。


「それに、3年って……え……どういう、どういうことなの!? 3年前って、僕らはまだそこにいたのに! だって、え? オーキッシュ様とホルカ様とは僕らがあの屋敷を出る前日には顔を合わせてたし!? え、えっ!?」

「ちょっとシズク! 落ち着きなよ!」


 両手で頭を抱え、信じられないとばかりにシズクが取り乱した。彼の周りに纏っている光が不安定にたゆたう。

 この光は、彼の感情を表しているのかしら? 

 メレティミがシズクを宥めようと……彼女もまたシズクの動揺に戸惑いを見せる。

 2人の身体は震えていた――。


「――よし」


 私は2人に近づき、両腕を広げ、そして優しく抱き締めた。

 両腕に2人を抱え、震える背中を優しく叩く。


「……安心して。ゆっくりでいいから落ち着きなさい」

「……」

「……」


 とんとん、と叶えたかった夢の1つである赤子をあやす母親の気持ちになって、2人の背を叩く。

 私よりも若干の背の低い子を赤子として扱うのは失礼かと思ったけれども、今はこれが1番適切な処置だと思った。


 2人が落ち着くには少し時間がかかった。

 メレティミの震えは早くも治まり私の抱擁に何も言わずに受けていたが、耳元で震える声を上げるシズクの震えに合わせてとん、とん、とゆっくりとゆっくりと叩いていく。

 また、ゆっくりと抱擁を外し、大分緊張がほぐれたのかシズクの身体に纏っていた魔力の光は出会ったときと同じに戻っていた。


「もう、大丈夫です……では――」


 と、落ち着きを取り戻したシズクから再度説明を求められて、私の知る限りのことを教えてあげた。


 3年前、確か年が明けた頃にグラフェイン家の主従全員が殺害された。

 領主に奥さん、従者であるたくさんの人、また領主の部下だった2人も亡くなっている。

 真夜中の出来事で、居住区から離れた屋敷の立地により、領民には犯行時の騒動は届かなかったと聞く。

 この町に事件の話が入ってくるまでに数か月ほどはかかり、5之月頃に私は夫から話を聞かされた。

 普段であればどこぞの貴族が殺されたとしてもこんな奥地に流れ込む話ではないが、今回は領主であるクライン・フォーレ公爵、また奥様のベルレイン様のご盟友であるからこそ領民たちの耳に届きこの地までも流れたと聞く。

 未だ犯人は捕まっていない。

 現在、グラフェイン候が治めていた領地は私たちの領主であるクライン・フォーレ公が代理として治め、最後に難を逃れたご子息だけは生き残っていると話す。


 2人は何とも言えない顔をした。

 リコは理解してないけれど困ったような表情を浮かべた。


「……3年が経ったと言いましたよね」


 落ち着いたままシズクが聞くので私は頷く。


「事件が起こったのは……ええ、896年の1之月だったかしら。新年を迎えたばかりに起こった事件だってことは覚えているわ……」

「燭星896年……じゃあ、今は899年……?」


 と、メレティミが何か思いついたのかズボンのポケットから緑色のカードを取りだして見つめる。


「シズク……君のギルドカードを見せてくれない?」

「……いいよ」


 シズクは懐からカードを出してメレティミに見せ、彼女もまた自分のカードを彼へと渡した。


「ねえ……シズク見て。わたしたちのカードの表記、2つ分歳を取ってる」

「……嘘」


 どういうことかと私も2人からカードを見せてもらった。

 見せてもらった緑色のギルドカードにはメレティミは15歳、シズクは14歳と書かれている。

 だが、2人は自分たちの歳を、メレティミが12歳、シズクは11歳だったと口にした。


「ねえ、今は燭星897年じゃないんですか?」

「今は燭星899年。6之月。春も終わり、夏が顔を見せ始めたころよ」


 口にはしなかったが、互いに顔を向けどうしようとも不安とも取れる視線を重ね合っていた。

 その姿は何も知らない無知な、その見た目よりも幼い子供のようにも見えた。

 何も知らないまま海に放り出された1隻の小舟を見ているかのような……言い様の無い不安を掻き立てる。

 掻き立てられた不安は私に1つの疑問を浮かび上がらせた。


 いや、何故思いつかなかったのかと自分を罵りたくなる。

 まさか、そんな……この町に子供だけで……まさか、子供だけで旅をしているのかと。


「ねえ、あなたたち……3人だけでこの町に来たの?」


 私の言葉で気を取り直したのか、2人は重なった視線を剥がして顔を上げた。

 彼らの表情を見て、まだ言葉を発していないと言うのに嫌な予感は当たったと思った。


「……3人です」


 そう、シズクが、言う。

 ……そんな。


「どうして……子供だけで……貴方たちの両親は? 保護者は?」

「両親は……僕はわかりません」

「……わたしは母が結構前に、ね」

「リコはずっとまえにしんじゃったってシズクからきいた!」


 やはり……子供だけでずっと旅をしてきたのだ。

 無理をして……弱々しい姿を見せたばかりだと言うのに、メレティミが根無し草ね、と口にした途端、2人揃えて笑いあう。私には無理をして笑ったように見えた。

 さらに赤毛の子、リコは両親の死をあっけらかんと答えた。まだ幼いからだとは思う……けども。

 シズクはわからないと言うのに、リコは死んだと言った――2人は兄妹だと思っていたが……聞くことが躊躇われたけど、私は意を決して踏み込む。


「リコの両親が死んだというのに、シズクはわからないと言った。あなたたちは兄妹じゃないの? どういうことか聞かせなさい」

「……はい」


 彼の話す内容はもう何度目かもわからないほど驚き、信じられないことだった。

 ……リコはもともとクレストライオンと呼ばれる魔物であったこと。

 紆余曲折あり今はシズクの体内に宿っていて、彼の魔力を利用して具現化している。

 試しにとリコはいくつかの変化を見せてくれた。

 淡い赤い火の粉を蒔き散らしながら小さなその身は変化して、小さな白い猫に変えたと思えば、腰を抜かしそうになるほど大きな赤い鬣を震わす獅子へと、また今よりも成長した大人の女性と化したものへと変貌を見せた。


 その後も私は彼らから話を引きだし、彼らもまた話してくれた。

 やはり、信じられない話ではあったがゲイルホリーペにいた彼らは、2年後のエストリズに来てしまったと言う。

 荷物は置いてきてしまい、お金もないためにギルドを利用して……メレティミは私のところに来たというわけだ。

 今は少しばかりの賃金を得たシズクも「せめて1泊するくらいの宿代を稼げればってね」となるべくお金は消費したくないと言って話は終わりを迎えた。


 まだ何かを隠しているのはわかった。しかしここまでだろう。

 いつも消極的な私が夫以外の他人に深く入り込み過ぎている。子供だとしても失礼な振る舞いをし続けていることはわかっている。いや、子供だからこそか。


 深く関わったのは決して好奇心からのものではない。

 彼らが子供と呼ばれる立場であり、私が子供を授からなかったことによる願望によるものもあっただろう。

 話を交わしていくうち、勝手に彼らを守りたいと思ってしまった私には次の提案を口にする義務があるように思えた。


「あなたたちのことはわかったわ。ならいっそ、うちを宿代わりに使いなさい。……家は狭いけど貴重なお金を減らすよりはいいでしょう」

「えっ!?」

「いいんですか?」

「ええ、私も1人でいるより気が紛れるわ」


 ただし、ベッドは2つしかないので、2人で1つ使ってと、言うとシズクとメレティミは顔を赤らめていた。

 そう言う年頃だろう。

 先ほどまでの憂鬱な雰囲気は少しだけ消えたように思えた。

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